37話 ワニワニワニ

村長宅の前、掲示板の内容。

 ――明日、ワニ狩りを行う。

 ――明朝、村南部に集まること。

 ――ほら貝を鳴らす。


「ぶおぉうぉー」


 おお、あれがほら貝の音か。

 ほら貝ってRPGっぽいよな。リアルで見たことねぇわ。

 さて、行きますか。

 いつも通り、ピコをカバンに忍ばせて出かける。


 南部には村人が勢ぞろいしていた。

 200人ぐらいだろうけど、なかなか壮観だな。

 あ、リーダーだ。


「ようっし! 年に一度のワニ狩りだ!! まずは男ども先に出発!!」

「「「おお!」」」


 お、今日は凛々しいじゃねぇの。


「じゃぁ、設楽さんとは一旦お別れだね」

「そうだな」

「頑張って」


 あ、フッチーさんだ。


「あ、おはようございます」

「おぉ、アカイ君に先生」

「おはようございます」

「ワニは初めてか」

「そうですね、なんか緊張です」

「なかなか壮観だぞ」


 フッチーさんは速足で駆けて行った。


 川沿いを進む。

 北の山から流れてくる川は、南に進むにつれ段々広がっていく。

 三十分ほど進むと、川は河になった。

 どんどん、アマゾンっぽい河になっていく。な、なんかいそうだ。

 さらに三十分ほど進んだ先に野営テントみたいなものがあった。


 天幕は張り直してるんだろうけど、作りは古い。

 毎年使ってるんだろうなぁ。


 河を覗いてみる。


「うぇ!?」


 で、でかい。ワニだ。

 名前を付けるならジャイアントクロコダイルだろう。

 昔、バナナワニ園でみたサイズとは違う。

 四、五メートル以上あるぞあれ。


「せ、せんせ」

「あ、あぁ、でかいな」

「あれ、恐竜ですよ」

「違いない」


 あんなのどうやって釣るんだ??

 捕まえて、殺すなんて出来るのか?

 不安と期待がワンセットで胸を支配した。


 ハンター達は準備を進めている。

 もう大方完了しているようだ。


「よーーし!準備たのむぞーー!」


 リーダーの掛け声で、村人みんなが散らばった。

 俺たちはよくわからず、みんなに着いていった。

 あれ? 大きく分けて二グループに分かれているな。


 村人は慣れた手つきで、準備完了している。

 俺たちは傍観していた。


「くるぞ!!」


 最前線はハンター達が仕切っていた。

 飲んでる時とは違う、真剣な表情だ。


「今だ! 引けーー!!」


 村人二十人ほどが縄を引っ張り出した!

 縄の先にはワニが餌を噛みついている!


「よーーし! 柵に引っ張り込めぇ!!」


 みんな全力だ。ロープの長さ的に二十人が引っ張れる数の上限。

 全力で引っ張り、へばったら交代する。


 なるほど、引っ張った先にあるのは

 高さ五メートル程度の穴だ。長方形で縦×横×高さが五メートル×七メートル×五メートルぐらい。

 あれならワニでも落ちそうだ。


 ワニは踏ん張る。

 突進されたらヤバくね? と思いながらも人とワニの戦いから目が離せなかった。

 人間と野生との戦いがなんか美しかった。


「そぉーーれ! あと少しだ!!」


 残り五メートル、四、三、二、ワニの顔が穴の先端に差し掛かった。

 ワニも粘る。前足で踏ん張っている!


「「「せぇーーの!」」」


 ドオーーーン!!

 ワニが穴に落ちた!


「やったぞ!」


 歓声があがる、俺も大興奮だ!


「よおーーし! 投石部隊頼むぞーー!」


 穴の中のワニは暴れる様子はなく、じっとしている。

 そこへ十メートルを超える巨大な丸太をセットし始めた。

 穴の上に、斜めにセットする。


 なるほど、丸太を支点にして、岩をワニにぶつける気なんだな。

 投石部隊のリーダーはサブさんだ。


「皆さん! いきますよ! 引っ張ってー!」

「「「よいしょー」」」


 村人たちが投石用の縄を引っ張る。

 丸太を支点に岩が上に持ちあがる。

 岩は縄に結ばれており、もとから穴の中にセットしてあった。

 こちらは十人体制だ。

 岩がワニの脳天の上で宙づりになる。


「そのまま、そのまま」

「よっしゃいけるぞ!」

「いきますよ! 三、二、一、ハイ!!」


 ドォーン!

 ワニの脳天に岩が直撃。

 それでも死なない。ワニはタフだ。


「二回目いきます! きつい人は交代して!」


 ドォーーン!


 ――五回目でワニは絶命した。



「は~すっげ」

「これは興奮するな!」

「ちょっとビビっちゃいましたけどね」


 俺たちは大興奮。血がたぎるってやつだな。俺もやりたい!


「よぉぉし、吊り上げるぞーー」


 リーダーが縄梯子を使い下に降りて、ワニを縄で締め上げた。

 リーダーすげぇな、あの人万能だわ。


 体長五メートルのワニは残念な感じで吊り上げられた。

 ちなみにワニは村に持って帰ってから解体するらしい。

 革は珍重されるので、王都に行くまでに剥ぎ取るとのことだ。


「次の準備にかかるからそれまで休憩しててくれーー!」


 ひと時の休息。


「次は私たちもがんばろう!」

「は、はい」


 役割は

 ①ワニを引っ張るチーム

 ②岩を引っ張るチーム

 主に二つあるが、若い人は①にいく習慣があるみたいだ。


 俺たちは若いよね。ワニと格闘だ!


 ワニを一匹釣るのは準備時間を含めるとかなりかかる。時間にすると二時間ぐらいか。

 二匹目を捕まえたタイミングでお昼休憩になった。

 二匹目は俺たちも参加した。

 ピコが危険だったので、いつもひょっこり現れるお隣さん、ロッシさんに預けた。


――――


「は~ヘトヘトですわ」

「はは、若いのに何言ってんだ。まぁ手が痛いけどね」


 ワニとの綱引きはとんでもなくキツかった。

 野生の力ってのはすごいね。

 小学校の綱引きって、全力で引いた記憶無いんだけど、

 今回は引かないとワニに食われるんじゃないかと恐怖心からか全力だった。

 全力って気持ちいいもんだ。


「みなさーーん、お昼ですよ~~!」


 お、ディーンさんだ。ちょうど腹減ってたんだよな~

 なるほど女性陣はご飯担当か。

 あとは救護班かな?少なからず怪我人はでる。

 過去には死者も出たらしい。


 列に並んでご飯を待つ。

 な~んかいい匂いだ。

 豚汁? いや粕汁っぽい匂いだな。


「ほれお疲れさん」


 おばちゃんが器に目一杯のスープと黒パンをくれた。

 おお~肉がゴロゴロ入ってるぜ。


「こりゃ~」

「うまいな~」


 村人も唸っている。


「なんだ、いつもより美味いじゃないか」

「肉も多いぞ」

「力が出るわい」


 村人にも大好評だ。


「今年はハンターさん達からマウンテンホッグの肉をたくさん提供していただきました!

 これで元気出して午後もがんばりましょう!」


 ディーンさんが美味しさの説明をしてくれた。

 はは~ん、山豚か。だから豚汁のような香りがしたのか。

 でも豚汁より深みがある。味噌が無いはずなのになんでだろう。


 裏手にいたヨドさんをつかまえた。


「ばあちゃん」

「おお、坊」

「このスープもヨドさん特製なの??」

「特製なんて大それたもんじゃないよ。酒煮と滋養系の薬草を足したんじゃ。

 両方、元気になる材料じゃな、ほほ」


 たしかに体がポカポカしてくるぜ


「んじゃ昼も元気に頑張らないと」

「もうひと頑張りしといで」


 そういや、設楽さんはどうしたんだろ。

 探してみると人だかりを見つけた。

 な、なんだありゃ。

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