36話 グリーンラグーン

「ほぉ~絶景ですな」


 ドゥール火山の麓まではまだまだ遠いが、一望できる場所までついた。

 富士山というよりは、赤黒い山だ。オーストラリアっぽい。

 他の山ってそこまで高くないから、ドゥール火山はちょっとかっこいい。


「冬になれば村から火山見えるかもね」

「そもそも冬があるのか知らないけど」

「た、たしかに」


 村人に冬はあるんですか? とか聞いたら、さすがに頭おかしいと思われそうだしな。


「この辺は溶岩が流れたのかしら」

「たしかに不毛な土地って感じ」

「この石、飛んできたっぽいし」


 高さ一メートル近い岩石が点在している。

 痩せた木が申し訳なさそうに生えていて、地面は枯れそうな草が生えてたり、はげてたり。


「まぁ、探索しましょうか」


 ぶっちゃけあんまり収穫は無かった。

 トカゲがいた。ドレークだな。大きさ1メートルぐらいのトカゲだ。デカイ。

 捕まえてもよかったけど、襲われたら怖いのでやめた。


 石は黒く軽石みたいにスカスカした石が落ちてた。


「なんかに使えるかな?」

「軽石……ね。あかすりとか?」

「ははは、二、三個持って帰ろうかな」


 食べれそうなものはないし、火山までは遠い。

 珍しい地帯だと思い、ワクワクしていたがあるものは、トカゲ、石、砂利、岩。

 『探知』でもすれば何か見つかるかもしれないけど微妙だな。


「どうしよっか」

「どうって?」

「いや、あんまり収穫無いな~と」

「そうね」


 お昼前まで粘ったが、大した収穫は無かった。

 あ、ひとつだけ収穫があった。お皿状の溶岩石を見つけたのだ。

 これは、後で使ってみよう。


「ねぇ」

「ん~?」

「あっちが気になるわ」

「森だね」


 枯れた大地との継ぎ目に豊かな森がある。よく見ると変な感じだ。


「たしかに気になるね」

「じゃぁ行きましょう」


 一五分ほど歩き、森の手前まで来た。

 この森、なんか匂うな。そしてモヤがすごい。

 あれ設楽さんがニヤニヤしだしてる。俺の顔を見て言った。


「これは当たりね」

「へ?」

「わかんないの? 温泉よ、温泉!」

「ま、マジ??」

「急ぐわよ!」


 設楽さんが走り出した。はええな。嘘だろ。


「すげぇ湿気」


 森の中はムラムラ、いやムワムワしてた。


「キャー」


 設楽さんの悲鳴が聞こえる。そう歓喜の悲鳴だ。

 悲鳴のほうに向かうと、そこには温泉? があった。温泉なのかこれ。池っぽいな。

 池から湯気が立ち込めてる。ちょっと白濁に濁ってるな。

 いや、温度もわからんし、危険かもしれない。


「ずぼぉぉーーーーん」

「は?」


 設楽さんが飛び込んでいた。うそ~ん。


「幸せぇ」

「ちょ、ちょっと大丈夫なの?」

「いいじゃない、服着たままでも」

「まぁ、そこはちょっと残念、いやいやそうじゃなくて熱くないの? それにほら安全性とか。」

「周りに木がこんなに生えてるのよ、安全だわ。温度は触って確認した」

「そうですか」

「やっとお風呂入れるのよ! 川で水浴びなんてしょうがなくやってたんだから!」


 はぁ、なんか馬鹿らしくなってきた。俺も入ろう。ちゃんと服は脱ぎますよ。


「ふぅ~~」


 ちょっとぬるいけど、めっちゃええ温度やね。露店風呂だからちょうどええわ~。

 しかし、広い風呂だな。

 アイスランドにブルーラグーンってのがあるらしいけど、森の中だからグリーンラグーンってとこか。

 温泉を囲うように木々が生い茂ってる。


 温泉の周りって木が生えてるイメージないけどな~。

 この光景は異世界って感じがするわ。

 まるで温泉のエネルギーを吸って成長してるみたいだ。

 ぷは~幸せ。


「ピィピィ」


 ピコも温泉気持ちよさそうだ。

 ぷかぷか浮いてるけど、黄色だったら子供のおもちゃっぽいな。


 ははは、設楽さん髪まで洗ってる。

 お下品ですよぉ~温泉のマナーは守ってくださいね。

 はぁ~、先生。酔い覚ましには最高なのに残念。


 ピコと遊びながら、設楽ちゃんの濡れ姿にドキドキしつつ最高の温泉タイムを過ごした。


 風呂上りは、周りに生っていたイエローベリーを食べた。


「うっま」


 イエローベリーは他でも食べたけど、こりゃ別格。

 湯上り美人な設楽ちゃんにも持っていく。


「――!」

「いや~そこで生っていたんだけどめちゃ美味いよね」

「ふ~~ん、土? 水? ふ~む」


 食べれそうな分だけ、採って荷物にまとめた。


 ピコもイエローベリーを食べてる。こいつ肉食じゃないのか? まぁいいけど。


――――


 さて、温泉も満喫したし、次はお昼ご飯だな。

 コーヒー牛乳が無いのは残念だけど、料理人アカイはいいことを思いついた。

 インスピレーションってやつですね。


「ピコ、ふふふ~何するかわかるか~?」

「ピイ?」


 設楽さんが髪を乾かしてる中、俺はランチの準備だ。 


 さて材料だが

 ・ラビットの干し肉

 ・パン(美味しいほう)

 ・山菜

 ・温泉イエローベリー


 まずは、石で骨組みを作り、出来るだけ密閉空間をつくるようにする。

 その上に溶岩皿を置いて簡易カマドの完成だ!

 幸い枯れ木はいっぱいあったので、カマドの中へ。

 久しぶりに『着火』を発動!

 いい感じで燃えてるぜ!


 石を熱するのって時間かかるんだけど、枯れ木をどんどん投入。

 よし、熱くなってきたな。まずは少し焼いてみよう。


 ジュージュージュー


 もともと干し肉だから火を通さなくても食べれる。

 ひょいと取り上げ、食べてみる。


「ははは、美味い」


 この世界は食材にステータス全振りしてるんじゃないのか?


「ピィピィ!」

「はいはい、食べな」


 雛でもやっぱりストライクバード、肉食だ。美味そうに食ってやがるぜ。


 よーし本番だ!

 まずはイエローベリーをつぶして煮詰める。

 イエローベリーは糖度が高い。つまり煮詰めるとカラメル状になる。

 美味しそうな茶色になってきたところで、お肉投入!

 ササッと転がす。テカりが美味そうだ。


 あとはパンを少し炙る。

 「パンは温めますか?」って聞くサンドイッチ屋さんがあるけど、

 温めない理由なんてないでしょって感じだ。


 パンを開く!山菜をはさむ!そして肉を投入!

 完成!実食!!


 ブハッうま!

 肉の旨みとイエローベリーのソースがやばい。

 これはみんな大好き照り焼きじゃないですか。マヨネーズが欲しくなる。

 更にシャキシャキレタスが欲しいところだが、山菜のアクセントが素晴らしい。

 親子丼の三つ葉のようだ。


 一つ目完食。ごちそう様です。


 湯上り美人の設楽さんが後ろに立ってました。


「あ、設楽さーん」

「先に食べたの?」

「い、いや味見ですよ味見」


 冷たい瞳が痛いぜ!でも可愛い!


 急いで二つ目を作成して、焼き立てをプレゼント。


「ハグハグ……ふみゅ~」


 美味しい溜息いただきました!

 一番の収穫が溶岩皿ってのも残念だけど幸せだからいいか。

 今後も使えそうなので「マグマプレート」と名付けた。


「さぁて帰りますか」

「うん」


 帰り道は、湯上りさっぱりなボディに風が心地よかった。

 徒歩で一時間程の道のりだ。

 ここにはまた来よう。週に一回は来てもいいかも。


 ピコもめちゃくちゃ元気そうだ。

 そろそろ飛べるかもしれない。なかなか充実した日だったぜ。


 家に帰ったら、先生が筋トレしてた。


「おぉ! おかえり」


 のんべぇ教師め。


 南西に行ったこと。ドゥーン火山がデカかったこと。

 温泉を見つけたことを共有した。


「温泉か! すごいな! 私も行けば良かった」

「酒飲んで、つぶれてたんじゃないですか」

「なはは、面目ない」

「あ」


 設楽さんは思い出したように呟いた。


「明日は狩りには行かないから」


 そう言って設楽さんは一足先に部屋に戻って行った。


「明日はどうしましょうかねぇ」

「う~む、二人でラビット狩りでいいんじゃないかな」

「そうですね」


 俺たちはもう少し温泉トークをして、今度一緒に行くことを約束して眠りについた。



――――


 翌朝、いつも通り遅い起床。用がないときは彼女は九時頃に目覚める。


 (二人は森に行ったのか。さて、まずは考えをまとめないと)


 一人の時間、彼女は空虚に時を過ごすことは無い。

 何かしら前進するために使う。

 考え、思考を整理し、必要あればメモや実験を行う。

 常に彼女の脳は活動している。

 彼女にとって、思考することは息を吸うのと同じレベルだからだ。


 彼女は少し焦っている。

 何かターニングポイントとなるような出来事を起こさないといけないからだ。

 そのきっかけを探しているが、彼女を満足させるきっかけは見つかっていない。

 王都前に何か具体的に決めたかったのが本音だ。


 昨日のうちにまとめたメモを読み返す。何か利用できないかと。

 彼女は考える。悠長な時間は無いから。

 成長や変化には時間がかかるかもしれないからだ。


 十年は短いと考える設楽。

 十年が長いと考える金子。

 十年を忘れ、今を頑張る赤井。


 どの考えも間違ってはいない。


 こうして穏やかな七日間は過ぎて行った。

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