55話 そうだ露店街に行こう
王都四日目の朝が来た。
王都滞在期間は残すところあと二日だが、明日は鉄鉱石などを購入し昼前には王都を出発する。
じっくり王都を堪能できるのは今日で最後だ。
村長たちは順調に物品購入を済ませているらしい。
残りは、最終日に購入する物品と、個別に依頼があった品だけだそうだ。
――――
今日は朝からみんなで西七番地二区の露店街に行く予定だ。
村長とディーンさんとサブさんは買い出しに。
俺たちとリーダーはぐるっと露店を回る。
どうせ設楽さんは寝起きが悪いので、朝一でディーンさんに起こすようにお願いしてある。
モーニングコーヒーを持っていってあげたら。「マッズ」だってさ。
気付けには使えるなコーヒー。
ちなみにランチは三大料理人のノイマンさんの店に行く予定だ。
西六番地に店を構えているらしく、露店街から近いからということだ。
王都で一度ぐらい美味い物が食えるといいな!
ちなみに残り二人の三大料理人は東一番地と西一番地に店を構えているらしい。
超高級店だって。
――――
目的地までは結構遠い。五十分ぐらいだろうか。
露店街がある西七番地二区はすごいらしい。ほぼすべてが露店で占められているそうだ。
「へへ、今日は何買うんだ?」
リーダーは少し眠そうだ。酒が抜けてないんじゃないか?
「今日は特に決めてないんですよ、欲しいものがあったら買おうかと」
「ほ~」
「リーダーは何か買わないんですか?」
「おれか~? 特にないな。土産に酒でも買うかな」
「酒好きですね~」
「ガハハ」
のんびり歩いていると、公園を見つけた。
町中に突如現れるからびっくりする。王都は公園が多い。
「王都って公園多いですね、三番地にもあったし」
「区ごとに必須らしいぞ」
「へぇー」
「なんだっけな、公園、病院、派出所、商業会館だったかな」
「ほうほう」
「区画を広げるタイミングでまず場所を決めないとダメらしいな。
病院は魔法協会、派出所はハンターギルド、商業会館は商業協会が仕切ってる」
区ごとでも三権分立が徹底されているんだな~。すげぇ都市だ。
「ま、めんどくさいルールだらけの王都より、わたしゃ自分の村が好きってもんさ」
「わかる気がします」
「山も無いから狩りもできねぇしな、刺激が足りないのよん。ガハハ」
刺激か。知的好奇心は満たせたけど、野性的な刺激は無いかな。
いや、あった。あれだ。
「でもコロッセウムはすごかったですよ」
「あぁ、武術大会のか」
「大会、見たことあるんですか?」
「ね~な」
「リーダー強そうだから出たらどうですか」
半分冗談で言ってみた。
「へへ、十年若けりゃな~」
「ははは、昨日コロッセウムまで行ったんですけど、ムキムキいっぱいでちょっと萎縮しましたよ」
「んん? ああ、なんだ聞いてねぇのか?」
「何をです?」
「クラーク村に武術大会準優勝の奴がいるぜ」
「う、うそだぁ」
「ガハハ、アカイちゃんも知ってるやつだよ」
だ、誰だ?
「ホレホレ、考えてみろ~」
「え~っと誰だろう……強そうな人?」
ハンターのメンツを思い出す。
リーダーとサブさん以外だと……。あ。
「わかった」
「誰よ?」
「フッチーさんだ」
「せ~いか~い」
「そっか、確かに強そうだ。始めた会ったとき世紀末覇者かと思ったぐらいだし」
「セーキマツなんたらはわからんけど、フッチーは強いぞ~」
笑いをこらえられなくなったサブさんが一言。
「酔っぱらってハメを外しすぎたリーダーをコテンパンにするぐらい強かったよ」
「ウルセー!」
露店街に到着した。
――――
露店街は異様な雰囲気だった。いい意味で。
ごっちゃごっちゃしてた。
左右の店がすべて露店で埋まっている。
オープンしてない場所も少なからずあるが活気に満ちている。
「うひゃ~すげぇ」
「ここは有名だからね。西七番地ならすべて手に入るとね」
「すげ~」
「昼の鐘がなったら六番地で集合だ。それじゃ、リーダー頼みますね」
「おうよ!」
サブさん、村長、ディーンさんは雑踏の中に消えていった。
「さってブラブラ行きますか、ガハハ」
「はい」
俺たちも露店街を歩くことにした。
露店街は面白い。
食材、食品、武器、日用品から雑貨まで色々売ってある。
変わり種だとお守りってのがあった。誰も寄りついてないが。
食材を扱っている店が多い区域を見つけたので、色々値段を見てみる。
リンゴ二百円、ミカン二個百円、レッドベリー五百円。
売り物は百円からスタートみたいだ。十円単位は無いらしい。
たしかに十円玉を見たことないし。
キャベツ、ジャガイモ、ホウレンソウ、アスパラっぽいやつ。
野菜は種類豊富だな。現世と同じものとちょっと似てるやつ、全く知らないのも少しあるな。
値段は…百円から五百円ぐらいか。
相場がわからんから高いか安いかわからねぇな。
果物も同じだな。リンゴ一個百円ってのはデフォルトっぽいな。
ん~バナナはないか。プラム系、オレンジ系が多いな。
パイナップルとか熱帯の果物は無いのかもな~。
お、あの店すげぇ。
「設楽さん見てよ、ベリー屋だ」
「へぇ」
「すげぇ、ベリーいっぱいあるよ」
馴染みのベリーが店先にどっさり並んでいる。
露店のスペースも二つ分だ。
「ほら、にいちゃん、ベリー安いぜ」
店主のおっさんは俺に話しかけてきた。
「いろいろあるんですね~」
「おうよ! 白はあいにく切らしてるけど他は六種類揃ってるぜ!
ベリーに関しちゃ『ルド商店』が品揃え露店一だぜ」
営業文句はサラっと聞き流しつつも、確かに長年やってる感じがする。
六つ並んだバスケットの中には、赤、青、黄、緑、茶、黒のベリーが詰まっていた。
「へ~、買っちゃおうかな」
チラっと設楽さんを見る。
「いいんじゃない」
「毎度ー!」
食い気味で「毎度」言われちゃった。まあいいんだけどさ。
「どれにしようかな」
「八百円で詰め合わせなんかどうだい」
「お、じゃぁそれで」
「あいよ」
袋はサービスでくれた。ビニール袋とかは無いからね。
八百円払い、両手いっぱいぐらいのベリーを買った。
さっそく食べてみることにする。
まずはレッドベリーから。むむ、微妙だな。
次はブルーベリー。ふ~む渋い。
「私も頂戴」
「んじゃ俺も」
設楽さんとリーダーも食べてみる。
「微妙ね」「そだな」
やっぱりおいしくないな。なんでだろ。
全色一応食べたが、イエローベリーが一番マシだった。
「ふ~む」
「見て」
もう一軒のベリー屋を見つけた。
え、値段が異様に高い。さっきのお店より三倍はする。
設楽さんが押してくる。「行け」ってことですね。
店先には優しそうな白髪のおじさん。
「こ、こんにちは」
「あ、いらっしゃい」
「す、すいません、え~っとさっきあっちの店でベリー買ったんですけど」
「ん? あぁルドさんのとこかな?」
「そうです」
「結構、値段に差があるな~と」
「ははは、高いってことかな」
「ま、まぁ」
「ウチのは野生のベリーだからねぇ、値段は高くなっちゃうよ。
ルドさんのとこは近くの町で栽培してるって聞いたよ」
「へ~、すいません、失礼なこと聞くんですけど、売れるんですか?」
おじさんはキョトンとしてから笑い出した。
「はっはっは、正直な子だね。そうだねあんまり売れないよ。
でも馴染みの客は買ってくれるね、美味しいから」
「あはは」
設楽さんは売り物をジッと見ている。
「レッドベリーもらえますか」
「お、お嬢さん買ってくれるのかい」
「はい」
「ありがとうね、三粒でいいなら百円でいいよ、味見したいんだろ?」
「そうですね」
手渡しで三つもらった。三人で食べてみる。
あ、村で食べたやつと同じだ。美味い。
「美味い!」「美味しいわ」「うめぇな」
「はは、ありがとう」
おじさんは満足げだ。
「村のベリーと同じぐらい美味いです」
「おやおや、あんたたちも出稼ぎかい?」
「そんなとこですね、なんでこんなに味の差が出るんだろう」
「なんでだろうねぇ、都会に来ると食べ物はみんなマズくなっちまう。
まぁよかったらまた買っておくれよ」
「ありがとうございます」
二件目のベリー屋から離れた。
「どう思う? 設楽さん」
「土かしらね、わからないわ」
王都は料理がまずく、食材もまずいことがわかった。
理由は未だ不明。
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