52話 エリッタ脅迫

魔法談義は尽きない。可愛い女の子二人が

 あーでもないこーでもないとやってる姿は微笑ましいんだけどな。


「ピィ~ピィ~」


 ピコが鳴き出した。


「おや。おやおや! ストライクバードじゃないですか」

「はは、お腹すいちゃったのかな?」

「あ~、お昼時ですしね~」


 設楽さんが軽く睨んできてる。『魔法談義の邪魔スンナ!』ってことだろうね。

 しゃ~ねぇなぁ。


「よかったら、お昼ご一緒しませんか?」

「え、でもお仕事がぁ」

「お昼休みとかないんですか?」

「いや~お客さんいないときにサクサク食べちゃうんですよ」

「……お客来ないじゃない」


 ズバっというねこの子は。


「え、っまっまぁそうですね」

「いいじゃない、閉めちゃえば」

「いやいや!怒られますって!」

「誰に?」

「上司です!」

「お客に説明するためって理由にすればいいでしょ」

「ん~でもぉ~」


 もじもじエリッタ可愛い。


「――魔法インク三個」

「っう」

「買うのやめちゃおっかな」

「そ、そんなぁ」


 悪い客だなぁ。まぁ微笑ましいんだけどさ。


「ほら、貼り紙書いて!」

「わ、わかりましたよぉ~」


 エリッタの拉致に成功した。


 フォローしておくと、売り上げが無いわけではないみたい。

 魔法ランプに関しては、予約販売が基本らしく、実際に店舗で買っていくケースは少ないらしい。


――――


 さて、食事だが魔法協会の食堂は却下された。サボッてるのばれるからね。

 仕方ないので一番地、西二区まで行き食堂に入った。


「た、たかーー!」


 リズエットの叫び声が響く。

 なになに、ランチセット三千円か。

 ふ~む高いのかな? 三千円の価値がわからない。


「高いんですか? これ?」

「結構ね。三番地だと、同じ内容で千円ぐらいかな」


 なるほど、確かに高いな。

 ホテルのランチビュッフェが同じぐらいの値段だったなぁ。

 現実世界の話ですけど。


「ここは奢るんで大丈夫ですよ」

「え! やったぁ~」


 わかりやすいエリッタ。

 まぁ、手持ちは結構あるからなぁ。ストライクバード様様。


 ランチは結構豪華に見えた。

 牛ステーキと、スープと、白いパンだった。

 味はご愁傷様です。


「おぉ! うまい! すごい!」


 一人テンションあがってる。まぁ奢り甲斐があるよね!

 ささっと平らげて本題に移る。――本題ってなんだろう。


 俺とサブさんは食後の酸っぱいコーヒーを飲み、設楽さんとエリッタは魔法談義を再開する。


「さっそく聞きたいんだけど」

「は~い」

「魔法陣の種類はいくつあるの?」

「種類ですか~?『発光』『剛帯』は使いますね。

 あとは『衝波』、『浮遊』の魔法陣は知ってますけど、使いませんしねぇ」


「『剛帯』……物体を強化する」

「そうですそうです。ナイフとか刃物に使うと切れ味と耐久力が上がるんですよ」


 おお、便利そうじゃん。


「へ~」

「……赤井さん、覚えてないの?」

「ん?」


 何の話だろ。侮蔑の目で見られているぜ。


「ちなみに『剛帯』ナイフはお店で取り扱ってますよ」

「後で見せて」

「わっかりました~」


 エリッタはルンルンしながら考えてる。


「あとはそうですねぇ~。ブライト大魔法陣ですかねぇ」

「それ、サブさんにも聞きましたね」

「ああ、有名だからね」

「ブライト大魔法陣は、大魔道病院にありますよ。基本的には使わないですけどね~」

「見れる?」

「見学ですか~? 多分難しいですね」

「ふむ?」


 サブさんが首をかしげた。


「私が王都にいたころは自由に見れたと思うんだけど」

「そっか、そうでしたね、最近厳しくなったんですよ」

「理由はなんだい?」

「なんでも、賊が忍び込んだとかで警備を固めるようになったんですよ」

「賊? 魔法陣でも盗む気だったのか? 地面に描かれているのに?」

「そうなんですよね~、でもそれ以上は教えてくれないんですよ、

 『ブライト様の遺した大切な魔法陣だから、守らねばならん!』ってことです」

「ふ~む、疑うわけじゃないがなかなかお粗末な話だね」

「それ以上は、魔法協会関係者の私からは言えません~ご容赦を」


 まぁそりゃそうだよね。でもどんなものかは気になるな。


「ちなみにどんな魔法陣なんですか?」

「大の大人より大きい魔法陣です。その魔法陣の上に立つだけで傷が癒えるんですよ」

「立つだけ? なんで?」

「へ? なんでと言われても……」

「魔力は誰が注ぐの?」

「注がないですよ。

 常に起動してるんです。誰かが魔力を流さずとも癒しの効果が発生してます。

 ブライト様の慈悲の力だってことです」

「実は循環式で、誰かが魔力を流してる可能性は?」

「それも無いと思います。そういう魔法陣じゃないので」

「絵にかける?」

「紙とペンありますか?」


 紙とペンがすぐに出てきた。

 エリッタは思い出しながら書き出してくれる。


「こんな感じですね、すこし雑ですけど」

「単純な魔法陣ね」

「そうですねぇ、シタラちゃんの魔法陣みたいに複雑じゃなかったですよぉ」


 さらっとシタラちゃんって呼んでるな。


「この魔法陣じゃ、それほどの効果はないはずなのに。いや、サイズか」

「まぁ~武術大会の時なら見学できると思いますよ」

「いつなの?」

「百日後ぐらいだったかなぁ、すいません、あんまり興味無くて詳しくは……」

「――まぁいいわ」


 一旦話が途切れた。


「魔法陣に関してはいいわ、魔法は何か他にないの?」

「他というと?」

「『衝波』とか『浮遊』以外よ」

「無いですよ」

「無い?」

「さっき言ったので全てですよ。

 『発光』、『衝波』、『浮遊』、『剛帯』だけです。まぁ大魔法陣は除きますけど」

「馬鹿な……」

「いや~だから、シタラちゃんやアカイさんの魔法陣には驚きました。

 あんなの見たことないですもん」


 設楽ちゃんが頭を抱えている。


「あ、新しい魔法の開発とかは行われていないの?」

「少なくとも魔法協会では行われてません。ブライト様のご意向を無視することになるので」

「意向?」

「ブライト様おっしゃいました。魔法は人を堕落させる可能性がある。

 魔法は乱用されぬように魔法協会がしっかり管理すること。

 今ある魔法を守り、正しく使うのだ。――ですね」


 スマホ依存みたいなもんかな。

 道具は正しく使え、道具に使われるな的な。


「ふ~ん、そう。わかったわ」

「それに、魔法インクは一般人では手に入らないので、研究もできないんですよねぇ~にゃはは」

「そう……ね」

「ふぅ~そろそろお店に戻らないと、ほかに何かありますかぁ~?」

「最後に一つだけ」

「どうぞどうぞ」

「新しい魔法陣を作ることは問題ないの?」

「ん~~、売らないのであれば」

「王都で魔法具は売ってはいけないってのを守れば問題ないのね?」

「はい」


 設楽さんは真剣な顔で少し微笑んだ。そして呟いた。

 「ありがとう」と。


――――


 お会計を済ませ再度魔法ショップへ。


「あ、『剛帯』のナイフですよね! 待っててください」


 エリッタはカウンターの奥から四本ナイフを持ってきた。


「はい、魔法ナイフです!」

「へぇ~」


 四本のナイフはサイズの大小はあるがほとんど同じ形態をしていた。

 刃の部分は鉄製で切れ味は良さそうだ。持ち手の部分は木造で二か所打ち留められている。

 なんか、ファミレスでステーキ食べる時のナイフを思い出したよ。

 一点違う点は、刃と持ち手の境目の部分に木造の丸い装飾が施されている。

 おそらくその部分に『剛帯』の魔法陣が刻まれているのだろう。


「見てのとおり、ここの丸い部分に『剛帯』の魔法陣が刻まれています」

「見えないわね」

「そうですね、内側に印字されてますんで」

「見たい」

「そうだと思って持ってきましたよ!」


 デデーンと言わんばかりに薄い冊子を取り出した。


「非売品ですが『発光』、『衝波』、『浮遊』、『剛帯』の魔法陣が記載されてるんです!」

「見せて」

「ふふ~、どうしましょうかね~。何せ非売品ですからねぇ~」

「魔法インク三つ」

「ささ!どうぞ!」


 変わり身の早い人だ。


 二十ページぐらいの本には、『発光』の魔法陣がメインで記載されていた。

 この冊子は、魔法具が故障した際に点検用として店に置いてあるとのこと。

 『剛体』のページには、シンプルに一つだけ魔法陣が記載されていた。


 非常にシンプルな魔法陣だ。丸の中に涙型の紋様が入っている。それだけ。


「なかなかシンプルですね」

「『剛帯』は簡単な魔法ですからねぇ、意図せず発動している人も多いみたいですよ」

「へぇ~」


 設楽さんは、他のページをガンガン見ている。メモまでしだした。


「鬼気迫るってのはこのことですね」

「こんな真剣なお客さんはじめてですよぉ」


――――


 十分ぐらい読んで満足したみたいだ。


「もういいわ」

「結構読み込んだね」

「王都へ来た目的は果たせた」


 二日目で言い切れるのはすげぇな。


「それじゃぁどうしましょうか、魔法インク三つだけでいいでしょうか?」

「あのサイズで一番持続時間長いランプを頂戴」


 指差したのは、高さ三十センチほどのランプ。キノコ型でかわいらしい。


「はいーありがとうございまーす」

「アカイ君は何かいらないのかい?」


 サブさんが提案してくれた。実はちょっと考えてたんだよな。

 ランプはいらないけど、ナイフは少し欲しい。


「設楽さん」

「何?」

「ヨドさんへのプレゼント、このナイフでどうかな」

「いいんじゃない」

「よ~し」


 四つのナイフから一つを選ぶ。

 一番大きいのは刃渡り四十センチ。徐々に小さくなり三五、二十五、十五センチぐらいだ。

 一番でかいのは論外だな。あんなデカイ包丁を振り回すヨドさんは怖い。

 一番小さいのは果物ナイフっぽいから微妙だな。


「じゃぁ、この二番目に小さいナイフもください!」

「あーりがとうございまーす!」


 本日のお買いもの

 魔法インク ×三 →30万円

 魔法ランプ ×一 →6万円

 魔法ナイフ ×一 →5万円


 合計 41万円


 う~む、なかなかの豪遊具合ですな! 満足満足!

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