prologue7『魔王と勇者の婚姻』


 戸籍を取得してからの流れは速かった。日本の戸籍データ内に、日本人の名前で自分とラファエルのデータを書き込み、自身が現在いる場所の区役所と言う場所で住民データを書き込み、保険証のデータを過去からさかのぼってルシファーは作った。


「仕事が速すぎですよ。ルシファーさん」


「まあ、これくらい当然だろう」


 そう言いながら、昨日と同じ宿屋、ホテルに泊まっていた。戻ってきて、元の姿に戻り二人してくつろいでいる。

 結局戸籍を作っても家を買ったり、借りたりするのには時間がかかるらしい。そして現在はこの世界でいうところの一年が終わるタイミングで不動産屋と言われるところも休んでおり何も借りられそうになかった。


「これで、データは作っておいたから大丈夫だろう。年が明けたら、銀行口座と保険証を取得しないとな」


「それで一緒に学歴も作ったんですか?」


 コンビニと言うとことで買ってきたパンをいくつも食べながらラファエルが聞いてくる。今朝の時点で気がついていたが、こいつの食欲は大型動物並だな。


「ああ、とりあえず安定してくらせるらしい教員の免許も取得したことにしておいた。大学をでている……いや、今年卒業することになっている」


「本当に、綺麗に偽装しましたね」


 見事に手際よくこなして見せたルシファーを見てラファエルは苦笑いしか出てこなかった。さすがにここまで綺麗に物事をすすめるとは思っていなかった。


「とりあえず、一週間くらいはだらだら過ごせそうだな」


「お金はだいぶ余裕ありますからね」


 この国の常識を調べていたラファエルが見つけた一般的な価値観で昨日売ったダイヤの値段は平均年収の十年分程度の余裕がある。


「まあ、それでも家を買ったりしたら余裕はなさそうだ。借りに長い間暮らすことになったとして長期的に見たら買った方が安そうだしな」


「他にダイヤ持ってないんですか?」


「そもそも宝石に興味がなかったからな……たまたま持ってたのがあの一つだけだ。金も売れるかと思っていたんだが、金自体は刻印というものがないと買い取ってもらえないらしい」


「それで稼ぐために働くということですか……」


「それだけじゃない。教師という職業は一般的な常識を教える場と言うこともあって俺がこの世界について学ぶのもちょうどいいと思ってな」


 ソファーに腰掛けてグラスに冷えた魔界葡萄酒。ワインを注ぎながらニヤッとした表情でルシファーはラファエルに笑いかける。


「それと、私はどうすればいいんですか?」


「ラファエルにはな女子高生というものになってもらう。なんせ、この世界の文化の最先端をいく存在らしい。ちなみに、試験は3ヶ月後だ」


「勝手に決めないで下さいよ!」


 ルシファーの何でもない態度に声を荒げて激昂するラファエルはベットに腰掛けて頭を抱える。昨日までと振り回す側と振り回される側が逆転したことにルシファーは心の中でほくそ笑む。


「とりあえず、帰りに寄ってきた本屋で入学試験問題買ってきたから、後で教えてやるよ」


 そう言ったルシファーの足元にはかなり大きな紙袋が置かれていた。帰りに用事があるから待っていろと言って会に行ってたのはそれかと思い。ラファエルは額に手をついてため息をつく。


「私、勉強は魔法学と騎士学、神学くらいしかやったことないですよ」


「大丈夫だ。俺は魔界で魔王軍の勉学指導もしていた。それくらいどうってことない」


 紙袋からひとまず10冊ほどの問題集と言われるものをルシファーは取り出しながらパラパラと最初から最後までめくっては次の本を取り出して同じようにめくる。


「それ読めてるんですか?」


「当然だ。これくらいの書物くらいなら一回見ればわかる」


「どうしてです?」


「魔王の七つ道具。体内に埋め込まれた『記述する魔道脳』」


「効果は?」


「発動している最中、視覚に入ったものを魔道脳が記憶して直接脳内に書き込む」


 自信満々で言っているルシファーだが、ラファエルに誘導されていることに気がついておらず少しだけ滑稽に見えてしまう。


「自分の力じゃないじゃないですか……」


「あ!こら、言わせるな!」


 道具に頼っていたことに呆れながら、慌てるルシファーを見てラファエル自身も笑顔になっているのがわかった。この魔王は敵対さえしていなければ賢王と呼ばれえるにふさわしい存在だと思う。


「嘘を着けないなんて弱点だらけじゃないですか」


「それもそうだな。魔界で生活している分には不自由していなかったが、お前と一緒にいると嘘がつけないことに不安しか覚えない」


 そう言ってコンビニで買ったタバコと言われるものを袋から取り出して袋を破り、中の紙を破り去って一本としだして緋色の業火の魔道具ではなく、一緒に買ったライターで火をつける。


「うーん、やっぱり葉巻とは違うか」


「何買ったんですか?」


「タバコだ」


 そう言いながらタバコの煙を肺に入れて吐き出す。吐き出された煙は途中で何かに覆われているように対流を描き、魔王の周りにだけ集まる。


「結界つかって受動喫煙防止ですか……」


 器用なことをすると思いつつも、気遣ってくれているであろうルシファーを思いながら少しだけラファエルの口元が緩む。


「とりあえず、もうラファエルは飲めないから俺だけで飲ませてもらうぞ」


 コンビニの袋から大量に買い込んでいたこの世界のお酒を一本取り出して、プルタブを開けて口にする。


「うわっ!しゅわってする……」


 炭酸と言うものに触れたことがなかったルシファーは喜びながら、数秒でひと缶を開けてしまった。


「この国の法律では20歳未満の飲酒喫煙禁止ですからね。その葡萄酒おいしかったんですが」


 少し残念そうにして、ラファエルは自らが買ったコーラを一口飲んで炭酸を楽しんでいた。


 しばらく互いに時間を潰していた二人だが、ラファエルが眠そうに眼をこすり始める。


「もう眠いのか」


「ええ、さすがに夜が更けているから長らく立っているのでさすがに眠いです」


 ラファエルの言葉を聞いてルシファーは現在の時間を確認する。只今、夜の8時になったところだ。


「今日はルシファーさんがベットで寝てください。私がそちらでねます……」


「今日はそうさせてもらうか」


 結界の中の空気を魔力で綺麗にして、結界を解いてベットに腰掛けるとラファエルも同じようにソファーに横になる。


「おやすみなさい、ルシファーさん」


「ああ」


 ラファエルに返事をして、ルシファーは電気を消した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ――朝と言うにはまだ早い時間。ルシファーは肩に重みを感じて目を覚ました。


「…………?」


 いまいち目の前の状況が掴めずに、ルシファーは何度かその光景を瞬きをして見つめる。自分のほっぺたをつねり、自分が起きいることを確認してもう一度眼を閉じて現在の状況を確認するために目を開く。


「あ、あっ……あ……なんで……なんで、ちょっと……おい……まてまてまて」


 ルシファーの肩口に長く白い髪を乗せて翼に抱きつくようにしている少女。まだ眠っているのか、普段は紅いその瞳は今は閉じられている。

 大きな胸はうつ伏せになっていることでルシファーに押しつぶされている。


「あ、あっ……あっ……ああぁぁぁぁぁあっ!」


 瞬間、ルシファーの困惑から出だ大音量の叫び声が部屋に響く。驚きすぎてどうなっているのかわからず、ベットの端まで飛び退く。


「敵襲ですか!?」


 ルシファーの大声に即座に反応して、声の発生源であるルシファーに向けて勇者の剣を向けて起き上がるラファエル。


「なんだ、何もないじゃないですか……」


「ラファエル……お前なんで俺と一緒のベットに……」


「え?……えっ?」


 そう言いながら飛び起きた自分がベットの上に立っていることに気がつきラファエル自身も顔を赤くする。


「こ、こうなったらラファエル……俺と結婚してもらうぞ」


「やっぱり……そうなりますよね……」


 ルシファーの言葉に苦笑いしかでてこないラファエルは、どうしようもなくその場で膝をついて壊れたように笑い出した。

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