38話 ギガントクロコダイルと磯野家

人だかりになっている。

 中心にいるのは設楽さんだ。

 めんどくさそ~な顔で何かしてるみたいだ。


「――はい、次」

「おお、痛くないぞ!」


 なんか『治癒』してる。これは『治癒』待ち行列か。


 あ、村長だ。


「お疲れ様です、村長」

「あぁ」

「ど、どうしたんですかこの賑わい」


 なんかバツの悪そ~な顔してる。


「いや~、オイラが怪我してさ!

 村長が治してくれるっちゅうから連れてこられたんよ」


 隣のヒゲ面のおっさんが喋りだした。


「ひでー傷だったのによぉ! す~ぐ治っちまった!

 みんなに自慢したらこの騒ぎよ、あっひゃっひゃ」

「うむ」


 た、たしかにみんな大小傷はあるけど、みんな『治癒』してもらってるのか。


――――


「はい、次」

「すまんが手の平を頼むわ」


 溜息交じりで『治癒』する。


「――」

「おお、治った!」


――――


「はい、次」

「わしも手の平を」

「――」

「おお! あ、ついでに腰も頼めるかの~?」


 設楽さんはいつも以上にめんどくさそうな顔してる。


「腰は関係ないだろ!」

「いつも痛がってるじゃないか!」

「い、いいじゃねぇか少しぐらい」


「……はぁ」


 指先をおっさんの腰に向けた。


「ん? おお、痛みが引いてく」


 『治癒』すげぇ、万能やん。


――――


「はい、次」

「わしゃ肘を」

「――」

「おお~すごいな! そ~いやお嬢ちゃん名前はなんて言うんだ?」

「――シタラよ」

「へ?」

「はぁ――シ・タ・ラ」

「おぉ、タラっていうんか、タラちゃん先生ありがとうな」


 いつの間にか磯野家になってしまったようだ。


――――


 こうしてタラちゃん先生の『治癒』タイムは延々と続いた。

 このままじゃワニ狩りが進まないので、リーダーが号令をかけて午後の部がスタートする。


 だけど、ワニ狩りが終わるまで『治癒』の列は途絶えることが無かった


――――


 三匹目は失敗した。

 ワニが餌を離してしまったのだ。


「まぁ去年は二匹しか捕まえられなかったんだ。気を取り直して次にいこう!」


 へ~、去年は二匹か。ならいいペースだな。


 四匹目は簡単に捕獲完了した。

 サイズが少し小さかったからだ。

 そしてハンター達が相談している。


「リーダーどうする? これで仕舞にしますか?」

「へへ、あと一匹はいけるだろ」


 フッチーさんが空を見て言う。


「時間的にあと一回だな」

「よし! ラスト一匹がんばるぞ!」

「「「おおお」」」


 慣れた手つきで肉付の石をワニの縄張りへ。

 お、デカイワニがヒットした! 今までで一番でかいな。


「よっしゃ! 引っ張れー!!」


 ジャイアントクロコダイルのボス、ギガントクロコダイルは想像以上に重く、力強かった。


「力自慢に代われ! 代われ!!」


 リーダー・サブさん以外のハンターは全員綱引きに加わった。

 先生は引き続き引っ張ってるが、俺はリタイヤした。

 ぶっちゃけ農民のオッサンのほうがパワーあるからな。


 ワニは綱引きは三十分以上経過している。掛け声に合わせ、全力で引っ張る。

 誰一人手を抜いてないのはわかるのに、なかなか引きずり落とせない。

 みんな疲労困憊である。

 俺はサブさんのところに駆け寄った


「サブさん、縄の予備は無いんですか?」

「え?」

「縄の予備を連結して、人数を増やしましょう」

「なるほど」


 サブさんは軽やかに縄を用意し走り出した。


「リーダー、縄を連結させる!」

「わかった!」


 縄と縄を念入りに結び、ためしに五人で引っ張る。


「よし!リーダー!いけるぞ!」

「よっしゃ!手の空いてるやつは縄ひっぱれ!」


 三十人で引っ張り、ワニはズルズル引っ張られた。

 最終的には四十人近くが引っ張り穴に落とせた。


 ずどぉぉぉおおおん


「「「やったぞ!!」」」


 歓喜の声が上がると同時に、ハンター達は岩の準備へ。

 ギガントクロコダイルのサイズだと穴の大きさが手狭なんだろう、かなり暴れている。

 頭の位置をしっかり確認し、投石準備へ。

 念入りに10回ほどワニの頭部に岩をぶつけた。


「よし、もう大丈夫だろう!」


 リーダーが縄梯子を使い下へ。

 ギガントクロコダイルを縄に縛り付けようとしたその時、


「まだ生きてるぞ!!」


先生の大きな声が木霊した。


「っむ!!」


 ワニの尾が、勢いよくリーダーを狙う!

 虚を突いた攻撃だが、しっかり反応し回避する。

 が、左手を掠めた。


「っち!」


 肉がえぐれているのがわかる、やばい。


「投石準備だ!急げ!」


 サブさんの号令で投石部隊は急いで準備しなおした。

 リーダーは穴の端に退避した。そして慌てず、すぐ止血と応急処置を行った。

 そして指示を出す。


「こっちは大丈夫だ! 念入りに仕留めてくれ!」


 指示を出した後、リーダーは縄梯子に捕まったので、大急ぎで引き上げた。

 生還したリーダーの左手は血まみれだった。


「ひゃ~助かっちまったぜ、センセーには借りができちまったな」

「だ、大丈夫ですか?」

「おう、これぐらいなら……、ちょっとしんどいな、へへへ」


 手分けして治療班を呼びに行く。

 俺は設楽さんのもとへ走った。


 俺たちが駆けつける前に治療は始まっていた。

 隣では妻の二人がオロオロしている。


「――しょうがないか」


 設楽さんは『治癒』を発動した。

 ただ、いつもより、光が強い。

 リーダーが驚いているようだ。


「へへへ、すげぇな、『治癒』ってより『再生』だな」

「今やってるのは『特別』なんで」

「へぇ~そりゃ嬉しいね」

「意識保ってくださいね、気絶されると多分効果落ちます」


 三分ぐらい『治癒?』をしつつ、並行して通常の医療処置を行った。


「ふう~、もう大丈夫ですね」

「助かりました」


 奥さんっぽい人がウルウルしながら感謝してる。


「すまねぇ~な、わりいがちょっと寝るぜ」


 治療中に最後のワニも終わり、これにてワニ狩りが完了した。

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