51話 魔法インクと初めての友達

設楽さんは起きてこない。いつものことだ。

他の人の迷惑にならない程度にドアをガンガンして起こした。


買い出しチームは小一時間先に出発している。

俺たちはお昼前に出発した。


「さて、まずは零番地まで行こうか」


 今日の引率はサブさんだ。

 魔法学校に通った経験のあるサブさんなら安心だ。


 零番地までは結構ある。

 今が三番地なので、二、一番地を通り過ぎていく必要があるからだ。

 零番地まで大体、三十分ぐらいかかるとのことだ。


 二番地は昨日通った。なかなか大きな店が多い。

 大量購入するなら、二番地がいいそうだ。

 買い付けは基本的に二番地で事足りるらしい。


 逆に、お買い得品や掘り出し物が欲しい場合は露店を狙ったほうがいい。

 ただ、中心地に近ければ近いほど場代が高いので、


 そして一番地についた。雰囲気が一気に変わった。

 一言でいうと金がかかってる。家も店も人も金がかかってる。

 宝石店とかまさに一番地を象徴していた。

 着衣も質が良い。絹なんだろうか。なんかいい感じだ。


 そして見慣れた生物がいた。ストライクバードだ。

 ヒゲを蓄えた恰幅のいい紳士が、両肩にストライクバードを乗せていた。

 右肩には全身美しい青が映えるストライクバード。

 左肩には青と白が混ざった蒼天のようなストライクバードだった。


「ほぉ」


 鞄に入れていたストライクバードのピコを見て、紳士はこちらに近寄ってきた。


「あ、こんにちは」

「ふむ。いいストライクバードだな」

「ありがとうございます、凄いですね、二匹も」

「なに、ただの嗜みだよ。大事にすると良い」


 そういって去って行った。


「ふぅ、緊張しちゃった」

「ふふ、一番地ではストライクバードを所有してる人が多い。

 先程の方もかなりの富豪なんだろうね」


 一番地では自分の身なりが気まずく感じる。まぁいいんだけどさ!

 一番地を通り抜け、零番地についた。


――――


「ほぉ~すげ~」

「ここが零番地の一区、もっとも特別な場所さ」


 この場所だけは、王都でも一線を画す。

 一区は土地を異常に遊ばせている。

 なんというかセントラルパークっぽい!行ったことないけどね!


 零番地のど真ん中をブチ抜く道は、東西に走るブライトウェイから

 直角にそしてまっすぐに南北を両断している。

 道幅は優に三十メートルを超えている。


 当然のように石畳であり、道の端には灯篭のような設置物がある。

 道や建物以外の場所には芝生があったり、緑豊かな木々が養生されていたりする。

 建物はみたところかなり少ない。八棟ぐらいだろうか。

 各々趣のある建物である。


「建物少ないですね~」

「各協会の総本山ぐらいしか建築が許されてないからね」

「え~っとなんでしたっけ、魔法協会と…」

「三大協会が、魔法協会、商業協会、ハンターギルドだね。

 三大協会が協議することによって、王都は方針を決めているんだ」


 なるへそ~、三権分立ってやつですね。


「ついでにいうと、協会の中にも担当部門がいくつかある。

 たとえば商業協会だと、主に販売許可関係と、賃貸土地管理で別れている」


 販売許可はなんとなくわかるけど、土地管理ってのはなんでしょな?


「ふふ、例えば露店を出したいときは、その地区の販売許可さえ貰えば露店を出すことができる」

「ふむふむ」

「だけど店舗を構えたい場合は、まずは店舗物件を借りる必要がある。

 そして、販売許可も貰う必要があるのさ」

「ん~、なんか手間そうですね」


 手軽にやるなら露店ってことだな。


「そうだね、だから王都で店をやるってのは大仕事なのさ。

 特に一から四番地ぐらいは賃料や土地管理費も高い、その上販売許可費まで発生する」


 店をやるってのも結構ハードル高そうだなぁ。

 その辺は設楽さんと相談だな。

 その設楽さんは灯篭っぽいものに興味がありそうだ。


「そーいえば、この灯篭っぽいのはなんですか?」

「これは確か魔法灯だね。魔力を流して光らせるんだ。

 夜はずっと光ってるらしい。確か魔法協会で管理してるんじゃなかったかな」

「ほうほう、設楽ちゃん何か聞きたいことは?」

「魔力を流すタイミングと継続時間」


 なるへそ。自動じゃないんだろうな。

 夜になったらイチイチ魔力を流しに来てるんだろうか。ちょっと滑稽。


「ふ~む、その辺は直接聞いたほうがいいんじゃないかな。

 私も実際光ってるところはあんまり見たことないしなぁ」


 零番地一区は流石王都の顔だ。

 いかにもお金持ちな子供が遊んでいたり、各協会の重役であろう人が闊歩している。

 俺たちのような一般市民も見かけることは出来るが少数だ。

 居づらさもあるが、非常に癒される場所だ。


 後ろ髪引かれながらも魔法インクを買いに、零番地二区まで進む。


――――


 零番地二区まで到着した。

 一区よりは建物が多いが、それでもゆとりがある。


「二区は魔法協会の要となる施設が多く存在する。

 大魔道病院にはブライト大治癒魔法陣があるし、魔法具の販売および買取はここでしか許可されていない。

 ちなみに魔法学校もここにある」


 待ちに待った魔法インクだ!胸が高鳴るぜ!

 二区に入ってすぐに、魔法ショップが見つかった。


 石煉瓦で建造された二階建ての建物に、『魔法ショップ』と書かれた看板。堅固そうな建物だ。


「さて入ろうか」


 店内は、そこそこの広さだった。

 両脇に陳列棚があり、その先にはカウンターがある。

 そして店員さん以外誰もいなかった。


 カウンターに座る店員らしき人は、何かを読んでいるようで、顔を伏せていた。

 俺たちに気付いたのか、顔を上げた。


 赤い髪で利発そうな女性である。

 なかなか綺麗で、歳は同じぐらいじゃないだろうか。


「あ~、ぃ」


 恐らく挨拶をしようとしたのだろう。

 その時、


「お! エリッタじゃないか!!」


 サブさんは嬉々とした声で呼びかけた。


「……サブさん?」

「久しぶりだなぁ!十数年ぶりだ!」

「あら~、変わらないですねぇ~」

「エリッタは綺麗になったなぁ、あの頃は小さかったのに」


 エリッタと呼ばれる女性は、あからさまにモジモジした。わかりやすい人だな。


「そりゃ~十年以上ですからねぇ~、色々ありますよね~。

 え~っとそちらは? お子さんですかぁ?」

「っぶ!」

「違う違う、村の仲間だよ」

「あれ~、そういえばサブさんって遠いところに住んでましたよね~」

「五日はかかる村だよ」

「それはそれはご苦労様です~」


 サブさんの顔見知りみたいだ。流石頼りになるぜ。


「ははは、ゆっくり話したいところだけど、今日は買い物に来てね」

「ほほう、ランプですか?」

「いや、今日は魔法インクだ」

「魔法インク!?」

「そうなんだ、彼らが欲しがっててね」


 エリッタさんがぐるっと俺たちを眺めた。


「ご挨拶が遅れました、エリッタと申します」

「あ、ご丁寧にどうも、僕がアカイで、こちらがシタラです」

「宜しくお願いします。それで、魔法インクが欲しいんですか?」

「そうですね」

「ち、ちなみに用途を聞いてもいいでしょうか??」


 用途か。なんて説明したらいいんだろう。

 設楽さんが欲しがっているからってのはおかしいな。


「設楽さん」

「私が説明するわ」


 設楽さんに任せることにした。

 言葉足らずならばフォローすればいいし。


「私たちは魔法陣を持っているので、それを複製できるならしたい。あとは研究用ね」

「ま、魔法陣を持ってる? どゆことですか?」


 設楽さんが手の平をエリッタさんに向ける。


「こ、これは……! ちょ、ちょっといいですか!」


 カウンターを飛び越え、こちらに来る。

 どこかの警察ドラマみたいに本当に飛び越えてきた。はしたない店員だ。

 座ってたからわからなかったけど、エリッタさん小さいな。百五十センチぐらいかな。


「これはブライト様の大治癒魔法陣と近いですね。でもこんなにコンパクトなんて」

「ちなみに『治癒』が使えるわ」

「やはり、系統は同じですか。こ、これはどこで?」


 神様にもらったんだよ、なんて言えない。


「僕も魔法陣あるんですけど、僕らの村で伝統的に受け継がれてる魔法陣なんです」


 俺も手の平を見せた。聞かれると答えれないので話をずらす。


「ほほう!」


 じーっとみている。顔が近い。やべぇ可愛いな。


「これが?」

「魔法陣ですよ?」

「こんな複雑なの見たことないですよ!

 3重構造?? この部分は『衝波』に似てなくもないけど」


 俺の手を握って、まさに観察している。ち、近いって。


「な、何の魔法陣なんですか? いやいや! 待ってください! 当てますよ! むむぅ~」


 一人でしゃべって一人で悩みだした。忙しい人だ。


「ど、ドリル」

「へ?」

「ち、違うか。あ、穴を掘る!」


 何て答えていいんだろう、沈黙。


「むむむー! 降参ですぅ~」


 実演したほうが早そうなので、『着火』を使った。


「んあ!? 火が出た!?」

「はい、『着火』です」

「すごい!」


 再度手を引っ張られた。俺の左手大人気。


「そうか!ここで摩擦に切り替わっているのか!

 うはー! すごい! なるほどね~!」

「え~っともういいですか?」

「あ!すいませんですぅ~」


 そそくさとカウンター内に戻って行った。


「えへへ、ちょっと興奮しちゃいました」


 興奮したのはこっちのほうだっつーの。

 女の子に触られてると好きになっちゃうんだぞ!


「ん~、大丈夫かな。

 あ、ちなみに魔法具及び魔法インクの転売は禁じられています。その点は大丈夫でしょうか?」


「問題ないよね?」

「ない」

「では販売可能です。一瓶十万円ですがいかがしますか?」


 やっぱり十万円か。出された瓶はアルコールランプぐらいのサイズだ。

 うひゃ~いい商売だぜ。


「三つ」

「み、三つですか! ありがとうございます!!」


 一気に三十万使っちゃったよ、男前だぜ設楽ちゃん。


「使い方は?」

「そうですね、魔法陣を記入したい場所に書いていただければ大丈夫です。

 紙だともったいないので、なめした革の裏側部分とか、木材に使うケースが多いですね!」


 陳列されている、ランプを持ってきて魔法陣の部分を見せてくれた。


「こんな感じです」


 見せてもらったランプは、以前サブさんの家で見たことのあるランプと同じタイプだった。


「あ、サブさんも持ってましたよね」

「そうだね。まぁここで買ったしね」

「……他も見たい」


 設楽さんがランプを観察して呟いた。


「もちろんいいですよ~待ってくださいね」


 陳列棚から様々なタイプの魔法ランプを見せてくれた。

 設楽さんは本気の時の表情だ。

 こういう時は邪魔しちゃいけないんだけど……ちょっと顔が怖い。


「――外側の円が違う」

「お。そうなんですよ~。外輪って呼ぶんですけど、用途によって記述方法が変わるんですよね~」

「……用途??」


「はい~。たとえばこの小さいランプは光が強いけど持続はしません」


 エリッタさんが実演してくれた。

 魔力を込めると、パッと光る。結構強めの光だ。

 魔力を止めると、すぐ光が消えた。


「へぇ~懐中電灯っぽいね」

「……」


 設楽さんは懐中電灯っぽいランプの魔法陣をじっくり見ている。

 自分の手の魔法陣と比べたり色々思慮してるようだ。


「こっちは?」


 一番でかいランプを指差した。


「ふふ~、こちらが一番高価ですね! 八万円の一品ですよ」


 でかいランプというが、電気スタンドだなこれ。高さ五十センチ近くある。

 エリッタさんが魔力をこめる。

 やさしく大きな光が灯る。


「ふぅ~、ここからがすごいところです!」


 ランプの光は、手を放したのに消えない。


「……持続時間は?」

「一時間ぐらいです」


 設楽さんは喰いいるように魔法陣を眺めた。


「――これは」


 エリッタさんは自慢げだ。


「外輪の中を循環してる。違う、塞き止めてるほうが近いわね」

「おぉ~そうなんですよー! 良くわかってらっしゃる!」

「ねぇ、ここの部分なんだけど」

「はいはい?」


 女の子同士で魔法談義が始まってしまった。

 サブさんのほうを見たら、『こりゃしょうがないね』ってリアクションをしてくれたよ。


 設楽さん。友達出来て良かったね。

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