48話 王都到着

なけなしの銭、懐に

  たどり着いた、王都の麓


  みんな、冷たく見えるけど

  俺だってそう見られているさ


  夢も希望もあるけれど

  ままならぬのが世の常さ


  人はたくさんいるけれど、

  俺は一人さ、王都ブライト


 吟遊詩人と思われる人物が歌っていた。路上ライブだ。

 有名な曲らしい。おじいさんが感慨深そうに聴いている。軍歌っぽいな。


 ギターでも出来れば、昭和歌謡でも演奏して、音楽業界に殴り込むんだが。

 拙者オタマジャクシは全くわかりませぬ。残念。


「行くぞ、アカイちゃん!」


 俺はリーダーに呼ばれ宿屋の中に進んだ。


――――


 想像していた王都は俺の安易なイメージとは違った。

 王都ってぐらいだから城があって城下町って感じかな~と思っていた。

 城壁もあるのかな~と思ったがどちらも無かった。


 リーダー曰く、「王都はどんどん人が増えてるからなぁ、壁なんて作れねぇよ」ってことだ。


 まず驚いたのが大通りだ。

 またかって感じだけどこれは本当に驚いた。


 果てしなく真っ直ぐ続く大通り。道幅はなんと二十メートル以上ある。

 整備された馬車道と石畳の歩道が並行に走っている。片側には水路がある。

 歩道-馬車道-馬車道-水路の順番だ。


 特筆すべきは歩道だ。

 人通りはそこまで多くないが、しっかりとした歩道なのである。

 左側通行がしっかり徹底されてる。ここだけ見れば現代社会より素晴らしい。


 そんな美しい道が先が見えないぐらい真っ直ぐ進んでいる。

 そして横道も真っ直ぐである。見た感じ縦と横の道しかない。

 正直、奇妙さを感じるぐらいの幾何学的な美しさである。

 碁盤の目のような街の作りは京都を思わせる。


――――


 夕刻前、王都の中を馬車が駆ける。

 とはいっても非常にゆっくりだが。


 設楽さんとリーダーは馬車前方の席に座っている。

 前方の景色が見たそうだったので俺が席を交代した。

 まぁ、俺も前方の景色見たかったから立ち見で見てますけどね。



「しかしすごい通りですね」

「へへへ、果て無く続くブライトウェイってなもんよ」

「そんな名前なんですか?」

「正式名称は忘れちまったけど、そっちのほうが有名だな」

「でもこの通り不自然ですね…。

 露店とか、この通りに面した場所で一つもないですね」


 ちっちっちとリーダーが指を動かす。


「ブライトウェイでは商売は一切禁止だ。この道は移動に特化した道なのよん」

「破るとどうなるんですか??」

「そ~だな~、す~ぐハンターギルドの治安維持部隊が出てくるぜ。

 一回目なら許してくれるかもしれね~けど、二回やったら、檻の中よ、へへへ」


一拍置いて


「アカイちゃん。サブにも言われてるかもしれねぇが。王都でやばいことは禁止な。

 慣れるまでは単独行動もすんな。お嬢ちゃんもな」


 キリっとした顔で言われた。

 リーダーのマジ顔って初めてだな、ちょっと怖い。


「りょ、了解です」

「……はーい」


 またいつものダラっとリーダーに戻る。


「っま、二人なら大丈夫だろ。

 ただ、ブライト法はむちゃくちゃ厳しいからな。

 この道でゴミ捨てたら、五万ぐらいとられるんじゃなかったかな?」

「五、五万?!」


 し、シンガポールみたいだな王都。


「そうだぜ~、喧嘩なんてした日にゃ、す~ぐ監禁さ。」

「本当に厳しいんですねぇ、ちょっと甘く見てましたよ。

 そういえば、あんまり高い建物無いですね、王様はいないって聞いたんですけど、王宮とかあるんですか?」


 馬車から王都を見渡すとわかる、王都は平坦だ。

 一~二階建てがメインで三階建て以上はほとんどない。

 果て無く続くように見えるが、遮蔽物が少ない分かなり遠くまで見える。


「王宮? ね~よそんなもん」


 あれ、王様はいないって聞いたな。王都なのに王がいない。これいかに。


「で、でも王都なのに王もいない、王宮もないとなると

 たこ焼きにタコがないようなもんですよ!」

「タコはわかんねぇけど、王も王宮もねぇよ。

 そもそもブライト王だって王じゃなかったんだ」

「んん? どうゆうことですか?」


 リーダーが宙に眼をやり考えている。

 思い出しているのかな?


「まぁ、有名な童話だがな~ゴホン」


「民衆はブライト様を王様と呼びましたが、ブライト様はそれを嫌がりました。

 そして、ブライト様はこうおっしゃいました。

 『この町の発展は、みんなの努力の結果です。だから私は王になる気はありませんよ』と」


「ちゃんちゃんってな、がはははは」


 リーダー、童話読むの下手だな。子供三人もいるくせに。

 まぁ、なんとなく言いたいことはわかるけど、聖人すぎてちょっと気持ち悪いぜ。


「じゃ~王はそもそもいないんですね?」

「そゆこと~っと、へへ、色々説明してやりたいとこだがそろそろ着くぜ」

「そういえばどこに向かってるんですか?」

「へへへ、見てのお楽しみさ」


 果て無く続くと思われる大通りを左手に曲がった。

 道幅は半分程度になった。それでも馬車がすれ違えるぐらいのサイズだ。

 人の往来は多いが、あまり生活感の無い通りだ。


「おっし着いたぜ!」


 三階建の非常にデカい建物に着いた。

 『この建物は特別だ!』と主張するような、金のかかっていそうな塀があり、洒落た鉄扉が出迎える。


 建物は土台部分は石造りであり、その上から木造建築である。

 他の物件と比べるとわかる、豪勢な建物だ。

 そもそも木が違う。深みのある黒い木材が重厚感を漂わせていた。


 そして併設するように、馬小屋がある。

 十頭は入れるであろう余裕のあるつくりである。


「は~、すげぇ」

「リーホ商店本店だぜ」

「商店ってことは、ここで売るんですか??」

「ま~、今日は遅いし明日だろうけどな。積荷だけ預けとくんだよ」


 そういえば、どうやって売るんだろうと思っていたが、ここなら一括で買い取ってくれそうだな。


 村長が受付っぽい人に話をつけ、積み荷の運びだしをお願いしたようだ。

 俺たちは馬車から降り、事が終わるまでじっとしていた。


「――行くぞい」


 めんどくさそうな顔で村長がこっちに来た。

 連れられるままにリーホ商店を後にした。


 アカイは明日には知ることになる。

 この豪勢な館が伏魔殿であることを。


――――


 リーホ商店から歩いてすぐのところの宿に泊まった。

 この宿もリーホ商店の所有物ってことだ。

 なかなか凄腕の商人だ。


 長旅で疲労もたまっているので、今日は出歩かず、宿で晩御飯を頂くことにした。


 実は王都のご飯楽しみにしてたんだよね。

 いい評判は聞かないけれど、実は美味しいかもしれないし、不味けりゃ不味いで怖いもの見たさだ。


「お待たせしました」


 お、なかなかいい香りだな!

 目の前に並んだのは、

 ・ポークソテーっぽいもの

 ・黒パン(おなじみ)

 ・チーズ


 まぁ、見た目は悪くない、匂いも悪くない。

 ディーンさんが取り分けてくれた。


「はいどーぞ」

「あ~すいません」


 さぁて実食だ。

 黒パンは宿場町で経験済みなので美味しくないだろう。

 このポークソテー風な料理をいただくぜ!


「いただきまーす!」


 パク! モグモグ……??

 パク!! モグモグ……あれ?


「ふ~む」


 不味くは無いぞ。でもなんだろう。

 しょっぱいな。濃いめの味付けなのに…薄っぺらい感じだ。


「これはポークですかね?」

「プレーンポークをベリーソテーしたんでしょう」


 ディーンさんが教えてくれた。

 プレーンポークは王都近くの農場で捕れる豚らしい。

 ベリーは出来合いのブレンドしたベリーソースだと。


 村で食ったポークは焼いただけでも美味かったのになぁ。

 ベリーソースも匂いだけって感じだし。


「まぁ、こんなもんじゃろ」


 こんなもんか。まさに見かけ倒し料理だった。

 パンの不味さも厳しい。

 湖の町ではドレークが結構美味しかったから一緒に食べちゃえたけど、これはきついぜ。

 なんとなく食えるチーズと一緒に黒パンを流し込んだ。


「なんでこんなに差があるんだろうねぇ、設楽さん」

「何が?」

「いや、ご飯」

「素材の差でしょ」

「まぁ、そうだよね~」


 王都に近ければ近いほど料理がまずくなる。

 村⇒湖の町⇒王都

 美味い⇒まあまあ⇒マズイ


 う~むよくわからん。


「あれ、なんでしたっけ、王都にもすごい料理人がいるとかなんとか」

「バルディン、フェデール、ノイマンだね」


 サブさんが答えてくれた。


「へぇ~、食べたことありますか?」

「あるわけね~ぜ、あ~んな高っかい店。ガハハ」


 リーダーは酒で出来上がってきてる。

 飲んでいるのは。果実酒かな? おっさんがカシオレ飲んでるみたいでちょっとお茶目だ。


「村長はありましたよね?」

「ん? ああ」

「どうだったんですか!?」

「……まぁ、そこそこだな」

「ふふふ、『ヨドさんのご飯のほうが美味い』って言ってましたよね」

「む、まぁ、その、そうだな」


 村長&ディーンさんのやり取りってのは新鮮だな。

 なんか癒されるわ。


「そうなんですね~、一度は行ってみたいなぁ……」

「やめとけやめとけ、高いだけだ」

「ふ~む」


 サブさんが助け船を出してくれた。


「行くなら同行するよ」

「サブゥ?」

「若い子の好奇心を削いじゃだめですよ、リーダー」

「むむ」


 まぁ、行く時間が確保できるかわからないけど、可能なら行ってみたい。


 王都の初日はゆっくり過ぎていった。

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