第16話 ショータイム!

 冒険者ギルドの近くには武器屋・防具屋・道具屋など、冒険に必要な用具を取り扱った専門店が多く並んでいる。

 一部、宿屋や飲食店などももちろん混在しているが。

 だが、服や装飾品などを買おうとなると、場所を移さねばならない。


「一般区ってどっちだっけ?」

「あっちです」


 ホロの先導で、王都で最も人口が多いと言われる一般区へと進んでいく。

 それにつれて、町並みも少しずつ変わってくる。

 冒険者ギルドがある冒険区では、いい匂いが立ち込めた屋台が多かったが、ここ一般区では果物や野菜・穀物などの売店が多い。

 また、立ち行く人々の服装も、ゴツい皮のジャケットから、綿で編まれたシャツへと変わっている。

 考えてみれば、こっちに来るのは異世界に飛ばされたとき以来かもしれない。


「人、多いですね……」

「そうか? あ、いや、そうだな」


 東京を知っている俺からすれば、特別多いと感じるほどでもない。

 それでも、この世界で暮らす人にとっては、十分な人混みに感じるのかもしれない。

 ジェネレーションギャップならぬ、異世界ギャップか。


「ねぇツクバ、人が多いですね?」

「そうだな、多いかもな」

「これだけ多いと、はぐれてしまうかもしれませんね」

「そうならないように気をつけろよ」

「…………」

「…………」


 なんだ?

 ホロが俺の方を見て、ため息をついたぞ?


「疲れたのか? あそこで休憩でもするか」

「そうですね……ツクバが鈍感なせいで、ムダに疲れました」

「……ソイツは悪かったな」


 俺はいままでソロ活動ばっかりだったからな。

 気が回らないのは許してほしい。


「絶対わかってないくせに……」


 最後のホロのつぶやきを俺は理解できなかった。



     ♪     ♪     ♪



 一般区と呼ばれるだけあって、生活に密着したお店が多く、お目当てだった服飾店もすぐに見つかった。


「いらっしゃいませ」


 女性用の服を取り扱うためか、店主は女性のようだった。

 服装もカジュアルな感じで、店内だと言うのにツバの浅い麦わら帽を被っている。

 これだけオシャレな人が店主ならば、品揃えは悪くなさそうだ。


「どんなお洋服をお探しですか?」


 すかさず寄ってきた店主が、商魂たくましく要望を聞いてくる。

 俺はチラリとホロを見るが、新しい服はいらないと言っていただけに、これと言った要望をクチにする気配がない。

 なので、俺が代わりに店主の質問に答えた。


「この子に似合うやつで、かつ清潔感がある感じで頼む」

「そうですねー、それですと……」


 グルリと店内を一周した店主は、白の甘めなチュニックと、紺のフレアスカートを持って戻ってくる。


「こんなのでどうでしょう?」

「おぉ、よさ気だな。ホロ、試着してみろよ」

「……これはダメ」

「は? おいおい、着る前から否定かよ」


 要望も出さなかったくせに、理由もなく却下するもんだから店主も困り顔だぞ。


「せめて何がダメなのか言え」

「……白は汚れが目立つし、スカートも履いたら洗うのが面倒だから」


 なんだよ、一応理由はあるのか。


「あー……そういうことでしたら……」


 と、今度は黒いワンピースを持ってくる。

 オフショルダーと呼ばれる、片側の肩だけ露出したワンピースだ。


「安い?」

「え? そうですね、ワンピースなので上下揃えるよりはお安いですよ」

「じゃあコレで」


 ホロよ、そんな決め方でいいのか……?

 薄汚れた今のローブよりは全然マシだから、本人がいいなら文句はないけど。

 代金を支払い、ホロを新しい服に着替えさせてから店を出る。

 お見送りの際、店主の顔が若干引きつっていたように見えたのは、気のせいではあるまい。

 ウチのホロがゴメンナサイ……。



     ♪     ♪     ♪



 買い物を済ませた俺たちは、再び冒険区へと戻りカジノへと向かった。

 すると心の余裕が運を引き寄せたのか、それとも神様からのご褒美か、ついに俺もルーレットを当てることに成功する。

 それを見て、ホロはどこか意地の悪い笑顔を見せた。


「ツクバ……ついに当てましたね?」

「あぁ、やっと当たったな」

「ということは……当然、やるんですよね?」

「なにを?」


 何のことかわからずに聞き返すと、ホロはとても良い笑顔で


「地獄のバンカーベット……!」


 と答えた。

 なるほど……ホロはあの『作業』をかなり嫌がっていたからな。

 それを強要してきた俺に、同じ地獄が降り掛かってくるのが楽しみだ、と。

 ふっ……甘いなぁ……っ!


「俺がやる訳ないだろう」

「なぁっ……! ズルいですよ、ツクバだけ! あの苦しみをツクバも味わうべきです!」

「い・や・だ・♪」

「……ねぇ、ツクバ? 実はアレ、とってもとっても楽しかったです。アレをやらないなんて人生を損してますよ。だからツクバもやりましょう? ねっ?」


 コイツ……いい性格してるなぁ……!

 そこまでして俺にやらせたいか! 絶対にやらんけどな!


「あれはホロがやるからこそ意味があるんだ」

「そんな特別扱いはいりません!」

「ダメだ、ホロは俺の唯一の弟子だからな。良いことも悪いことも、全部特別扱いしてやるよ」


 俺の言葉に、ホロは嬉しいような悲しいような、どっちつかずな表情を見せる。


「それにな、俺にまとまった資金を寄越すんだ。なら『増やす』に決まってんだろ?」


 そう、俺がホロと同じことをやらない理由がこれだ。

 ホロと同じことをやってては、資金は減るだけである。

 もちろん最終的にはプラスで終われるようになってはいるが、意志さえ強ければ誰でも完遂可能なことを俺がやる必要はない。

 俺ならば『カジノプロ』として、もっと現金を増やした状態で持ち帰れる!


「見てろよホロ。カジノプロが本気でやるブラックジャックだ。拝見料は特別にタダにしといてやるよ」


 さぁ、ショータイムの始まりだ!

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