54話 夜会と闇会
夕食後、設楽さんと軽く話すことにした。お酒抜きで。
「明日は早めに出発するから、手短にしようか」
「そうね」
明日は露店に行くので、朝早く出ることにした。
といっても、村長たちと一緒の出発を予定してる。
「とにもかくにも、お米をゲットできたのは嬉しいねぇ」
「そうね」
「いや~先生も喜ぶだろうな~。先生元気かな~」
「どうせ飲んだくれてるわよ」
「確かに」
ハンター達と狩りをするとか言ってたな。確実に酒盛りしてるだろうな。
「村でもお米つくれないかな~」
「難しいんじゃない?」
「そうだよね~、経験者いなさそうだし」
「種籾もない」
「そうだよな~」
種籾ってなんだろう。玄米を植えたらはえてくるのかしら?
「まぁ、王都で米が購入できるだけでも満足しますか」
「明日の露店でもっと見つかるかもね」
露店巡りは楽しみである。物価もわかるだろうし。
「しかし今日は収穫多かったね、米もだけど、魔法関連のアイテム手に入ったし」
「そうね」
「魔法インクの実験は、今日からするの?」
「――村に帰ってからにするわ」
「へぇ、意外だ」
「宿の中だと万が一の時が怖い」
「なるほど」
「魔法インクと、ランプはディーンさんに預けるわ。
貴重品だし、リーホ商店側で保管してくれるそうよ」
「へ~」
「リーホ商店はやり手よ。物品の一括購入もそうだけど、馬車の保管、購入物品の保管もやってくれるみたい」
「そうなんだ」
「この宿も安く貸してくれてるみたいよ」
なるほどな、サービスとしては満点だな。関連する業務を一挙に引き受けますって感じだ。
おそらく先代のリーホさんが考え出したサービスなんだろう。あのバカ息子が思いつくやり方じゃない。
「そのナイフはどうするの?」
俺の手には魔法ナイフが。
「ちょっと貸して」
設楽さんは魔法ナイフに力を籠める。
ナイフが少し発光しているように見える。
「ふーん」
テーブルにあったリンゴを切った。
魔力を籠めたときは、スパッと切れた。魔力無だと、ザクって感じだ。
「お~いいね。疲労感とかなさそう?」
「大丈夫」
「プレゼントとしては問題なさそうだね」
「そうね」
魔法ナイフを受け取り、魔力を籠めてみる。
ナイフが少し発光した。
「おお~これが『剛帯』か~」
リンゴを切ってみる。
おお、スパスパ切れる。気持ちいいなこれ!
俺が使える魔法は『発光』と『着火』のみ。
『発光』以外で、気軽に魔法を使えたのは初めてなので結構嬉しい。
『着火』はごっそり持っていかれるので。
「『剛体』……覚えてないの?」
「覚える? なにを」
「ミックに魔法貰ったときのこと覚えてる?」
「ああ、初めて会った日だね!」
「十個の魔法あったわよね」
「……あった」
その中に『剛帯』があったってことか。いやいや覚えてないよ。
「そっか、『剛帯』ってあったんだ。まさか、十個全部覚えているの?」
「『治癒』『剛帯』『眼力』『着火』『跳躍』『走駆』『隆土』『衝破』『氷結』『探知』」
指折りながら、念仏のように唱えられた魔法たち。
「相変わらず記憶力すごいな」
「普通よ」
誰かにとっての普通は、誰かにとっては非常識なんですよ。
「そっか~、『衝破』もあったんだね」
「あの十個の魔法はヒントだと思ってるわ」
「というと?」
「すべて再現できるということよ。
ミックは、十個の中から選んでいいといったわ。そして選んだ三つの魔法の魔法陣をくれた。
恐らくどの魔法を選んでも魔法陣をくれたってことでしょ。つまり、すべての魔法陣は存在する可能性が高い」
「おおお」
十個すべて再現できたらすごいな!
『治癒』、『剛帯』、『着火』、『衝破』、『探知』の魔法陣は知っているのであと半分か!
彼女なら実現できそうな気がする。
「村に帰ったら、全部の魔法が使えるように研究するの?」
「最終的にはね。
まずは『探知』を再現できるのか確認して、そのあとは魔法陣の仕組みを理論化するわ」
「理論化?」
「魔法陣をより細分化して、応用できるようにする」
「ふ~ん」
よくわからんけど、すごそうだ。
「エリッタがペラペラ喋ってくれたのは大きかったわ。
確認したいと思っていた内容の大半は知ることができたし」
「仲良かったもんね、楽しそうだったし」
「え?」
「仲良かったじゃない」
「そ、そうかしら」
「そうだよ」
どぎまぎしてますね~。初々しいやっちゃ。
更に突っ込んでもいいんだけど、魔法の話がしたいので本筋に話を戻す。
「まぁ、魔法研究は進みそうだね」
「やっとね」
「使い道は色々考えてるの?」
「考えてはいるけど、実現可能かは微妙」
「ふ~む」
「MPがネックね」
「MPですか?」
「増やす方法とか、あればいいんだけど見た感じ無さそうだわ。
まぁ……これはいいわ」
色々考えているなぁ。魔法に関しては任せたほうがいいな。
協力できることはしっかり手伝おう。
「さて、そろそろ寝ましょうか」
「そうね。ナイフどうするの?」
俺の手には魔法ナイフ。妙にしっくりくるんだよな。
「おっと、これも預けたほうがいいかな」
「持っててもいいんじゃない? 気に入ってるみたいだし」
「あ~、『剛帯』使えて嬉しいのかも」
「子供みたいね」
「男ってのは、ナイフとかに憧れるもんさ。まして魔法ナイフだぜ」
「はいはい」
呆れ顔だぜ。自分だって魔法好きなくせに。
「じゃぁ俺はトイレ行ってから部屋に戻るよ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
こうして夜の会議は終わった。
――――
宿屋の裏手に潜む影が一つ。
隠密行動は慣れたものなのだろう、気配を気づかれることなどない。
闇にまぎれた影は、まさに気配を消した獣である。
「いい~~夜だな」
「――!」
「へへ、警戒すんなって挨拶しただけじゃねぇか」
影は胸元に隠してあるナイフから手を放した。
「王都で刃物なんて出したら、死刑だろ? ガハハ」
「どうしてわかった」
「わかんなかったよ、やるな~プロだぜ」
「……」
いつも通りのおどけた態度に、影は警戒度合を少し上げた。
「単に警戒してただけだぜ、いるかもしれないと思って警戒してればさすがに気づくさ」
「ふ、これは厳しいな」
影は警戒を解いた。フードを脱いで顔を晒す。
小柄な体躯だが鋭い眼光と真っ黒の髪。目を合わせたら一般人なら竦んでしまうであろう。
年齢は三十代であろうか。
「こんな優秀な男が近くにいるなんて聞いていない」
「依頼主は誰なんだよ?」
「それは流石に言わないさ、顔を見せただけで満足してほしい」
「っま、そうだわな、へへへ」
静寂が流れる。重く粘っこい空気だが二人にとってはどうでもいいことだ。
「狙いはガキンチョ達だろ? 金持ってるからな。ガハハ」
「別に狙っているわけじゃない。動向を探れと言われているだけだ」
「お、そんなこと教えてくれるなんて意外だな」
「もうこの仕事は失敗だ。お前の存在を教えなかった依頼者が悪い」
「ガハハ」
再び静寂。重い空気は徐々に地面に吸い込まれていった。
「それじゃ俺はオサラバするよ」
「ほいほい」
「依頼主には手を出さないほうがいいとは伝えておくよ」
「お、そりゃありがたいな~。へへへ」
「ま、それで警戒を弱めるアンタじゃないだろうがな」
男はまた影になった。影は夜に溶けていく。
「は~、しんど」
一人になった彼は、緊張からくる首の凝りをほぐし肩を回す。
引き続き、夜警に当たるのだ。人知れず。
王都は厳しい法により治安は非常に良い。だが、悪意が無いわけではない。
法を掻い潜る悪意は存在する。
異世界人の二人は、何も知らず眠りにつくのだった。
悪意に気づき、護られていたことに感謝するのは先の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます