prologue3『お金とご飯と寝床』
結論からいって寝床と暖かい食事にありつくためにはこの世界の通貨と言うのものが必要らしいということが分かった。わかったのだが、通貨というものをそもそもどうやって手に入れたものかと悩んでいた。
「ルシファーさん、どうします……もうそろそろ寝ないといけない時間ですよ」
眠くなってきたのか紅い瞳をこすりながら建物の壁に背中を預けてラファエルは呟く。
「とりあえず、金を換金するのは良いとして……換金できる場所がわからん……」
さて、どうしたものかと腕を組む。ルシファーの手には魔皇帝の宝物庫から取りだした軽食が握られていた。質素なパンだが、二つ取り出して片方をラファエルに渡す。
「ありがとうございます……」
相当眠いのだろう。パンを一口噛んでもしゃもしゃもしゃとしばらく租借を続けてからゆっくりと飲み込む。まるでリスみたいだと思ってルシファーは自嘲気味に笑う。
そう思いながらルシファーは三口でパンをお腹の中にいれると、集中する視力、聴力を強化してそれらしい店を探す。
「ん……これは……」
聞こえてきた声を取捨選択して一つの店を探しだした。
「起きろ、ラファエル。見つけた!」
そう言ってルシファーは慌ててラファエルの手を握って走り出す。突然手を取られたラファエルはよろめきながらもなんとかルシファーの後を追って走った。
「おい、ここではどんなものを買い取っている?」
自動ドアにぶつかりながらも、開いたドアの隙間から顔を出しながらルシファーが声を上げる。
(わあ!ドアが勝手に……)
(それよりも寝床を得るための通貨が先だ!)
言いながらルシファーは店員に詰め寄る。魔王らしくすさまじい形相だったので、慌ててラファエルが止めにかかる。
カウンターに座っている店員も、他のお客も突然入ってきて大声で騒ぐルシファーを怪訝な目で見つめていた。
「ああ!すみません!彼あんまり会話が得意じゃなくて!」
「まて、ラファエル!俺がはな」
突然ラファエルに口を押さえられて何も話せなくなるルシファーを横目にしてラファエル自身が店員に話し始めた。
「すみません。ここでいろんなものを買い取って頂けると聞いてきたのですが、具体的には何を買い取ってもらえるんですか?」
ルシファーに圧倒されていた女性の店員がプロとしてなのか表情を即座に笑顔に戻してラファエルに向き
直る。
「ここでは、ダイヤやルビーなどと言った宝石を買い取りしておりますよ」
(ダイヤとか宝石だそうですよ、ルシファーさん持ってますよね?)
(ああ、そんなに多くはないがな。金属はいろんなものに使えるが宝石はそこまで実用的ではないから……)
「ちょっと、待っててくださいね!」
ラファエルはルシファーの腕を引きながら自動ドアをくぐって一旦外へ出る。
「ルシファーさん、もっているダイヤって加工されてたりしますか?」
「いや、原石だが」
そう言いながらルシファーが取りだした原石は人間の四分の一ほどの大きさのものだった。
「大きい……じゃなくて、多分加工されてないと買い取ってもらえないですよ!」
「加工っていってもな……」
「そうですね……あっ!」
何かを見つけたようにラファエルが声を上げて、指をさす。ルシファーもつられてラファエルが指をさした方を向くと、さきほどの店の窓に張ってあるポスターにおそらく加工されたダイヤが映っていた。
「あれくらいに加工することってできますか?」
「誰に行ってる、もちろんだ」
そう言って剣を出そうとするルシファーをラファエルは必死に止めて、人から見つからなさそうな路地裏へと入っていく。とりあえず、こちらに視線を向けるような人はいなさそうだと感じてからルシファーに大丈夫だと許可を出した。
「ここなら、大丈夫です」
「振り回し辛いがまあいいか……」
そう言いながら、ダイヤの原石を空中に放り投げて器用に剣でカットしていく。それはもはや文字通り神業と言わざるを得ないものだった、剣で余分な部分を切り取り綺麗にカットしていく。
ダイヤがポスターの中のものと同じような形状になるのに五分はかからなかった。
「これでいいか?」
空中から落ちてきた加工されたダイヤを剣をしまいながらルシファーがキャッチしてラファエルに手渡す。淡いピンク色をもつそのダイヤは原石から加工された瞬間に、
「綺麗……これなら……」
ルシファーが作ったダイヤを眺めながら買い取りをしてもらうためにお店へと足を向ける。
「……とても素晴らしいダイヤですね」
それが、ダイヤを出した最初の回答だった。どうやらダイヤを持って後ろに下がってこれから値段が決まるそうだ。
「こちらですが……この価格でどうでしょう」
差し出された数字が表示されている機械にだされた価格に相場がわからない二人はうなずくしかなかった。少なくとも0が7個並んでいるし大丈夫だろうと、所定の手続きを終えてこの国の通貨を得ることには成功した。
大量の通貨を運ぶ手段がないため、ラファエルに『かばん』と言われるものを偽装してもらいその中に魔皇帝の宝物庫を直結させて亜空間の中に紙きれのような大量の通貨を入れておく。
「「ありがとうございました」」
多くの定員の声を聞きながら二人はお店を後にした。
「とりあえず、これで寝床を確保できそうですね」
「そうだな」
そんな会話をしながら二人で笑いあって、泊まれるところ探すために歩き始まる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「申し訳ございません、お客様本日はご予約のお客様でいっぱいでして……」
「そうですか……」
宿屋の店員から、何度目かになる断り文句を言われて二人の表情に苦笑いの表情が浮かぶ。
再び、路上に出てルシファーとラファエルは互いに伸びをする。
「さて、どうしましょうか……」
「探すしかないだろ……」
そんな会話をもう何度したかわからないが、二人はしかたなしに再び足を進める。ラファエルの靴は外見はものすごく歩きづらそうなデザインだが、魔法で外側だけを変えているので大丈夫だろう。
「あ、ルシファーさん。あそこ……あそこにも宿屋って書いてあります」
「おお、こんどこそ大丈夫だろうな……」
そう言って見つめた先にある宿屋は様々な色に輝いていた。明らかに先ほどまで見ていた宿屋とどこか違うが、宿屋と書いてあるのだからそうなのだろうと二人は足を踏み出す。
自動ドアをくぐり抜けて歩いた先に、人はおらずどこかから声だけが聞こえてくる。
エントランス自体はすごく綺麗な作りになっていた。
『お部屋を選んでください』
どこからか聞こえた声に促されて、ラファエルが前に進んで機械の声に従って操作を始める。
「すごい!すごいですよ!ルシファーさん、こんなの見たことありません!」
そう言いながらすごくはしゃぎながらラファエルは部屋を決める機械の前でルシファーはただただ経っていることしかできなかった。
「あっ!できました!できましたよ!えーっと、お部屋は306号室のようです」
「そうか……」
先ほどまで寝むそうだったのが嘘のように元気を取り戻したラファエルを目の前にして疲れ果てているルシファー。
瞬間、鐘の音が響く。ラファエルとルシファーは突然の物音に驚き、目の前にある音を立てた元凶を睨みつける。そして、それはゆっくりと両側に扉を開く。
「乗れということか……」
「見たい……ですね」
二人は恐る恐るその出口が一つしかない箱の中に入る。二人が中に入ると、それはゆっくりと扉を閉めた。
その箱の中に入ると待っていても何も起こる気配はない。ただただ、扉が閉まっただけだった。
「何も起こらない?」
「見たい……ですね。あ、横に何か押すボタンがあります」
「何々……1、2、3、4、5、6と何だこの三角形が並んでいるボタンは……」
「とりあえず、部屋番号に因んで3番を押してみましょう……」
「よし、任せろ」
そう言ってルシファーは恐る恐る3のボタンを押す。瞬間、ボタンが光ったかと思うと床が揺れ始める。
「なんだ!何が起こった!」
「だ、大丈夫ですよね。ルシファーさん!」
程なくして床の動きが止まると、再び扉が開く。しかし、そこは先ほどと全く違う景色が広がっていた。
「あぁ、とりあえず出るか……」
警戒心を緩めぬまま二人はゆっくりと廊下を歩く。そして、一つの扉の前にたどり着いた。
「ここか……ここが……306号室か……」
そう言ってルシファーはその306と書かれていた扉を開けた。
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