第15話 カジノプロは超ドS
次の日も、俺たちは二人でクゥーエ草の採取へと向かった。
このまま行けば、確実に十分な現金ができる。
とはいえ、その現金も底なしとはいかない。というか、クエスト一月ちょい分の報酬を先借りしたようなものだ。
このあとも継続的に、クゥーエ草を摘んではカジノチップをいただき、ルーレットで勝負していく。
唯一変わることと言えば、午後に受けたクエスト報酬も、現金ではなくカジノチップで受け取れるようになることか。
ついに、その日暮らしから開放である。
「ひとまずは安泰だな」
「まだ気が早いですよ」
「そうだな。しっかりと現金を持ち帰ってくれよ、ホロ?」
「いえす、ユアマジェスティ!」
これまたホロは敬礼しながら頷く。
まったく、お前はどこの貴族だとツッコミたいのを自重する。
可愛いは正義だからな。
「それより、現金が入ったら少しは買い物でもするか」
「何を買うんです?」
「そうだな……」
俺はホロの服装に目を向けた。
前々から思ってはいたが、ホロの格好は少々みすぼらしい。
「服だな。ホロもいつまでもそのローブという訳にもいかないだろ?」
なんだかホロのアイデンティティとして確立してきた感じがあるが、少し余裕が出来たここらで、服装を整えるべきだろう。
と、俺の提案を聞いたホロは、なぜか嫌そうな顔をした。
「……服なんて着れれば何でもいいんですよ」
「いやいや、そうもいかないだろ?」
年頃の娘の言葉とはとても思えん。
何か理由でもあるのだろうか?
「……服で人を判断する人間、私は嫌いです」
あー……これ、突っつくと面倒になるやつだ。
過去に何かあったやつだ。
うん、聞かなくていいな。
とりあえず、清潔感がある安めの服でも買い与えよう。
安ければ文句もあまりないだろう。
普通、逆なんだけどな……。
俺たちはそそくさとクゥーエ草を採取して、街へと戻った。
俺はカジノチップ、ホロは現金で報酬を受け取る。
なぜホロだけ現金なのかと言えば、ここでカジノチップで受け取ると、そのチップ分も最低賭け条件である100倍のベットを課されてしまうからだ。
なので、条件をクリアし現金への換金が済むまでは、ホロはクエスト報酬を現金で受け取るほかない。
「任せたぞ、今日もしっかりと負けてこい」
「どんな応援ですか、それ」
ホロは苦笑しながら、バカラの卓へと消えていく。
俺はそれを見送ってから、今日もルーレット台へと近づいた。
ここは俺も、ホロに続いて当たりを引きたいところだが、今日も見事に一分でチップが溶ける。
所詮、現実なんてこんなものさ。
♪ ♪ ♪
二度目のクゥーエ草採取をこなしてからカジノへ戻ると……
「ふふん♪」
上機嫌なホロが俺を出迎えた。
硬貨が入っているだろう麻袋を誇らしげに突き出してくる。
どうやら指示をちゃんと守り、現金の持ち帰りに成功したらしい。
「ツクバ、これが何だかわかります?」
「んなもん、わかるに決まってるだろ」
「どうです、私エラい?」
ホロがあざと可愛く聞いてくる。
だからこそ、ホロに強要したんだしな。
それをやり遂げたという感慨が、今はいっぱいなのだろう。
その証拠に、ホロはいつになく生意気な態度だ。
だから俺は――
「エラいエラい! さすがはホロだ! これくらい、どうってことなかったか!」
「そうですよ! 私にかかればコレくらい、試練とも呼べないくらいチョロいです!」
「そっかそっかー、んじゃ、この調子で次当たったときも頑張れよ!」
「もちろんで……え?」
上げて落とす!
ホロの顔が生き生きとしたものから、この世の終わりのようなものへと変わっていく。
なかなかに見ていて楽しいな。
「まっ、待ってください!! こんなこと、何回もする必要ないですよね……?! 試練って普通、一度クリアしたらオッケーですよね……?!」
「どうした、珍しく寝ぼけているのか? 俺がいつ、試練の内容がアレで終わりだと言った? これに何回でも耐えられるようになることこそが試練だぞ?」
「そ、そんなぁ~!」
ホロはがっくしと
よほど
世界には『掘った穴を埋めて、また掘り返す』という意味のない作業を永遠と繰り返させる拷問があるくらいだ。
ずっと同じことを繰り返すというのは、それほどまでにキツい。
だが……
「カジノプロになるのなら、これくらい出来なくてどうする?」
一戦ごとの勝負に一喜一憂してるようでは、大事な場面で必ず怖気づく。それではダメなのだ。
大きな勝負も小さな勝負も、等しく心を乱してはならない。
ベットすることが、ただの『作業』に思えるまで、魂に落とし込まなければ。
「それに終わりが設定されてるだけ、俺の指示は優しいんだがなぁ……」
拷問のように、意味のない作業ではない。
拷問のように、終わりがない訳ではない。
少なくとも希望が持てるのだ。
これだけやれば解放される! という希望が……。
もっとも、そんな希望に
「これで、優しい……?」
ホロが「信じられない」という表情で俺を見る。
「ツクバは本当に、これで優しいと……?」
「そうだが?」
「本気で言ってるんですか……?」
「そうだが?」
「……デーモンロードも裸足で逃げ出す悪魔っぷりですよ」
それほど俺が鬼畜ということか? それは
直接お会いしたことはないが、裸足で逃げ出すのが俺のほうなのは間違いない。
なんでも一級冒険者が束になって、それでも勝てないバケモノらしいし。
「泣き言いってる暇があったら精進しろ。プロになって、好きなだけカジノから金を巻き上げるんだろう?」
俺の言葉で、ホロの目に光が戻る。
「言われなくてもわかってます! というか、私がいつ泣き言なんて言いました?」
「ほう……さっきまで涙目だった小娘の、どのクチが言う?」
「見間違えじゃないですか?」
どうやら涙目だったという事実は無いらしい。
大人の対応として、そういう事にしておいてやろう。
それよりも、やっと
俺達は初めて景気のいい足取りで、カジノの出口をくぐり抜けた。
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