73話 金子 日誌を書き始める
金子は授業カリキュラムを考える。
彼は中学教師だが、今回教えるのは六歳だ。
(まずは、生活に関わりの深い内容の方がいいな)
まずは足し算を教えるために準備をすることにした。
クラーク村にはお金の概念がない。お金を計算問題には出来なかった。
(パインちゃんにとって馴染みのあるもの……)
自由に教えることが出来る状況に、金子は非常にワクワクしていた。
夜中になるまで色々考えるのであった。
――金子日記――
【3日目/13日】
本日からパインちゃんに勉強を教え始める。
非常に物覚えがよく、好奇心旺盛だ。
【+】や【=】は知らなかったので一桁の足し算から教えることにした。
一桁の足し算は理解したと思う。
ただ、繰り上がりはまだ難しいみたいだ。
足し算は基礎基本なのでみっちり反復で練習していく予定だ。
勉強がひと段落するまでは、お酒は止めよう!
模範になる先生になろう。
【4日目/13日】
教師二日目。
パインちゃんはやはり物覚えがいい。
繰り上がりもなんとか理解できたみたいだ。
【「」+6=11】こういうタイプの式のほうが楽しんで勉強できるみたいだ。
繰り上がりもこれで上達したと思う。
あとは文章問題はリアリティがあるほうがいい。
おやつのベリーを使った文章問題は非常にウケが良かった。
色々試行錯誤して教えていこう。
【5日目/13日】
狩りの日。
今日は北の山へ狩りに。
フッチーさん達と六名で狩りに向かった。
『探知』は相変わらず便利だったし、役に立ててると思う。
武器が欲しいと話したら、弓をくれることになった。
今日は借りて練習したが、かなり硬かった。
もっと勢いよく引っ張るといいとアドバイスを貰った。
後、禁酒してることを伝えたら驚かれた。
勉強を教えていることを伝えると、「ウチの子も」とお願いされた。
パインちゃんに確認したところ、「一緒に勉強したい」ってことだ。
生徒が二人に増えた。
【6日目/13日】
ワニ革を剥ぐのが完了した。
お昼過ぎまで革を干す手伝いをした。
昼食をご馳走になり、そのあと勉強を始める。
新しい生徒はカズ君九歳だ。パインちゃんと同じく【+】や【=】は知らなかった。
そしてカズ君は繰り上がりが苦手みたいだ。
ゆっくり教えていこうと思う。無理に足並みをそろえる必要は無いんだし。
パインちゃんは足し算が大分楽しくなったみたいだ。
2桁の足し算を教える日も遠くないかもしれない。
焦らず基礎基本を忠実に教えていこう。
【7日目/13日】
今日は朝から勉強を教えた。
ずっと座学は息が詰まるので、北の森まで遊びに行った。
カズ君はなかなか上手くいかないことに焦ってるみたいだ。
「10までは簡単なのになぁ」と言っていたので思いついた。
繰り上がりの時は『10』を先に作ってみればいいんじゃないかと教えた。
野生のベリーをもぎって、視覚的にもわかりやすく説明してみた。
「8+7を8+2+5にすればいいんじゃない?」と提案してみた。
ベリーを動かして10を作るゲームをしてみると非常にテンションが上がってた。
カズ君は『10』が好きな『10マニア』だということが分かった。
パインちゃんは暗記するほうが楽みたい。
二者二様でいい。
あとは野外学習は取り入れようと思った。
【8日目/13日】
狩りの日。
自分専用の弓を貰った。
非常に手に馴染む一品だ! 前回借りたものより少し柔らかい。
何度か練習してみるが中々上手くいかなかった。
ドライ君は非常に弓が上手いので観察した。
よく見ると、矢をひく指に微量な魔力が籠められているように見えた。
真似てやってみると良くなった気がする。
練習あるのみだ。
今日はヘトヘトなので勉強は教えれなかった。
【9日目/13日】
今日も勉強を教えた。
パインちゃんもサブ君も足し算がかなり上達している。
引き算も追加してもいいかもしれない。
ただ、二桁の足し算が完璧になるまで徹底したほうがいいとは思う。
夕方前にドライ君と一緒にサブさんの娘さんが遊びに来た。
名前はラティエさんといい、なんというか非常に美しかった。
十三歳と聞いて驚愕してしまった。
ドライ君とラティエさんも一緒に勉強することにした。
足し算というやり方は知らなかったみたいなので非常に楽しんでいた。
ラティエさんに「また参加してもいいですか?」と聞かれたので快諾した。
下心は無い。断じて。
【10日目/13日】
勉強ばかりもなんだったので今日はマグマカマドを使った簡易バーベキューを実施した。
パインちゃんとカズ君は非常に楽しそうだった。メリハリって大切だ。
マウンテンボアの肉と、朝一で山からとってきたベリーを使って料理をした。
火を使った実験も行ってみた。
燃えるには酸素が必要なことを簡単に説明してあげた。
火種にコップを被せただけだけど、非常に驚いていた。
念のため、火を使った実験は先生と一緒にいるとき以外は禁止だと伝えた。
お隣のアイシャさんが差し入れをもってきてくれて、ついでに手伝ってくれてた。
ロッシさんもひょこっと現れて一緒にご飯を食べていたな。
勉強を教えてる話をすると、子供はいっぱいいるから他の子も教えてやんなと言われた。
大人数になりすぎると他の事が出来なくなりそうで怖い。回答は保留しておいた。
【11日目/13日】
狩りの日。
初めてマウンテンボアに矢が当たった!
未熟ながらハンターの一員になれた気がした。
『探知』を魔法陣なしで少し使えるようになってきたので、弓矢と併用してみた。
結論上手くいかなかった。狙ったところに飛ばす技術が足りない。
後は血抜きが上手くなった。
どんな動物も、基本的には頸動脈か心臓の横にナイフを入れればいいらしい。
素早く血抜きと、臓器の除去、そして可能なら池に獲物は突っ込めと言われた。
狩りは本当に勉強になる。もっと学びたい。
あとシマーさんは本当に優秀らしい。
帰ってきたら腕をもっと盗みたい。
【12日目/13日】
勉強は順調だ。
興味がありそうなことを会話の中で探ってみる。
今後のプログラムも考えないといけないな。
弓の練習をした。
背筋を鍛えねば!
【13日目/13日】
――日記ここまで――
金子、一人クラーク村、十三日目。
今日の夕刻、村長たちは帰ってくるが金子はそれをまだ知らない。
金子は今日も先生をする。
あだ名だった「センセイ」は徐々に本物の「先生」として認知されていく。
今日は、パイン、カズ、ドライ、ラティエに勉強を教える。
歳は六歳から十七歳と、かなり年齢差があるが上手くやっている。
意外だったが、ドライも勉強するのが楽しそうだ。
シマーの息子でハンターをやっているから、勉強に興味ないかと思ったが意外や意外だ。
この期間、彼は非常に充実していた。
狩りは面白い。体育会系のチームワークで獲物に全力を注ぐことが爽快だった。
そして彼は教育の面白さに目覚めていた。
学びたいと思っている生徒に、精一杯伝えれることを伝え、教えれることを教える。
同じ先生でも転生前とは別物だった。
――
教師時代、歳を重ねるごとにやる気失われていった。
学ぶ気がない多数の生徒に、世間体を気にしなければいけない教育現場。
中学の荒具合に辟易していたし、生徒は教師をバカにしていた。
義務教育だから、生徒を辞めさせるなんてできない。
かといってルールを守れないやつでも叱るのもだめ、罰則はだめ、体罰はもちろんだめ。
そんな中で、狂った生徒を鎮圧するなんてどんな聖人かペテン師なのだろうか。
彼は真面目にやってもバカを見ることに気づき、空気のように生きた。
出来るだけ問題は起こさず、起きても出来るだけ穏便に済ませる。
反抗もせず、反発もせず、流れるままに毎日を送る。
反発したのはたった一度だけ。その結果彼は……。
――
金子は、異世界生活が面白かった。
目の前の生徒に集中できて、目の前の獲物に集中できる。
異世界に来て金子は気づいた。
こっちに来る前はしがらみだらけだったことに。
「こうしなければいけない」
「先生ならこうするべきだ」
「大人なんだから我慢しなければいけない」
「人の目を気にしないといけない」
「それは非常識だ」
「男なんだから」
・・・・・・
・・・・
・・
繋がりがなく、過去のしがらみをすべて断ち切ったこの世界で、金子は日に日に異世界が好きになり、異世界人からクラーク村の住人になっていった。
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