第28話 Next stage

 3連勝、1敗、1勝、2連敗、4連勝。

 通算すると11戦 8勝 3敗――勝率に換算すると72パーセント。

 俺が教えた『Wストリート5ベット法』の勝率は81パーセントなので、本来の勝率よりも若干だが負けが先行した。

 それでも……


「ちょっとですけどチップが増えてます!」


 何の問題もなく、チップは増えている。

 特に最後の4連勝が大きい。ここで負け分をシッカリと取り戻した。

 とはいえ、勝率81パーセントの4連勝など「出て当然!」と言ったレベルの出現率。決して運が良かった訳ではない。


「一時的に増やすことなんて初心者でも出来る。大切なのは破産しないことだ」

「わかってます! でも、今の調子で大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ない。このまま頑張ってみろ」

「はい!」



     ♪     ♪     ♪



 約三時間、俺たちはカジノに籠もりルーレットに賭け続けた。


「ふぅ……。ただ賭けてるだけなのに疲れました……」

「意外と頭を使うからな」


 それに神経もすり減らす。

 遊びでやるのならばいいが、本気でやるのならば『カジノはスポーツ競技』とでも思ったほうがいい。


「それに6連敗もするなんて……」

「意外か?」

「勝率81%の勝負に6回も連続で負けるなんて、普通思いませんよ」


 わかりやすく確率に直せば0.0047パーセント。

 確かになかなか出る確率ではない。それでも……


「残念ながらこれはカジノをやっていれば、ちょくちょく遭遇する程度の確率だ。だからこの辺は当然『出る』ものだと計算に入れて、ベット額を決めなければならない。もっとも、この三時間で出るのは運の悪いほうだがな」

「やっぱり、運の悪いほうですか」

「あぁ……。だが、勝った。都合の良い展開とは言えなかったが、それでも破産することなく勝負を終えた。……どうだ、初めて自分の力で勝った感想は?」

「……思ったほど勝てませんでした」


 ホロがションボリとつぶやいた。

 ペタンと垂れた犬耳を幻視しそうだ。


「そうだな。カジノで勝つと言ったら、もっと華やかな勝利を想像するかもしれないが、実際は小さな勝利に過ぎない。それはひとえに『資金が底を尽かないこと』を徹底しなければならないからだ。以前、ホロが地味と言って俺の心をエグッたが――」

「あっ……ごめんなさい。そんなつもりは……!」

「いやなに、わかってる。でもそう思われるほどカジノで勝つのは難しい。……だからな、思ったほど勝てなかったからと落ち込む必要はないぞ」


 ホロの頭を撫でてやる。

 よく頑張った。連敗したときも慌てず、淡々と負け分を取り戻せた。

 今日は本来の勝率よりも負けのほうが多かったに関わらず、だ。


「ふふっ……私も成長してるのですよ!」

「わかってるさ。なにせ俺が教えてるんだからな」


 俺たちは互いの自画自賛っぷりに笑った。

 もちろんカジノで過信は禁物だが、ある程度の自信もまた必要。

 こうやって英気を養うことも大切だ。


「さて、ルーレットはもう十分か」

「えっ? せっかく勝てるようになったのに、もうやらないんですか?」

「ホロにルーレットをやらせたのは、身をもって勝ち方を体験させるためだ。その目的を達成した以上、還元率の悪いルーレットに留まる理由などない」

「では……」

「次にホロにやらせるのは――バカラだ」


 ホロの顔が少しだけ強張った。


     ♪     ♪     ♪



 次の日も、俺たちは日課のクゥーエ草の採取依頼をこなし、全ての報酬をカジノチップで受け取った。

 当然、今日もクエストで得たチップを一回の勝負に全て賭けるのだが


「ホロ、今日はラインに賭けてみろ」

「え?」


 ホロが振り返って、俺の顔を見た。

 そこには「どうして?」といった疑問が浮かんでいる。


「6/37なら、そこそこの確率で当たるだろ」

「で、でもそれじゃあ配当が6倍しか付きません! あの必勝法は最初の勝負で16倍以上の配当を当てないと利益が出ませんよ!?」

「んなこと、ホロに言われなくてもわかってるって」


 なにせ、俺がホロに必勝法を教えたようなものだしな。


「じゃあ何故……」

「それはな、ホロに対する投資だよ」


 俺はホロに期待している。

 このまま順調に成長し、俺と並んでカジノプロになることを。

 だから一時的に損失を出そうと、構いはしない。


「ツクバ……」


 といっても、それはラインベットが当たった時の話し。

 まだ損失と決まった訳ではない。

 それによしんば当たったとして、手持ちのシリンをカジノチップに替えてやるより1.6倍多くのチップを使い、バカラで勝負が出来るのだ。

 そのメリットは、資金がモノを言うカジノでは大きい。


「では……今日は17が当たる気がするので、17が含まれている13~18のラインに賭けることにします」

「だったら俺は、それに被らない35にでも賭けるとするか」


 というわけで、ホロがラインベットで6ヶ所に。

 俺はいつも通りに1ヶ所に、全てのチップをベットした。


No more betノーモアベット


 ディーラーが受け付け終了の宣言をし、ルーレット盤へとボールが投げ入れられる。

 しばらくして、空気抵抗や摩擦により勢いを失ったボールが、コロコロとポケットの上を跳ねながら転がっていく。それも次第に勢いを失くしていき、数字の書かれた窪みへとボールが入った。

 それを確認し、ディーラーが声高に当選番号ウィニングナンバーを発表する。


「17番!」


 それはまさしく、ホロがさきほど『当たる気がする』と言って選んだ番号だった。

 この展開に――


「…………」

「…………」


 俺たちは二人して沈黙するしかない。

 今日もいつも通りに、ホロが1ヶ所賭けしていれば配当は36倍になっていた。

 だが今日のホロはラインベットで賭けており、見事17を当てはしたものの、配当は6倍にしかならない。


「…………」

「…………」

「……なんでラインベットなんかに賭けた?」

「ツクバが、今日はラインベットにしろって言ったんじゃないですかッ!」

「はぁ……運がいいのか悪いのかわからんな……」


 ともかく、これでホロはそこそこのチップを手に入れた。

 100倍というノルマが付いてしまったが、なんの障害にもなりはしない。

 俺たちはすぐさま、バカラの卓へと移動した。

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