第34話 師弟対決!

 話がそれてしまったが、ホロにブラックジャックでの勝ち方を仕込む。

 そのためにはまず、何が何でもカウンティングだ。


「前に教えたが、出た数字の2~6がプラス1で、7~9のカードはカウントゼロ、Aと10カードはマイナス1とカウントしていく」


 俺は解説をしながら、次々とトランプを配っていく。

 ホロは必死に配られたカードに目を通していた。


「これはいくつだ?」

「……ちょっと待って下さい」


 配ったカードは七枚。

 2、J、5、K、K、9、3だ。


「えーっと、マイナス1?」

「……遅い上に間違えてるぞ」

「あっ、あれ……?」


 まぁ、最初は誰でもこんなものだ。

 誰もが練習せずに簡単に習得できるなら、地球のカジノでブラックジャックが生き残ってはいなかっただろう。すぐさまカジノゲームから取り下げだ。

 今でも残っているのは、カウンティングの難しさのおかげでもある。皮肉な話に。


「とりあえず、最初はカードとカウントのすり合わせから始めよう」


 カードを見て瞬時に、プラス1なのか、ゼロなのか、マイナス1なのか見極めれるようにならなければならない。

 これが出来ないことには計算もままならないだろう。


「最初はゆっくりカードを配ってやるから、プラスカウントならマル。ゼロならサンカク。マイナスカウントならバツと発声してみろ」

「わ、わかりました!」


 おっ、今のは普通の返事だったな。

 振り返ってみれば変な返事をするのは、決まってホロの調子がいい時だ。

 つまり、今のホロにそこまでの余裕はないということか。


「よし、行くぞ」


 ほぼ1秒間隔でカードをめくっていく。


「バ、バツ。マル。マル。サンカク。バツ……ちょっと待って下さい!」

「ん?」

「は、早いです! もうちょっとゆっくり……」

「おいおい……だいぶゆっくりやってるんだが?」


 これでもまだ早かったか……。


「何かコツとかないんですか?」

「ない、ひたすら反復練習だ」


 こういったところはスポーツ選手と同じだ。

 野球選手の素振り、サッカー選手のリフティング、バスケット選手のスリーポイント。

 それに該当するのが、カジノプロならカウンティングというだけだ。少しづつ身体に覚えさせるしかない。


「ほれ行くぞ」

「あ、あわわわわ!」


 この日。

 ホロが目を回して倒れたところで、トレーニングは終了した。



     ♪     ♪     ♪



 次の日も、喫茶『安らぎ処』でカウンティングのトレーニングをしているとき、ポツリとホロが呟いた。


「これ、本当に出来るようになるんでしょうか……?」

「難しくて不安に思うのはわかるが、練習すれば必ず出来る」

「…………」


 ホロは不満気だ。

 どうもカウンティングの練習に身が入ってない。


「……わたし思うのですけど、わざわざカウンティングを覚える必要ってあるのでしょうか?」

「は?」


 俺はホロの言ってる意味がわからなかった。

 カウンティングが必要ない?


「ブラックジャックで勝つために、カウンティングは必須技術だと教えただろう」

「ですから、ブラックジャックで勝てなくても良くないですか?」

「……なぜそうなる?」


 客側が唯一勝つことが出来るゲーム――それがブラックジャックだ。

 言い換えれば、ブラックジャック以外のゲームはオマケでしかない。

 やる価値がないとまでは言わないが、カジノプロを目指すなら当然攻略せねばならないのはブラックジャック。他のゲームこそ、勝てなくたって問題ない。

 だから俺にはホロが言う「ブラックジャックで勝てなくてもいい」という意味がサッパリわからなかった。


「だって、私はすでにバカラやルーレットで勝つことができます。なのに無理してブラックジャックで勝つ必要がどこにありますか?」


 ……なるほど。

 勝てるから別にいいと、ホロはそう言ってるのか。

 必要性を感じないから、カウンティングの練習にも身が入らない、と。

 もう一度、なぜブラックジャックなのかを説く必要があるか。


「それは負ける瞬間を引き伸ばしてるに過ぎない。本当に勝てるのはブラックジャックだけなんだ。それにブラックジャックなら、ルーレットやバカラ以上にカジノからチップを奪うことが出来るぞ」

「……なら、それを証明してください」

「証明?」

「私と勝負しませんか? 私とツクバ、どちらが多くのチップを獲得できるか」


 突然のホロの申し出に、正直笑いそうになった。……いや、本当は笑った。

 ホロが俺と勝負? カジノプロである俺と、チップの競い合いで?


「……いいだろう」


 俺はその挑戦を受けて立った。

 格の差、というものを教えるいい機会だ。



「なら、俺はハンデとしてブラックジャックオンリーで戦ってやる」

「……? それがハンデになるのですか?」

「あぁ……起死回生の一手『全額ベット』はブラックジャックじゃ使えない。あれはバカラがもっとも効率がよく、ついでルーレットの順にいいからな」


 ブラックジャックは還元率こそ良いゲームだが、単純な勝率だとルーレットの赤黒賭けを下回る。

 その上で、チャンス手である『ダブルダウン』や『スプリット』などの勝負手が、全額ベットすると使えなくなるのだ。これは還元率を相当落とすことになる。


「それにこれは、俺とホロの勝負であると同時に、ブラックジャックの有用性をホロに教え込む意味合いも含んでいる。なのに『バカラもやってましたよね?』とツッコまれたんじゃ意味がないからな」


 だから、俺はブラックジャックだけで戦う。


「ルールはこうだ。一ヶ月でどちらが多くのチップを集めることが出来るかで勝者を決める。もちろん、カジノをやってる時間が同じじゃなきゃ公平性に欠けるので、午前のクゥーエ草の採取が終わり次第、夕食までを勝負時間とする」

「妥当なところですね。でも一ヶ月は長くないですか?」

「短期間じゃ明確な実力差じゃなく、運で勝負がひっくり返っちまうからな」

「……確かに」

「続けるぞ――クエストで得た報酬はすべて現金で受け取り、最低賭け条件の無い状態でカジノチップへと交換、そののち山分けを行い、これを追加の軍資金とする。こんなもんでどうだ?」

「異論はありません。私はルーレットとバカラで勝負します!」

「決定だな」


 俺の頭の中では、既に勝つための戦略が次々と浮かび上がり、最適解を探し始めている。

 ちょっとばかしハンデはあるが、何のことはない。

 ホロに教えてない事はまだあるのだ。

 カジノで勝つ為の知識は、ホロの比じゃない。


 勝負は明日からの一ヶ月ということで話がまとまり、今日のところは解散となった。

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