第6話「馬のお礼」
翌朝、その日は晴れ晴れとした天候に恵まれ清々しい空気がカーサスとヴィクトリア、そして新国家であるチンクエテッレ共和国に降り注ぐ。
戴冠式が始まる数時間前、ふたりは城門跡地でミレイとバルカンに握手を交わしていた。
「また立ち寄って下され」
「いつか来ますよ」
ヴィクトリアが寂しく声を掛ける。カーサスはミレイに女らしく、男にも負けない政治と国作りをするよう助言すると照れ臭かったのか、
「早く行って帰ってこいよ。シチューくらいは作ってやるよ」
そう言って場は和むと遠くからアリスが走ってきた。キャルロットの姿はない。
「お姉様、お気を付けて。キャルロットお姉様は旅立ちました。代わりに私がお見送りに来ました」
「そう、じゃあね。また」
ヴィクトリアは彼女の頬に別れのキスをすると抱き合った。そこで初めてミレイはヴィクトリアが女だと知る。
「お姉様、体に気を付けて」
「旅のご無事を祈ります」
「元気でな」
シェリーとジャックに跨りふたりは共和国を出発した。まず国境である崖に向かい橋は落とされているためそのまま南下して別の行路からアーク連邦に入ることにした。
連邦へ入った後は馬をあの老夫婦に返さなければならない。それを目標にふたりは南下し、チンクエテッレ共和国を出国し、ススギガハラと呼ばれる砂漠地帯に入った。
ここはそのまま南下すると西側にハーミス川を挟んで連邦があり、東側にイーストライン帝国がある。
「イーストラインに行ったほう早くないか」
「目的地はポテだよ。ボクたちは長生きできるけどあの老夫婦は長くない。せめてシェリーとジャックを返してあげたい」
その思いは叶わないと、ふたりは知る由もなかった。
ススギガハラ砂漠地帯は非常に暑く、昼間には摂氏60度すら超える猛烈な環境にふたりは苦しんでいた。なるべく適当な時間に水分補給と小休止を挟んでいたが水分補給の割合が多くなっていった。
「あ、空だ」
遂に水筒の中が空となったカーサスは絶望に襲われる。首を押さえて藻掻く様をヴィクトリアは横目で見ながら自分の水筒を渡した。
「良いのかよ」
「休む時間じゃないけど早く飲んで行くよ」
表情に曇りが合ったが彼は水筒を手に取ると喉を潤わせた。意外にも中身は多く入っており自らの水筒よりも大きいのではないかという疑いを掛け始めた。
「ズルいぞ」
「何が?」
「自分の水筒だけ大きいのにしやがって」
「は?」
彼は自分の水筒を手に取ると彼女の物と比べ始めたが明らかにヴィクトリアの方が一回り小さかった。
「あ……」
「小さい方が持運びも楽だし嵩張らないんだよ。文句言うなら返してよ」
彼から取り上げると栓を閉めてから鞄に入れると何も言わず再び出発した。カーサスは申し訳ない気持ちになり謝ろうと必死になったが彼女は聞く耳を持たなかった。そして次の休憩が入る前に彼は怒り心頭に、
「なんだよなんだよ。無視するなよ。お前がそういう奴だったなんて知らなかったぜ!」
頭が茹で上がったように罵声を浴びせると息を切らした彼女が、
「さっきからうるさいんだよ! 方角や距離が分からなくなっちゃうじゃないか! お前が必死ならボクも必死なんだよ!」
初めてヴィクトリアが起こる姿を見て少し竦すくんだが、
「だ、だったらなんか一言あっても良いだろ!」
「それは……」
そこに追い討ちを掛けるよう、
「第一神様ならこの不毛の地に雨の恵みくらい与えてあげれば良いじゃないか。そうすれば潤うし人民たちの争いも無くなる。結局神様なんて自分が良くて、好きに旅をする能天気なただの不老不死の化け物なんだよな」
心にもないこと言い過ぎて咄嗟に口を押さえるが既に全て口から出た後で遅かった。
ヴィクトリアは肩を落として鞄の中から水筒を取り出すと、
「はい、君のは無いんでしょ。あげるよ」
そう言って馬から下りた。シェリーとジャックには別の馬用の餌も兼ねた水を与える。そして彼女はシェリーの横で踞うずくまるようになって休んだ。
「あの、ヴィクトリアさん……」
声を掛け辛く酷いことを口にしたカーサスは気落ちしてしまい水で喉を潤わすと水筒を返した。その際彼女が泣いているようも見え彼の心は傷んだ。
「やってしまった……これは天罰が下る」
彼女が立ち上がり出発しようと言ってくると素直に従った。ふたりとも黙り続けてから数十分の間、彼の方では申し訳ない気持ちでいっぱいになり謝りたかった。しかし先ほどのような二の舞になりたくはなかったので機会を窺った。しかしながら時間が経つにつれてなかなか言いだせなくなってきた。
「もう言わなければ良いんじゃないか」
などといった悪魔の囁きすら聞こえてくる。カーサスは悩みに悩み彼女の馬が停止してジャックも止まり衝撃でバランスを崩して落馬した。
「着いたよ、ハーミス川に」
再び拝める日が来たと思うと彼はそのまま川に向かって飛び込み岩にぶつかって気絶し下流へと流されていった。彼女が慌てて助けようと馬から下り、川にむかって走ろうとするが足がふらついてその場に倒れてしまった。
彼女の息は上がり心臓の鼓動が早鐘のように打ち続ける中、
「ジャ、ジャック、代わりに助けてあげて」
良きを切らし彼に命令すると雄叫びを上げて川に飛び込みカーサスを救出した。ヴィクトリアもシェリーに力を貸してもらい彼らの元に辿り着くとカーサスに駆け寄って心配した。
「大丈夫?」
彼は小さく瞼を広げると顔色の悪い彼女の顔を見て今までの失態を謝った。
「心にもないことばかりを言って、本当にごめん……なさい」
彼女は目を閉じて彼の横で寝転がると、
「良いよ。ボクも言い過ぎたし悪いと思ってる。それより疲れたから眠らせてもら……う」
そのまま会話が無くなったと思うと彼女は気絶した。熱中症らしく彼は対応策として冷たい川の水を水筒に入れて脇の下に置いた。また水に濡らした布で肌を拭くと最後におでこへ乗せた。そして彼女の鞄からキャンピングセットを取り出して組み立てると中に彼女を運び込み自らは釣りに出掛けた。
昼間を5時間ほど過ぎた29時頃、漸く釣り上げた10匹の魚を手に持ってテントへ帰り昼食の支度を始める。雑草を見付け、いざマッチを使って点火しようと探すがないことに気が付いた。
「マッチ、マッチ、マッチッチ」
奇妙な歌を口ずさみながら彼女の鞄や自分の鞄を探すが見当たらない。自分の服も調べようとしたが既に乾いてしまっているが先ほど川へ入ってしまったのでダメになっていると思い、横になるヴィクトリアの方を見つめた。
「ごくり……」
奸よこしまな気持ちで彼女の服を弄まさぐる訳ではないと言い聞かせ服に手を入れる。
「外側のポケットにはない……。まさか内側!?」
急に息遣いが荒くなる彼は彼女の内ポケットに恐る恐る手を入れる。自分か彼女の服から伝わる心臓の爆音で精神が揺るぐ中内ポケットに到達、中を物色するが目当ての物はない。
腕を引き出そうとすると思わず手が彼女の胸に当たる。
「ひゃぁぁぁ!」
心の中で叫び声を上げると彼女は目を覚まして咄嗟に腕を引っ込めた。そしてキョロキョロ辺りを見回してから自分がどうしたのか訊ねてきたので自分の行った不埒な行動以外全て話すと、
「火を点けたいのか。だったら――」
「起き上がると短剣と石のようなものを取出し叩き始めた。十数回叩くと葉に火の粉が移る。
「魔法は使わないんだな」
火の粉が付いた葉の束を持ち息を吹き掛ける彼女に向かって言うと微笑みながら、
「なんでも魔法やら錬金術やらに頼っちゃダメだよ。出来ることはしなくちゃ」
そうは言ってもカーサスに火打ちせる技術や道具は持ち合わせていなかった。そういうものかと頭を掻いているとあっという間に炎が燃え上がり魚を焼いている。
「ところでどうだった?」
「何が?」
「ボクに触ったでしょ?」
その言葉に彼の心臓は止まり掛けた。そして咳き込むと外方を向いてしまう。
「いや、何て言うか……」
彼の言葉を待っている間に魚は焼き上がりその場を濁すように手に取りがっつき始めた。ヴィクトリアも頂くことにしふたりは数時間ぶりの昼飯を取った。
時刻は既に夕暮れ時の36時過ぎだった。その頃には暑さも漸く40度前後まで下がり猛烈な暑さからは解放された。
テントの中にいたふたりだったが昼食の時から会話が途絶えてしまっている。また未だカーサスは彼女の胸に触れてしまったことについて謝っていないわけだがヴィクトリアはそのことについて全く気にしていない。
「ねぇ」
彼女が声を掛けようとすると彼はテントの外に行ってしまう。そして何もせずに帰ってくると黙だんまりが始まり、再び声を掛けると何処かへ行こうとするため三度目は独り言を言うことにした。
「胸を触られたことなんて気にしてないのになー」
「!?」
カーサスが反応を示す。
「そんなことより川を渡りたいなー」
「じゃあ渡ろう」
除おもむろに立ち上がると支度をし始める。彼女も手伝おうとしたが休んでいるように言い自分だけでテントの後片付けを行った。
暫くして作業も終わりどうやって向こう岸に渡るのか訊ねた。やはり泳いでいくのだろうと思っていたが、
「泳ぎは危険だから橋でも架けるよ」
何故危険なのかというと以前にも話した通り、最大水深は約200メートルを超える。岸から数メートルほどは浅瀬が続く。その深さは1メートルから10メートルほどである。しかし突然に数百メートルという海溝のような崖が現われるという。
「だからこうして――」
ヴィクトリアは意識を集中して両手を大きく広げて素早く川に向かって振り下ろすと、背後に続く砂漠の砂が中空を舞い両岸にアーチ状の橋が架けられた。但し欄干はない。
荷物を積んだジャックとシェリーに跨ると渡り始めた。
2.5キロの川幅に掛かる幅約3メートルの橋を渡る様は第三者から見れば異様な光景でもあろう。何故ならば砂で出来た橋故に、真横から見ようとするものなら線のようにしかみえない。つまり何もないように見えるのだ。
「後少しだよ」
3分の2ほど渡り切ると向こう岸が目前に迫る。ここまでヴィクトリアには何の変化もない。この魔法で消費する魔力は大きい筈だが彼女にとっては小さいものなのであろうか。
「着いたー」
漸くアーク連邦側に戻ってきたふたりはそこでキャンプを張ることにした。翌朝にポテへ出発することとしカーサスは川釣り、ヴィクトリアはテントと夕食の準備を行った。また橋は落としハーミス川へ流れていった。
「ハゼキングとマスドミネイタを釣ってきたぞ」
前者は塩を適宜振った焼き魚にすると美味であり、後者は粗汁にすると臭みが取れ美味しく頂ける。
料理は全てカーサスが行った。意外にも孤児時代や軍隊時代で培ってきたお陰か常人よりも上手く、そして素早く料理するとあっという間に取ってきた材料が焼きハゼキングと焙り、マスドミネイタの粗汁になり主食は携帯していたパンである。
「美味いね」
「ホントか」
自信満々に胸を張って自分も食した。粗汁が一番上手く出来ている。理由はハーミス川のミネラルを多く含んだ天然水のお陰であろう。
「焼き魚もなかなか」
頬張る彼女は絶賛する。旅をやめて料理人になれば良いのではないかと言われたが彼女と一緒にいるほうが良いと答えた。質問を変えて一緒に店を出さないかと聞くと、
「俺は……世界を見てみたいし、孤児を救いたい。もちろんお前を守ることが最優先事項だがな」
心なしか赤くなっていることに微笑むヴィクトリアは胸を触った件を蒸し返すと彼は吹き出して咳き込んだ。そして仲良く食事を終えるとジャックとシェリーたちにも餌をやること忘れずに行い就寝した。
翌朝の10時過ぎ位にポテへと旅立った一行は照りつける陽射しの中で前に一泊した地点を発見した。そこから北東に30キロ進んだところにポテがあるため休憩を挟み出発する。
「でもさ、謀反を起こした俺たちがすんなり街に入れてくれんのかな」
疑問に思っていたことを話すと大丈夫だと言って、
「こっそり返して退散するから」
そう答えて足を進める。以前より馬がいるお陰か半分程の時間でポテの境までやってきた。すると前にはいなかった数人の歩哨が立っておりふたりを困らせた。
恐る恐る近付くと制止させられ検問をすることとなった。
鞄の中身から服のポケットまでありとあらゆる箇所を調べられた。緊張しながらふたりは検査を終えると許可証となる通行手形を発行してもらい街へと入った。
「やけに厳重だな」
「何かあったのかもね」
歩哨に聞いておけば良かったと後悔しながらポテの街に入ると以前の景色とは一変していた。街は荒廃し瓦礫の山と化している。木々は焼け焦げ、食事をしたレストランは崩壊寸前だ。
「な、何があったんだ」
状況がよく分からないまま近くで瓦礫の撤去作業をしていた老人に訊ねると、なんでもランカスター連峰で縄張りを仕切るバイキングと呼ばれる山賊の仕業らしい。馬の牧場主の殺害を皮きりに金品や食料、若い女性を強奪しては民家を焼き払い、建物を倒壊させるといった行為を一晩中繰り返したという。
無論、アーク連邦政府軍が応戦に出るが死をも恐れぬ精神と夜襲だったこともあってか悉ことごとく壊滅に追いやられたそうだ。もっともワイン公国とチンクエ族の戦いで駐屯していた軍隊の3分の2が出払っていたため残った兵士たちではまともに歯が立たなかった。
周到なバイキングたちは応援要請のために送った伝令兵を皆殺しにしポテを完全に孤立させたのだった。そしてポテ襲撃の報せは数日後、バイキングが直接連邦政府軍本部に乗り込み届け出たという。その大胆さと冷酷無比な姿に連邦の悪魔と呼ばれ恐れられている。
彼らは味方でさえ裏切れば即刻首を撥ね、家族や兄弟がいようが構うことなく連帯責任として罰を与える。このバイキングを仕切る首領は元アーク連邦正規軍中将、ビスマルク・ゴードンである。
ゴードンは正規軍時代、敵味方関係なく冷酷無比な指揮を執っていたためか参加した作戦の大半で味方の消耗率が60%を超えていた。彼自身は前線で指揮をしていたがついてこれる兵士はおらず、気付いたら全滅している始末。戦果はほぼ彼の物であった。
上層部は再三に渡り味方消耗率の軽減や捕虜の扱いなどの忠告をしてきたが直ることはなく、議会の裁決により全会一致で更迭処分とされた。また、連邦から永久追放処分が上乗せされ、これが彼の怒りを買ったらしい。
国のために尽くしてきた人生が守ってきた人や国に裏切られ彼は遂に反連邦運動を起こしていた人や元兵士を集めバイキングを結成しランカスター連峰を実行支配した。
この話の途中、老人は女房を殺され愛娘が攫われて涙しながら話していた。
「ひど過ぎる。ひど過ぎるよ」
カーサスは怒り心頭になり今すぐゴードンを捕まえに行こうとする勢いだ。
「多勢に無勢、それにこれは国の問題だよ。正規軍か政府軍に任せよう」
彼女の冷たい正論に益々怒り狂う彼は老人に、
「奥さんの仇は討ちます。必ず娘さんは連れて帰ります」
と口約束をしてしまっていた。ヴィクトリアは彼の耳を掴むと一旦老人から離れて瓦礫の山に放り投げた。
「君、言ってること分かって言ってるの?」
「痛いてて……分かってるに決まってんだろ」
腕を組む彼女は溜め息を吐くと真剣な眼差しで見つめた。
「良いかい、ボクたちは軍人でもお助けマンでもスーパーマンでもないんだよ。勝手に安請け合いしないでよ」
今すぐ老人に前言撤回し謝ってくるよう伝えるが彼は猛反論する。
「神様なら少しは人のために尽くせよ。この分からず屋!」
「なっ、神様だろうが仏様だろうが関係ないでしょ。良からぬ人間たちが勝手にやってるんだから。神様は万屋よろずやじゃないよ!」
カーサスが立ち上がると彼女の胸ぐらを掴むと鬼のような形相で睨み付け、
「お前も生きているなら、最愛のものを失った悲しみを知れよ」
目頭に一雫の粒を見せながら語り掛ける。
「――あの爺さんは奥さんを殺されただけじゃない、娘さんを捕えられて悲しんでいるんだぞ。何も感じないのか?」
目を逸らすヴィクトリアに彼は突き放すと、
「失望したよ。お前が本当に何の感情もない、ただの人の形をした生き物だったなんてな。俺はひとりでも乗り込んでやるぜ」
そう言い残して老人に必ず娘さんを連れて帰ってくると今一度約束を交わすとシェリーを残してひとりどこかに行ってしまった。
「しょうがない奴だよ」
舌打ちすると老人に彼の不躾な行為に謝辞すると、
「構わん。構わんよ」
泣きながら瓦礫を拾っている。申し訳なく思った彼女は彼を家まで送り届けた。別れ際、老人は馬に見覚えがあるといって近付いてよく見るとテンペスト夫妻が飼っていたものに似ていると言ってきた。
ヴィクトリアは借りた老夫婦のことについて詳しく話をすると、やはりテンペスト夫妻のものだということがわかった。借り物なので返しに来たということを伝えると彼女は初めて老夫婦が殺害された事実を知った。しかも殺された日は彼女たちが借りた後のことだと聞いてショックを受けた。
当初、ホルスト将軍が二人組の旅人が犯人であると町中に貼り紙を張って警戒していたが、実はバイキングの仕業だと分かったのはワインテッレ騒動の後のことだった。彼らが老夫婦を殺害したと公表し夜間襲撃を敢行したのである。
「そうでしたか……」
「この馬、どうされる?」
「飼い主がいなくなってしまいましたからね……取り敢えず老夫婦の家に行ってみます」
そうしてヴィクトリアは凄惨な現場となった彼らの家を訪れた。別れた時と同じ、いやそのままの状態だ。違うことはひとつだけだ。テンペスト夫妻がいないこと。ただそれだけだ。
「すまない。君たちの親は殺されてしまったようだ」
ジャックとシェリーは馬小屋へと入り腰を下ろして眠った。手綱や鞍を外してやると、
「君たちは今日から野生馬として生きるんだ。見た限りこの辺りは豊富な資源がある」
優しく語り掛けるとふたりを置いてヴィクトリアはどこかに行ってしまう。
一方、カーサスは飛び出したは良いもののバイキングまでの道のりとゴードンの姿を知らなかったため途方に暮れていた。
「どうすれば良いんだ……」
ふと政府軍ポテ支部までの道のりが書いてある標識を見て思い付いた様子で彼は支部の道へと入って行った。そして政府軍の門までやってくると、深く深呼吸して中に入っていった。
歩哨や兵士たちが取り囲むが彼はここのボスに直接話がしたかったため制止を振り切って侵入した。武装した兵士たちを交わしながら庁舎に入り、将軍の部屋を捜し回る。
「どこにいやがるんだ、あのバカ将軍は」
暴れ回って数分後、漸くそれらしい部屋を見付けるとノックもせずに入り込んだ。
「な、なんだ貴様は……」
ホルストは何か取り乱すように慌てていたが、暫くしてから眉を細めてカーサスを見ると曇っていた顔に日射しが照らされるように笑顔を浮かべると、
「貴様、ノコノコと戻ってきたなぁ! 反乱者として捕まえてやる!」
するとカーサスは内ポケットに入っていた略帽を被ると、
「ヒースロー駐屯地所属のバーン・カーサス大佐です。バイキング討伐の指揮を取りにやってきました」
その言葉に意味が分からずホルストは彼を取っ捕まえると駆け付けた兵士に身柄を引き渡そうとするが、
「将軍、良いんですかい。俺はバイキングを討伐するためにわざわざ公国から戻ってきたんです。捕まりに帰ってきたわけじゃないんですぜ」
しかし犯罪者をみすみす放っておく分けにもいかない上、そもそも国を裏切った軍属と共同作戦をすることなど持っての他だった。
「将軍、俺の力があればバイキングを討伐出来ます」
しかし耳を傾けない。それどころか椅子に座り剣幕を張って出ていくように命令した。10人くらいの兵士らが無理矢理押さえつけながら彼を室外へと追いやるとそのまま留置所まで連行された。
ホルストは頭を抱えて拳を握り締めている。
「私たちを討伐するつもりか?」
室内のバスルームから謎の男が現われた。『私たち』から察するにバイキングのひとりだろう。ホルストは下手したてに出て詫びる。
「滅相もありません。あの者は反乱軍のひとりです。私たちは貴方様を裏切るようなことはいたしません」
「分かっておろうな。襲撃は貴様との同意の上だ。バレぬよう我々が危険を冒してまでコールスマンまで行ったんだ」
ホルストは涙しながら男に詫び続け、
「どうか、家内と娘だけには手を付けないでください。娘は昨日で8つになったばかりなんです」
慈悲を求めるが男には興味もなく窓から身を乗り出すと、
「お前がバイキングを襲撃させないようにすれば痛い目には合わない。忘れるな、俺たちは裏切り者には必ず制裁を下すことを」
そう言い残して男は窓から去っていった。ホルストは跪き放心状態に陥りそのまま倒れてしまった。彼が医務室に運ばれたのは数分後のことだった。
カーサスはというと地下にある留置所に収容されていた。首輪や足枷、手錠などはされることは無かったが早く出すように大声で叫んでいた。監視の兵士は黙るように言っても無駄だった。
数分後、交代の兵士がやってくると元いた監視兵が驚いた様子でカーサスの檻の前に立つと、
「ホルスト将軍の命により釈放する」
そして鍵穴に鍵を入れて牢を開けると彼は暴れることなく出てくると釈放の詳細を聞いたが兵士は首を横に振るばかりだ。
「我々も知りません。将軍はあなたを釈放するようにと言っただけでありますから」
牢の扉を閉めて彼を外まで送り、別の兵士が彼の所持品を持ってやってきた。彼の略帽を渡そうと所持品から弄ぐる中、うっかり落としてしまい拾い上げてもう一度彼に渡そうとするが再び落としてしまう。
「何やってんだよ」
カーサスはイライラしている様子ではなかったが何かを求めるように催促した。
「すみませんね、昨日こいつが研究用のプレパラートを割っちまって酷く怒られちまったんですよ」
隣の兵士が理由を説明すると歩哨が近付き、
「エレファントの細胞だったか?」
「リオーネの細胞だよ」
話を広げようとするふたりだったが所持品を持ってきた兵士は怯えながら、
「実はマンモスの貴重なサンプリングも割っちゃったんだ」
今にも押しつぶされそうな勢いでガタガタ震えていた。
「で、でもインディファディカブル中佐は気にしないでって言ってただろ」
「トーマス大佐もまた採取すれば良いって言ってたしな」
すると歩哨が懐中時計を見ると交代の時間と言ってその場を離れていった。話を広げた張本人は去り際に、
「リオーネじゃない、ラビットかもしれない。まぁどうでも良いよな」
そう言って震える同僚を連れて庁舎に入っていった。
カーサスは支部から出ていくと再びポテに入り炊き出しをしていた人たちからパンとスープを貰い瓦礫の山に座り込んだ。そうして紙とペンを広げると、
「プレパラートはP、エレファントはE、リオーネはL……」
先程の会話をメモしている様子だ。
「マンモスはMでインディファディカブル中佐はIか。んでトーマス大佐はT。それからリオーネじゃなくてラビットはRで修正だから」
それぞれの名詞の頭文字を繋げて浮かび上がった言葉は、
「『PERMIT』、許可する……か」
略帽の中にはバイキングがいるランカスター連峰の詳細な地図が入っていた。
この暗号を正当化させるためにはまず何でも良いので物を2回落とすことから始まり、時計を気にした瞬間に終えるというもの。
「知っておいて良かったぜ」
パンを口に頬張るとスープで流し込み彼は早速地図を頼りにランカスター連峰へと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます