50話 王都deお買物

王都は広い。適当に歩くと確実に迷う。

 みんなについて行ってるが、一人で宿屋に戻れそうにない。

 マス目状に拡がる王都は、全部が同じような道に見えてしまう。


「みなさんよく道がわかりますね。僕はもうここがどこかわかりませんよ」

「番号で覚えると良いよ。私たちの宿は、西三番地の一区だ」

「西三番地、一区ですか」

「そうそう、中心は零番地で西に進むごとに西一番地、西二番地と増えていく。東も同じだね。

 そして、ブライトウェイに最も近いのが一区、北に進むにつれ区番号は大きくなる」

「なるほど!」


 覚えやすいな。マス目状の都市のメリットだ。


「一番賑わっているのが、一番地だね。

 零番地は少し特別でね、零番地の一から三区までは特別自治区となっている」

「なんかかっこいいですね!」

「ふふ、零番地は魔法協会、商業協会、ハンダーギルドの三大協会総本山が居を構えている。

 ほかには、裁判所があったり、大魔道病院、あとは大武道場コロッセウムなどがあるね」

「武道場ですか!?」

「年に一度、武道大会があるんだよ。三つの大きな流派が凌ぎを削っている」

「へぇ~!」


 まぁ、俺には関係なさそうな話だけどな。喧嘩とかテンでダメだし。


「だから零番地は特別で、一番地が一番人気がある。

 なかでも一番地の一区はとんでもないステータスなのさ」


 貴族のようなやつらが住んでるんだろうか。

 リーホ商店は西三番地一区だから、そこそこハイステータスなんだろう。


「あとはブライトウェイの南側だな。

 正式には例えば、西二番地、南一区というんだが、

 侮蔑を込めて、西二番地の裏一区ということが多い」


「ほほう」


 なるほど、部落のようなものであろうか。どこでもあるものだな、そんな場所は。


「ここで面白い話としては、ブライト様のお屋敷は零番地裏二区にあったというとこかな」

「ほほ~、なんか逸話がありそうですね!」


 だいたい慣れてきたぞ、ブライト様の完璧ぶりには。


「そうだね、差別を嫌ったブライト様は自身が裏番地で住むことによって、平等を願った……だったかな。

 実際、差別意識は根付いているからそこまでお話としては浸透してないんだよね」

「ふ~む、差別ってのは難しいですね」


 俺は、差別とか大嫌いなんだよな。

 若かりし頃の赤井少年は、勉強は普通にやってたけど、出来が悪かった。

 でも歴史は嫌いじゃなくて色々本は読んだ。

 植民地の歴史とか、インディアンが迫害された話とかスゲーむかついた記憶があるよ。

 それ以来、弱い者いじめとか、差別する奴は嫌いだったな。


 ま、それは置いといて、俺のつたない理解力で王都ブライトを図解すると


――――――――――――――――――――――――――――

    ……三、二、一西←零番地→東一、二、三……

三区

二区

一区    ☆        ★

--------------------------------------------------

           ブライトウェイ

--------------------------------------------------

裏一区

裏二区

裏三区


――――――――――――――――――――――――――――

 こ~んな感じで王都は広がってるんだろうな。

 ★のとこが、零番地一区で、俺たちの宿が三番地一区だから☆のとこだろう。


――――



「まぁ、明日には零番地に行くことになるさ」

「へ?」

「ふふ、魔法インクが買えるのは零番地二区、魔法協会直轄の魔法ショップだけだからね」


――――


 今日の買い出しは、脱臭草を買いに二番地五区へ。


 鉄鉱石は、重いので最終日に馬車ごと購入しに行くらしい。

 香辛料や、塩などは軽いので後回しとの事だ。

 非常にかさ張るので、脱臭草が最優先となった。


 というか、明日以降は俺たちを案内するために、

 リーダーかサブさんが付きっきりになるのを見越して、一番人出が必要な脱臭草を今日にしたそうだ。

 ありがてぇ話だよ、まったくさ。


 脱臭草はトイレ用の草だからな、脱臭草と風化石だっけかな?

 初日にトイレに戸惑ったのは懐かしい記憶だ。


 トイレ系用品専門のお店が『ウォッシュトイレ専門店』。

 ウォッシュさんが店主のその名の通りトイレ系の専門店だ。

 扱っているのは、脱臭草と風化石のみ。わかりやすい。


 風化石ってのも初めて見た。

 普通の石って感じだけど、水をかけるとすぐ蒸発するらしい。

 へぇ~って感じだ。


 そして村長はそりゃ~もう死ぬほど脱臭草を買った。

 前回は本当に金欠だったらしく、やりくりに必死だったそうだ。

 今回は余裕をもって買えるとの事でとんでもない量だ。 


 ちなみに脱臭草を売っている店のトイレは豪勢だった。

 流石、餅は餅屋、トイレはトイレ屋ってとこか。

 この世界は男性用小便器ってのは無い。全部穴方式だ。


 しかしなんでこう、トイレってのは冷えるんだろうねぇ。ブルブル。

 豪勢なトイレを堪能させてもらったよ。 


 袋いっぱいの脱臭草を購入し、男衆は担いで宿まで向かった。

 さながらサンタクロース4人組である。


 王都二日目の買い出しが終わった。


――――


 なかなか……なかなかのディナーを味わった後、俺と設楽さんは二人で話をすることにした。


「ふぅ、どう? 王都は」

「どうと言われてもね」

「あ、ちゃんと村の発展に使えないか考えながら生きてますよ! 先生」

「……よろしい」


 俺は目の前の事に集中すると、目的を忘れちゃうからな。

 設楽さんといると、目的を忘れさせてくれない。

 ありがたい存在である。


「そうね、物産の加工はすべきね」

「加工?」

「第二次産業まで引き上げるべきってことよ」


 第二次産業……なんだっけそりゃ。


「はあ、赤井さんって勉強嫌いでした?

 簡単に言うと、第一次産業は、農業とか狩りで材料や素材を得ること。

 第二次産業になるとそれを加工して得られる製品ですね。

 第三次になるとサービス業とかになるんで、少し先になりますけど」

「ほほ~う」

「おそらく小麦ってすごく安く買われてるんでしょ?

 まぁ、この味覚音痴都市だと小麦の味がどれぐらいわかるのかわかりませんけど」

「ひ、ひでえな」


 設楽さんは、注いであるお酒をグッと飲んだ。


「だってそうじゃないですか。

 こ~~んなまずい食事に疑問を持たずに大半の人間が過ごしてるんですよ?

 集団催眠でもかけられてるんじゃないかって疑いたくなります。

 むしろ異世界の人間は味覚が無いのかと過程したくもなりますけど、

 クラーク村の人間は普通ですしね」

「ウンウン、そうだね」


 あれだな、こんなけお喋りなのは果実酒のせいだな。

 甘味が強いから、お酒嫌いな設楽さんも気に入ったようだ。


「確認しないといけないのは、王都で通常流通している小麦と、村の小麦の品質の差ですね。

 それが顕著なら、ブランド米みたいに売る方法もありそうですし。

 まぁ、それじゃインパクト薄いでしょうから、なにか加工して宣伝は必要でしょうね」


 グビグビ


「はぁ~、そうなると露店でしょうか。

 露店で小麦製品を売るっていうのが現実的なのかしら。

 その辺も確認事項ですね。なによりは魔法インクですけど」


 グビグビグビ


「しかしまぁ、移動手段なんですよね~最重要項目は。

 王都までが遠すぎるんですよ。

 馬以外に乗れるものがあればいいんですけどね~。

 理想で言えば、一日で王都と村を繋げれるようになれば、

 流通の革命が起きるんで成長促進という観点では完璧なんですけどね。」

「そういえば、デカイ犬使いがいるって聞いたな」


 グビグビグビグビ 


「流通……か。

 いっそ商社販社を作るってのはアリかも。

 まぁ、小麦だと意味無いか。でも加工品なら」


 俺の話は華麗にスルーされたよ。てかこの娘飲み過ぎだよ。


「し、設楽さん、明日もあるんだしそろそろ止めようね」

「ん?……うん」


 ちくしょ~かわいいな。

 フラフラして血色の良くなった彼女は妖精みたいだ。

 俺は設楽さんを部屋に送り届けた。



 ……もちろん連れ込んだりしませんよ。ヘタレですんません。

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