第20話 本気のブラックジャック4
「ダブルダウン」
「スプリット」
「おっ、また
結局、
「…………」
「どうしたホロ?」
「いえ……確かに勝っているんですが……なんというか地味で……」
「地味?」
「だって、全然増えてないじゃないですか」
雪だるま式でチップを増やしたといっても、ゲームを始めた時ときより2パーセント増えた程度でしかない。
目に見えた勝利と言えるほど、勝ってはいないのだ。
だからホロが言うように、確かに地味かもしれないが……
「バカ言うなよ。絶対に破産――立て直しが効かなくなるほど負け込む訳にはいかないから、慎重にやってんだ」
「それでも、慎重過ぎじゃないですか?」
「そんなことはないぞ」
決められた資金の中で増やすということは、それほどまでに厳しいのだ。
「いいか? たとえば半丁博打で100シリンを200シリンに増やそうと思っても、元手の100シリンがなくなる覚悟でやらないと、200シリンに到達するのは不可能に近いほど難しい。なぜだかわかるか?」
「…………大きな勝負が出来ないから?」
「そういうことだ。付け加えるなら、減った分の資金を回収するのに、減った資産で勝負するのはリスクが激増する。……ホロは考えたことがあるか? なぜ、カジノが潰れないのかを」
「それは……カジノが有利になるように、ゲームが作られているからじゃないんですか?」
「違うな。確かにカジノが有利になるようゲームが作られているから、カジノは負けにくい。だが、絶対に負けない訳じゃない」
「どういうことですか?」
「たとえばだが、カジノが蓄えてる資金の1億倍の資金を持つ資産家が居たとしよう。この資産家が、カジノの蓄える資金の上限いっぱいまで賭けた勝負を吹っかけてきたとしたら?」
「カジノ側は勝負を拒否するんじゃないですか?」
「なぜ?」
「だって、一回負けたらカジノが潰れてしまうじゃないですか。それにもし勝ったとしても、また同じ条件で勝負を吹っかけられないとも限りませ……あっ!」
俺はニヤリと笑った。
「そう、全てはそういうことなんだよ! 資産が無くなってしまったら勝負を続けられない、だから取り返すチャンスも訪れない。そして俺たちは、カジノという圧倒的な資産家を相手に不利な条件まで押し付けられ、それでも勝負してるんだ」
プレイヤーが好きにベット額を決められるというのは、カジノにとっては気にも留めないような、まやかしのアドバンテージ。
カジノはただ、客が自分の資産に見合わないベットをしてくれるのを待つだけ。
これがカジノが絶対に潰れない常勝の理由。
「話を戻そう。100シリンを200シリンにしたい場合にもっとも効果的な方法は、100シリン全額を一回の勝負に賭けることだ。もちろん、負けて資金がゼロになる覚悟があればだけどな」
「……私達は負けられません」
「あぁ、クエスト38回分のチップ全額を、ここで見逃せねえよな。だから、たとえ地味だろうと2パーセントの勝利は大きいってことだ。わかったか?」
「……出過ぎたことを言いました」
---
ここからプレイヤー有利の『プラスカウント』になるか、プレイヤー不利の『マイナスカウント』になるかは完全に運次第だ。
そして残念ながら、今回はプレイヤー不利の『マイナスカウント』でシューターの四分の一を終えてしまった。
「ホロ、撤収だ」
「え?」
俺は早々に見切りをつけて席を立つが、状況を理解できていないホロは目を
カウンティングは頭の中で行う技術であるため、周りの人間からは理解できないのだ。
「どこ行くんですか?」
「流れが悪いから別のテーブルに行くんだよ」
「流れ、ですか……? でもチップは増えてますよね?」
「そりゃ増えてはいるが」
ホロはますます理解が出来ないという顔をした。
増えているならいいのではないか?――そんな疑問が見て取れる。
だがそれは根本的な間違いだ。
「このまま増える保証はどこにもない。それどころか悪い波に流されて、一気に減る可能性だってある。あのまま続けるのは危険だ」
「……ツクバには、波なんて曖昧なものがわかるんですか?」
科学の発展が乏しいこの世界だけでなく、地球でも、波という存在は観測されていない。
なぜなら波というのは結果の一部を切り取って、あとから語っているだけの結果論にすぎないからだ。
当然、未来を見通す力を持たない俺に、波だ流れだなんて見えるはずはないのだが……
「それに近いものはわかるぞ」
「ウソ……?」
「信じられないって顔だな。だが、それを可能にする技術を俺は持っている。そしていずれ、ホロ、お前も覚えるんだ」
ブラックジャック第二の壁、カウンティングをな……。
「それよりも、どこかシューターの残りが少ないテーブルを探せ」
「わかりました」
俺の指示で、ホロがテーブルの周りを駆け回る。
こういう時、小さくて身軽なやつはいいよな――と、ホロの後ろ姿を見ながら思うのだった。
---
再び着席したテーブルは、プラスカウントが先行する好調なテーブルとなった。
しかも、なかなか目にする機会がないプラスカウント16まで、プレイヤー有利が加速する。
そのことに、他の参加者はおろか、運営側も気付いてないことを思うと、込み上げてくる笑いを抑えるのに苦労した。
俺はこの場面で、青チップ4枚を賭ける。
ホロも俺のベット額が上がったことに気が付いてはいるようだが、その理由まではわかっていないだろう。
いや、流れという曖昧なものが来てるのだと、実感できずとも推測はしているかも知れないな。
「インシュランスを賭ける方は?」
ところが残念なことに、シューターにたくさん眠っていた
ここで、ディーラーがBJかどうかを当てるインシュランスが始まる。
俺は当然、ブラックジャックの基本にのっとりインシュランスを拒否――
「インシュランス」
――しなかった。
後ろで見ていたホロが「えっ?」と声を上げたのがわかる。
俺はホロに「インシュランスには賭けるな」と強く教え込んでいたからな。
「賭けるんですか?」
「いいんだよ、たまにはな」
インシュランスをした時に賭ける金額は決まっている。
最初にベットした金額の半分――今回は青のチップ4枚をベットしたので、半分の青チップ2枚をテーブルに差し出した。
インシュランスの配当は3倍だ。
俺は青のチップ2枚を賭けたので、ディーラーがBJだった場合に青チップ6枚を手に入れることができる。
そして肝心のディーラーがBJになる確率は……
本来であれば4/13の確率で……わかりやすくパーセンテージに直すと約31パーセントの確率で、ディーラーはBJとなる。
しかしインシュランスの配当は3倍だ。
つまり3回に1回は勝てないと還元率が100パーセントを下回って損なのに、勝てる可能性が3回に1回を下回る。
そのために「インシュランスには賭けるな!」と、ブラックジャック初心者に教えるのだ。
(だが、今回は33.3パーセントを上回る……!)
カウンティングをすることで、その常識が覆されたことすらも見破る!
これが……カジノの運営が恐れるカジノでの禁忌『カードカウンティング』の実力!
「負けるわけがねぇだろ」
さぁ、正体不明の禁術に震え上がれ!
異世界のカジノ……ッ!
(第一章 異世界初のカジノプロ――完)
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