82話 存在そのものがストーカー
「よいっしょっと」
金子はお米が入った袋を台所に置いた。
設楽は二週間ぶりの我が家をひどく懐かしく感じていた。一年ぶりに帰ってきたような感覚だった。
王都から買ってきた荷物をリビングの机に置き、妄想ノートを自分の部屋の机に置いて一つため息をついた。
リビングのでは金子が嬉しそうな顔で座っている。久々の再会を喜んでいるようだ。
(どうすれば手短に終わるだろうか、はあ……)
椅子に座り、向き合うことにした。
「まずはおかえりなさい、お疲れ様だったね」
「……ただいまです」
「これが戦利品ってとこかな?」
目の前にはミックからもらった袋が。設楽は全部出すことにした。
・魔法インク
・魔法ランプ
・紙
・ガラス瓶
・チーズ
・筆
・コーヒー
・お酒
「へえ、これが魔法インクか。なんか普通のインクだね!」
「そうですね」
(はやく実験したいなあ)
「これはランプか!」
「そうですね」
(持続時間が一番長いランプ。更に長くできないか試したい)
「あとは、紙と筆と、これはガラス瓶だね」
「はい」
金子は非常に楽しそうだ。新しいオモチャを見つけたかのようだ。
反面設楽は、手短に説明を終わらせるために頭の中で要点をまとめていた。
「あとは、お酒とチーズに、これは……コーヒーか! これは嬉しいな」
「それはお土産なんでどうぞ」
「そうか! ありがとう。コーヒーなんて久しぶりだなあ。そうそう赤井君はどうしたんだい?」
(手短に手短に手短に)
「犬を飼うために寄り道してます」
「犬?」
「はい」
金子は不思議そうな顔をした。ここまでは設楽の予想範囲内だ。
「巨大な犬なので乗ることも出来ます、だから――」
「犬に乗れるだって! それは凄いな!」
説明が途切れてしまったことに、設楽は少しイラっとした。
「まあ、だから寄り道してます」
「へえ! どれぐらいのサイズなんだい?」
(はあ……)
結局、そこから犬の説明と赤井の所在の説明に三十分以上かかった。
――――
そこから湖の街ウィンダーブルの話をし、宿場町の話をしただけで一時間が経過した。
設楽は出来るだけ要点を絞って話すのだが、どうしても金子の質問が飛んできてしまう。
(はあ、しんどい)
喋るのが苦手な設楽はもう限界だった。
全部話すとなると、王都での五日全てを話さなければいけなくなりそうだった。
設楽は心底、赤井がいないことに怒りを覚えた。
半面、金子は心底楽しんでいた。久々の会話に花が咲いてると感じていた。
「ふ、ふあーあ」
設楽は欠伸をしてみた。
「あ、すまん、お疲れだよな。 長い馬車移動だったろうし」
「すいません」
確かに疲れていたけど、眠さはほとんど感じていなかった。そもそも設楽は完全な夜型だ。
「今日は寝るかい?」
「そうですね」
設楽は解放されることに歓喜した。
「それじゃあお休みなさい」
「おやすみ。私は授業の準備があるからもう少し作業でもしようかな」
「あ、ランプ使っていいですよ」
金子は嬉しそうに、ランプを使い出した。
「おお、これは便利だな! 『発光』を使いながら作業って手間なんだよな、ははは」
優しい光が灯った魔法ランプを使いながら、金子は作業を始めた。
設楽はそれを見届けて自室に戻った。
――――
やっと研究ができると思い、設楽は小さくガッツポーズした。
まずは、ノートを広げ試してみたい魔法陣を確認する。
十五分ぐらいノートをチェックしていると、ドアをノックされた。
「え?」
ドアまで駆け寄ると、金子が心配そうな顔を立っていた。
「大丈夫かい?」
「な、なにが?」
「いや、眠れないのかと思って、やること残っているなら手伝うよ」
(あ……)
設楽は久しぶりだったから忘れていた。金子は常時『探知』魔法を使っているような状態になっている。
ちなみに赤井はパッシブスキル『警戒』と名付けている。
(ドア閉めてるのに、『探知』されちゃうのか)
「だ、大丈夫。少し復習してただけなので……」
「そっか、疲れてるみたいだし無理はしないようにね」
「――はい、もう寝ます」
設楽は寝たくもないのにベッドに入ることにした。
探知スキルの有能性とプライバシーの侵害具合を確認して、五年以上ぶりに普通の時間に眠るのだった。
(『探知』妨害を考えないと、行動が全部丸わかりになってしまう……)
――――
設楽は日の出とともに目が醒めてしまった。
寝起きがスッキリ過ぎて逆に気持ち悪さを感じた。
「はあ……」
ドアを開けたら、そこに金子はいるのだろうか。
また説明しなければならないのかと思うと、気が重くなった。
こっそりドアを開けてリビングを見てみると、金子の姿は無い。
設楽から死角になる位置に金子のはいた。
「おはよう! 今朝は早いね」
設楽は驚いてビクっとした。『探知』魔法を再度恐ろしいと感じた。
「どうも……」
「書き置きはいらなくなっちゃったな、今日は狩りに行ってくるよ」
「あ、そうなんですか」
設楽にとっては思わぬ朗報だった。
「あ」
目線の先には弓が置いてある。想像している弓より少し小振りだけど、格好良い弓だ。
「ははは、ハンターに貰ったんだよ、似合うかな?」
「ええ」
設楽はお世辞抜きに似合うと思った。国体選手みたいに見えた。
「そろそろ出かけるんだけど、何かあるかな?」
「特には……あ」
「なんだい?」
「『探知』魔法陣見せてもらえますか?」
快く頷いてくれたので、紙とペンを持ち模写することにした。
「そっか、魔法の研究か」
「はい」
「手伝えることがあったらなんでも行ってくれ」
「あ、リーダーに会ったら、書く用の革貰ってきてください。言えばわかると思うんで」
「了解」
模写し終えたので、金子を解放した。
「それじゃあ行ってきます!」
手を振って見送った。
足早に自室に戻った。魔女の研究が始まろうとしていた。
――――
設楽はさっそく魔法インクを使うことにした。昨日はお預け状態になってしまったから、さっさと使ってしまうことにする。
まずは『探知』魔法陣から取り掛かることにした。
設楽は『探知』魔法をかなり特殊な魔法ではないかと考えていた。
原理が想像がつかないからだ。
逆に、例えば『衝波』は原理の目星をある程度つけていた。
サブに一度見せてもらったし、実際にサブが魔法学校で習った内容も確認している。
『衝波』はおそらく、
①魔法の粒子を密集させる
②密集させた粒子を飛ばす
この二つの工程をクリアすれば習得できる。
設楽のイメージは、非常に細かい砂を凝縮して投げたのが『衝波』だと思っている。
実際練習は何度かしているが、魔法を飛ばすことは出来ている。
同様に他の魔法も、仕組みは推察していた。
ミックは『大した魔法ではない』と言っていた。
設楽も魔法の評価は、あると便利だけど無くても困らないレベルだと思っている。
なぜなら、なんとなく原理が理解できそうなレベルの魔法しかないからだ。
設楽は原理が理解できそうなレベルであることに可能性を見出していた。
科学に近いとも思っていた。
(原理さえ理解できていればいくらでも応用が可能なはず……)
仮に魔法が超常現象を起こすレベル、つまり召喚魔法や物質転送や人智を超えた攻撃魔法などであれば原理を理解するのは非常に難しい。
様々なゲームにワープがあるが、なぜワープできるのかと聞かれればゲームだからだ。個人的に妄想するのは勝手だが、真剣に『このワープはどういう理論だと思う?』なんて友達に聞いたら変に思われる。
同様に超火力の攻撃魔法に対して、『このエネルギー源はなんだろう』なんて聞けば『知らんがな』と返ってくるだろう。
設楽はRPGゲームが好きだが、いちいち魔法の原理を気にしたりしない。
魔法は魔法、気にするのは、カッコよさと費用対効果と汎用性ぐらいだ。
ただし、この異世界の魔法は掘り下げて原理を確認する価値があると位置付けた。
設楽はこの世界の魔法の化けの皮を剝がしてやろうと思っている。
そのためにまずは、『探知』魔法という便利だが仕組みがイマイチ理解できない代物の解明に取り組むことにした。
設楽は、自分の中にある、探究心という狂気を解放することにした。
設楽の一旦の目標は、『治癒』、『剛帯』、『眼力』、『着火』、『跳躍』、『走駆』、『隆土』、『衝破』、『氷結』、『探知』、神が提示していた魔法を全て再現することだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます