第19話「真相」
ジュリエッテが看病する中、カーサスはいるだけの被害者たちにリブラのことやアングル帝国のことについて聴き取りを行っていた。
アングル帝国のことは一切知ることはなかったようだがリブラについては有名だった。そもそもエッジのことを知らなかったという人までいる。
「マックスはヤバいっすよ。班内でも噂はありましたから」
その噂とは、反抗すれば舌を切り取られ、ガンを飛ばそうなら目を刳り貫かれ、手や足、耳そして肺や心臓、脳、血液などを魔術で取っていくらしいのだ。
「末恐ろしい奴だな」
「実際、肺を1個取られて死んだ奴がいたし」
「隣の班のひとりは心臓抜かれてたぜ。抜いた後の数分は動いていたし、抜かれた本人も意識はあったけどよ心臓が止まると死んじまった」
「逆に心臓を返された奴、おいら見たよ」
彼に話を聞くと、若いガタイの兄貴が過労によって突然倒れると、マックスがその場にいた別の男の心臓を刳り貫き兄貴の方へ入れたらしい。嘘か真か分からないが少なくともその兄貴は生き返り働かされていたという。
「魔医術者かな」
「ヴィクトリア!」
ジュリエッテの懐抱によりやっと気付いた彼女が答えてきた。
魔医術者とは文字通り、魔法や魔術を用いて治療をする術者のことであり、通常の医者よりも高位の治療が出来る反面要求する知識も高い。しかし巧く扱うと非常に厄介な相手となる。全生物の構造を知り尽くしたその時こそ、敵の弱点や急所を素早く攻撃し致命傷、または死に至らすことが出来るからだ。
「そこまで出来る奴には見えないけどな」
「外見で判断しちゃダメだよ、カーサス。現に彼は裏切り者を魔法で殺していたし」
それはふたりが捕まえて情報を聞き出そうとした男が突然爆発して肉片となってしまったことである。彼女曰く、魔力の波形が似ているらしい。
「最初は彼の周りにいた魔導師が犯人かと思ってたけど違うみたい」
「なるほどな。まぁ、お前が言うならそうなんだろう。なにせ俺は魔法に関しちゃてんでダメだかんな」
彼にも魔法を理解してほしいと思うヴィクトリアであった。
ふたりが今後どうするか考えているとジュリエッテが不安気に近付き、
「パパはいなかったの?」
そう訊ねてきたことで未だ戻ってきていないことが判明した。
プチヴィクトリアに詳しく聞いてみると5分の3は結局救い出せなかったとのことだった。再び振り出しに戻るふたりは打つ手が無かった。少女の父親を含めた借金返済の被害者は人質にあるも同然だからだ。
「どうするんだよ」
「今考えてるよ」
いつまでもここに留まってもいられなかった。地盤が悪くなってこの鉱山は崩れる危険性があるのだ。それに食料も十分に無く、トイレにも行けない状態である
「雨が止やめば下山できるんだけど」
一向に降り止むことの無い暴風雨に悩み事がひとつ増えてしまった。
「魔法で洞窟内を明るく出来たんだから天気も変えられるだろ」
「君が明るくしたのかい?」
カーサスの言葉に男たちが彼女を称賛してきた。
「これほどの力があるなら天気も変えられるんじゃないか」
「出来ないのか?」
などと迫る勢いにヴィクトリアは苦笑いを浮かべて後退りする。
「出来ないことはないけど……いや、その……気象変化は生態系に大きく関わるから」
変な能書きは無しにさっさとやるようカーサスが煽る。だが彼女はやりたくなかった。
洞窟内に明かりを灯す時よりも膨大な魔力を消費するからだ。
「神様だろ、早くし……」
咄嗟に彼女はカーサスの口を塞ぐと皆に引きつったほほ笑みを送る。そして彼の爪先を踏ん付けた。
「神でも簡単に出来ないことがあるんだよ」
そう耳打ちするも本当は自信がなくて出来ないものだろうと彼は煽りに煽ったがその手には乗らないヴィクトリアであった。しかしそうも言っていられない事態に陥るのだった。
「地割れが……」
彼らのいる洞穴の地面に小さな亀裂が走っていた。これはここよりも下層にある洞窟が崩落し重みで上層が崩れようとする前兆を意味する。
「一応魔法障壁でバリヤーが出来ているけど一気に崩落したら一溜まりもない」
呑気なことを言っている場合ではなかった。カーサスを筆頭に男たちが彼女にブーイングを送り今にも暴動が起きる寸前であった。
「分かったよ。やれば良いんでしょ……」
観念したヴィクトリアは入口へと歩いていく。そして地面と壁、天井に魔法陣を描いていった。
「それ書かないとダメなんか」
「陣があればある程度魔力を補助してくれる」
「そうなんか」
「出来ない奴が文句を言わないでくれる」
怒っているのか口を尖らせて言った。カーサスはむっとしたがこの場は耐えた。事実だからだ。
「始めるか……」
そうしてヴィクトリアは小さく呪文を唱え始めた。その言葉はアーク語ではないようだ。
皆が固唾を呑んで見守る中ジュリエッテがカーサスに抱き付いてきた。
「どうした?」
「何か怖い……」
無理もないと彼は思った。自然界に反することを今ヴィクトリアはやろうとしているからだ。
『全ての風の精霊よ、我が名はアークミリア、スコーピオン。聖なる力を分け与え給え』
突然暴風が止み雨だけが降りしきる。
「風が止んだ……」
「まさか……」
雨音と雷鳴だけが聞こえる中で再び彼女は小さく呪文を解く。
カーサスは地面に目をやると亀裂が先程よりも大きくなっていることに気付く式神になんとかするよう伝えるが彼女たち自身は本体よりも魔力が制限されておりどうすることも出来なかった。
「5体位いるんだから力を合わせて何か出来ないのかよ、使えねぇなー」
5体の式神は肩を落として謝った。そうして彼女たちは円陣を組んで何かを話し始める。
「カーサスさんの言う通り私たちが一体になればもしかすれば」
「ヴィクトリアさまの力を借りずとも何かできるのだろうか」
「やらないといけない雰囲気ですよ」
「式神の底力を見せましょう」
「誰が一体になるの?」
話がまとまったのか彼女たちは片手を高らかに上げるとここでも本体であるヴィクトリア同様に呪文を唱え、やがて光り輝き始め重なり合った。そしてプチヴィクトリアは一体の式神となって現れた。
「何が変わったんだ」
外見上判断しづらかった。どこも変わっているところが無いからだ。
「もしかして胸が少し膨らんだのかな?」
「そんなわけありませんよ」
着ていた服を脱いで確認させようとした彼女だったがカーサスは止めに入る。
「サービスは良いから早くしなんとかしろ」
「分かっています。でも少しは期待したでしょう」
彼は思った、少々本体寄りの式神になったと。彼女たち式神は一体一体、個性を持っている。それらが一体になった時こそ、本体に近くなることは当たり前であろう。
「それでは始めさせて頂きます」
ただ本体よりも礼儀正しく思えたカーサスであった。
一方本体は未だに訳の分からない呪文を唱えていたが天候に変化が見られた。
厚く広がった雨雲が次第に渦を描いて散らばっていった。その隙間から太陽の光が地表に降り注ぐ。
「アンビリーバボー」
「アメイジング」
「オーゴッド」
「神仏のご加護に感謝せねば」
男たちはその光景に圧倒された。雨が次第に上がり陽の光が洞窟内の入口をも照らし空は真っ青に晴れ渡る。
「信じられないよ」
「君は本物の神のようだ」
「生まれて初めてこれほど凄いものを見たよ」
「なんまんだぶ、なんまんだぶ」
称賛しているところで彼女は障壁を解除して皆を外へ誘導した。カーサスと式神が出た瞬間、地面が崩落し洞窟は跡形もなく崩れてしまった。
「良く持ち堪えてくれたな、プチヴィクトリア」
彼は感謝の言葉を送ると式神はお辞儀をして、
「ヴィクトリアさまほどではありません。それでは私はこれにて」
一枚の型紙になると本体の手元に戻っていくと彼女も式神に礼を言ってしまった。
「さてと、これからこの人たちをどこへ逃がすか」
「この国にはいられないよな」
そこでカーサスはあることを思い付いた。それはヴィクトリアの転移魔法でひとりひとり適当な場所へ飛ばすというものだ。しかし彼女は猛反対する。
「これだけの人数をやってたら日が暮れちゃうし、ボクはさっきのでヘトヘトなんだ。やりたければ君自身がやってよ」
「なんだよ、簡単にくたばっちまって。それでも神かよ」
「なんだって……っていけない。また口車に乗せられるところだ」
彼は小さく舌打ちすると平らな岩の上に座り明後日の方角を見る。拗ねてしまったようだ。
「っ……」
ヴィクトリアは男たちひとりひとりに行く当てがあるのかどうか訊ねていくが、どれも返ってくる言葉は“ない”であった。それもそうだ、行く当てもないがためにここまでやってきたからだ。
「因みにあなた方は国外でも我慢できるの」
「借金取りに追われないならどこで良い」
「無人島でも良いくらいだ」
そこで彼女は閃いた。無人島だ。彼らを資源豊富な無人島へ送り、彼らで新しい国を造り永住するのだ。
「つってもよ、無人島なんてどうやって探すんだよ。簡単に見つかるわけないと思うぜ」
カーサスの言い分は正しかった。大陸の中腹にいる彼らが遠く離れた海に浮かぶ無人島を探すのは容易ではない。況してやその中から条件に合った島を見つけるなど不可能に近かった。
「それくらいならボクに任せてよ」
そう言うと山頂の方へ歩きだし、頂上へ立つと彼女は目を瞑り風を感じる。張り詰めた空気の中で見守るカーサスと男たちは何をやっているか疑問で仕方がない。
「南東、いや北東……23度」
待つこと10分、突然乾いた音が響くと同時に山頂にいた彼女の身体から赤い血飛沫が飛ぶ。
「ヴィクトリア!」
「けほっ……伏せて」
言われるが儘に皆は地面に伏せると彼女は右胸に手を当てて下山する。その間も銃声が響いていた。
「ヴィクトリア!!」
「残党かも。ある程度の位置は分かった」
「どこら辺だ。ぶっ殺してやる」
「そっちの位置じゃないよ。島の位置」
そうして彼女は地面に血を滴らせながら魔法陣を描いていく。カーサスが詠唱を提案するも気力が無いと返された。
「みんな、陣の中に入って」
今にも倒れそうな弱々しい声を掛けると彼女は転移魔法の呪文を唱え始める。
「敵だ!」
男たちが指差した先に血だらけの敵兵が狙撃銃を構えていた。咄嗟にカーサスは狙撃兵に銃口を向けると引き金を引く。
弾丸は敵の眉間を撃ち抜き斜面を転がる瞬間に周囲が明るく輝き気が付くと潮の香りと波音が聞こえた。
「海だ!」
「やったぞー」
喜ぶ男たちを尻目にカーサスとジュリエッテは虫の息のヴィクトリアに駆け寄り話し掛ける。
「お兄ちゃん」
「はぁ……はぁ、大丈夫。ボクはまだ死なないから」
狙撃により右胸は吹き飛び肋骨が露出している他、彼女の寝転ぶ辺りには血溜まりが出来ている。
「うぅ……やっぱり、死ぬのは痛いね」
やがて彼女の息が弱まり目を開いたまま絶命した。ジュリエッテは亡骸に抱き付いて泣き叫ぶ傍らカーサスはバッグから包帯を取出して彼女の胸に捲いていく。そこで初めてヴィクトリアが女性だとジュリエッテは気付いた。
「こんな強いお姉ちゃんがいても良いだろう」
彼は優しく声を掛け彼女は頷いた。暫く泣き止むまでそのままでいると男たちも集まり手を合わせて祈り始める。
「どうか安らかに逝ってください」
「ここまでありがとう」
「死ぬまで感謝するよ」
彼らの厚い思いを聞いているカーサスは失笑しそうになったが堪えた。そして日が傾き夕暮れ時になる中、彼は男たちに野宿の準備するよう伝える。
ジュリエッテは泣き止みいつの間にか眠ってしまっていた。
「感謝されてたぞ。あの連中になんていうんだ」
「さぁね」
支度をする彼らを遠くで座って見ていたカーサスの隣に血だらけのヴィクトリアが腰掛ける。鉄の錆びたような臭いでふたりは咳き込むとジュリエッテが目を覚ました。
「お兄ちゃん!?」
驚いた様子で彼女の胸を触ってきた。傷を確かめたいらしい。しかし傷はどこにもなく完治していることにも驚きつつ力一杯に抱き締めた。
「生きてて良かった。死なないで良かった」
「ちょっと痛いかな」
彼女自身、本当はもう少しだけ眠っていたかったらしいがそうも言ってはいられない。ジュリエッテの父親の救出とマックスを倒さなければ第二、第三の犠牲が出てしまうからだ。
「直ぐにここを発とう」
「えっ、でもあいつらは」
「ボクは死んだんだ。今さら顔を会わせられないよ」
「お前は良いけど、俺とジュリエッテは……」
「良いから、早く」
彼女は強引にふたりと手を繋ぐと無詠唱呪文を解き転移魔法を展開しその場を離れた。
次に3人が訪れた先は場所が違えど元の鉱山だった。
「何でまたここに」
「手が掛かりが残っているかもしれないからね」
「それにしてもよあいつらを残してきて本当に良かったのかよ」
するとヴィクトリアは笑い始めた。訳を聞くとどうやら無人島へ送ったわけではないという。
「あそこはどっかの海岸だよ」
「海岸!?」
「流石に無人島へ送って国を造ろうとしても一代で終わっちゃうでしょ」
なるほどなと頷くカーサスだったが、なぜあの場所を選んだのか訊ねると、
「条件に適した場所なんだよ。天候も良いし、果実もあり動物もいて、海の幸にも恵まれてるからね」
その答えに納得がいく。意外と考えていたと知り称賛する傍らでジュリエッテがどうやって見付けだしたのか疑問に思っていた。無論カーサス自身もそう思っている。
「ボクはね、魔属性が風なんだよ」
魔属性とは簡単に言えば術者の最も秀でた属性のことであり、彼女自身は風の魔法を自由自在に扱うことが出来る。
「風で海や草木の臭い、天候やどんな動物がいるか感じ取れるんだ」
「気持ち悪いな」
率直な彼の言葉に僅かだが傷付くヴィクトリアにジュリエッテは、
「頼りないカーサスお兄ちゃんより全然役に立てるし、すごいと思うわ」
彼女を褒めると彼はいい気分にはなれなかった。
3人はレストランへ行く前にヴィクトリアが血の付いた格好では問題が生じるとして森の奥深くに流れている川へと向かった。
せせらぎが近付くとジュリエッテははしゃぎ始めたので気を付ける様に注意する。残党がまだ近くにいるかもしれないからだ。
「取り敢えずカーサスは警戒しておいて。ボクはジュリエッテと一緒に浴びてくるから」
「わーったよ」
ふたりは手を繋いで川の畔へと向かった。ふたりはすでに女性であることを知っていたため何事もなく水浴びを行った。やがて日が暮れる頃、川から上がったふたりはヴィクトリアの魔法で身体と服を乾かしカーサスと合流する。
「今頃夕暮れを迎えるってことはさっきの海辺は結構東の方だったんだな」
「そうだよ。まぁ、ぶっちゃけた話……どこの国の町だか分からないんだけどね」
それはつまり、密入国者として逮捕または処刑される危険性もあった。
「多分大丈夫だとは思うけどね」
「何を根拠に……」
頭を抱えるカーサスだったが心配しても過ぎたことはしょうがないとして、今はジュリエッテの父親をどう救い出してマックスを含むリブラ一団を捕まえるか考えることにした。しかしながら度重なる労働や空腹によって彼と彼女たちは疲れていたため野宿することを決める。本当ならば宿に泊まりたかったのだが連中の息がかかっている恐れがあるため止むを得ずの判断だった。
「こんなにも魔法を使ったのは初めてだよ」
普段のふたりは地べたかキャンプ用品で一泊するがジュリエッテもいるためにヴィクトリアは木を集め小さな小屋を錬成した。そして木の実や果実、川で魚を獲ってくるとカーサスが手料理を作る。
「お兄ちゃん意外と上手ね」
「軍隊時代に色々学んだからな」
主食はポマトという木の実をスライスしたものを代わりとした。この実は高山植物でミネラルとビタミンを多く含むために重宝されている。そして副食として川魚はあら汁に、果実はバナレンジというバナナによく似た柑橘類を夕食にした。また、生きることで一番大切な真水は川の水を汲み、一度煮沸してから飲む。
出来上がった夕食は小屋へと運び込み食した。そして、
「ふぃー、食った食った。食ったら眠くなっちまった」
一番早く平らげたカーサスは寝転がると大きな欠伸をしてそのまま眠ってしまった。ジュリエッテも食べる途中でうとうとし始めていたせいか食べ終わると温かいヴィクトリアの胸で眠ってしまう。
「あはは、これじゃ寝れないや」
彼女は灯りを消してそのままの体勢で夜を明かした。
翌朝になりカーサスが再び大きな欠伸をして目覚めると睨むヴィクトリアと目が合った。
「ぎょうぇい! し、心臓に悪いわ!」
悲鳴でぐっすり眠っていたジュリエッテが起きてしまった。それが丁度良かったのか彼女のことを預けるとヴィクトリアは横になって寝てしまう。どうやら一睡もしなかったらしい。
無邪気な子供がふたりいたため、警戒のためにずっと起きていたようだ。
「子供で悪かったな。食い物でも探しに行こうか」
カーサスはジュリエッテと手を繋ぎ小屋から去った。そして川へ向かい魚を手掴みで獲ったり、水を汲んだり、高い木の上に自生している果実を採ったりとサバイバル知識を披露した。
「意外と雑用では役に立つのね」
「雑用でも衣食住はとっても大切なことなんだぞ」
ぷりぷり起こる中、内心ではこんな教育をした親の顔が見てみたいものだと呟いていた。
3人分の朝食は手に入れたため小屋へ戻ろうとした時だ。どこからか話し声が聞こえて来た。
「どうしたの?」
「シッ、静かに。誰か近くにいる」
耳を澄ましていると確かに声が聞こえてくる。その声を辿っていくと古びた坑道の中から聞こえていたのがわかった。
「ここにいて、ちょっと調べてくるから」
「分かったわ」
彼は荷物を預け暗い坑道へと足を進めると横に広がる待機所の跡地から蝋燭の明かりが漏れているのを発見した。恐る恐る音を立てずに近付いていくと大の男が3人ほど集まっている。「ジョニーが殺されて俺たち3人だけになっちまったんだ。いっそこのまま死んじまった方が」
「馬鹿野郎。リブラの奴らを殺すまで俺たちは戦い続けるってあいつと約束しただろ」
どうやら昨日、ヴィクトリアを狙撃した男たち同様の残党らしい。その証拠に同型の狙撃銃が2丁ほど机の上に置いてある。さしづめジョニーとはカーサスが撃ち殺した彼のことであろう。
「弾はどのくらい残ってる」
「32発だ。1マガジン5発だから6マガジン分程しかない」
「後はコイツだけか」
内ポケットから銃身の長い拳銃を取り出した。それはカーサスの愛用しているガバメント社製のナーワルによく似ている。
「そんな骨董品、まだ使ってるのかよ」
「まだまだ現役だぜコイツは」
「ガバメントのTYPE-99A GUN BALLETEか。確かに骨董品かもしれないが空砲でも唯一殺傷力のある銃だったよな」
カーサスの持っている銃は同社のTYPE-23A“ナーワル”である。これはこの拳銃の後継でもあった上に威力も桁外れだったのだ。
拳銃に初の魔導システムを組み込んだものだった。これは自然のエネルギーを魔導石を通して動力にするもので、メンテナンスは他の拳銃と比べ非常に難しいが威力は絶大である。また、魔導石を数十回に一度交換しなければならないため維持費に高額が要求される。しかしながら魔法使いにも有効であるため彼は使い続けているようだ。因みに愛称は“ガトー”という。
「コイツがあればマックスなんてイチコロよ」
ゲラゲラ笑っているところを申し訳なさそうにカーサスは見ていた。マックスが彼らごときにやられる筈が無いと知っているからだ。
「奴らは害悪かもしれんが今は放っておこう。もう少しで命が無くなるかもしれんからな」
彼は優しく語るとその場から去ろうとした時だ、
「マックスはどこに行ったんだ」
「死んだジョニーが聞いたらしいが。なんでもノースラインの国境付近の町で集まるとかなんとか言っていたらしいぞ」
良いことを聞いてしまった彼は早速ジュリエッテと合流して小屋へと戻った。そして深く眠っていたヴィクトリアを叩き起こし先程盗み聞きした情報を話すと感謝されるどころか怒られてしまう。
「そんな情報だけじゃ足取りなんて掴めないでしょ。もっと細かな情報を探しなさいよ」
寝不足で期限が悪いかったのか態度が大きく彼は再びぷりぷりと怒って拗ねた。そして言われた通りに細かな情報を探すべくジュリエッテを残してから町へ向かう。
「おいゴラァ、リブラの情報を教えろや!」
ナーワル片手に警察署へ突入し、署長を人質に情報を聞き出そうとした。しかし軍隊や特殊部隊が集まってくると中々その作戦は遂行しづらくなってくる。
「署長を引き渡し、投降せよ。射殺命令は出ているぞ」
町は厳戒体制を敷かれ住人は屋内へと避難させられ大事となっていた。問答無用で彼は威嚇射撃をすると大事で、それも住人に聞こえるよう叫んだ。
「お前たち警察やライン帝国軍は身寄りの殆どない男たちを落盤事故に見せ掛けマフィアと手を組みポッポを潤しているのは明白だ。そのボスは今どこにいるんだ!」
繰り返し叫んでいると一部の住人から抗議が寄せられ始めた。彼の味方をしているわけではないが策略でもある。
「住人はこれほどにない情報を聞き出すための材料だからな。ふんだんに使わなきゃ」
署長の眉間に銃口を突き付け再び大声で叫ぶ。今度は落盤事故までの手口やマフィアの名前やボスを名指しで挙げると住人から恐怖の声が聞こえてきた。リブラとは余程悪名高いようだ。
作戦は上手く言っているように思えたが軍は彼の射殺を命じ、ヘッドショットで撃ち殺した。そして室外に待機していた署員と兵士たちが一斉に室内へ突入し、署長を確保しようとした時、
「俺は死なないぜ?」
再生したカーサスを見た隊員が錯乱し銃を乱射してしまう。室内は惨劇へと変貌し多くの兵士と署員が死傷した。
「今一度聞くぞ。リブラとマックスは今、どこにいるんだ!」
軍の現場指揮を任されていた指揮官が宥めるように彼を抑え、今確認していると言ってきた。半信半疑だったもの駐軍していた司令官が現場へ赴きこう言った。
「リブラの本拠地はセントラルラインの北東にあるメイオという街にあると我々の調査班が記録しています。それからリブラは断じて我々と取引はしていません。誓っても良いです」
話すことは話したと言って人質を解放するように説得するとカーサスは深呼吸をして、
「もし今の話が嘘だとしたら、必ず貴様らを殺しに地獄からやってくるからな」
負傷した兵士から煙幕弾を奪い取りピンを抜いて室内に投げ込むと、辺り一面煙幕に包まれ現場は混乱した。その間隙を突いてカーサスは署長を放すと窓を突き破って退散する。
「奴を捜し出してぶっ殺せ! 帝国軍のメンツを取り戻すんだ!」
そうしてやっとこさ森の奥まで潜り込むと小屋へ戻ってヴィクトリアに聞き出した情報を話すと再び怒声を聞かされた。
「ちゃんと詳細を聞いてきただろ。信憑性はともかくとして……」
「ボクたちだけならともかく、あちらさんはジュリエッテのことを知らないんだから躍起になって捜し出して殺しに掛かってくるぞ」
「そうだったな」
呑気なことを言っている彼に溜め息を吐きながらジュリエッテを抱いて錬成陣を描き始めた。
「転移魔法か。そうこなくっちゃな」
「はい、これ」
ヴィクトリアは地図とお金を彼に渡した。
「何これ」
「地図とお金だよ」
「見りゃ分かるわ」
錬成陣の上に彼女とジュリエッテが立つと、
「ボクたちは先に行ってるからあとはよろしくやってね」
カーサスが反論する前にふたりは閃光に包まれその場からいなくなった。丁度それを目撃した残党が彼を見付けると大声を上げ銃の撃ち合いへと発展する。そして警察隊と軍隊も合流し、三つ巴戦が展開された。
果たしてバーン・カーサスは無事にセントラルライン帝国の北東に位置するリブラの本拠地と言われる、メイオへと辿り着くことが出来るのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます