第11話 いわゆる夫婦

 クゥーエ草を採りに行く道中、ホロからある提案がなされた。


「お金を共有したい?」

「だって、そのほうが効率的じゃないですか」


 カジノチップだと一割増しという『ボーナス』を使っての必勝法。

 理論上は確実に儲かるこの方法だが、しかし、この必勝法には明確な弱点がある。

 回数だ。回数をこなさない事には何も始まらない。

 なにせ確率的には37回に一度しか、儲けのチャンスはやってこないのだ。

 今のままでは一月に一度、そのチャンスが来るとも限らない。


「うーん……」


 そこで二人が協力することで、チャンスを2倍に広げようというのである。

 理には適っている。だが問題は……


(ホロを信用できるか?)


 金の切れ目が縁の切れ目というように、人間というのは金にトコトン汚い生き物だ。

 いざとなったら平気で金を持ち逃げするゴミクズが、それこそ星の数ほどいる。

 ホロがそうでないとは限らない。


「ダメですか?」

「いや、たしかに理屈はわかる。だが、それとこれとは別問題でだな……」

「何が問題なんです?」

「それは……」


 俺は言葉にきゅうする。

 面と向かって「お前のことが信用ならない」とは言い辛い。

 かと言って、他人とお金を共有するなど、相手に命を預けるようなものだ。おいそれと頷く訳にもいかない。

 互いの信用があってこそ、だ。


「……なんて、本当はわかってますよ。私がツクバを裏切って、お金を持ち逃げすることを心配してるんでしょう?」

「…………」


 肯定も否定もできず、俺はただ沈黙するしかない。

 しかし、そんなことで誤魔化されるホロではなかった。


「図星ですね? ……だったら私のお金は、全てツクバに預けます」

「は? 待て待て待て、俺が裏切ったらどうするつもりだ!?」


 ここ何日かで、ホロと多少の信頼関係を築けたとは思ってる。

 だが、いくらなんでも信頼しすぎではなかろうか?

 なぜ、ホロはここまで俺を信じられる?


「それは……沈むだけだった私を引き上げてくれたのが……ツクバ、貴方だからです。貴方だけは信用することができます。それに……たとえツクバにお金を持ち逃げされたとしても、あの時ツクバに声をかけてもらえず奴隷になっていたよりはマシですから」


 そう言って、ホロは微笑んだ。

 初めて俺たちがカジノで会ったとき、ホロは冷静さを欠いて、身売り寸前まで進んでしまった。

 そこで俺は声をかけた。

 破滅寸前の人間を見て、見て見ぬ振りができなかったのだ。

 だがそれは……


「よせ、ハッキリ言ってアレは俺のエゴだ」


 自分のためにやったこと。

 必要以上に感謝される覚えなど無い。


「フフ……ツクバは優しいですね……だからこそ信頼できるのです」

「違う、あれは……!」

「そうやって誤魔化すことが、悪人ではない証明じゃないですか?」


 俺は自分よりも年下の女の子に言い負かされていた。

 それも初めて会ったときに、脳みそ空っぽなのかと疑った相手にだぞ?


「はぁ……そこまで言われちゃあなぁ……本当にいいのか、ホロ?」

「構いません」

「本当の本当に、いいんだな?」

「本当の本当の本当に、いいですよ」


 というわけで、俺たちは運命共同体となった。

 言い過ぎだって?

 そんなことないだろう。



     ♪     ♪     ♪



 さて、ここらで俺の食生活を紹介しよう。


 朝――黒パン。

 昼――黒パン。

 夜――雑草がゆ


 これがここ三日ほど続いている。

 はっきり言おう。

 飽きた。


「あー、コッチに来た当初に食べた串焼き……美味かったなぁ……」


 ゆだれを垂らす勢いで、俺は未練がましくも過去の食事を振り返る。

 哀れ、貧乏人生活。

 とっとと脱出してやると決めた馬小屋生活も、未だ抜け出せていない。


「お前はいいよなぁー、毎日好物のハッパが、何もせず喰えるんだしよぉー、働かないで食べる飯はウマいかー?」

「ヒヒィィイン!」

「あ? やんのかコラ?」


 どうやらニート呼ばわりに、お隣さんも腹を立てたらしい。

 だが俺としても、コイツには物申したい。

 家畜の分際でデカい面しやがって! 人間様の力を見せつけてやってもいいんだぞ?


「調子乗ってんじゃねーぞウマァ!」

「ヒヒィィン!!!!」


 俺とお隣さんが激突する。

 勝負は一瞬ッ!

 三分ワンラウンドも要らないとばかりの高速決着!

 どっちが勝ったって?


「調子乗ってたのは私でした……。ひずめ磨きますんで勘弁してください……!」


 馬力には勝てなかったよ……。



     ♪     ♪     ♪



「また来たの」

「おっ、ナーシャか」


 俺達がカジノに着くと、本物のバニーガールであるナーシャが、目敏めざとく気付いて俺の側に寄ってきた。

 今日もクリクリの紅い瞳が可愛い。

 ウサミミもふわっふわだ。正直触りたい……。


「お触りは厳禁なの」

「おっと、俺としたことがつい……」

「触りたかったら百万シリン用意してくるの。そしたら一瞬だけ触らせてあげるの」


 厳禁の意味を調べて来いとか、ボッタクリすぎだろとか、その割には一瞬だけとかケチくせぇとか、色々と言いたいことはあったが全て飲み込む。


「ツクバ、だれ?」

「あぁ、見ての通りバニーガールのナーシャだ。俺が初めてカジノに来たときに案内役をやってくれたんだ」

「ふぅーん?」


 ホロがジロジロとナーシャのことを見回す。

 特に胸や脚やくびれを集中的に見回しては、自分の身体と比較している。

 豊満な胸、肉付きの良い脚、ほどよく細いくびれ……。

 全てホロにはないものだ。


「私も成長したら、これくらいになるかな……?」

「ナーシャみたいなナイスバディは無理なの。諦めるの」

「……私、このウサギ嫌いかも」


 どうやらホロはバニーガールが嫌いらしい。

 いや、ナーシャだけか。


「? なんでナーシャ嫌われてるの?」


 不思議そうにナーシャは首を捻った。

 このウサギ、天然だ……。

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