29話 ストライクバード 中

「さぁて! やるか!」


 野営地から目的のポイントまでは十五分。

 リーダーの号令のもと目的地まで進んだ。


「――ぅぉぉ、こぇぇ」


 目の前に断崖絶壁が広がっていた。ほぼ直角。

 真下には森が広がってる。吸い込まれそうだ。ゴクリ

 まさに切り立った崖ってやつだな。


 今日の主役は先生である。


「ここですか?」

「そうそう、採取担当をロープに結んで降ろすんだ。

 一人に対して、残りはロープを引っ張る役さ」


 どっちも大変そうな役だわ。


「うっし、センセェ。よろしく頼むわ!」

「う、うむ」


 崖に立ち、手に魔力を込める。

 手を合わせ『探知』を発動する。


「むむむ」

「ど、どうだ?」

「穴はあるな。けど。結構……深い穴?」

「巣はこのぐらいの深さだぜ」


 リーダーは自身の左ひじから握りこぶしまでのサイズをジェスチャーした。


「ちょっと、確認したいんですが」


 先生は地面に巣の断面図を描いた。


「大体、奥行きこれぐらいの穴ですよね」

「そうだな」

「どのあたりに卵があるかわかりますか??」


 シマーさんの息子たちが答える。


「この辺ですよ」

「あぁ、そんなもんかも。もう少し奥のこともあるかも」


 巣は奥行三十センチぐらいの深さがあり、卵はその真ん中より少し奥にあるみたいだ。


「卵の手前に何か置いてたりするのかな?」

「巣がありますよ、鳥の巣」

「ふむ」


 先生は再度『探知』を使っている。

 少し申し訳なさそうな顔でみんなに話し出した。


「結論から言うと、ここから探知しても卵までは見つけれないですね」

「む……」

「確認不足でしたけど、下方向の探知はそれほど精度がよくない。

 穴の確認は出来ますけど、卵の有無までは……」


 ハンターたちは、真剣な表情で考え出した。

 ムキムキな男たちが、真剣な顔で集まると怖い。


「では、しょうがないですね」

「あぁ」

「先生を吊るしましょうか」

「それしかねぇな」

「え」


 先生は硬直した。


「下がダメなら横から『探知』すりゃいいしな」

「うむ、間違いないな」

「今年は俺も引っ張る側か、よーし」


 比較的小柄なシマーさんの子供はやる気満々。


「うっし、腕が鳴るな」


 フッチーさんが腕を回している。

 フッチーさんはハンターの中でも一際でかい。

 剛腕が喜んでいる。


 たまらず先生が拒否しだした。 


「いやいやいやいや! 無理ですよ! こ、怖いですし」

「だーいじょうぶだ、しっかり支えるからよ。な!?」

「「「「「おう!」」」」」


 ハンターみんなでグッドサイン。

 有無を言わせぬ強制力。一糸乱れぬ統率力。筋肉の力恐るべし。


「え、ええっと」


 目にもとまらぬ速攻で先生をロープで縛った。


「引っ張っても痛くねぇな?」


 グイグイひっぱる。


「おお、痛くない。てことじゃなくてですね」

「縄の点検はしてある、安心しな」

「長さどうする?」

「五十メートルぐらいでいいだろ」

「っご!?」

「大丈夫、慣れる慣れる、力はいらねぇから安心して任せてくれ、へへへ」


 先生の安全確認は完了し、ロープの準備も万端の模様だ。


「リーダー、木に結んだぜ!」

「よっし、みんな! 気張っていくぞ!」

「「「「「おう!!」」」」


 俺たちはポカーンとしてた。

 いつの間にか先生が縛られて、崖に落とされていった。

 初めのうちは叫び声が聞こえたが、次第に何も聞こえなくなった。


 一回目は練習だった模様で、15分ぐらいで帰ってきた。


「おう、どうだった!?」


 先生は心なしか魂が減ったみたいだ。達観している。


「――探知できましたよ、卵」

「「「おおおお!やったぜ!」」」


 筋肉軍団歓喜!


「と、採れそうか!?」


 先生はニヤニヤを通り越して、ニヒニヒしだした。


「……ははは、いくらでも取れますよ!『探知』なめんな!

 片っ端からやってやりましょう!」


 先生が壊れていく採取一日目の午前。

 人ひとりを引っ張るってのは大変な作業だけど、筋骨隆々のハンターたちは嬉しそうに作業した。


 途中、設楽さんの『治癒』が傷以外にも、筋肉疲労を抑えることがわかりハンター達は大変喜んだそうな。


 役割分担は

 先生は『採取』

 設楽さんは『治癒』

 そして俺は……


 やることないから、ご飯作ってましたよ。

 ちゃんちゃん。


――――


 ここからは、

 クラーク村の変態筋肉集団の様子をレポートしよう。


 まず初めにお伝えするのは、この集団はおかしい。


「すとら~~~~いくぅ~」

「「「バッ!・ アッ!・ ドッ!」」」


 上記の掛け声で縄を引っ張る。

 超ハイテンションで作業を行っている。


 先生も先生だ。

 崖から生還すると、おもむろに鞄から卵を取り出し、


「ストライクバードの卵を~~

 とったどぉぉぉぉぉーーー!」

「「「うおおおおおお!」」」


 なんなんだよ。

 ザキ○マなのか、ハ○グチなのかよくわからん芸風。

 ハイテンションが途切れません。


 昼飯はまだいいけど、夜なんてひどい。

 酒は飲んでないのに、更にハイテンション。


「肉だー!食い尽くせー!!」

「そうだそうだ!俺たちには、先生がついてるぜー!」

「フォオオオーーーー!」

「センセ!センセ!センセ!!!」


 先生が奇声をあげてます。

 やばいよ、絶対クスリやってるよ。クスリダメゼッタイ。

 設楽ちゃんもドン引き。


 3日目最終日の夜なんてお察しの通りだ。

 全員にコップ一杯分のお酒が配られた。


「よーーし!今日は飲むぞ!食料も食い尽くせーー!

 すとらあああああああーーいくぅぅぅぅうぅ…」


 溜めるな溜めるな。


「「「バアドォォォォ!!!!」」」」


 開始10分でみんな上半身裸だ。

 俺も脱がされた。

 設楽ちゃんは身の危険を感じたのか消えている。


 こんな山の中でバカ騒ぎしやがって。

 酒の席は得意だけど、体育会系本気のノリに恐怖を感じた。


 普段クールなサブさんも乱痴気騒ぎしてる。


「これだけあれば、絶対王都いけるよ、アハハハハ!」


 王都の前に病院に行きましょうね。


――――


 ちなみにハイテンションの原因となる、ストライクバードの卵ですが、

 先生は、大変ハッスルして初日七度も崖を上り下りした。

 一回の上り下りに大体1時間ぐらいかかる。

 位置がずれて取れないこともあったが、

 初日五個

 二日目九個

 三日目十個

 合計二十四個の卵をゲットした!



 成果は素晴らしい。王都も行けるだろう。

 だけど、今後、どんな顔して先生と付き合えばいいんだろう……。

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