83話 我が魔法の餌食になるがいい!

設楽は封がされてある魔法インクに手をかけた。

 開けてみると、少し甘い香りがする。


 まずは『探知』の魔法陣を紙に記入する。

 『探知』魔法は左手と右手の魔法陣が対で完成なので、二枚使う。

 設楽は上手く書くことに成功する。


(たしか、先生は左手だけでも狭い範囲なら探知が可能と言ってたわ)


 設楽は『探知』(左)魔法陣に魔力を籠める。

 卓上に設置した魔法陣に魔力を籠めるのは、いつもと勝手が違う。

 少し戸惑ったが魔法陣は起動した。


(『探知』は……起動している?)


 設楽は目を閉じて実際に『探知』が出来ているか確認してみるが実感がわかなかった。

 場所を変えて、家の中を動き回ってみると確かに『探知』できている事がわかった。

 設楽は想定通りだったが非常に喜んだ。


 次は『探知』(左)魔法陣と『探知』(右)魔法陣を合わせてみることにした。

 紙に書いてある魔法陣なので、金子が行っているように重ね合わせるのが難しい。


 『探知』(左)魔法陣を手に持ち魔力を籠めて、机の上に置いた『探知』(右)魔法陣に重ね合わせてみることにする。 


(おお)


 期待していた『探知』魔法が発動する。自室が手に取るようにわかるようになった。

 設楽は場所を変えたり、外で使ってみることで効果範囲を確認する。

 そして自室に戻りしっかりメモをとる。


 今回は金子の魔法陣をサイズ含めて完全に模写した。

 そしておそらく同じ効果を複製することに成功した。

 これで魔法陣さえわかれば、複製できることが確認できた。


(さて、どうしようかな)


 設楽は『探知』魔法を使ってみて、しっくりきていない。

 結果としては予想通りとはいえ満足のいく内容だった。

 だが原理は未だによくわかっていない。


(左が『探知』で右が拡張する魔法なのかしら、違う気がする)


 設楽は『探知』魔法を更に探求するか、他の魔法に手を出すか悩んだ。

 そして、まずは他の魔法から手を出すことに決めた。

 確認しやすい内容を、まず確実に潰していくことにしたのだ。




 設楽はまず、エリッタからの情報を基に実験してみることにする。

 『発光』、『衝波』、『浮遊』、『剛帯』の魔法陣はメモしてきた。

 魔法陣の構成は、発動させたい内容を内側に記入し、希望する持続時間に応じて、『外輪』と呼ばれる魔法陣の外枠の形状を変える必要がある。



 まずは『発光』の魔法陣を作成してみる。


 設楽は『発光』の魔法陣を見たときに、確信を得ていた。

 『発光』の魔法陣は総じて鋸刃のようなギザギザした形状をしている。用途に応じて少しずつ形状は違うが、総じてギザギザしているので、それが『発光』の原因とみて間違いない。


(これは問題無いわね)


 作成した『発光』の魔法陣を起動させてみたが問題なく作動した。



 次に『衝波』を起動させる。

 魔法陣から真上に魔法弾が発射された。


「えへ」


 設楽は少し興奮した。『衝波』が攻撃魔法っぽいので嬉しかったのだ。

 紙に書いた魔法陣を持ち上げて、壁に向けて使ってみることにした。


「アオイボ〜ム」


 自身の名前をつけた『衝波』は、壁にぶつかり木材の壁は少ししなった。


「うにゃ〜。……あ」


 魔法の効果に快感を得たと同時に、失敗にも気づく。

 『衝波』の魔法陣を書いた紙が、少し破れてしまっていた。


(アオイボムは、ひとまず封印ね)


 ぎこちない笑顔で、だがしっかりメモはとる。


 設楽は気分上々だ。のめり込むとひたすら同じことを続けるタイプであり、まだ魔法が非常に好きなので思いつくアイデアを全て試したくなっている。


 だが闇雲に試すのではなく、法則性を探すため着実に一歩づつ魔法を使う。



 『浮遊』、『剛帯』も続けて実験することにした。


————


 昼過ぎて、夕方が近づくまでひたすら実験を繰り返す。四つの魔法陣をひたすら研究していた。


 実験後半は『浮遊』をメインで研究していた。

 『浮遊』の魔法陣の上に、色々物を置いて浮かせてみる。

 設楽は超能力者のような気分になり、一人悦に入っていた。


(あ、いいこと思いついた)


 設楽は席から離れ、魔法陣と一メートル距離を取る。そして直接触れずに『浮遊』魔法を起動させることを試みてみた。


 以前に、『発光』を自分から離れた場所で発動するのを、赤井に見せたことがある。


(遠隔で浮遊させたら、赤井さんまた驚くかな)


 設楽はやはりぎこちない笑顔で、『浮遊』に魔力を籠める。距離が離れるほど魔力が籠めにくくなり、魔力のロスも多いので発動まで時間がかかった。


(よし!)


 『浮遊』の発動に成功した。


「あはぁ」


 設楽は奇妙な歓喜の声を出し、椅子に座る。少し疲労感が彼女を襲う。

 魔力を少し使いすぎたこともあるし、ご飯はおろか水も飲んでいなかった。


(なんか食べよう)


 台所に向かい、水を飲み干し肉を齧る。

 コーヒーが目に入ったが、作るのはめんどくさいのだろう水で我慢している。


 外を見ると夕方だ。そろそろ金子が帰ってくるかもしれないと思い、少し憂鬱になった。

 異世界に来た当初なら気にもしなかったであろうが、設楽も少しは気を使うようになっていた。



 締めくくりに何かやりたいと思い、設楽は再度部屋に戻る。

 ノートをめくり、今日の実験結果を見直す。

 今日一番の収穫は、『衝波』と『浮遊』は関連性が多いことがわかったことだった。

 魔法陣も類似性があったので、仕組みは近いと当たりをつけていたが予想通りだった。


 『発光』は、光るだけであり物体に干渉はしない。

 だが『衝波』と『浮遊』はどちらも物体に干渉する。片方は吹き飛ばし、片方は持ち上げる。

 得られる結果は違うが、プロセスは似通っている。

 応用もしやすいのではないかと踏んでいた。


(『発光』は応用しづらいなぁ。『剛帯』は……もうすこし確認したい。多分あれなんだけど)


 設楽は『発光』を魔法陣無しで発動する。

 設楽にとって『発光』は、受験生のペン回しと同じだ。集中力を上げる時に無意識にやるように『発光』を使う。

 赤井は何度かそれを見ているが、不思議系魔法少女としか思っていないみたいようだ。


 設楽は光の強弱はもちろんだが、離れた場所を光られたり、指からビーム状に光らせたり、渦巻き状に光らせたりは出来る。

 目下練習中なのはハート型だ。理由は可愛いからだ。


 指をハート型に動かしながら、『発光』を使う。

 ハート型の光が出来上がるが、手を止めると光は徐々に朧げになり霧散していく。

 何度も繰り返すことで、手を動かさなくても思い描いた形に光らせれるまでやり続ける。一般的には狂っていると思われるぐらい繰り返す。


 繰り返す中で何か出来ないか考える。


(『発光』を別の目的には使いづらいわ)


 照明以外の使い道を考えるが、大したアイデアは出なかった。


(うーん、花火とか電光掲示板みたいに使えるかも)


 一応、アイデアをノートに書いていく。

 そして、過去に自分の書いた一単語に目が止まる。


(目眩し……か)


 設楽はある事を思いついた。


————


 金子は日が落ちた頃、家に向かっていた。

 今日はシマー、サブ、フッチーが鉄鉱石の運搬や今後の方針を決めるため狩りに不参加だったので、残ったメンバーで軽く狩りをした。


 金子は少々不完全燃焼だが、羊皮紙を得る事が出来た。

 実際は、羊の皮ではないのだが、動物の革を引き延ばして紙状にしたものは総じて羊皮紙というらしい。


 金子は有名な魔法系映画で名前だけは聞いた事があったが、実際に羊皮紙は初めて見た。


(こっちの世界は目新しい事が多いなあ)


 羊皮紙を早く設楽に渡したいので足早に帰ることにした。


————


 金子は家に帰り異変に気付く。


(なんか変だな?)


 設楽の部屋が妙に光っていた。光ったり消えたりを繰り返している。

 何がぶつかる音もするし何か騒がしい。

 そして軽い破裂音の後に、ドアが叩いたかのように震え、そして設楽の悲鳴。


「キャー」


 金子は何かまずい事が起きているのかもしれないと思い、ドアに駆け寄った。


「設楽さん! 大丈夫かい!」


 金子はドアを開けた。


「あ」

「え?」


 設楽の素っ頓狂な声と、驚いた顔。手には『衝波』の魔法陣。


 金子は状況が理解できなかった。

 設楽側から光る魔法の玉が飛んでくる。


(『発光』魔法……か?)


 光の玉は金子の顔をめがけて飛んでくる。

 咄嗟に手を出して受け止める。

 そして手に衝撃が走る。


「痛っ!」


 手が吹き飛ばされ光が弾け飛ぶ。目の前がキラキラ光った。


「うわっ!」


 目眩し用に考案された、『発光』と『衝波』の複合魔法『フラッシュアオイボム』は金子に命中した。


 そして設楽の手にあった魔法陣が、破れる音が木霊するのだった。

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