勅使河原くんと四人の魔姫
ふだはる
第一章 出会い編
第一話
勅使河原くんと一人目の魔姫 Ⅰ
僕、
これから学校の夏服を着て眼鏡をかけたまま、崖から海に飛び込むつもりだ。
飛び込む理由は、女の子に振られたから……。
「だって政孝、
幼なじみに告白したら、そんな理由で振られたんだ。
自分でも衝動的だなとは思ったが、崖から飛び込みたくなったんだから仕方が無い。
──お父さん、お母さん、先立つ不幸を、お許し下さい。
途中で、ぶつかると痛いらしいので助走をつけて飛んだ。
頭が下を向いて青い海が……。
──見えない?
「だめええええええぇっ!」
そんな女の子の声が聞こえた。
青い海の代わりに白い大きな円が視界一杯に見える。
僕は、その円の中へと吸い込まれてしまった。
一瞬、目の前が真っ黒になったと思ったら、また白になる。
その瞬間に何か柔らかい物に叩き付けられた感じがした。
木が軋む音が四方から聞こえる。
柔らかい物に包まれて受け止められた感覚がしたものの、勢いが良過ぎたせいか全身に痛みが走った。
僕は、自分が気を失うであろう事を自覚した。
たまたま目線が横を向くと、白い服を着た白い髪の女の子が見える。
「……天使?」
意識を失う直前に僕は、そう呟いた。
驚いて心配そうに僕を見ている彼女の頬に、その瞬間から赤みが差す。
気がついた僕の
僕は、白い柔らかなベッドの上で仰向けに寝かされている。
多分、崖から飛び込んだ僕を受け止めてくれたのも、このベッドなのだろう。
僕の目が開いたのを確認すると、少女は
僕は身体を起こしてコップを受け取ると、中に注がれていた水を飲んだ。
彼女に空のコップを返すと再び横になって、ゆっくりと部屋の中を見回した。
「……ここは?」
「私の家です!」
少女は胸に片手を置くと、僕に身体を寄せて教えてくれた。
「あ、そう……」
僕は、まだ頭が混乱しているせいなのか、事態を把握しきれていない。
つい少女の顔を、まじまじと見てしまう。
──僕と同い年くらいの外国人だろうか?
白──いや、銀色に輝くような髪をして、海のような青い瞳を大きく見開いて、僕のことを興味深そうに見ている。
──でも、日本語を話していたよな?
「君は……誰?」
僕の口から自然と、そんな質問が出てきた。
「私の名前はマリアと言います! このエンダの村で占い師をしています! いえ、まだ修行中の身でした……」
何かに思い当たったのかマリアさんは、語尾に少しだけ元気を失っていた。
──
「とにかく生きていて良かったです! お怪我は、ありませんか? どこか身体の痛む場所は……?」
そう言って彼女は、僕の身体のあちこちを確認する為に覗き込む。
──生きていて良かった?
そう言われて僕は、自分が死ぬ覚悟だったのを思い出した。
それと同時に、全身が中途半端な感じで痛い目にあった事も……。
──もし彼女が救ってくれるのが、あと少しでも遅れていたら……僕は死んでいた?
その結論に至った途端に、身体中が急な寒気に襲われた。
振られた勢いとはいえ、自分は何て愚かな行為をしてしまったのだろう。
中途半端に痛い目に遭ったせいか、僕は今更ながら死ぬ事が怖くなってしまった。
僕は身体を抱え込んで、がたがたと震える。
そんな僕の丸まった背中を彼女は、優しく
しばらくして落ち着いた僕は、マリアさんに尋ねてみた。
「ごめん、マリアさん……ここは一体どこなの?」
「マリアで良いですよ? ここはエンダの村です。……
──うん、知らない。
──たぶん僕以外も、そう答えると思う。
彼女は……困ったな……という表情を見せると、こう言った。
「ユピテル国以外の
「なんだって!?」
──エルフ!?
僕は驚いた。
それはファンタジー世界に住む、ある種族の名前……。
本の中でしか有り得ない存在。
──まさかっ!?
僕は痛みも忘れてベッドから飛び起きると部屋の外へ、さらにはマリアさんの家の外へと向かった。
「どうしたんですか!?」
後ろからマリアさんの慌てて呼び掛ける声が聞こえる。
僕は彼女の家にある玄関らしき扉を開けて外に出た。
目を疑う様な光景が、そこにはあった。
彼女の家は、ちょうど小高い丘にあって、玄関から村の建物が見えた。
日本では別荘地でしか見掛けない、ログハウスみたいな木造建築物が並んでいた。
出てきた玄関の反対に回ると庭がある。
庭の周囲には丸太で作られた背の高い柵があり、それは村をぐるりと取り囲んでいた。
──マリアの家は、どうやら村の
村を囲う柵の広めの隙間から見える景色は、途中から下り坂になっていて、そこから広い草原が奥まで拡がっているのが確認できた。
その広い草原の先には大きな森があり、ずっと遠くには山脈が見える。
その山脈の上の空には、見慣れた大きさの太陽がひとつ。
しかし、その更に上には見た目で太陽の三倍の直径はあろうかという巨大な月が、ひとつあった。
──別世界の風景だ。
──本当に異世界なんだ。
僕は目の前に拡がる空気の澄んだ透き通る様な絶景を前にして、ただただ茫然としていた。
突っ立っている僕の横に、いつの間にかマリアさんが近づいて来ていた。
「……あなたの名前も教えて貰えませんか?」
──僕?
──僕の名前は……。
「政孝……勅使河原政孝……」
「マサタカさん?」
僕は自分の名前を呼ばれて、はっと我に返るとマリアさんの両肩を掴んで大きな声で尋ねた。
「マリアさん!?」
「マ、マリアでいいです……」
「……マリア!」
「は、はい!?」
僕は深呼吸をすると、驚いて目をぱちくりさせているマリアに尋ねる。
「僕を、元の世界に帰らせてもらえない!?」
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