76話 あなたはドワーフですか? いいえ私はドワーフです

「王都は……今のままでいいんでしょうか?」

「わからん、牽引するものもおらんしの。今のまま継続していくのが正解なのかもしれん」


 話はここで切り上げることにした。

 王都ブライトの成り立ち、ブライト王とゼツペさんの関係を聞けて良かったと思う反面、何か自分に出来るのだろうかとも思う。

 結局、自分の出来ることを精一杯やるぐらいしかないだろうと結論づける。


 設楽さんと金子さんは、この話を聞いたらどう思うんだろう。

 そんなことを考えながら眠った。


――――


 目が覚めるといつも通りのゼツペさんがいた。

 老練な手つきとでも言うのだろうか、流れるように荷造りをしていた。


「おはようございます」

「うむ」


 ふと目の前にいる小柄な老人に、膨大な人生経験を感じた。

 昨日の話を聞いたからかもしれないが、ゼツペさんには人間としての厚みがある。

 濁りの無い、真っすぐな生き方をしてきたのだろう。


 軽く朝食を済ませ出発することにした。


――――


 山道はアッシュに乗せてもらい、平地は自分で走ることにした。

 MPが増えた分、魔力を使って走るのが楽になった。

 これまでは騙し騙し節約して魔力を使ってきたが、今は魔力の運用には余裕がある。


 ただし魔力を使い走るようになってわかったことがある。

 MPの最大値は増えたけど、MPの自然回復量は変わっていない。

 一度枯渇すると、回復までには倍以上かかる。

 まあ寝れば全回復はしてるし、そこまで困りそうではない。


 マジックポーション的なものはあるんだろうか?

 あれば全力で走って、枯渇したらポーションで補充とかできるな。



 走りながら魔法について色々考える。

 この世界の魔法は、なんというか努力が必要だ、悪く言えば爽快感がない。

 敵を倒してレベルアップや、店で買ったり、誰かに授けてもらったりできないもんな。地道に努力していくしかないからそこまで流行らないのだろうか。

 唯一、補助輪的な役割が魔法陣だと思ってる。


 正直こんなに速く走れるようになれてることが嬉しい。

 初日の地獄のマラソンから始まり、徐々に魔力を使って走ることを覚えた。

 今はかなり速く走ってる。荷台を背負った馬車には負けない。裸馬だと流石に厳しいが。

 いつか、全力のアッシュについていけるようになりたい。走りの目標だ。



 あとは早く設楽さんたちと魔法談義がしたいよ。

 今頃一緒に研究してるのかな~、一人で部屋に閉じこもってやってるのかな。

 多分後者だけど、少しは協力していることを期待したい。


 三人揃えば文殊の知恵っていうしね。

 二人揃えば……。二人協力するといいぞっぽい言葉なかったっけ。

 二人三脚、二人羽織り……なんか違うな。

 まあ研究方面はお二人に任せようかな。適材適所でしょ。



 赤井オリジナル走法『スキップ走り』で順調に皆についていく。

 そしてゼツペさんの故郷、ドルゼ村には二時間程度で到着した。


――――


「ふむ、ついたの」

「は~~、のどかですね!」


 ドルゼ村は高地にあり、山と森に囲まれた非常に美しい場所だった。

 初めに連想したのは、テレビで見たことがあるスイスかノルウェーあたりの風景。

 とんでもなく長いラッパを吹いているのを見たことがあるよ。

 あとはアルプスの少女かな。山の感じがぴったりだ。放牧もしているらしいし。


 余談だけど、山には『森林限界』があるらしく、ある程度の高さになると木が生えなくなるらしい。 


「久しぶりじゃわい、もう三年は帰っとらん」

「そうなんですか?」

「うむ、近ければ近いほどいつでも帰れると思って後回ししておったな。はっはっは、みな元気かの~」


 少し遠くに見える大きな黒っぽい家に向かうことにする。


「家が少ないですね?」

「村の真ん中で住居は足りておる。非常に優秀なオークで家屋を作っておるからの。

 他では珍しい五階建ての建物に村人が集まって住んでおる」

「ほほ~マンションみたいですね」


 村の中心以外には、戸も無い小屋があるだけだ。

 クラーク村とどちらが発展しているかといわれると微妙なラインだ。

 クラーク村は平野で、ドルゼ村は高地だし。


 そして俺は第一村人を発見した。否! ドワーフを発見した!

 切り株のようなところで座っている。物憂げだ。

 灰色の髪と、豊富に蓄えた髭。身長は小さく、設楽さんより小さい。

 反面上半身は厚みがあり手がゴツゴツしている。まさにTHEドワーフ。


「ど、ドワーフだ!!」

「ふむ、なんで知っておるんだ?」

「やっぱりドワーフなんですか?」

「そうじゃが、アカイこの村に来たことあるのか?」

「無いですよ」

「――? なんでドワーフのこと知っておるんじゃ?」

「ドワーフって言ったら有名じゃないですか!」


 ゼツペさんと会話が噛みあわない。ゼツペさんは困惑している。

 俺たちに気づいたのか、ドワーフはこちらに気づいた


「あんれま! ゼツペ爺」

「おお、ドワーフ。久しぶりだな」

「がっはっは、元気そうでなによりなにより。はて? その子は?」

「こんにちは、アカイです」

「ワン!」


 一緒にアッシュが挨拶した。


「あんれま! 犬飼いなのかいな。爺の隠し子か?」

「ち、違いますよ」

「何言っとんじゃドワーフよ」

「がっはっは」


 豪快そうなおっさんだ。確実に酒が好きだろう。ドワーフなんだからな。

 あれ……なんかおかしいことに気づいたぞ。


「あのー」

「なんじゃ? 犬飼い」

「ドワーフなんですか?」

「ドワーフだ」

「ドワーフってのは種族ですよね?」

「――? ドワーフはワシのことじゃ」


 やっと理解できた。


「――お名前がドワーフなんですか?」

「さっきからそういっておるじゃろ」


 ドワーフに非常に似たドワーフさんだった。ややこしい。

 すこし怪訝な顔をさせてしまったので弁明することにした。


「す、すいません。僕らの住んでいた場所では、ドワーフっていう妖精がいるんですよ」

「あんれま! そうなのか」

「ええ、それが非常に優秀な妖精で、鍛冶がすごい上手なんですよ。

 そして格好が、えっとドワーフ『さん』にそっくりなんです」

「優秀な妖精か! そうかそうか!」


 すごい嬉しそうだ。ここまで喜んでくれると褒め甲斐があるよ。


「それでドワーフは何しとるんじゃ?」


 にこやかな顔が一転した。表情がコロコロ変わるドワーフ似のドワーフさん。


「聞いてくれよー爺。酒がダメって言われたんじゃ」

「はっはっは、お前は昔から飲み過ぎだからな」


 やっぱり酒好きですか。


「わ、ワシだって頑張って飲む量減らしとったんじゃよ。でも今年は麦芽の収穫量が少ないからダメじゃと」


 ドワーフさんは涙目になった。というか本当に泣いている。


「泣くほどのことじゃなかろうに」

「酒無しだと働く気にもならん、死んだほうがましだ」


 そこまで酒に命懸けなのはすごいな。俺はそこまで依存的に好きなものはないから理解しづらい感覚だ。


「お酒なら別の村に買いにいけばいいじゃないですか、ドワーフさん」

「だめじゃだめじゃ、他村には行ってはいけない決まりだ!」

「ええ! そうなんですか?」

「ペッガの許しがないとダメなんじゃ」

「ふむ」


 ゼツペさんが厳しい顔になった。


「それはいつからじゃ?」

「ずっとじゃ!」


 ゼツペさんは頭をポリポリ掻いた。


「まあ、ええわ。酒はなんとかできるかもしれん。お前の腕はワシが一番良く知っておるしの。死んだら困る」

「ほんとか! 爺!」

「まあ、ドッガに話を聞いてみんとな」


 見た目はおっさん、中身は子供、ドワーフっぽいドワーフさんと別れて家まで向かう。


「妖精の話、あれはアカイの世界の話か?」

「そうですね、ちょっと脚色しましたけど本当の話です」

「あながち間違っておらんかもしれん。あいつ、鍛冶もそこそこ出来るが、建築に関してはワシの知る限り世界一じゃ」

「世界一……ですか」


 指差した先には村の家。


「五階建の家など、どこに行っても見つからん。それも木造だ。

 それをあいつはほとんど自分一人で作り上げておったからな」



 見た目は大人、中身は子供、腕は超一流なドワーフさん。

 実はかなり縁がある人物なんだけど、それは結構先のお話。

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