28話 ストライクバード 上

準備期間も終わり、いざ出発だ。

 持ち物は最低限にした。といっても持つのは先生だけど。


 「赤井君も設楽さんも体力無さそうだからな、ははは」だってさ。

 まぁそうなんだけどね。


 くそ~体力バカめ! いや、教師だから知性もあるか。

 穴無いじゃないか。


 朝一、村の北部に集合した。

 ハンター部隊は十人と俺たち三人。

 飲み会でいた十人勢ぞろいだ。


「んじゃ俺たちは先行するぜ、がんばってなアカイちゃんたち!」


 リーダーと若い二人がものすごい勢いで森を進んでいった。

 あの二人はリーダーの子供だな。

 背負った荷物は結構な量だったぞ。とんでもねぇ血族だ。


「す、すげぇ」


 朝一から知的で爽やかサブさんが話しかけてきた。


「彼らは馬力があるからね。先行してキャンプを張ってくれるのさ」

「そりゃありがたい」

「こちらは普通に進もう」


 森を抜けていつしか山に入る。

 斜面はそれほど急ではないし途中までは、けもの道のような道だった。

 おそらくハンター達が歩いて出来た道だ。緩やかな道だし、なんか気持ちいいな。


 サブさんは、先生と『探知』魔法について話していた。

 設楽さんも興味津々で聞いていたが、二時間ぐらい経過すると……


「ハアハアハアハアァ、アァハァ」


 設楽さんってば、せ、せくしいーな喘ぎ声ですねぇ。

 やばい、山道きつい。は、ハンターぱねぇ。


「だ、大丈夫かい? もうすぐ山の中腹だ。そこで休憩しよう」

「はぁ、はぁ、はい」


 設楽さん、サブさんから手ごろな杖をプレゼントされてた。

 さすがイケメンですわ。

 しがみつくように歩いている。

 俺も、余裕ゼロだけどね。



――――金子視点――――


「これが『探知』の魔法陣なんですね」

「ええ、左と右の魔法陣を合わせて使うんですよ」

「ふむ、それは聞いたことがないですね。見せてもらってもいいですか?」

「どうぞ」


 サブさんは俺の両手を注視している。


「左が小さな魔法陣で、右は斬新な魔法陣ですね」


 俺は右手をかざした。


「真ん中が空洞なんですよ、珍しいんですか」

「あ~、それもそうですけど、外輪が無いですね」

「外輪?」

「外を囲む円ですね」

「これって基本的にあるものなんですか?」

「少なくとも私の知る範囲では」


 『探知』魔法をつかっていてわかったことがある。

 右手の魔法陣に魔力を注ぐ必要性はほとんどないことだ。

 左手をしっかり起動して、右手に合わせるのが一番効率がいいと思う。


 考察してみたのだが、左手が『探知』魔法であり、

 右手は効果範囲を広げる補助的なものではないだろうか。


「ふーむ」

「なかなか秘密の多そうな魔法陣ですね」

「はっはっは、村の秘伝らしいので、私たちもわからないんですよ」


 本当にわからないんだけどな。


「ふむ、一度やってもらえますか? 『探知』」

「いいですよ」


 『探知』も慣れたものだ。多用しているからな。


「いきますね、ハッ」


 『探知』起動。


「む? もう使われてますか?」

「ええ、問題なく『探知』できてますよ。

 前方に三名、後方に二名、あとは次の木の後ろには石がありますね」


 木に隠れている箇所を指示した。


「本当だ、すごいな。

 発動したモーションは確認できましたけど、近くにいてもわからないもんですね」

「そうですね、まぁそのおかげで動物にも気づかれないんですけど」

「なるほど」


 サブさんは納得したようだ。


「これは、皆さんに魔法インク是が非でも手に入れていただかないと」

「はっはっは、そうですね、がんばりましょう。それはそうとーー」

「はい?」

「後ろの二人がやばそうですね」

「おっと、フォローしてきますね」


 山を舐めてた平成生まれ二人、苦難は続く。


――――


「づ、づいだぁぁぁ」

「ハアハア、オエッ」


 夕刻、日が落ちるギリギリでキャンプに着いた。

 途中までは応援してくれていたサブさんも、さすがに間に合わないんじゃないかとヒヤヒヤしてた。

 ははは、軟弱コンビですんません。


「お~遅かったなぁ。へへへ、飯の準備してっからな」


 も、もう動けない。

 木にもたれかかった。


「ほら、水だ」


 の、飲みたいのにちょっとしか飲めない…。

 肺が異物の侵入を拒否る…。

 三十分ほど、沈みゆく太陽を見ていた。


「お~い焼けたぞ~」

「おお、肉だ!」

「マウンテンホッグが運よくいたからな、仕留めといたぜ」

「い、いただきます」


 いや~まんま豚肉だわ。焼き立てうんめぇ。

 塩も降ってないのにはずなのにうんまい。


「ほらよ、ベリーだ」

「おお、これは?」

「なんだ、イエローベリーしらねぇのか?

 甘くて、疲れ吹っ飛ぶぜ。肉と食うのも悪くねぇしな、へへ」


「ジェリービーンズみたいね」


 確かにそんな感じだ。レッドベリーに比べ少し大きい。

 齧ってみると


「お、甘いな、ハチミツみたいだ」


 肉と一緒に食べると、あら不思議、一気にオシャレな味に。

 ハニーマスタードみたいなソースが作れそうだ!


「酒に合うだろうな~~」

「ははは、ノンベー先生だな。

 酒も少しあるけど、酒は帰る前の日の分だけだ」

「お~、ガンガン鳥捕まえて祝杯しましょう、ははは」


 そういや、カネコってのは言いにくいみたいで、

 先生って呼び名が浸透している。


 肉はいいな、幸せだ。

 肉は正義。


 幸福と疲労の中、死んだように眠った。

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