16話 年長者の憂鬱・壊れた教師
狩り四日目終わりの夜。
我が家で慎ましくご飯を食べる。
干し肉は飽きてきたけど、赤い木の実はマジで美味い。
某有名苺もびっくりの美味さだ。
呑気にたべていると先生が話し出した。
「赤井君」
「ほ? なんでしょう」
「捕獲器とか作れないもんかなぁ」
「ふむ、どんなのイメージしてます?」
「こう……餌に食いついたら扉が閉まって逃げれないような」
テレビとかでみたことのある罠にはまると「ガシャーン」タイプのやつだな。
たしかにウサギが食べるものは把握できている。葉っぱや赤い木の実である。
捕獲器があればいけそうな気もする。
「……材料がない」
設楽さんの切れ味の鋭い返答。
まぁたしかにそうだよな。
「そうだね、捕獲器だと、檻が必要だけど」
「難しいか……」
罠はそこそこブラッシュアップできている。
ウサギの通る場所が大体判別したからだ。
だが、仕留めきれない。
落とし穴に落としたとしても、穴を掘って逃げられる。
ツタを使ったトラップはそもそも引っかからないし、齧られてしまう気がした。
ちなみに次に考えてるプランはこれだ!
①落とし穴の中にツタトラップを仕込む
②落とし穴の中に石を敷き詰め、掘れないようにする
「明日は一番引っかかってる落とし穴を強化してみますよ」
プラン①を実行しようと思う。プラン②はしんどいから奥の手だ。
「――そうだな」
「まぁ、干し肉もまだありますし採取も順調です。一つ一つやっていきましょう」
「……あぁ」
先生は物思いにふけっている。疲れているなぁ。
いいことあればいいんだけど。
次の一手としては、村のハンターに教えを請うことも検討しないといけないかもな。
翌朝も早起きして森に向かう。
俺は二時間ぐらいかけて一つ目の強化罠が完成した。
なかなかの出来だ! 採取担当の設楽さんが採ってきたツルを使った、試作強化罠一号機。
ふふふ、こいつは強力だぜ!
「それじゃ、僕は2号機を作ってきますね」
「わかった」
トラップマスター赤井は今日もせっせと罠づくりですよ。
―――先生視点―――
「はぁ」
思わずため息が漏れる。
5日目にして成果無し。
楽観的に考えていた自分が嫌になる。
『探知』を使えば捕まえるのなんて簡単だと思ってた。
「何がなんとかなるだ」
このまま続ければいつかは捕まえれるだろう。
だが、良くて1日一匹か二匹だ。
異世界の発展? 自分たちのご飯さえままならないのに。
設楽さんは優秀な子だ。知能が一番高い。
探究心もあるから、いつか大きな結果をだすだろう。
今考えれば、ミックが最初に彼女をに召喚したのも一番期待しているからだ。
赤井君は、学生っぽさが抜けない社会人だと思ったがそんなことはない。
人付き合いが上手く、なにより忍耐がある。
そもそも彼がいなければ村で生活できたかも怪しい。
俺は口下手だ。率先して発言するのが怖い。
いつからだろうか。喋らずに褒められることをしてきた。
バスケもそうだ。
練習したら上手くなる。上手くなったら褒められる。だから頑張る。
サボると怒られるから怖くてサボれない。
「金子は真面目だな」、違う!怒られたくないからだ。
そんな延長線上でインターハイに出場できた。
勉強もそうだ。
勉強すれば成績が上がる。成績が上がれば褒められる。だから頑張る。
成績を落とせば失望されるから怖くてサボれない。
だから勉強もそこそこできた。
そんな延長線上で教職に就いた。
熱意があって教師になったわけじゃない。
手に届く範囲の仕事で、周りからの評価も悪くないからだ。
だから今が怖い。
このままうだつの上がらないことで失望されることが。
努力しても成果が得られないことが怖い。
年長者なのに、一番無能になることが怖い。
ウサギ……はやく捕まってくれ。
「はっ!!」
ウサギが現れた。
―――
再度『探知』を発動する。
ウサギに気づかれないギリギリまで近づき、息をひそめる。
赤井君の作った罠に近づくウサギだ。
緻密に計算された罠まで、あと五メートル程。
罠のポイントは考えに考え抜いた。
ラビットの行動パターンを考察し、確実に通過する場所を断定した。
……断定したと思いたい。
落ちるはずだ。
落ちろ!落ちろ!落ちろ!!!落ちろ!!!!
落ちた!!!落ちた!!!
再度『探知』を張る。ウサギは落とし穴の中でもがいている。
ツタの罠にはまるはずだ。
はまれ!はまれ!!はまれ!!!
おお、絡まってる。いいぞいいぞ!
む、穴を掘っているな。
が、ツタが絡まっている。逃げれるはずはない。
あ、ツタが噛み千切られた……。
しまった、なぜ落ちた瞬間に向かわなかったんだ。
「くっっっそおおおおおおお!!」
叫んだ、
罠まで走った、
罠の中にはウサギに掘られたであろう横穴。
「――あああああ!」
右手で体を支え、無我夢中で左手を穴に突っ込んだ。
穴は、左肘まで突っ込んでも余裕があった。
「なんでだよぉぉぉぉ!!」
穴の中で精一杯手を振り回した。捕まえれるわけなんてないのに。
怒りの左手は獲物を求め彷徨う。
烈火のごとく怒った後は、喪失感が襲う。
左腕を穴に突っ込んだまま、彼は沈み込んだ。
「指が痛い……」
そのとき違和感に気付いた。
穴の中を『探知』していた
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