30話 ストライクバード 下

五日目の朝。

 村に帰る日なのだが、みんな死んだように眠っていた。

 暴れ疲れですね。てか木が折れてる、野獣か……。


 設楽さんは静まってからコッソリ眠ったようだ。

 最近ちょっと血色よくなってきてる気がする。

 可愛さマシマシだ。


 さぁて、今日は帰るんだし、荷物でもまとめようかな。

 お、これは卵が入ってる袋だな。

 ん? なんか動いてる。


「ピィィ!」


 え? 孵ってる? やばい、暴れてほかの卵割れちゃう。

 雛だから飛ばないだろうけど、慎重に袋を開けた。


「ピ!ピ!ピ!!」


 おぉ、きゃ、きゃわいい。

 白いヒヨコって感じだ。


「お~ヨチヨチ」

「ピィ」


 なでなでしたら嬉しそうだ。


「えへへぇ~」


 戯れていると、後ろからサブさんが話しかけてきた。


「ふぁああ~あ、おはよう、アカイくん」

「あ、おはようございます」


 サブさん……この人も知的ぶって本当は恐ろしい人だ。


「あ、あかいくん? 何してるんだい?」

「え? あぁ、ストライクバードの卵が孵ってたんで

 取り出してあげたんですよ」

「あ、あぁ、なんてことを……」

「へ?」


 苦〜い顔だ。なんかマズったんだな。


「まぁ、知らなかったんだろうししょうがないか」


 卵が入った袋を念入りに締めた。


「インプリティングは知ってるかな?

 鳥が初めに見たものを親と思う行動だ」

「聞いたことあります」

「ストライクバードは、攻撃力が非常に高い鳥だ。

 飼いならされたストライクバードは狩りで非常に珍重されるんだよ」

「あぁ……なるほど」

「だから孵ってしまうことは問題ないんだ。

 大事なのは、売られるまで目を覆っておくことなんだ」


 やっちまったぜ。


「ま、しょうがないさ、説明せずに寝ぼけてた俺たちが悪いし、リーダーには俺が言っておくよ」

「お、おれも行きます」

「そうかい? まぁ二十四個もあったし一個ぐらい大丈夫だよ」


 こ、怖いぜ。胃がキューっとなる。


「アカイ君ちょっと待ってて、説明してくるから」


 寝ているリーダーを起こし、サブさんが説明してる。

 目が覚めたようで、でかい声で「なんだと!?」と叫んだ。

 やべぇ……怒られる。


 サブさんが手招きした。


「お、おはようございます」

「……おう」


 リーダーはバツが悪そうに頭を掻いた。

 俺の手の中の雛を見てる。


「そいつかぁ」

「す、すいませんでした」

「ピィ!ピィ!」


 ストライクバードの雛は、楽しそうだ。


「へへへ、いいんだよ一匹ぐらい。

 二十四個も出来すぎなんだからよ! がはは!

 てか取り分が二対一ってのも取り過ぎだと思ってたからな!」


 しょんぼりしてる俺を見てバツが悪そうだ。


「しゃーねぇな」


 リーダーが立ち上がった。


「集合!!」


 全員がすぐに集まってきた。

 まだ寝てたかと思ったが、すげぇ統率力。

 あ、設楽さんは寝てるよもちろん。


「実はなぁ…、坊主がとんでもないことをしちまったんだ」


 うぐぅ!

 リーダーはオーバーリアクションだ。

 身振り手振りで主張する。


「ピィピィ」

「あれ、そいつは……」


 みんながザワザワしてる。まさに針のむしろだ。


「そーなんだ! ストライクバードの雛を孵しちまったんだよなぁ〜。

 まぁ、説明してなかった俺が悪いんだけどよ~、へへへ」


 暫し沈黙。


「ちなみによ! 今回の取り分はどれぐらいが妥当だと思う!?」


 みんな顔を見合わせている。


「半々ぐらいじゃねぇの?」


 フッチーさんが発言した。


「ぼりすぎじゃね? 毎年一個とれりゃいいのが二十四だぜ?」

「それもそーだな」

「十でいいんじゃない?こっち十人だし」

「それでも多い気がするぜ。五個でも万々歳じゃねぇか」


 みんなザワザワしてる。


「ガハハ、実はよ~、三割でいいって話なんだ。」

「「「???」」」


 サブさんがクスクス笑っている。


「ふふふ、こっちが七でアカイ君たちが三ってことだよ」

「「「は~~~!??」」」

「リーダーぼりすぎだろ!」

「やりすぎだ!」

「リーダー最低!」

「悪徳ハンター!」

「クソ親父!」


 リーダーが怒りだした。


「だ、だまってりゃなんだてめーら! 俺が決めたんじゃねえよ!」

「うそつけ!」

「変態!」

「詐欺師!」

「ペテン師!」

「クチ臭いんだよ!」


 ひ、ひどいな。


「へ、変態は関係ないだろ!」


 いや、そこは突っ込むんだ。


「い、いや僕らだけじゃ無理だったんで、三割で妥当ですよ」


 フッチーさんが、何言ってんだかって顔した。


「そりゃ~ないぜアカイちゃん。

 今回は先生の『探知』頼みの結果だ」

「『治癒』もありがたかったしな!」

「毎回腕がパンパンだからな~」

「アカイ君も…あれ? アカイ君何してたっけ」

「バッカそれは言うんじゃねぇよ」


 た、確かになんもしてないな。

 サブさんが助け船を出してくれた。


「あ、アカイ君は村長と交渉したりしたしね」

「おお、交渉交渉!」


 俺、苦笑い。


「まぁよ、なんだ。三割でいいって言うなら、それはそれでいいんだよ。取り過ぎなのはわかってる。

 だからよ! 雛は俺らからのプレゼントってやつだ!」


 リーダーがキリッと締めようとした。


「リーダーがプレゼントなんて洒落た言葉使ってるぜ」

「寒ッ」

「てめぇら、いい加減にしろよッッ!」


 若い方の息子にヘッドロックをかけた。


「ウオォ、ギ、ギブギブ…」

「アカイちゃんよ! だから気にすんな!

 誰も気にしちゃいねぇよ。

 ついでにあれだ。今後も仲良くやってこうじゃねーか」


 なんか胸が熱くなった。


「あ、ありがとうございます」

「よっし!乾杯だ!」

「もう、酒ないぞ」

「水でいいじゃねぇか!」

「あ、ホールラビットのお肉ありますよ」

「お、朝から豪勢じゃねぇか!」


 朝から水で乾杯して、みんなでホールラビットを頬張った。

 みんなは美味さに感動してた。

 俺はみんなに感動して、途中から涙が止まらなくなった。


 最高の気分で山から村へ

 新しい仲間、ストライクバードの雛と供に。

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