61話 三人バラバラ サラバ王都

犬神さんは待ちくたびれいた。結構なじいさんなのにせっかちだな。


「じゃ、行くか」

「お、おいおい、犬の集落ってのはどこにあるんだよ?」


 犬神さんは指をさす。


「北の山ん中」

「ど、どうやって行くんだ?」

「どうやってだと? 歩いていけばええ」

「あ、アカイちゃんの体力の無さ、見ただろ?」

「リンクスもおるし大丈夫じゃ」


 俺は不安を通り越して、どうにかなるだろうという精神に達していた。


「あ、アカイちゃん本当に行くのか?」

「ええ、行ってみないと犬のことわかりませんしね」

「そ、そか」


 決定事項は覆らないと察したのだろう。


「んじゃ~がんばってこい。てかじいさん、何日ぐらいかかるんだ?」

「行くのは二日もあれば着く。そこからはわからんな。小僧次第じゃ」

「ガハハ、王都の次は犬の集落か。忙しいなアカイちゃんは」

「た、確かに」


 ま、設楽さんみたいに村に帰ったら絶対やらないといけないことが無いからな。

 フットワークも軽くなるってもんです。


「あ、犬神さん、何か準備必要ですか?」

「いらん、邪魔じゃ。あ、ストライクバードは連れてこい」


 着の身着のままでいいなんて楽だな。ピコと一緒なのも心強い。


「用がないならこのまま出発するぞ、リンクスも起きたみたいだしな」


 リンクスは元気そうだ。顔をクシクシしてる。愛嬌のあるワンちゃんだよ、まったく。


「ちょっとだけお待ちを」

「うむ」


 設楽さんに愛の告白、ではないけど決意表明だ。


「設楽さん」

「なに」

「じゃぁちょっくら犬の集落まで行ってくるね」

「頑張ってね」

「先生にはよろしく言っておいて」

「わかった」

「あとは、魔法の研究がんばってね」

「そっちは大丈夫よ。あと……」

「なに?」

「私がいなくても、自分で考えてくださいね」

「えへ」

「何よ、気持ち悪いわね」


 渾身の笑顔が気持ち悪い扱いされました。残念です。

 ピコのバッグを担いで犬神さんのもとに。


「準備オッケーです」

「よし、ラッソ出るぞ」

「はい」


 ガン〇ム発進みたいな合図でリンクスは立ち上がった。

 みんなで預り所からブライトウェイまで歩く。

 リンクスには驚いてる人も多いけど、慣れた人も多い。

 犬神さんも人気者だ、挨拶をいっぱいされた。


 時間は十一時前ってとこだろうか。ブライトウェイも人通りが多い。

 リンクスは馬車用の道を歩かないといけないみたいなので、リンクスと俺と犬神さんは馬車用の道に。

 つまりみんなとはここでお別れだ。


「それじゃ出発するかの、王都の外までは歩くぞ」

「わかりました」


 出たらリンクスに乗せてもらえるのだろうか。わくわくするぜ。


「設楽さん、リーダー、皆さんにはよろしく伝えてください」

「ガハハ、村長の目玉がまた飛び出しちまうぜ」

「がんばってね、ピコもバイバイ」

「それじゃ!」


 馬車用の道を歩く、こういう時は見えなくなるまで手を振るものだとおもっていたが……


「おい、もっと速く歩け! 馬車に引かれるぞ」

「うおおお! 馬車速いー!!」


 馬車道ではみんなゆっくり走る。

 馬車のゆっくりは俺にとっては速かった。


 余韻に浸る時間もなく、俺はブライトウェイを疾走した。

 さよなら王都。さよならブライトウェイ!



 第三章 王都 完


――――――――


「何を言っとるんじゃ?」

「いや、だからさ、アカイちゃんは犬神と一緒に山に行ったよ」

「何しに??」

「だ~か~ら~、犬を飼う? ためかな」


 リーダーから村長への説明はまったく理解されなかった。

 そりゃそうである。犬を飼うなんてのは物語レベルの話だ。


「犬ってあの犬じゃろ?」

「そうだぜ」

「懐くわけないじゃろ!」

「いや、犬神のじじいには懐いてるしな」

「そんなもん特別じゃろ!!」


 村長は犬神に会ったことがない。犬を連れているのを見たこともない。

 異世界で犬を飼うというのは、現世で言うなら『トラを飼っている』と同じレベルだろう。


「で、でもよ~、シタラちゃんも可愛がっていたぜ」

「もふもふ」

「ば、バカな」


 村長は困惑する。何度目の困惑だろう。

 ストライクバードの一件で、西から来た三人組はとんでもない奴らかもしれないと認識レベルは上げた。

 次に何かしでかしても必要以上に驚かないように心の準備をしていた。


 魔法インクを三個、魔法ナイフ、魔法ランプ、高価なガラス瓶。

 どれも高価な品ばかりだ。特別なことがない限り買ったりしない。

 彼らはバンバン購入した。だが驚かない。想定の範囲内だったからだ。


 だが、


(犬を飼う? そのために犬神について行って山に入った?何を言っているんだ? おとぎ話か?)


 村長がそう思っても無理はない。それだけ想定外なのだ。



 サブが馬車を短時間停留させる手続きを終えてみんなのところに合流した。

 これで五人勢ぞろいである。


「お待たせしました、今日は空いてるみたいなんで問題なく預かってもらえましたよ」

「お、おお。すまねぇな、サブ」


 村長が俯いている。


「もう、リーダー。また村長をいじめたんですか? だめですよ!」

「ち、ちげーよ! 状況説明しただけだ!」

「状況?? あれアカイ君は? トイレかな」

「いや~それがよ――」


 同様の説明をリーダーからサブへ。


「――ふふふ」

「お、理解してくれたか?」


 リーダーをじっと見つめるサブ。


「な、なんだよ」

「ウソじゃないんですか?」

「嘘なんかついてねーよ! な! シタラちゃん」

「ついてなーい」


 俯くサブ。隣には俯く村長。戸惑うディーン。


「だ~めだこりゃ」


 結局納得してもらうのに一時間ぐらいかかった。

 納得などできないのだが、赤井本人がこの場にいない以上納得して王都を発つしかなかった。


――――


 しぶしぶ出発し、宿場町に向かうクラーク村一行。

 運転席に座るのは、リーダーとサブ。


「ガハハ、なかなか納得しねぇから遅くなっちまったな~」

「しょうがないですよ、未だに納得なんてできないですし」

「頑固だな~、歳か?」

「リーダー。逆の立場だったらどうですか?」

「あん?」

「同じ説明を私からされたと想像してみてください」

「ふ~む」


「ガハハ、信じれねぇや!」

「そういうことです」


 二人は乾燥ナッツを食べながら適度なスピードで馬車を走らせる。

 今回の王都は新鮮な出来事が多く、実はハンター達も非常に楽しんでいた。

 かなり厳重に夜警したので疲れたのは内緒だが。


「しっかしあれだな~」

「なんですか?」


 リーダーは嬉しそうにニヤニヤしている。


「アカイちゃん、村に帰ってくるときは犬に跨ってくるのかね?」

「そ、それは笑えませんね」

「村は大混乱だぜ! ガハハ~」


 クラーク村はここ十年非常に安定していた。

 毎年同じように農耕を行い、狩りを行い、王都に買い出しに行く。

 小さな問題はあるが、基本的に昨年を繰り返す。

 安定してるが刺激も少ない。

 そんな中突如現れた三人組は、良い意味で不安定をもたらした。


「いやはや、本当に意外性のある男ですね、アカイ君は」

「そうだな。ヒョロっとしたガキンチョにしか見えなかったのにな~。

 ん~んん~、ストライクバードの次は犬か。なんかそんな話あったよな!」

「あぁ、鬼を倒しに行くやつですね」

「そうそう! トリとホッグとサルだっけ?」

「なんか違う気がしますね」

「タイトルはたしか『ピーチ男爵』だ!」

「そうでしたっけ……」

「ガハハ、帰ってきたらあいつピーチアカイと呼ぶか」

「あんまりからかうと、犬に噛まれて、ストライクバードに突き刺されますよ」

「こええこええ、ガッハッハ」


 宿場町までの道は一本道であり、安全性は非常に高く快適だ。

 また、いつも以上に鉄鉱石を買ったので荷台はかなり重いようだ。


 そんなわけで馬車はゆっくり走る。いつも以上にゆっくりと。

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