46話 湖の町とマーマイト
湖の町ウィンダーブルは賑わっていた。
まぁ、村はTHEのどかって感じだったからな。
人がワイワイしてるってのは久々な感じだ。
入り口らしき所から入り、サブさんと別れた。
馬を預けてくるらしい。
余談だが前回は馬を預けるのもケチったとのことだ。
余裕があるって素晴らしいな。頑張った甲斐があったものだ。
町に入ると石畳の大通りがあった。
道幅は十メートル以上あり、緩やかに下っている。
道の先には湖がある。湖まで一直線の大通りだった。
「おぉ……すげぇ」
しかしこの世界は一本道が好きだな。
クラーク村もセンターに真っ直ぐな道がある。
一本道ブームなのだろうか。
俺達一行はブラブラと大通りを直進する。
通りには、飲食店、売店、宿屋などがある。
なんというか、温泉街の商店街という感じだ。
「この辺は、町の一等地だからな、基本的には用はねぇさ」
リーダーがつぶやいた。
「――今回は『湖岸亭』にいくぞ」
「マジで?」
リーダーが眼を見開いている。「ウソだろ?」と聞こえてくる顔だ。
「サブにも伝えてある」
「あそこ、たけぇぞ?」
「今回は余裕がある、それぐらいバチは当たらんじゃろ」
「ん~、ま、そっか。しっかしねぇ~」
リーダー、ニヤニヤしとる。
「なんじゃ」
「あのケチんぼ村長がねぇ」
「お前は酒抜きじゃな」
「そ、そりゃねぇぜ!」
町は魚類特有の匂いがした。
売店からはアユの塩焼きみたいな匂いがする。
湖料理を想像しつつ、湖岸に向けて進む。期待は高まるぜ!
ちなみに町の作りは大きく分けると
北側⇒漁猟区
中央⇒観光・商業区
南側⇒農業区
北側がそもそもの町の成り立ちだそうだ。
ディーンさんが色々教えてくれるが、「詳しいですね」というと
「うふふ、ここが生まれなのよ」
だってさ。
いろいろ聞こうかと思ったが、村長に「さっさと行くぞ」と話の腰を折られちゃった。
町の売店を眺めつつ十分ほど歩き、
まさに湖岸に居を構える最高の立地の店、『湖岸亭』についた。
店の手前で、村長が宿を確保するために別れた。
「先に入っとれ」との事なので先に入る。
内装はなかなか古風に感じた。
黒っぽい木造の店内、窓際はガラスを多く使っているので開放感がある。
灯りには蝋燭を使っているようだ。
提灯のような作りだが、鉄製だと思われる。
薄暗い感じだけど、客のいるところは明るい。
恐らく『発光』を使っているんだろう。化学と魔法の融合だ。
「いらっしゃいませ」
「おう、四人だけど後で二人合流する」
「それじゃ、奥のテーブル席へどうぞ~」
「あいよ~」
湖側ではないが奥のテーブル席に通された。
「んじゃ~適当に頼みますか」
メニューを見てみる。
「なになに」
八品とあとは飲み物か。
・ドレークフライ
・シェルフライ
・フィッシュフライ
・ポテトフライ
・ドレークステーキ
・チーズ
・マーマイト
・パン
なんだこの胃もたれメニュー。設楽さんもにが~い顔をしている。
「あ、揚げ物ばっかりですね」
「ん? まぁそうだな~、あ、飲み物どうすっかな~。やっぱエールかな~。」
「じゃぁ、お任せします。あ、設楽さんは水にする?」
「うん」
頼んだ後、かなり早く出てきた。
飲み物と、大皿にフライ四種、ドレークステーキ、チーズ、パンは別皿で。
「んじゃ~かんぱ~い」
村長とサブさんを待たずすぐ飲む。さすがリーダー。
酒は、まぁ普通だな。酒の味わからんから何とも言えないけど。
さて料理だが。う~~むパンが進みそうだ。
まずはフライ系四種類にチャレンジ。
ドレークフライは、うむ、なかなか美味しい。ササミのから揚げって感じ。
シェルフライ、貝だな。うむ、なかなか美味しい。貝はいいな、久々に食べた。
フィッシュフライも、なかなか美味しい。魚も久々だな~。
ポテトフライもなかなか美味しい。お、ホクホクだ。
よし! 飽きた! 味付け全部同じなんだもん。
素材は美味いのに、味付けが残念だなぁ。
ドレークステーキは、これも同じような味付けだな。
いや美味いんだけどね。味付けが単調すぎる。
チーズが一番ありがたいな。味のアクセントになる。
それに村だと乳製品がほとんどなかったからな。
あ~パンとチーズが美味いな~。
ただ、油っぽすぎるぜ。
「へへ、どうだ? 美味いか?」
「え? ええ、なかなか」
「はっはっは、ヨドばぁさんの飯に比べたら食えたもんじゃねぇだろ」
「ちょ! そんな大きな声で」
「まぁ事実だしな、飯は村が一番うめぇさ」
う~む、たしかに村のほうが美味い。というかヨドさんが特別なのかも。
「お、始まってるようだね」
サブさんと村長が一緒に現れた。
「お、サブ、馬は問題ないか?」
「問題ないよ、明日の食糧も調達しておいた」
「うっし、すまんな! ねぇちゃーん、エール三つ!」
「リーダー、飲み過ぎないように」
「へ~い」
まぁ、湖の料理のレベルはわかった。高級店でこんなもんだから他でも大差ないだろう。
「どう? 設楽さん」
「まぁまぁ」
「な~んかジャンクフードっぽいよね」
「イギリス料理よ」
「え?」
「イギリス料理まんまよこれ」
「そうなの?」
「『マーマイト』ってイギリス料理だもの」
「そ、そうなんだ、有名?」
「有名よ」
「へ~、知らなかった」
「食べてみたら?」
「そうだね」
なんか目線をそらされた気がするけど、まぁいいか。
「すいませ~ん、マーマイトください」
全員がこっちを見た。
「え?」
「アカイちゃん、チャレンジャーだなぁ」
「ほんとほんと」
「大丈夫なの?」
「――物好きめ」
顔を伏せて一名大笑いしてるよ。
おい、そこの設楽。お前だよ。
「ハイ、おまたせしましたー」
器の中に、黒い物体が入っていた。
「な、なんだこれ」
「マーマイトよ」
「だ、だからなんなのこれ? い、イカ墨? 泥みたいだけど」
「エールの酒粕だぜ」
「さ、酒粕? うわっスゲー匂い!」
俺の二十三年の人生経験で一度も経験したことのない匂いだ。
「ほらほら食べてみなよ」
サブさんまで悪乗りしてるぜ。
「ど、どうやって食うんですか?これ」
「パンにつけるんじゃね?」
「たしか、そうだったわねぇ」
なんか曖昧だぞ。ディーンさんまで食べ方知らないのかよ。
でもまぁ頼んじゃったしな。
パンにつけた。ドロだぜこれ、良く言えば漉し餡か??
「やっぱくせぇ」
み~んな見てる。食わないとダメな流れやんこれ。
恐る恐る食べた。
表現できない味だ。他に類するものが思いつかない。
好き嫌いはほとんどないんだが、なんだろうこれ。まぁ、まずいよ。
最大限のにが~~い顔をした後、大爆笑が巻き起こったぜ。
そこの設楽と村長。
あんた達大笑いするキャラじゃないですからね!
マーマイトは栄養価抜群。知ってる人は知っている。
俺の心に『マーマイト』が刻まれた。
――――
マーマイト事件の後、少ししてからお会計をした。
リーダー曰く、「結構なお値段」とのことだ。
日も落ちたので『発光』を使いながら宿まで向かう。
店も基本夜は閉まる。健全な世界だ。
まぁライトが無いから仕方ないのだが。
宿はなかなか微妙な位置にあった。
大通りの一角を曲がり、再度曲がった場所に位置している。
一人では来れそうにない。
「曲雲」という宿屋だった。
まぁ、明日も早いので寝るだけだけど。
胃もたれしそうだったけど、水をグッとのんで眠りについた。
――――
「そろそろ起きろ~」
リーダーの号令で目が覚めた。
「おはようございます」
「う~っす」
飲んでたのに目覚め良いな。
あの程度飲んだうちに入らないのかもなぁ。
俺以外はもう身支度を始めている。一人を除いては。
「設楽さん、朝だよ」
「ぅぅぅ」
これまでは馬車で寝ていたから、そのまま出発していた。
宿をとることになったので、朝が弱い点が仇となった。
どんまい設楽ちゃん。
ゾンビ設楽の手を握り無理やり出発した。
朝の大通りは誰もいなくて、なんか渋谷の朝を思い出した。
日中賑わってる場所が、閑散としてるとなんか変な高揚感ある。
目が覚めたら人類が滅亡してた系の妄想が膨らむ。俺だけかな。
入り口では馬を連れてサブさんが待っていた。
「おはよう」
「おはようございます」
ハンター達は頼りになるなぁ。
進行方向から日が昇りだした。
振り返ると、湖が太陽に照らされている。
たしかに、この美しさは素晴らしいなぁと思いながら町を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます