47話 王都への道中とブライト王
湖の町から王都へはほぼ真っ直ぐである。
必然としてスピードが上がる。
湖の町から宿場町、宿場町から王都へは各々一日で着く。
おそらくそうなるように作られたのであろう。
「まっすぐですねぇ」
「そうだね、王都では道路の整備を非常に重要視している。
全王ブライト様が強く推奨したらしい。王都に入ると驚くと思うよ」
「ブライト?」
サブさんは少し驚いた顔をした。
「そうかブライト王を知らないのか」
「す、すいません」
「まぁ、仕方がないさ。ただ物語になるレベルの人物だから、覚えておいたほうがいい」
「へ~」
「ふふ、逸話を聞くかい?」
「是非是非」
「ブライト王、全知全能の王として全王と呼ばれていた。
八十年ぐらい前突如現れて、繁栄と秩序をもたらした」
「ふむふむ」
「とある村で水路を整備し、農地改革を行い放牧を取り入れた。
それにより、不安定だった食糧事情を改善。
蔓延っていた悪漢たちを次々懲らしめ、村は平和に。
素晴らしい村はやがて町となり、町は拡張し、都市となった。
そしてこう呼ばれるようになった。王都ブライトと」
「へぇ~」
なんともまぁすごいけど、つまらない物語だな。綺麗すぎるぜ。
「っま、こんな感じで子供たちに読み聞かせているのさ」
「そっか、サブさん子供いますもんね」
あの超絶美人の十三歳だ。
「ブライト王の話はたくさんあるからね。読み聞かせには困らないよ」
「へぇ~、実在したんですよね?」
「ははは、もちろん実在の人物だし、王都ではそれは禁句だな」
「え」
「ブライト王は未だ強い威光を持っているからねぇ。
特に魔法協会のやつらに聞かれると、尋問されかねない」
「マジですか」
「王都では魔法協会、商業協会、ハンターギルドが強い発言権を持っているからね。
その中でも特に魔法協会はブライト王に対しての信仰心が強い」
教祖ってわけだな。怖い怖い。
「ふ~~む、気を付けないと。そっか八十年前の人物なんですよね?」
「そうだね」
「だったら、もういないでしょうし、次は息子が王にとかになったんですか?」
「王はいないよ」
「え?」
「そもそも、いつ死んだのかわからないんだ。むしろ死んだ報告が無い」
「どゆことですか?」
「三十年ぐらい前に海を渡り旅に出たとなってる」
「旅?」
「物語では、王都の永遠の平和と繁栄を確信され、新たなる未開の地のために旅立った、となってるね」
「か、神っぽいですね」
「まぁ、魔法協会はブライト王を神格化してるからねぇ。
真実は闇の中、だけど疑ってはいけない暗黙のルールって感じさ」
「ふ~む、敢えていいますけど。やっぱり架空の人物っぽいですね~」
なんか、悪徳宗教の教祖みたいな人物に感じてしまう。
「まぁ、言いたいことはわかる。だが、実績があるからねぇ」
「実績?」
「そうさ。不安定だった世界が王都を中心に安定したことに始まる。
そして原始的だった魔法を、誰でも使えるように広め、魔法陣の開発、魔法学校の設立を行った。
故に魔道王と呼ばれた。」
「圧倒的な魔法を用い、空を跳び、悪漢を吹き飛ばした。
その強さは悪さえ魅了する輝きだった。
故に格闘王とよばれた。」
「疑心暗鬼蔓延る商いの世界に、貨幣を導入し、
平等と自由な町にした。
故に商業神と呼ばれた。」
「ほ、ほお」
「まぁ、後は法をつくったりね。
いろいろあるんだけど、半分は作り話だと思う。
ただ半分は事実じゃないかなっていうのが私の見解かな」
「へぇ~、ほんとにすごい人だったんですね」
「まぁ、王都ではブライト王に関しての批判は禁句だね。他には犯罪行為も厳禁だよ」
「そりゃまぁ、大丈夫かと」
「本当に罰則が厳しいからね、だから王都では基本的に誰かと同行するようにしてくれ」
「了解しました!」
ブライト王は気になるけど、問題を起こさないようにしないと。
――――
かなり余裕をもって宿場町へついた。
宿場町は湖の町より大きいけど、なんというか魅力に欠ける感じだ。
この町の目的は非常にわかりやすい。
宿、農業、牧畜、林業などが行われている。
王都に対しての必要物資を生産するのが目的の町だ。
湖の町に比べて、娯楽要素の薄い町だ。
ただ、チーズが手に入るのはありがたい。
お土産にチーズを買っていこうと決めた。保存もできるしね。
「これでチーズドッグとかつくれるねぇ~」
「!」
設楽さんよりグッドサインを頂きました。ありがとうございます!
これと言って話題は無いのだが、違和感は食事の際に気付いた。
この世界ではポピュラーな、酒と、パンと、肉だ。
食べたとき、空疎な感覚を受けた。なんか薄いのである。
牛の肉だと聞いて、テンションが上がったんだけど、食べてみると微妙だ。
不味くは無いんだけど、ホールラビットに比べたら。
あれだな、○岡はんのアユはクズや、って気分だ。
味付けはいい感じに見えるんだけどね。
なんかグレービーソースっぽいいい匂いのソース使ってるし。
顕著だったのはパンである。
黒パンが本当にまずいのである。
黒パン自体そもそも美味いとは思ってなかったけど、
村で食べてるうちに、素朴な旨味を感じれるようになった。
温めると美味かったし。
だけど……このパンは美味しくない。
肉と食えば食えるけど、単体では絶対に食べたくない。
小麦の味がしないのかな~、よくわからん。
粘土細工を食べているような感じだった。
噛めば噛むほど口内に虚無が広がっていく。
酒ももしかしたらそうなのかもしれない。俺はわからないけどさ。
実は村の酒が美味すぎて先生は毎回ヘベレケになってたいたのかも。
……いやそんなことはないか。
先生、元気かなぁ。
――――
翌日は少し遅めの出発だった。
今日の夕方には王都に着く。やはり興奮はするな。
朝一少し走った。
毎朝の日課、『着火』魔法は継続して使っている。
結構慣れてきている。いつか魔法陣の無い右手でも出せるように練習しようと思ってる。
片手から両手ってのはなんか燃えるよね。『着火』だけに。。。スベッテマスネ
ピコは大きくなってきた。
フッチーさん特性のバッグでは少し狭くなってきた。
時折カバンから顔を出しているのがたまらなく可愛い。
俺も設楽さんもメロメロって感じ。
可愛いものを見るときの彼女は、いつもの仏頂面から少女になるからね。
宿場町の近くを軽くジョギングして宿屋に戻った。
今日は設楽さんも目覚めがよいようだ。
町が活動する前に王都へ向かった。
五日の移動。長いようで……長かった。
ただ新鮮な経験だらけだ。毎日が好奇心を刺激する。
宿場町から王都までの道は圧巻であった。
道は整備され、馬車が非常に走りやすい道が続く。
途中から、歩行者用の石畳と馬車用の道が併設される道になった。
眼前に王都らしき都が見えるころには、視界の両側に並木道が並ぶ。
文化水準が違いすぎる。村では石造りの建造物なんて一つもない。
道だって、村人が歩いたからできた道だ。獣道ならぬ村人道。
並木道から見える王都は、比較にならないほど巨大であり、荘厳だった。
ブライト王の威光を感じずにはいられない景観を眼にし、
期待からくる興奮を感じつつも、これほど成熟している都市に自分の力など
無力なのではないかと焦燥感を感じていた。
道中 完
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