56話 異世界の人達だって色々事情があるもんでしょう

ベリーの食べ比べをした後、干し肉とリンゴの食べ比べをした。

 遠めのところから持ってきたものと、王都近くで作られたものだ。

 やはり前者は美味しく、後者は美味しくなかった。

 値段は前者のほうが高いけど。


「結局、田舎の食材は美味いってことかな」

「そこまで気にしたことねぇけど、そんな感じか」


 リーダー的には、王都はマズいぐらいの認識だったらしい。

 理由までは気にしてなかったみたいだ。


「王都の人は気にしないのかしら」

「というと?」

「これだけ味に違いがあるのに、全然人気でないなんて変よ」

「ガハハ、王都の人間は味音痴なんじゃね?」


 設楽さんは考え込む。


「本当にそうなのかもしれないわ」

「おいおい、冗談だぜ」

「食材の良し悪しの原因もわからなければ、王都の人間が味に興味がない理由もわからないなんて」

「ガハハ、八方ふさがりだな!」

「ま、まぁ一旦料理の件は保留しようか」

「――そうね」


 スッキリしないけど、考えても答えはでそうにない。

 俺たちは他の露店を回ることにした。


――――


 土産ついでにいろいろ物色することにした。

 食材は当たり外れが判断しづらかったのでやめた。

 唯一購入したのはコーヒーだ。

 設楽さんはコーヒーが好きらしいので、良さそうな店を選んだ。


「朝みたいにマズイコーヒーかもよ」

「マズくても無いよりまし」


 コーヒーの生豆と呼ばれるものを購入した。

 店主曰く、火で焙って、冷まして、挽いてから飲めだってさ。

 コーヒー豆って薄緑っぽいんだな。知らなかったよ。

 それに結構手間だな~。インスタントコーヒーが出来れば売れるんじゃね?

 インスタントコーヒーの作り方なんて見当もつかないけどさ。


――――


 紙も売っていたので購入した。

 王都内で紙をつくる仕事をしてる人がそこそこいるらしい。

 直売店だったので百枚程度購入した。

 紙もそこそこいい値段だ。

 現実世界なら百枚で二百円ぐらいだろうが、こちらだと六千円した。


 村で気前よく紙をくれたアイシャさんに再度感謝した。


――――


 魔法陣用に革も買おうかと思ったが、リーダーが止めた。

 革なら村でいくらでもとれるってさ。


 その他にも、縄、鉄製品、食器、カバン、布、色々あったが食指は動かなかった。

 唯一設楽さんが欲しがったのがガラス瓶だ。


 クラーク村の窓にもガラスはある。

 だが、村でガラスを作ったわけではないとのことだ。

 湖の町から購入したものを使っているらしい。

 ただし、湖の町でも板ガラス以外は売っていない。


 王都ではガラス瓶や、ガラスのコップなどが販売されていた。

 ガラスの造形は難しく限られた人間しかできない。

 ガラス製品は非常に効果だ。


 ガラス瓶の値段は四万円だった。魔法具に近い値段である。

 迷った末に購入した。実験に使うからとのことだ。


「こりゃ、一番地に住んでるようなやつが買う品だぜ」

「確かにいい品ですねぇ~」


 設楽さんは満足顔だ。

 しかし露店はいいな、欲しいものはすべてそろう。


「これだけなんでも揃ってる露店街は他にねぇよ」

「そうなんですか?」

「そりゃそうだ。他は大体食い物がメインだぜ。

 こ~んななんでもかんでも売っちまうのはここだけさ。ガハハ」


 この露店街は気に入った。活気もあるし見ていて楽しい。

 売りに来るならここでもいいかなと思った。


 お昼の鐘が鳴ったので待ち合わせ場所に向かうことにした。


――――


 六番地二区には人気料理店、「ノイマン食堂」がある。

 ノイマン食堂は人気で王都内に三店舗あるとのことだ。

 特に六番地は本店なので人気がある。


 俺たちは合流してから、ノイマン食堂に向かう。

 お昼時なのでかなり並んでいた。


「うへ~かなり並んでやがるな」

「ほんとですね」


 まあせっかく来たんだ並ぼうじゃないか。

 リーダーはめんどくさそうだけど、気にせず並ぶことにした。

 そろそろ美味いものが食いたいしな。

 客の回転は良さそうだ。それでも三十分はかかりそうだけど。


「しっかし繁盛してやがんな~、ノイマンの野郎」

「ははは、まるで知り合いみたいですね」

「知ってるよ、よくな」

「へ?」

「ま、ナイショだけどな」


 村長が嫌そうな顔をした。


「おい、シマー」

「ッケ、いいじゃねぇか別に」


 なんか変な雰囲気になっちゃたけど、そのまま待つことにした。

 三十分ぐらいして席に通された。


 店内は混雑している。がピークは過ぎたみたいだ。六人席に通される。

 内装は街の食堂って感じで、気取った感じはしなかった。


「いらっしゃいませ! あれ? クラークさんじゃないですか!」

「ああ、ヨナ久しぶりだな」

「お久しぶりです! 皆様は村の方ですか?」

「そうだな、有名店に来てみたいってことで連れてきたよ」

「有名店だななんてありがとうございます。

 あ、こちらメニューです。お決まりになりましたら呼んでください!」


 礼をして去っていった。

 メニューも気になるけど、完全に知り合いじゃないか。


「村長、お知り合いなんですね?」

「あ、ああ」

「どなたなんですか?」

「いや、まあ、その、な」


 あきらかに動揺してるな。突っ込んでいいかわからねえ。


「へ、言えばいいじゃねぇか」

「だ、だめじゃ」

「リーダー、いじめちゃだめですよ」


 リーダーと村長の一悶着にサブさんがフォローする。

 意外なのはディーンさんも困惑していることだ。誰か知らないらしい。


「とにかく、注文するぞ」

「へいへい」


 まずは注文することにした。メニューを見る。

 メニューは普通だな。俺は無難に「チキンのベリーソテー」にした。値段は千円だ。


 注文して五分ぐらいして目の前に料理が並ぶ。

 お、パンは灰色だ。黒パンと白パンの間ぐらいだろうか。

 チキンのベリーソテーも見た目は美味しそうだ。


「いただきまーす」


 むむ、結構おいしい! チキンはまぁまぁ美味い。

 そしてベリーソースが見かけ倒れじゃない。ベリーの旨みが活きている。

 そして付け合せのキャベツの漬物が美味い。チキンにもあうし、パンにもあう。


 しかし……なんだろうこのキャベツの漬物。以前にも食べた記憶がある。

 思い出せないけど。


「設楽さん! 美味しいね」

「そうね、でも湖の町のご飯と同じぐらいじゃないかしら」

「そうかな~。ん~確かにそうかも」


 王都の見かけ倒し料理を食べ続けてきたせいか、異常に美味しく感じたが、冷静に評価すれば湖の町で食べた料理と同じぐらいか。

 調理技術はノイマン食堂のほうが遥かに上だが、素材では湖の町が上回る気がする。

 ただ、王都でこの味なら人気が出るのもわかる気がする。


「っけ、他の店なら半額ぐらいだぜ」


 リーダーが悪態をついた。


「そうなんですか?」

「六番地で食えばそんなもんだろうな」

「でも、これだけ美味しければ人気出るのもわかりますよ」


 リーダーが機嫌悪いのって珍しいな。どうしたんだろう。

 みんなが食べ終わったころ、厨房からコックが飛び出してきた。


「――村長!」

「おお、ノイマン。久しぶりじゃな」

「来ていただけるなら言ってくれればよかったのに!」


 有名料理人ノイマンさんがあいさつにやってきた。

 中肉中背、一般的な中年男性って感じだ。


 ノイマンさんは俺たちをぐるっと見回した。


「あれ……シマーさんですか? てことはサブさん?」

「ああ」「久しぶりだね、ノイマン」

「うわー懐かしいですね! お元気でしたか? もう一五年以上じゃないですか?」


 やっぱり知り合いだったんだな。一五年っていうとかなり長い。

 ノイマンさんはテンションが上がっている。


「へへ、そうだな。おめぇが村を捨てて一五年以上か」


 村を捨てる? 場の雰囲気が急に冷めた。


「す、捨てるだなんてそんな……」

「シマー! やめんか」

「ッケ」


 ど、どうしよう、こういうときは第三者の俺の出番じゃね?

 明るく平和なアカイを演じることにした。


「へ、へぇ! ノイマンさんは村で住んでたんですか?」

「え、あ、そうですね」

「あ、僕はアカイっていいます! 今年から村でお世話になってるんですよ」

「そうなんですか、ご挨拶が遅れました。ノイマンです」


 さてこの後どうしようかな、と考えるうちに話はどんどん進んでいく。

 リーダーは爪の垢を弄りながら再度悪態をつく。


「十年以上も親をほっぽらかして、大成功とは流石はノイマンサンだな」

「……」


 ノイマンさんは黙ってしまった。


「っけ、お代は置いてくぜ」


 千円硬貨を置いてリーダーは店を出て行った。

 そして沈黙。


「すまんかったな、ノイマン」

「いえ村長、僕が悪いんで。皆様も失礼しました。ごゆっくりしていってください」


 そういってノイマンさんは厨房に戻っていった。


「……行きましょうか」

「そうじゃの」


 空気に耐えれなかった俺は店を出ることを提案した。

 美味かった料理の余韻はもう無かった。


――――


 お会計を済まし、店を出てリーダーと合流した。


「もう、リーダー。だめじゃないですか」

「すまねぇな」


 ハンターコンビのやり取りを見て、いつものリーダーに戻ったと感じた。


「どうしたんですか? あんなに怒ってるリーダー初めてですよ」

「へへ、久々に顔見たらイラっとしちまったぜ、すまねぇな」

「しょうがない奴じゃの」

「わりーわりー村長」


 怒った理由は聞いていいんだろうか。気になるしな。

 設楽さんの視線は、「聞け、聞け、聞け」と言っている。


「理由……って聞いてもいいんでしょうか」

「む、ふむ」


 村長は困った顔をしている。参謀サブさんが助け船を出してくれた。


「話してもいいんじゃないですか? 彼らはいつか知ってしまうと思いますよ」

「へへ、そうだろうな」

「まぁ、しょーがないかの」


 三人の合意はとれたみたいだ。

 俺はノイマンさんが村の出身ってことぐらいしか知らない。


「そもそもアカイ君はあの料理を食べて気づかなかったのかい?」

「へ?」

「ベリーを自在に操り、パンと非常に相性がいい料理だっただろ」

「そうですね、ベリーのブレンド具合が絶品でした。キャベツの漬物がパンとよく合うとも思いました」

「それだけかい?」

「それだけ??」


 何の話だ? 隠し味の話なんだろうか?


「あ、そういうことね」


 設楽さんは気づいたみたいだ。


「気づいたみたいだね」

「まぁ、これだけヒントもらえれば」


 まったくわからないんですけど。


「はぁ、赤井さん」

「なんでしょう」

「あのキャベツ漬け村で食べたことがあります」

「あ~たしかに食べた記憶はある、でもいつだっけ?」

「初日」


 初日? 初日はクラークさんを説得して、その後サンドイッチをもらって食べたな。

 あ。


「そうか。確かに食べた」

「ふふ、わかったようだね」


 たしかに味付けも似てた。顔も面影が無いこともない。



「そう、彼はヨドさんの一人息子だよ」 

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