episode1『魔王と勇者の新生活』
勇者が魔王のベットにもぐりこむと言う事故が起きてから4カ月の月日が過ぎた。ルシファーは就職先の学校が決まり朝からリビングルームでコーヒーを片手にテレビを見ていた。
テレビの時計はもうすぐ6時半を指そうとしていた。
「すっかり……馴染んじまったな……」
「そんなしみじみ言ってないで、朝食できたので運んで下さい」
「ああ……すぐやる」
声をかけられてルシファーはラファエルが立っているキッチンへと向かう。
「はい、トーストとサラダ、それにヨーグルトです。コーヒーのお代わりは後で持っていきますから」
二人分の朝食が乗せられたトレーを渡されて、ルシファーはラファエルに言われた通りそれをダイニングテーブルまで持って運んでいく。
「コーヒーのお代わりです」
「ありがとう」
空になりかけたコーヒーカップにラファエルが手に持っていたコーヒーポットから注ぐ。注ぎ終えるのを確認してラファエル自身もルシファーと色違いのマグカップに自分のコーヒーを注いで、自分の席に座った。
「いただきます」
「いただきます」
ラファエルが手を合わせるのと同時に手を合わせてルシファー自身も同じように合唱する。これがこの国の作法と言うことでラファエルもルシファーもそれに倣っている。
「今日から担任を持つことになったんですよね?」
「今日が入学式だからな、仕事も沢山あるみたいだし」
元魔王はそんなことを言いながらトーストを一口かじりつく。目の前の勇者は五枚ほど焼いていたパンをサクサクと食べている。
「私も今日から晴れて女子高生です。よろしくお願いしますね、元神先生」
「どうも、その呼ばれ方には慣れないな」
この国で暮らしていくのに純日本人の名前ではないと色々と手続きなどがめんどくさいと言うだけの理由で戸籍を作った時につけた名前だが、目の前のラファエルは元神の名前で呼ばないためいまいち慣れない名前だと思いつつ更にトーストを一口かじる。
バターを塗ったトーストがとてもおいしく感じる。
「あら、今日から学校ではそう呼ばせて頂きますよ?」
「それはわかってる」
「この四カ月で言語の取得までやるとは思ってなかったがな」
「ええ、それはもう先生が良かったからじゃないですか?」
「まあそれは良いだろう。大変なのはこれからだしな」
そう言いながらデザートのヨーグルトを食べきってルシファーは時計を見る。まだ、余裕はありそうだ。
「では、私は着替えてきます」
ラファエルはそう言うと来ていたエプロンを椅子にかけて自分の部屋に戻って準備を始めていた。
「俺も準備するか……」
一緒に住んでいるからといって、寝室も別だし部屋も基本的には別。ルシファーは自分の部屋に戻って、仕事着であるスーツに着替える。まだ慣れていないがこれにもなれないといけないと思いつつネクタイをしめる。
スーツに着替え終えて、鞄の中に忘れ物がないかを確認する。ハンカチ、ティッシュ、筆記用具にデータを収めたフラッシュメモリ。それだけあれば大丈夫かと思い、鞄を占めてリビングに戻る。
「早かったんですね。ちゃんと自分でできました?」
少しいやらしい笑顔を浮かべながらラファエルが聞いてくる。それをわかった上でルシファーは苦笑いをして大丈夫だと告げた。
「大丈夫じゃないですよ、ネクタイが曲がってます」
違和感に気がついたラファエルがそっと近寄ってきてルシファーのネクタイを直す。こうして見ると本当の夫婦みたいだと思う。
「あと、これお弁当です」
「ああ、ありがとう」
ラファエルから受け取った弁当をルシファーは鞄につめる。これで準備が終わった。
「どうです?制服似合ってますか?」
ラファエルは言いながら制服姿でその場で一周回って見せる。スカートがなびきその場で綺麗に元の形に戻る。勇者の姿と同じ白を基調とし、青いラインが入った制服はラファエルにはぴったりと似合っていた。
「とても似合ってるよ」
「そうですか、ありがとうございます!」
元気いっぱいの笑顔を振りまきながらラファエルはルシファーのそばによって、数日前に手に入れたスマホをもって制服姿の自分とスーツ姿のラファエルを写真に収める。
「さっそく、一枚!取らせていただきました」
そう言ってラファエルは取ったばかりの写真をルシファーのスマホにも送信する。それを確認して保存をすると、ルシファーは時間だと言って玄関に向かう。その後に続いてラファエルも玄関に向かってきた。
「では行ってらっしゃいませ、
「はい、行ってきます。
どこかのドラマでみた先生のような態度を取ってルシファーこと元神光は学校へ向けて歩いて行った。
正直この世界で今までのような性格でやっていけないことはこの四カ月で学んでいた。どうしても表面上は取り繕っておかなければうまくいかないことが沢山ある。
マンションの階段を降りながらルシファーは学校への道を歩く。まだ始業時間よりもだいぶ早いが今日は入学式の準備もあるため早く行っても損はない。真面目な印象を印象付けるためにも、ルシファーは毎朝他の先生よりも早く登校していた。
「にしても……」
新任で担任を任せてもらえ、なおかつそれがラファエルのクラスと言うのもありがたいことだったが、教育係になっている先生に未だに会えていないことが不安にさせる。しばらく体調を崩していたらしい、自分よりも二年先に入ったが相当優秀だという話を聞いている。
「どんな先生なんだろうな」
新任教師として教壇にはまだ立ったことがないが、魔王軍ほど変な奴らも多くないだろうと思い。とりあえず、学校への道を急ぐ。
―――――――――――――――――――――――――――
「おはよう、元神先生」
「おっはよーひかりちゃん!」
「おはようございます、田宮先生。古崎先生、ひかりちゃんはやめてくださいよ。生徒が真似したらどうするんですか……」
学校について自分の席に向かう途中に二人の先生に話しかけられて、返事をする。最初に声をかけてくれた田宮先生は家庭科の先生で退職間近のおばあちゃん先生だ。やさしくて、生徒からの人気も高い。
後から話しかけてひかりちゃんと呼んできたのは英語の古崎先生。ルシファーより一年先に入った先生で同じような感性をもっているのか、生徒とも友達感覚で接していて田宮先生同様に生徒からの人気がある先生だ。
そして、なによりも童顔に低身長だがでるところが出ており校内外に人気だという話を聞いたことがある。
「まあまあ、ひかりちゃん!今日は入学式だからって緊張してないよね?大丈夫ーっ?」
「もういいです。二人とも今日は早出なんですね」
「ええ、今日は入学式ですからね。保護者の方も見に来ますし、事前準備を怠らないように早出できてるんですよ」
「さすが田宮先生、勉強になります」
「えーっ!ひかりちゃん、私には何かないのー?」
「ひかりちゃんと呼ばないでください」
自分の机の前で抗議するように近づいてくる古崎先生にルシファーは仕方なく、パソコンを取り出し今日の入学式の進行に問題がないかチェックを始める。
「じゃあ、私のことみやびちゃんって呼んでいいから、ひかりちゃんって呼んでいい?」
「…………」
「無視か!無視ですか!みやびちゃんかなしいです!」
雅のハイテンションに若干ウザさを感じながらも、自分の作業に没頭する。
「これで、大丈夫」
ルシファーは言いながら生徒の部数と予備用も含めたない数をプリントアウトするために印刷ボタンを押してプリンターに命令を送る。
この生活になって魔力を使うことがなくなったなとしみじみ思いながらいい加減我慢ができなくなったので、近づきすぎている雅顔を手を使って押し返す。
「ちょっ!ひかりちゃん、ギブギブ!痛い!顔面ミシミシいってる!これまずいって!」
「もう、ひかりちゃんは禁止です。良いですか?」
「わかった!わかりました!」
了承したと言うことで対して力を込めていない手を開いて雅を開放する。
「酷いよ、ひかりちゃん……女の子の顔にアイアンクロー決めなくたって」
しくしくと泣き真似をする雅をよそに、ルシファーはため息をついて空を見上げる。どこまでも青が続いている空だけがそこにあった。《ルビを入力…》
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