第8話「バイキング」
日付が変わり数時間が経ったランカスター連峰に悲鳴が轟いた。それは骸骨を連れて別れたカーサスの方から聞こえる。
バイキングが彼の死霊部隊に怯えて逃げ惑っているようだ。しかしヴィクトリアの方は違った。逆にメイジたちが悪霊を成敗する形で襲ってきていたからだ。彼女だけ逃げることが出来、死霊らは消えて本物は成仏してしまった。
「中々やるなぁ」
逃げ切った彼女は胸を撫で下ろすが突然背後からの殺気に身構えるとティルピッツが立っていた。
「やはり騒ぎを起こしていたのはお前たちか」
「意外と臆病者が多いんだね」
相手を挑発する彼女に鉄拳が飛び込むが寸前で交わして逆に蹴りを入れ彼を木に叩きつけた。
「ぐむっ。己おれの拳を避けるとはな」
「頭に血が上っているからだよ。さっきより分かりやすいよ」
再び彼はヴィクトリアの顔面目がけて鉄拳を当てに周りから見えない位の早さで近付くが彼女は短剣を抜き彼の拳を止めた。
「無駄だよ」
「そうかな?」
反対の拳が彼女の脇腹に飛び込みまともに食らって数メートルの高さまで上がって吹き飛ばされた。
「胸の感触、貴様は女だったか」
脇腹を押さえて吐血するヴィクトリアは痛みを堪えて頷いた。
「だから何?」
「ふふ、女で己れをここまで追い詰める奴は生まれて初めてだ。だがビスマルクより弱い」
すると彼女は本気を出して戦っても良いのかと逆に問う。
「今までの本気じゃなかったのか? 良かろう、お前の本気を見せてもらおうじゃないか」
ヴィクトリアは脇腹を擦り深く深呼吸をすると右目の眼帯をとって静かに開いた。
「夜目にならすためだったか。面白い」
先手必勝、彼女に近付き三度拳を顔面に食らわそうと構えるが既に彼女の姿は無く拳を下ろした時にはティルピッツの腕に短剣が刺さり出血していた。
「ぐむっ」
よろける彼目がけて剣を構えたヴィクトリアが近付くがティルピッツも片手で剣を抜いて応戦した。
「言われたとおり本気を出します」
間合いを取り一気に突っ込む彼女の動きを見て彼はほくそ笑んだ。
「こいつ、まだまだ弱いな。動きが単純過ぎる。次は右から振り翳すか」
彼の予想通りヴィクトリアは右の後方から剣を振り翳す素振りを見せる。しかし先を読んだ彼は姿勢を引くして胴を目がけて剣を振る。彼女は真っ二つになって地面に倒れた。
「馬鹿め。所詮女はこの程度か」
すると彼は下腹部に違和感を覚える。視線を下ろすと剣が刺さっている。そして背後から、
「いつアレをボクだと思っていたのかな?」
「な、何っ?!」
彼が横目で地面に倒れる物体を見ると歯軋りをしてヴィクトリアを睨む。地面には真っ二つになった木の葉で出来た人形が横たわっている。
「戦闘に集中し過ぎて虚無の相手すら分からなかったのかな」
「クソっ」
体を思い切り捻り彼女の胸ぐらを掴み巴投げをすると地面に叩きつけられたヴィクトリアの首を絞め上げる。
「ぐっ、あっ……」
必死に藻掻く彼女だったが自分よりも数倍大きな彼をそう簡単に動かすことは出来ない。
「肉弾戦に持ち込めば貴様は弱い」
「うぅ……」
すると次第に彼女の動きが弱まり瞳孔が開いて息絶えた。
「てこずらせやがって」
首から手を離し腹部に刺さる剣を引き抜いた。痛みで一瞬足がよろけるも踏ん張り抜いた剣をヴィクトリアの心臓目がけて刺した。
彼女の胸からは血が滲み地面は赤く染まる。そしてティルピッツは懐からマッチを取り出すと近くに落ちている葉や枝を探し始めた。
彼女が不死身だと知っているため火葬さえしてしまえば動きを封じることは出来るだろうと思い付いたからだ。ところが落ち葉を拾って戻った頃には既に彼女の遺体は無くなっていた。
「チッ、まさか……」
逃げたのかと遺体のあった場所へ近付くと点々と血液が森の中へと続いていくのが分かった。今追うことが出来ればもしかしたら仕留めることが出来るかもしれない。しかし自らも致命傷を負っているために今は諦めることにした。
ティルピッツは疼く傷を我慢しながらその場を去っていった。
彼の居場所から少し離れた茂みの中に彼女の姿はあった。息を荒くして胸を押さえている。
「はぁはぁ。このまま帰ってくれれば良いのだけれど……」
ティルピッツがゴードンのいる場所へ戻ればかなりの収穫になる。彼を見失わないように後を付いていく。しかし彼女にも痛みというものはある。
「血を流し過ぎたかな……少し休もう」
木陰に倒れ込むと内ポケットから血で染まった人の形をした紙を取り出した。これは式紙というもので気力と妖力を込めて術者の魂の一部を取り憑かせることが出出来る。
これにより離れたところからでも観察が出来、逐一本体に知らせることが出来る。しかし欠点は魔法障壁や結界などの場所には入れない他、第三者から見ることが出来る上に耐久力が無く直ぐにやられてしまう場合がある。しかしながら、ヴィクトリアの式紙は特別で魂を二分して取り憑かせ意思を持った動き方や術などの使用が出来る反面、式紙がダメージをもらうと術者にも食らってしまう。
「頼んだよ」
「わかりました」
大体の式紙は人型の紙の姿であるが術者の力があれば人形のように姿を変えることが出来る。彼女にはそれが可能で式紙はデフォルメされたヴィクトリアの姿になっている。尚、一人称は彼女と違い“私”であり、術者以外の人物を様付けで呼んだりしている。
式紙を送り出したヴィクトリアはそのまま眠るように目を閉じて絶命した。
一方で式紙はティルピッツに気付かれないように後を付けていく。辺りは次第に明るくなっていった。日の出だ。
眩しいほどの太陽が東にあるイーストライン側から顔を覗かせる頃、ティルピッツはある場所に到着した。その場所はゴードンのいるレンガ造りの小屋だった。
「ティルピッツさん、怪我を!」
屈強な男たちが駆け寄り介抱する。意外にも手慣れた手付きで丁寧な治療を施した。もしかしたら軍隊時代は衛生兵か軍医だったのかもしれない。すると背丈程の杖を持ったメイジが何かに感付いた。
「見られている」
「誰に」
ティルピッツが辺りを見回す。小屋にいたゴードンも外に出て空を見回した。
「誰もいないじゃないか」
「いや、そこにいる!」
メイジが指差して杖を翳し呪文を解くと突風が起きて木々の枝に隠れていた式紙を中空に吹き飛ばした。
「ありゃなんぞや!」
「式紙だ。しかも高位な術者のようだぞ」
小さいヴィクトリアは突風を逆に吹き飛ばすと天高く信号弾の代わりに照明弾を打ち上げた。
この様子を遠くから見ていたファイアフライが全軍突撃の命令を下すと一斉にドラゴンたちが飛び立ち現場へと迎う。また上空からルートを指示する緑色のドラゴンに乗った通信兵を頼りに地上部隊も前進した。
発見された小さい彼女は援軍が来るまで少しでも数を減らせるよう雑魚の退治をしていた。メイジの魔法から逃げながらティルピッツを治療するバイキングたちを攻撃する。
「こしゃくな!」
拳銃を手当たり次第に撃つが全く当たらない。メイジの息が上がってきたのを見計らって彼にも攻撃を行った。
「お返しです」
小さな竜巻のようなものが彼に当たると体が高速に回転して四肢が千切れて吹き飛んでしまった。
「おのれ……」
ゴードンが身構えると同時に銃声が聞こえる。小さいヴィクトリアの後ろにカーサスが立っておりナーワルを構えていた。
銃弾はゴードンに当たるが弾かれてしまっていた。
「なんだ、あのトーチカみたいな体は」
恐るべし鋼鉄のような体に小さい彼女とカーサスは驚きを隠せない。するとドラゴンの鳴き声が聞こえると数多のドラゴンたちが上空から炎をバイキングたちに浴びせた。
「ファイアフライだ」
カーサスが安心したのも束の間、背後から多くのバイキングが襲い掛かってきた。
「野郎共、ここで決着を着けるぞ!」
「オーッ!!!」
昨日の戦いよりも遥かにその数を上回るバイキングたちが駆け付けていた。おまけに茂みの中から中空を舞うドラゴンに攻撃を仕掛け連邦軍側は不利だった。
「むぅ。地上部隊が来る前に一帯を燃やしてしまうか」
ファイアフライは赤色のドラゴンにゴードンの小屋の周囲一体を燃やすように指示すると一斉に火を吹き山火事を起こした。
「くぅ……」
ゴードンは怒り心頭になり、ティルピッツの制止を振り払い戦場へと駆け出た。ふたりとも治療が済んでいなかったがゴードンが出陣するならば行かざるをえないため、ティルピッツは心配するバイキングたちを余所に剣を両手に持ち戦闘態勢を整えた。
「ティルピッツ、俺はドラゴンをやる。お前は地上部隊を凪ぎ払え」
「分かった。無理はするな」
「当たり前だ。バイキングの首領がくだばるかってんだ」
ふたりは別れティルピッツが応戦するカーサスの死界に入る。そして首を切り落とそうと構えたところ、間一髪のタイミングで小さいヴィクトリアが魔法障壁を張って防いだ。
「助かったよ」
「惜しかった。だが次で動きを封じてやる」
すると彼はその場で身構えると精神を集中する。なにやら黒い煙のようなものがティルピッツの身体全体を包み込む。
「まさか……」
「どうしたヴィクトリア」
「彼は……」
黒煙が完全に包み込むと雄叫びが周囲に谺する。そして煙の中から頭に角を生やしたティルピッツが現われた。さらに彼は今までと比べものにもならないほどの巨体になっていたのだった。
「魔族だったのか」
「そうさ、普通の剣では死なぬ」
魔族とは悪魔や怪物などが人間や神などと敵対する種族の一部である。因みにドラゴンも魔族の部類に入るのだがファイアフライらの飛行部隊はアーク連邦、つまりは神に仕える神聖な生き物としてみられており、しばしば聖族として分類されている。
「こいつが魔族ならゴードンも……」
「フッフッフッ、ビスマルクは違う。彼はただの人間だが魔族である己れを倒した正真正銘の魔族使いってことさ」
初めて見る魔族にカーサスの腰は引けていた。ジャイアントでさえ巨体だというのに巨人の相手など出来るものか。
彼はナーワルを構えるがそれを見たティルピッツはせせら笑う。
「そんなもので己れを倒せると思うのか。滑稽な話だ」
威力の高い貫通散弾の弾を込めて発砲するも弾丸は貫通することなく皮膚に弾かれて全く効果が無かった。
「なんてこった」
「無駄だ」
すると目の前から彼が消えたと思うとカーサスの背後に現われるなり拳を振り下ろした。間一髪のところで避けるが地面には大穴が空いている。
「ひぇー、大きいのに素早いのかよ」
「カーサスさん、少し頑張ってもらえますか」
「カーサスさん?」
小さいヴィクトリアは式紙に戻るとひらひらと地面に落ちていく。ひとり残された彼は彼女の名を叫びそして憎んだ。
「こんな奴、ひとりでどうにか出来ねぇよ」
繰り出される目にも止まらぬ早さのパンチを交わすだけしか出来ないカーサスは先手を打とうとティルピッツの背後に迫る。が背中に目があるように応戦する。
「クソッ」
一匹のドラゴンが戦うふたりの周囲に炎を吐いて草木が炎上する。燃え盛る中で彼らは間合いを詰めていく。カーサスの背中に火が燃え移ると彼は飛び上がり隙を見せるとティルピッツは豪腕をぶつける。
カーサスの身体は四肢が吹き飛び首と胴体だけとなり胸は陥没してそのまま岩に激突した。
「不死身なら細かくしなければ」
彼の四肢は燃え盛る炎に炙られ骨になる中、岩に叩きつけられた身体の一部を手に取ると思い切りに引き契った。
「オー、神よ」
一部始終を上空で見てしまったファイアフライはそう呟いた。
バラバラになったカーサスの遺体が再生し始める。しかしティルピッツはその遺体の一部を自らの口に放り込む。
「不死身を処理する方法。それは分子レベルまで溶かすのだ」
彼は次々に肉片を頬張りボリボリと魚を丸ごと食すように残さず食べてしまった。腹を撫で回すと次にドラゴン掴み取っては口直しに生きたまま食べ始めた。
「食人魔族かよ……」
ファイアフライは背筋が凍るほどの寒気を覚えるとゴードンに不意を突かれてドラゴンから叩き落とされてしまった。高空から落下したもののドラゴンの死骸のお陰で右腕と両足の骨折で済んだ。しかしいずれにしても重傷を負い逃げることすらままならなかった。
ゴードンが近付き今までの仕返しと屈辱、鬱憤、そして勝利のために剣を彼の喉元を突く。
「ぐぅ……!?」
ファイアフライの喉元に剣先が当たったかと思い気やゴードンは痛み声を上げて剣を地面に落として自らは転げる。
「あぁ……」
彼らの前には服が真っ赤に血で染まった式紙ではない本物のヴィクトリアの姿があった。
「間に合ってよかった」
「しかし血が」
「大丈夫、血に染まってるだけです。自分の血だけど」
彼女は屈み込むと横たわっているファイアフライの容態を簡単に診ると怪我の部分に手を翳すと青白い光が包み込んだ。
「痛いてて。痛いぞ」
「治ってる証拠。我慢して下さい」
数秒後には彼の腕や足は動かせるようになっていた。治癒魔法を使ったのだ。
「魔法力の消費が激しいから余り使いたくはないけどそうも言ってられないからね」
立ち上がると剣になにやら魔法を掛けていく。すると皇后しく光る剣になった。ティルピッツは驚愕して息を呑んだ。
「それは聖剣。し、しかもアーク神族のものじゃないか。どうしてそれを……」
今まで人々に恐怖を与えてきた彼が急に怖じ気付く様子を目の辺りにするゴードンとファイアフライ。
「どうしたティルピッツ。さっさと奴を殺せ!」
「無理だ。奴には勝てない」
するとファイアフライは感付いた。魔族は聖剣、つまり聖攻に弱く、最も恐れるものであるということを。
彼は作戦立案時にヴィクトリアがアーク神族だということに気付いていた。無論彼女は一言も自分が神であるとは言っていなかったがワインチンクエ戦争の場に偵察隊としてドラゴンに搭乗して上空から見ていたのだった。
「ティルピッツ、良く聞け。何を隠そう、ヴィクトリアさんはアーク神族なのだ」
「ちょ、ちょっと」
なるべく正体を隠したかった彼女ではあったがバレてしまった以上、腹を括って自ら正体を明かしたのだった。
「くぅ、アーク神族がこんなにも易々としゃしゃりでてくるとはな……」
「堪忍しろ、魔族ティルピッツ。大罪を起こしたことによりここで処刑する」
ヴィクトリアは聖剣を手にティルピッツへ近付いていく。彼は逃げるように後退りをするとカーサスの血が付いた岩に足を取られて尻餅を付いた。
「覚悟です」
「やめてくれーぇっ!」
彼の首を鮮やかに斬ると頭は天高く舞い上がり鮮血が間欠泉のようにどくどくと吹き上がる。そして頭部はゴードンに誘われるかのように彼の元へと向かうと下敷きにさせた。
「バイキングの討伐に成功だ!」
首領であるゴードンはティルピッツの頭で下敷きに合い、残りのバイキングたちは増援の地上部隊と連邦から派遣された義勇軍によって壊滅させられた。
カーサスはというと戦闘終決間近にヴィクトリアが思い出したかのようにティルピッツの腹を掻っ割いて胃の中から少し溶けてはいるが再生した彼を救出したのだった。
「いつティルピッツとの戦いは終わったんだよ」
「結構前かな」
「だったら早く助けろ」
「忘れてた」
彼は酷く立腹するとファイアフライが声を掛けてきた。
「先ほど最後の残党の殲滅が終わったよ。我々の勝ちだ」
「さて、行こう」
ヴィクトリアが今すぐにもここを発とうとするとカーサスとファイアフライが止めに入った。
「なんでカーサスまで止めるんだよ」
「ゆっくりしようよ」
「元はといえば君がしでかしたんだから次はボクに従ってよ」
何も言えない中でファイアフライがふたりにアーク連邦の首都に来るようお願いした。理由を聞くと、この戦いに勝てたのはヴィクトリアとカーサスのお陰であり、連邦のみならず世界の英雄だということを表彰したいのだという。
「でもね、一般人に正体がバレるのも嫌だし」
「不老不死がバレるのは確かに嫌だな」
しかしどうしても首都に来るよう何度も頭を下げられ仕方がなくふたりは行くことにした。
数日後、ドラゴンに乗ったヴィクトリアとカーサスはファイアフライと共に、アーク連邦の首都“コールスマンウィドウ”へと向かった。
コールスマンウィドウとは連邦の総面積である2015万1945平方キロメートルの内の3分の1、約670万平方キロメートルに及ぶ広大な首都であり、また星都、つまり惑星の中心でもある。
様々な人種がまるで一国の中で生活しているような都市だ。海や山、川、湖、砂漠など殆どの土地がこの都市にある。
治安は悪い。人がごった返すためにスリや通り魔などが後を絶たず、誘拐や売春、麻薬売買など日常茶飯事である。政府は特別にこの都市だけ有効な条例を発行し、身を守るものとして武器の携行を許されている。また、犯人逮捕協力時には賞金が支払われ、犯罪人には重大な処罰が科せられる。最悪死刑であり、この首都ではギロチンによる公開処刑が行われる。
ヴィクトリア、カーサス、そしてファイアフライの3人はその中の連邦世紀軍中央司令部に向かう。ここは幾つかに点在しているものの総面積は37万平方キロメートルにも及ぶ軍事施設である。
広大な土地を有するこの司令部の防衛はドラゴン使いであるファイアフライの飛行部隊に懸けられている。1時間に一度、基地の外周を多くのドラゴンに乗った歩哨が監視している。
「見えたぞ」
数時間飛行して漸く、連邦と隣町を結ぶ関所が見えた。軍人であろうと無かろうと、一度関所で手続きして入らなければならない。もし怠ると不法行為とみなされ処罰の対象となってしまう。
「一度降下します」
関所に降り立ち手続きをすると再び1、2時間ほど飛行すると水平線の向こうに巨大な城のようなものが見える。それは剣山のように幾つもの尖塔が立っているようだった。
「中央司令部、司令塔が見えてきましたね」
あの建物は各司令部や関所などにいち早く電報や荷物などを届けるためのハトやドラゴンたちの発着場である。全部で151の尖塔が軒を連ねている。
「あれを越えると司令部が見えてきますよ」
彼の行った通り、司令塔を越えると崖下に広大なレンガ造りの町が広がり、その中央部辺りに司令部を構えていた。
「着地します」
これまた広大な発着場に着地すると木炭で動く小型の三輪自動車が迎えにやってきた。カーサスは始めてみる自動車に驚いていた。
「工業力が周りの町や国とは段違いですからね。常に最先端のものが生まれますよ」
三輪車の荷台に乗り走らせながら司令部を紹介する。
「中でもバトルタンクやバトルシップはこの国以外で見られないものかと」
バトルシップはその発着場に止まっていた。大きな飛行船のことであった。またその近くにはバトルタンクも駐車している。外見は左右に大きな履帯を身に付け、挟まれた部分に運転席とエンジン、そしてその上に旋回が可能な砲塔を乗せた造りになっている。
「あれはアーク級バトルシップの『ベンソン』だよ。バトルタンクの方は正式名が……なんだったかな」
「BT-1-50L/L『エレファンテ』ですよ」
ドライバーが代わりに教えてくれた。“BT”はバトルタンク、“1”は1号機、“50L”とは砲身長でこの場合は50センチである。“L”は開発、製造元であるランディング社という意味だ。エレファンテという通称は象のように強く、砲身が長いことから付けられた。
「こんなの見たことないぞ」
カーサスはヴィクトリアの耳元で囁いた。彼の軍隊時代には無かったものだ。と言って先日まで軍人であったため知らなかっただけになる。一応彼女はそれとなく連邦中に配備してるのかと訊ねてみると、
「いや、コールスマンだけですよ。まだ配備は滞っていますから」
その回答を得るとカーサスに耳打ちした。
「だって田舎の軍人さん」
「なんだとーっ!?」
暴れるカーサスをドライバーとファイアフライが止めに入る中、三輪車は中央司令部の本館裏門に到着した。
「大きいね」
何から何まで田舎とは比べ物にならないほどの大きさでカーサスを魅了させていた。ヴィクトリアは一応大体のことは知っているようで驚きはしなかった。寧ろ彼の反応を見て笑っていた。
「さぁ、あなた方は今から三大元帥に会ってもらいます」
そう言って連れていかれたのが元帥のいる部屋だった。ノックして中から入るように指示されるとファイアフライがドアを開けて略帽を取りお辞儀をした。
「連れて参りました」
「君たちがバイキングを討伐した我々の英雄か」
一番先に声を掛けた老人はカール・フィリップス陸軍元帥だった。緑色の軍服に身を纏い、髭を生やしている。またソファーに座っている坊主頭の老人はハワード・ネルソン海軍元帥、そして腕を組みヴィクトリアを睨み付ける老人はジョージ・プファイル空軍元帥だった。
「君たちが不老不死でアーク神族だとは言ってないから安心して」
ふたりの耳元でそう囁くと元帥らに頭を下げると部屋を後にした。
「さて、討伐を機に君たちを盛大に表彰することなったのだが、どうだね、我が陸軍に入隊するのは」
「何を言う、海軍に欲しい人材だぞ」
「くっくっくっ。空軍が適任だと思うぞ」
3人はどこに入隊させるか揉め始めふたりはその様子を窺っていた。数分後、解決したのか希望の軍隊に入隊するよう勧めたがもちろん断った。
「ボクたちは軍に入る気は無いので」
「俺もだ。あんたらに縛られるのは“もう”うんざりだ」
「なんだと?」
「言葉を慎み給え。お前たちは三大元帥の前にいるのだぞ」
ネルソン元帥が激昂すり。プファイル元帥が抑えるように宥めカーサスの言ったことを撤回し謝罪するよう求めたが従わなかった。
「こんな聞き分けの無い奴らが英雄だと? 聞いて呆れるわ」
「ファイアフライを呼べ。こいつらを牢にぶちこめ」
「貴様らは永久に日の目を見ることは出来ないだろう。くっくっくっ」
軍隊に入らないだけでこの仕打ちにふたりは愕然する中、牢屋に連れていくファイアフライはただひたすら頭を下げ続けていた。
「申し訳ない。こんな筈ではなかったんだ。授賞式の取り決めをすると言う電報を受け取ったからここまで連れてきただけなんだ」
牢屋に入れて再び深く謝るがふたりは気にしなかった。また彼に変な気を起こさないよう告げた。
「ボクたちは不老不死だから幾らでもここに居られるよ」
「100年だって1万年だって平気さ」
「本当に申し訳ない」
その言葉を最後にファイアフライはあることを誓った。それは彼が元帥になってふたりを解放させてあげることだった。しかしヴィクトリアたちは期待はしなかった。いつでも逃げられるからだ。
「それに直ぐ解放されるっしょ」
カーサスはそう言って後悔するのだった。
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