31話 幕間 山の天気は快晴です・俺は村長

山からの帰り道のお話。


「ふふふ」

「なんだよ」

「リーダーも優しいですねぇ」

「うるせえよ」


 シマーは、照れながらもいい気分だった。


「まぁ今後の、懐具合を考えると気持ちも大らかにならぁ」

「二十四……二十三個ですからねぇ」

「あいつらは事の重大さをわかってねぇみたいだがな、ガハハ」


 恐らく卵の売り上げは、村の三年分の収入を超える。


「は〜、村はどうなっちまうのかねぇ」

「その辺は村長が上手くやるでしょう」

「まーなー」


 リーダーと村長の付き合いは長い。

 もう三十年近くになる。

 村長は年々、頑固になってきている。

 だが、リーダーは変わらず村長を信頼していた。


「しっかし、帰ったら村長どんな顔するかな、へへへ」

「ふふふ、見逃せないですね」


 村長の鉄仮面を崩すには十分すぎる結果だ。


「でも、あれですね。彼らは危ういですね」

「まーなー、謙虚と言うか、馬鹿正直というか」

「物の価値感覚、無いみたいですしね」

「ッケ、あ~ゆうのが騙されるんだ」


 シマーは思う。

 あの若さで欲深さのカケラも無い、だが短慮といえば短慮な彼ら。

 まぁ、短慮なのは赤井がメインだが。


「王都……守ってあげませんとね」

「そりゃお前の役目だろ」

「ふふふ、そうですね」

「大体、ホールラビットの時からおかしいんだよ、す~ぐ捕まえ方教えやがって」

「ははは」

「あんなにオープンだとよ、騙す気もおきねぇし、助けてやりたくなっちまうぜ」

「そうですねぇ」

「っち、ガラにもねぇぜ」


 天気も心も穏やかな帰り道。


『とある大商人の言葉』

 病気の一番の原因は、栄養不足ではない。

 お金が無いことによる金欠病なのだ。


――――


「し、設楽さん近いよ」

「カワイイ///」


 ストライクバードの雛に夢中な設楽さん。

 キャラも崩壊してるよ。


「抱かせて」

「どうぞ」

「にゃ~~ん、ピコちゃんカワイイ~」

「ピコって」

「ピコはピコだよ~」

「ははは、名前貰ってよかったな、ピコ」


 抱かれてナデナデされるピコ。

 気持ちよさそうにしてるが、視線は俺に向いている。


「ふふ、やっぱりお父さんが好きみたいね~」

「お、お父さん?」

「いいな~、私が一番に気付けば良かった」

「いつでも抱かせてあげますよ」

「うふふ~」


 気づけば夕刻、空も心もピンク色。

 子は鎹というが、小鳥は恋のキューピットかもしれない……。


『とあるプレイボーイの言葉』

 キッカケは待っててもこないかもしれない。

 だから作るものだ。

 人生は有限なんだから。


――――――――


 あいつらが来て三十日ぐらいか。

 変な三人組だ。

 西から来たとか言ってたが嘘くさい。

 さっさと追い払いたかったが、上手いこと言いくるめられちまった。


 俺は商人が嫌いだ。

 甘言で心を揺さぶってくる。

 上手い話には必ず裏がある。

 そりゃそうだ。

 みんな自分のことしか考えていない。

 人に優しくするのだって自分のためだ。

 いいやつはいいやつに見られたいからいいやつをやる。


 アカイとかいうガキは商人の匂いがした。

 だから俺は提案を突っぱねようとした。

 ……なんで上手くいかなかった。


 考えるとモヤモヤする。



 村長は知らない。

 彼らが異世界の住人であり、目的がこの世界の成長なのだ。

 世界の成長には、もちろんクラーク村も含まれている。


――――


 ホールラビットは驚いた。


 革は年々需要が上がってる。

 特にウサギ、ワニ、馬なんてのはかなり人気がある。

 どれも流通量は少ない。かなりの財源になる。


 正直、食料品の売れ行きが渋くなってるのでありがたい。

 財源に悩んでたのは事実だしな。


 しかし……年に数羽捕れれば十分なのに、もう二十羽以上捕まえている。

 いくらでも捕まえられそうな雰囲気だ。

 一度届けに来たヨドさんにはからかわれた。


「ふぉっふぉ、あの子たちには驚かされるねぇ。

 それにいい子だよ。いい加減、認めてやんな」


 ヨドさんが褒めるなんていつ以来だ。

 あの人もあの日以来、意固地になった。


 だがなぜだ。いつまでたっても要求が来ない。

 これだけの成果があれば、何か寄こせと言ってくるはずだ。

 ……言ってこない。買い取ってそれで終わりだ。



 村長は知らない。

 村の利益は、彼らにとっての目的なのだ。


――――


 家を貸す以外で初めての要求は王都に行きたいということだった。

 ……それだけ?

 だが突っぱねた。理由はいつも突っぱねるからだ。


 だが、ハンター達もお願いしてくる。

 あいつら、わしの言うことも禄に聞かないのに親身になって。

 正直、あと一押しで「しょうがないな」と言う予定だった。


 なのに、また提案してきおった。

 「ストライクバードの卵」を捕ってくるだと!?


 ハハハ、むちゃくちゃだ。

 王都でもストライクバードを飼っていることは最大のステータスだ。

 年々価値が上がってる。

 それを簡単に捕まえれるようなことを言っている。


 そして自分たちの取り分は村に収めるだと?

 馬鹿げている。卵一個でも御の字。

 三つもあれば村はどうなってしまうんだ。


 捕れなくていい。しょんぼりして帰ってきたらこう言ってやろう。


「ははは、口ほどにもないな!

 だがしょうがない、王都には連れて行ってやろう」


 とな。



 村長は知らない。

 村長は自分自身を。


 村長は知らない。

 変化するとき、不安になることを。


 村長は知らない。

 村は大きく変わることを。


 村長は。

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