第24話「占いは信じない!(後編)」

 老婆の占いによって決別したヴィクトリアは金を稼ぐために全長100メートルを超すドラゴンを討伐するべく死地へと赴く中、決別の際に彼女との契約解除魔法の影響で吹き飛ばされたカーサスは壁に背中を強打し、サキ・ベルメースが営む治療院へ入院する羽目となった。しかしヴィクトリアが貧しく死地へ迎う間に彼はサキの手料理を食べたり、一緒に風呂へ入ったりと正反対の生活をしていた。

 そんな中、ヴィクトリアの身に過酷とも言うべき事態が起きようと、カーサスは知る由もなかった。

 ふたりが決別して最初の朝が来た。ヴィクトリアは昼頃に決戦の地へ到着するために支度をして出発した。

「この先は霧の深い山道か」

 草木を掻き分けて人が滅多に立ち入ることのない山林へと足を踏み入れる。時々獣のような鳴き声が谺する。

 ドラゴンがいる場所までに命を落とす者も少なくなかった。所々に人骨のようなものが転がっている。

「奴さえ倒せばこの森も少しはマシになるかな」

 彼女は木陰に佇む死霊を見てみぬ振りをして先へ急ぐ。しかし行けども行けども、あるのは濃い霧と木々に覆われた森ばかり。ドラゴンどころか獣や虫さえ確認することは出来ない。

「鳴き声は聞こえるんだ。近くにいる筈だ」

 そう言い聞かし細心の注意を払って進むと麓までやってきてしまった。ここまで何一つ遭遇しなかったがそれは間違いであった。

「っ……」

 彼女の心臓が一拍大きく高鳴る。目の前には山でない何か大きな物が横たわっていた。

「これがドラゴン……」

 彼女が呟くと突然轟音のような物音がすると木々が揺れだした。そして黒い陰が彼女に近付く。

「くっ……」

 ジャンプして交わすと足下を巨大な黒い物体が通り過ぎる。ドラゴンの尾だ。

「危なかった。これを食らったら流石に動けないぞ」

 ヴィクトリアは杖を取り出すと呪文を解く。

『我の体に防御の力を与えよ』

 防御魔法を掛けて直ぐに死ぬリスクを下げる。しかし敵の攻撃力は未知数だ。不死身の彼女であっても再生が間に合わず一方的にやられてしまう場合もある。

「再生強化の魔法も掛けておく……か」

 しかし呪文を解く前にドラゴンの攻撃が始まった。竜巻を発生させると霧が晴れて姿を現した。

 黒色をした翼龍だ。全長は話を聞いていたときよりも大きくなっていた。有に300メートルはあるだろうか。

「何を食べたら大きくなるんだ」

 流石のヴィクトリアも震えるほどの強敵だ。彼女の心臓は早鐘の如く高鳴り、息も上がっている。

「ボクらしくない……かな」

 圧倒されてつい自信が無くなりそうだったが大きく深呼吸をして落ち着かせる。

「グォォォー!」

 敵もまた猛り威嚇する。それに対しヴィクトリアは引きつる顔でなんとか笑みを浮かべ、

「ボク“たち”には適わないよ」

 帯刀していた神風を抜くと振り下ろしたままドラゴンに向かって走りだした。そして足元に飛び込むと一撃を食らわせる。だが刃先が皮膚に弾かれてしまい無防備を曝け出してしまう。

「神風でも斬れないのか。なんて堅い皮膚……」

 奴は空を飛ぶと再び尾を振り回して彼女の脇腹へと飛び込んだ。避け切れず一撃を食らい50メートルほど吹き飛ばされた彼女は草や枝を薙ぎ倒して地面を二転三転する。

「かはっ……」

 防御魔法のお陰で即死は免れたもの胸に激痛が走る。

 指で肋骨をなぞり数えると6本ほど折れていることがわかった上、右の肺が破裂しているかもしれなかった。

「っ……くぅ……」

 再生強化の魔法を再び掛けようするが今度は炎を吐いてきたため障壁を形成する呪文に変更し何とか防ぐことが出来たが、炎の中から奴が突っ込んで来るなり右腕を振り下ろして引っ掻きを食らわしてきた。咄嗟に神風を身代わりにし防ぐも再び吹き飛ばされてしまう。

「神風は……大丈夫か。流石、ミレイがくれただけのことはある」

 安心している場合ではない。状況は悪い方向に邁進しているからだ。

「これで金貨140枚は少な過ぎるな」

 1枚約5万アークドルで140枚ならば700万相当になるが、これでは葬式代になってしまう額であった。

「でも、やると決めたんだ。引き下がるわけにはいかない。反撃だ! “行くよ!”」

 彼女は神風を鞘に入れると単身で之字運動をしながら突っ込んでいく。奴は見極めるかのように彼女の手を内を読む。

「秘技、騙し討ち!」

 ドラゴンの足下で刀を抜くと切り刻もうと振り翳すが一瞬の隙を突いて高らかに飛び上がると奴の翼に向かって振り下ろす。その際に魔法で刀の強度と重量を倍増する呪文を行って見事翼を切り落とすことに成功した。

「ギョワァァァ!」

 紫色の血液が中空を舞い、霧雨のように地面へ降り注ぐと怒り狂った奴はもう片方の翼を使い彼女を吹き飛ばした。しかし今度はしっかりと受け身を取って体勢を立て直した。

「次は目を狙いたいものだ」

 もう一度騙し討ちを仕掛けようと再び近付く。だが奴はそうはさせまいと尾で彼女の動きを封じこませる。

 止むなく捨て身の特攻で間合いに入るとドラゴンは口を開いて火炎を吐く体勢に移る。それを待っていたかのよう彼女は思わず、

「カーサス、今だ。目を狙って……」

 しかし応答はない。今、この場にいるのは彼女と敵であるドラゴンだけなのだ。

「そうか……いないんだっけ」

 分かっていたつもりだったが突き付けられた現実に彼女は孤独感を味わうとともに恐怖した。奴は嘲笑うかのように火炎を浴びせると我に返ったヴィクトリアは結界を張って未然に防ぐ。しかし奴の攻撃はそれだけではなかった、結界を張り終え地面に着地する刹那、ヴィクトリアの脇腹から腹部に掛けてドラゴンの右腕が襲う。そして赤色の血液が中空を舞い上がる。

「ぐはっ!?」

 切り裂かれた彼女の腹部からは夥しい出血と腸はらわたが飛び出していた。また何本かの肋骨も露になっており普通の人間ならば絶命する状態だ。

「まだ……まだ、行ける」

 しかし彼女は不老不死でありこの惑星ほし、いや宇宙を創造した神、アーク神族のひとりでもある。この位の傷でくたばる彼女ではない。

「でも……痛い」

 血溜りが出来る中で彼女は立ち上がると腸が垂れ下がる。それを伝って血が流れ出ていたが、

「仕方ない……」

 震えながら神風を抜いて自らの腸を断ち切った。まさに断腸の思いで断腸したわけである。

「こ、これで少しは身軽になったかな」

 相変わらず出血はとまらなかったが彼女は右手に刀、左手に杖を持って小さく深呼吸をする。

「ここで死んだら二度とカーサスにも会えない。ボクはもう一度カーサスに会う。そして、謝るんだ」

 意を決し彼女は突き進む。体は重かったが気持ちは軽かった。

「待ってて、カーサス。今行くから」

 奴の間合いへと再び入るとそのまま高らかに飛び上がりドラゴンの頭の辺りで止まると、

『光の精霊よ、ここに閃光を灯せ』

 そう呪文を解くと3秒の間だけ太陽と同じ明るさの光が輝いた。直視していた奴の眼は失明し悲鳴を上げる。だが暴れる左腕にヴィクトリアは一撃を貰ってしまい地面に叩きつけられた。

 数秒間息が出来ずに苦しんでいたが吐血することで解消された。

「はぁはぁ……、血を流し過ぎたかもしれない。ぼやけてきた」

 1分すら経っていないにも拘らず彼女がいた地面には血の水溜まりが出来ている。出血は酷くなるばかりで正気を保っていられるのが不思議なくらいだ。

「っ……、次で決着を付けよう」

 だがここであることに気が付いた。左腕が言うことを利かないのだ。

「折れたか」

 再生魔法を無詠唱で掛けたかったが痛みや出血が酷く集中出来ないでいた。

「うぅ、危機的状況だな」

 ふと地面に溜まる自分の血を見て笑顔を見せると、懐から赤く染まった式紙を取り出しその血溜りに投げ入れた。

「さぁ、行くぞ」

 ぽたぽたと滴らせながら奴に向かって突進する。視力を失ったドラゴンだったが聴力と嗅覚は生きており、その力だけで彼女の居場所を見付けた攻撃を行った。

「くぅ……っ」

 避けながら後退し隙を見付ける。だが時間が残されていない。彼女の体は既に限界を超えており心拍数も極端に下がっていた。

「せめてあと少しだけ保って」

 奴は尾を振り上げると激しく地面に叩きつけた。すると地面が揺れ始め地割れが起こる。地震を起こしたのだ。

「こんな力があったのか」

 だが片翼のドラゴンも飛行することは出来ず、また地揺れで動きが鈍くなっていたものの火炎を吐いて攻撃を行った。ヴィクトリアは障壁を張って防ごうとするが力が足りず火傷を負う。

「お、お前はこれで終わりだ」

 声を荒げると大きく息を吸って力限り呪文を詠唱する。

『我の血に触れた者よ、其の躰からだ永久に封じよ』

 先ほど式紙を置いた血溜りが破裂すると空を舞ってドラゴンに降り掛かる。そして奴は両手足や片翼が自由に動けなくなったことに驚き悲鳴を上げた。

「食らえ、この一撃を!」

 ヴィクトリアは最後の力を振り絞りドラゴンの胸に向かって飛び上がると奴の皮膚を脆くする魔法を掛けて神風で貫いた。そして、

『爆発よ起きよ』

 ドラゴンの体の中に入る神風に向かって呪文を解くと刀を伝って魔力が奴の心臓目がけ飛び込むと爆発を起こした。衝撃で彼女と神風は吹き飛ばされ、そのまま草村に叩きつけられたが幸いクッションの役割をしてくれたため更に被害を受けることはなかった。

 刀を納めると彼女は絶命したドラゴンに近付き辺りを見回した。討伐に成功した証となるよう何かを持っていかなければならなかったからだ。

「奴の羽で良いよね」

 黒ずんだ羽を1枚引き抜くとそれを持って彼女は下山する。

 既に夕暮れを迎えており急がなければ道が分からなくなる夜になってしまう。しかし彼女の体力はとうに使い果たし、気力だけで足を進めていた。

「血が……足りないかも」

 心臓の鼓動も感じにくくなり目の前が暗闇なのかそうでないのか分からないがとにかく暗く感じた。また寒気が襲い震えが止まらなかった。

「うぅ……後少し、後少しだから」

 その言葉だけで彼女は下山し、街へと入っていくとあの占い師の老婆がいたが構っているほどの元気は無い。そのまま通り過ぎ酒場のある通りに着いたのは夜も更けてからだった。

 酒場の階段を上り彼女は遂に辿り着いたのだ。

「いらっしゃ……いっ!?」

 客かと思ったガイは目を疑った。彼の前に血だらけの瀕死となったヴィクトリアの姿があったからだ。

「お、おい。大丈夫か!」

「ヴィクトリアか!? しっかりしろ」

 ジンもいた。血相を変えて飛んでくると客に有りったけのタオルなどを要求する。

「大丈夫か、ヴィクトリア。どうなったんだ」

「こ、これを……」

 懐から羽を取り出すとガイに渡そうとする。彼は涙を流して受け取った。

「奴の物だ。これは奴の羽だ」

 するとヴィクトリアは安心したのか意識を失って彼に寄り掛かる。非常に冷たくなっていたので彼は毛布などを客から取り上げた。

「緊急事態だ。文句はないだろうな!」

 恐喝紛いの行為だったが皆は素直にしたがった。

「タンカーを持って来い。急いで俺の妹の治療院に運ぶぞ!」

 ガイの妹は奇しくもカーサスが今治療のため入院している場所の医者である。タンカーに乗せられた彼女はガイとジンの手を借りて治療院へと向かった。

 その頃、夕食を取っていたカーサスとサキは閉院した札が掛けられているにも拘らず、戸を叩く男たちに一喝しようと近付くと兄だったことに驚いた。

「どうしたの、こんな夜に。また喧嘩で怪我人が出たの?」

 明かりを点けたサキは驚愕する。ガイやジンは返り血を浴びたかのように赤く染まっていたからだ。

「ちょっと、なに。どうしたのよ」

「ドラゴン討伐で負傷者だ。お前の助けがいるんだ!」

 タンカーに乗せられたヴィクトリアを見せる。ひどく弱まり虫の息に彼女は首を横に振った。

「もう手遅れかもしれないわ」

「頼む、後生だから」

「だって、こんなに血が。それに……」

 胸から腹にかけて抉られた患部を見て彼女は泣きだしてしまう。そこにカーサスが現れた。

「サキさん、大丈夫……か!?」

 彼は目を疑った。そして咄嗟に彼女を差し置いてヴィクトリアの肩を掴んで名を呼んだ。それに答えるかのように彼女が目を開いた。

「あぁ、カーサス。また会えて……嬉しいよ」

「何があったんだよ!」

「こいつはドラゴンの討伐をしに向かったんだ。見事討伐してきたらしいが、この有様だから……」

 ジンが簡潔に纏め終える前に彼の胸ぐらを掴み叫んだ。

「なんで止めなかったんだよ。こんなになるんなら、危険なクエストだったんだろ!」

 ガイは何も言えなかった。確かに最初は反対していたが最終的に許可を出してしまったことを後悔しているからだ。

「糞ったれめ。なんでこんな無茶を」

「はぁ……はぁ……、格好良く言うなら、ガイさんたちの無念を晴らすためかな」

 その言葉にガイとジンは膝を着いた。そしてヴィクトリアとカーサスに必死で謝る。

「俺たちが糞みたいな希望をこの子に預けたからだ」

「本当に申し訳ありません!」

 その様子を見たカーサスは涙を拭きサキに傷の縫合を依頼する。彼女は手当てだと思い、気持ちは分かってあげた上でもう手遅れだと伝えた。しかし彼はヴィクトリアのように一歩も退かずお願いをする。

 サキは生前の状態にしてあげるのも医者の役目だと再認識し縫合の処置を施す間、ガイとジンはカーサスに幾度と頭を下げる。だが彼は何も言わなかった。

「終わりました。後は……心臓が止まり、脳が死ぬのを待つしか……ありません」

 声が震えていた。そこにカーサスが優しく声を掛ける。

「大丈夫です。あいつは死にません。迷惑をお掛けします」

 その言葉は理解できなかった。そうしてカーサスは自らのことを3人に話し始める。

「つまり、ヴィクトリアは不死身ってことか」

「でも死にそうじゃないか」

「不死身、私は信じます」

 サキはそう言ってカーサスの方を向くと、

「だってこの人が嘘をつく人には見えませんもの」

 彼らに伝える。ガイは妹の言葉を信じた。ジンは半信半疑であったが翌朝になって信じることにした。

 傷はまだ残っていたが死ぬことはなく息続けていたからだ。

「心拍数は23、呼吸数は6です。普通じゃ考えられませんよ」

 驚くサキにカーサスがひとつ訊ねた。それはヴィクトリアが彼に言った言葉でもある。

「化け物みたいで俺たちが怖いか?」

 しかし彼女即答でこう答えた。

「違います。あなた方も私たちと同じ人間です。泣いたり笑ったり、怒ったりしているんですから」

 優しい言葉に彼は心を打つ。ヴィクトリアにも聞かせて上げたかった。

「取り敢えず今は輸血が必要です。彼女の血液型は分かりますか?」

 前に言っていたときは彼女自身に血液型は存在していないらしく何を輸血しても良いらしい。それも結構昔に言っていたような気がするためサキは血液検査を行った。

 ところが未知の血液で仕方なく同じ不死身のカーサスの血液を輸血することにした。

「すぐ良くなるからな」

 輸血すること数十時間後、彼女の心臓はいつも通りの早さで動き始め呼吸も安定し、苦しんでいた表情が和らいだような気がした。また、触診で肋骨や内臓が元通りに再生しているらしく回復へ向かっているようだ。

「良いですね、不死身というものは」

 羨ましく思う彼女にカーサスは断りを入れておく。

「不老不死は大変だよ。お腹は空くし、痛みはあるし、つまんない時のほうが多いし、眠いし、疲れるし」

「ふふっ、結構文句があるんですね。そういえば腰、大丈夫ですか」

 気が付けば昨夜から歩き回っていた。彼女もすっかり忘れていたようだ。

「あっ、本当だ」

「ふふふっ」

 昨夜以来の笑い声がふたりを包む。ガイとジンが様子を見にやってきた。

 彼らは一度店に戻り客を追い出してから再びやってきてくれた。お見舞い品として高級なフルーツの盛り合わせを持って。

 しかし未だ目覚める気配はない彼女にカーサスとガイとジンは昼ご飯を食べに外出した。帰りにサキの分も買ってくるつもりでもある。

「そういえば、朝は何も食べていないわね」

 そう独り言を呟いていると言葉が聞こえる。

「申し訳、ないです」

 ヴィクトリアだ。どうやら気付いたようだった。彼女は起き上がろうと必死に上体を起こすが力が入らない。

「無理してはダメです」

 横になって安静でいるよう注意する。

「すみません」

「謝るのならバーンさんに謝って下さい。あの方はあなたを思って一晩中看病なさっていたんですよ」

「……うん」

「長いこと一緒にいるようですけれど彼の気持ちも理解してあげて下さい」

 お水を持ってくると言って病室を離れる。その間に外出していた3人が帰宅しヴィクトリアが気付いたことを知ったカーサスは真っ先に病室へ向かう。

「カーサス……」

「なんであんな無理したんだよ」

「ごめん……なさい」

 彼を見た途端に彼女は泣きだしてしまった。おろおろする彼は自分が何か悪いことをしたのかと勘違いをする。

「カーサス。ボク、君に悪いことを言った。そして君がいなければならない大切な仲間だと知ったんだ」

「ヴィクトリア……」

 ふたりの間に欠けていた思いが今、再びひとつになった。彼は右腕を差し出すと、

「も、もう一度契約してくれるよな。お前がそんなにならないよう、今度は俺が守る。絶対に」

 その言葉に頷いて彼女は契約解除を取り消し再契約を結ぶ呪文を唱える途中に彼はひとつ質問をした。

「また長ったらしい質問をしたり何か試験的なことをするのか」

「いいや、あれは初回限定だし、何より不老不死になるための資格があるかのものだから。今のあなたは大丈夫だよ」

 安心すると彼女は呪文の続きを呟き始めた。しかしここで新たな質問が生まれる。

「待った。また吹き飛ばされるンじゃ」

 再び背中を強打することを恐れた彼は身構えるが何も起きなかった。

「はい、再契約終了」

「はりゃ、終わり?」

「うん」

「吹き飛ばされなくて良かったぁ」

「何の話し?」

 カーサスは契約解除時に吹き飛ばされて怪我をしたことを言うとヴィクトリアは外方を向いて呟いた。

「あれはイライラしてわざとやったんだった」

「なんだとーっ!?」

 それからふたり言い争いになった。この様子を見ていたサキたちは揃いに揃って、

「喧嘩するほど仲が良い」

 そう言ってふたりの間に入る。そしてその夜は討伐記念パーティーを行った。

 昼間、ウルフと役場の調査官らが山に入ってドラゴンの死体を確認し彼女に報償金が支払われることとなった。その額、金貨140枚と国からの祝い金と見舞い金の合わせて金貨540枚、三つを合計して680枚、価値にして凡そ3億4千万アークドルにも及んだ。

「豪遊出来るな」

 カーサスが喜んでいるとヴィクトリアはウルフにこう告げる。

「全額あなた方に寄付します」

「ちょっと待て」

 全額寄付にカーサスはもちろんガイも声を上げる。

「どういうことだよ」

「森に入ってたくさんの死霊を見た。中でもガイさんやウルフさんの討伐隊のお仲間さんが呪縛霊として残っていました。彼らのために祝いの酒や慰霊碑を立てて下さい」

 彼女の言葉にガイはもちろんのこと、ウルフまでもが感謝の涙を流した。カーサスも全額の寄付には驚いたもの受け入れることにした。これは彼女の意思なのだから。

「じゃあ、治療費は結構です」

 サキは彼女にそう告げるもウルフが寄付してくれた分から差し引くと言って最初の内は遠慮していたが何度断っても聞く耳を持たなかったため仕方なく受け入れることとなった。だがそれは、あくまでもヴィクトリアの治療費だったため、カーサスは働いてでも返す旨を伝えると、

「もう好きにして下さい」

 諦める彼女に病室は笑いの渦に包まれた。それからウルフの奢りで顔馴染みの客たちが治療院を訪れ道行く人たちと共にヴィクトリアの回復とドラゴン討伐成功に祝福を示し盛大に乾杯を行ったのだった。

 翌朝、ふたり治療院を出ることにした。サキがもっと長くして行けば良いと言ったカーサスは長居すると迷惑が掛かると仕事を探すために出るようだ。ヴィクトリアはその付き合いらしい。

「まぁ当分はこの町にいるだろうし、俺たちには時間があってサキさんたちは時の流れの人だから」

「そう……でしたね。じゃあ、さようならは言いませんよ」

「はい、また会いましょう」

「また、会いましょう」

 互いにそう言ってふたりは治療院を後にする。そして話の冒頭に戻るが、今ふたりはアーカンソー貿易港で貿易品の運搬作業を行っていた。

 ヴィクトリアは体が痛かったもののリハビリにはなった。それに重いものは魔法を使っている。それに対しカーサスは機械を使っていた。魔法と科学が共存する世界、アークは今日も回り続ける。そしてふたりの旅は永遠に続くのだ。

「カーサス、これからもよろしくね」



[あとがき]

 The ARKの第1章をここまで読んで下さいましてありがとうございました。また目を付けて下さった方もありがとうございます。文字通りこのまま第2章へ続きますよ!

 第1章は如何だったでしょうかね。言葉足らずで文法の間違い、言い間違い、誤字脱字、意味の分からない会話、最初と最後が矛盾している、設定に無理がある、主人公が最強すぎる、自己中など、様々な意見があるかと思いますが、それがこの物語なのです。作者の私でも分からなくなる時があります。

 基本的に主人公サイドの話は記憶にあるのですが数話書いていくと数話前の話の内容を忘れてしまったりします。大問題ですね。

 因みに構想としては約10年位はしていますが毎年のように新たに生み出してしまっているので第1章の約8割方が新規で作っていると言った状況です。また、当初は時間軸をヴィクトリアの誕生から描きたかったのですがカーサスと初めて出会うところから描いていき、これから彼女のもっとコアな話を描いて行く予定ですので、どうぞよろしくお願いします!

 次回作である第2章では新キャラクターが仲間になります。また文章読みやすくしていけたらなあと思ってもいます。

 対応としては改行を入れたりすることですかね……。

 現在、作者はガラケーを用いて執筆しています。PCではないです。投降はPCですが……。

 1話当たりの構成はガラケーのメール丸々2頁分で約2万バイトを使用しています。もちろんそれ以下の計算ではあります。そのため、改行などの対応するともしかしたら短くなる場合がこざいます。ご了承下さいませ。

 長くなりましたが、当小説を愛読して頂きありがとうございました。次回作もまた、どうぞよろしくお願い致します。

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