勅使河原くんと一人目の魔姫 Ⅱ
「へぇ、凄いなぁ……」
僕は、しきりに感心していた。
マリアは、そんな僕を見て照れている。
──元の世界に帰りたい……。
そう彼女に伝えた後で僕は、取り敢えず自分が、どのようにして助けられたのか?
その救出方法を彼女に実演して貰っていた。
僕は自分が寝かされていたベッドに、腰を掛けている。
そして、僕の前には彼女が出現させた白い円があった。
さらに少し離れて彼女が、僕の向かいに腰掛けている別のベッド上に、黒い円が現れている。
僕が白い円に空のコップを投げ込むと、コップは黒い円から飛び出してマリアの座っているベッドに落ちた。
「テレポートだ……。凄いな……」
僕は驚いた。
「テレポート? これは『
マリアは、この魔法の名前を教えてくれた。
──魔法……。
──本当に異世界なんだな……。
僕は改めて感動と共に確認できた。
「特に呪文とかは、必要としないんだね?」
「この魔法は頭の中でイメージするんです。おばあちゃん直伝なんですよ? この土地の周辺だと使えるのは、私ぐらいなんです!」
……えっへん! ……と、彼女は胸を張った。
「……大きい……」
「え? 何がですか?」
「あ……ううん、なんでもない」
僕は慌てて彼女の胸から目を逸らした。
白い円を裏側から見ると、何も見えずに向こう側が透けて見える。
黒い円も同様だ。
その透けている円の裏側からコップを通そうとすると、見えない壁があるかの様に幾ら押しても前に進まなかった。
だが白い円の白色が見える側からコップを半分まで入れると、黒い円の黒色が見える側から、白い円に入れた部分が出てくる。
僕は、そのままコップを円の
強引に押すと、流石に切れ込みと思われる細い筋が入ったが、自然にスパッと切れる様な事は無い。
次に白い円の外周にぶつかる様にコップを入れようとしてみた。
コップが縁に引っ掛かる様に止まって、それ以上は進まなかった。
「色んな事を試されるんですね?」
「あ、ごめん……つい、面白くって……」
僕は正面を見て、向かいのベッドに座っているマリアに謝った。
「いいんですよ? 私にも何か手伝える事は、ありますか?」
「それじゃあ……」
僕は先程の様にコップを白い円に半分入れて、黒い円から半分はみ出ている状態で彼女に頼む。
「このまま、この魔法を止めて円を消してみて貰える?」
「分かりました」
彼女は、そう言うと黒い円と白い円に向かって、それぞれ片方ずつ手をかざした。
しかし、なんの変化もない。
「……あれれ?」
彼女は……おかしいな? ……という様な表情をした。
──僕の予想だとコップは、円の境界で真っ二つになると思ったんだけれど……。
僕がコップを引き抜くと、まるで合わせたかのように円も消えた。
「あ、消えた。消えましたよ?」
不思議がるマリアに僕は、自分の推測を話す。
「どうやら境界面に異物がある状態だと、直ぐには消えないみたいだね……」
「私は、まだ『対の門』を一組までしか出せません。広さは大きな
「へぇ……」
僕達は今、ベッドのあった寝室を出てダイニングで、くつろいでいた。
マリアの作った、お菓子を貰いながら、テーブルを囲んで『対の門』に関する説明の続きを聞いていた。
「手をかざすのは、単にイメージし易いからで……かざさなくても出せますし、私が見える範囲だったら、ある程度は遠くても出す事ができます。」
「でも、どうやって白い円を僕の世界に出す事ができたの?」
僕が尋ねるとマリアは、大きな水晶玉を台座代わりの小さな座布団に乗せたまま運んできた。
「占い師だった、おばあちゃんの形見なんです」
彼女は何かを念じる様に水晶玉に両手をかざす。
すると水晶玉には、このダイニングとは違う場所……先程までいたベッドのある部屋が映り込んだ。
彼女は右手をテーブルに、左手を水晶玉にかざし直す。
テーブルの上に白い円が……水晶玉に映り込んだベッドの上に黒い円が現れた。
「私も反射的に身体が動いてしまったので、こういう使い方は初めてだったのですが……見ていて下さいね?」
彼女はテーブル上の白い円の中へ、コップを放り込んだ。
白い円の中に入ったコップは、水晶玉に映るベッドの上の黒い円から出てきた。
僕は驚いてベッドのある部屋に駆け足で行ってみる。
ベッドの上には、コップが落ちていた。
僕はコップを持つ手を微かに震わせながら、ダイニングにいるマリアの元に戻ってきた。
「マリア、君は凄い魔法使いなんだね……?」
「そんな……」
彼女は謙遜して照れたけれど、何だか少し寂しそうな表情だった。
「なるほど、この水晶玉で僕の世界を映して、崖から飛び降りた直後の僕を助けてくれたんだ……」
「ええ……大きさ的にギリギリでしたけど、上手く垂直に真っ直ぐ落ちて来ましたから……」
マリアは一旦、ふたつの円を消した。
今度は白い円をテーブルと水平に、黒い円を垂直に改めて出現させる。
次に僕がコップを白い円に向かって落としてみた。
垂直になった黒い円から水平の向きにコップが飛び出してくる。
「なるほど、こうしてショックを抑えてくれたんだ……。君は機転も利くんだなぁ……」
僕は感心しつつ、今度は黒い円に向かって水平にコップを投げ込んだ。
白い円から飛び出たコップは、放物線を描くと、また白い円の中に入って黒い円から飛び出してくる。
──面白い。
「じゃあ、早速で悪いけど……水晶玉に僕の世界を映して、元の世界に帰れる様にしてくれる?」
マリアは、その言葉にハッとした表情を見せると、そのまま俯いてしまった。
しばらく黙っていた彼女の口から出た台詞に、僕は驚いた。
「すみません……。もう、出来ないかもしれません……」
「出来ない? 出来ないって、何が?」
「……あなたのいた世界を、この水晶玉に映す事がです。」
僕は目の前が真っ暗になった。
「そんなっ!? それじゃ……まさか、もう……?」
──元の世界に帰る事が出来ないっ!?
「……すみません」
マリアは僕から視線を逸らすと、再び俯いてしまった。
僕は思わず彼女の両肩を掴んで揺さぶってしまう。
「それじゃ、どうして僕を助ける事が出来たんだよっ!?」
彼女は俯いたまま答えた。
「ある事を占っていたら……たまたま、あなたが映りこんでしまって……すみません、まさか異世界の方だったなんて……」
「そんな……」
僕は絶望しかけた。
だが瞬時に希望も見出した。
「じゃあ、また同じ占いをしてみて!? 同じ結果が映るかもしれない!」
彼女も気がついた様子だ。
顔を上げて真剣な表情で言った。
「……やってみます」
彼女は水晶玉に両手をかざした。
一瞬、水晶玉が暗くなったかと思うと再び僕が、はっきりと反射して映りこむ。
「……まだ、占いの結果は出ないの?」
僕は彼女に尋ねてみた。
彼女は涙目で、こちらを見た後で俯いた。
震える声で答える。
「……これが……占った結果なんです……」
僕は呆気にとられた。
──ふざけているのか? と、怒りかけた。
でも、彼女は泣いている。
「……どういう事なの?」
僕はマリアに問い掛けた。
その時、玄関の扉からノックの音が聞こえた。
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