15話 おい人間! 野生動物なめんなよ!

東から太陽が上がってくる少し前に、姫が眠る部屋に忍び込もうとしていた。

 いや、してません。起こしに行くんです。


 ゴンゴンゴン!


「入るよー? ほんとに入るよー?」


 ラッキースケベを期待して入った。

 寝相がすんごく悪くて、全部脱いでしまう癖があるかもしれないからな。

 まぁそんなことは無かったけどさ。

 少しベッドから離れた場所で呼びかけてみた。


「おーい設楽さーん」

「ぅぅぅ」


 金子先生は苦笑いしている。


「ほんとに朝弱いんだな」


 男性陣は朝に強いみたいだ。まぁ、教職は朝早いイメージだし。


 よく考えたら、中学校って八時半とかにスタートしてなかったっけ。

 学生のころは当然のように思ってたけど、仕事として考えるとかなりハードだよなぁ。

 先生は七時過ぎとかには学校着いてないといけないんだろ?

 今更ながら教職を尊敬するぜ。


 しょうがないので強引に起こした。すっげー睨まれた。


 身支度は済ませてあるので、そのまま設楽さんを連れ出した。


「よーし出発だ」


 先生の号令で家を後にした。さながら遠足の引率教師だな。

 水、干し肉、ナイフを持って出発だ。

 設楽さんがゾンビ状態なので、結構ゆっくり歩いた。


 異世界二日目も晴天なり。

 そ~いや、雨季とかあるのかな~。冬は寒いんだろうか。

 防寒具は毛皮とかかな~なんて考えながら歩く。

 始まりの洞窟(リスポーン地点)まで来た。


「洞窟はそのままですね」

「獲物が取れたらここに置いてもいいかもな」

「はは、捕らぬ毛皮ですよ」


 先生は楽しそうだ。

 荷物は洞窟の中に置いておいた。


「『探知』してみますか?」

「そうだな」


 魔法陣に力を込める、しばし沈黙の後


「――ウサギだな」

「ウサギですか」

「リスかもしれんがウサギっぽいな、ちょっと見てくる」


 駆け出す先生。


「逃げられたが、いたぞ」

「さすが『探知』ですね」

「よーしウサギを捕まえるぞ!」


 太陽が真上に来るころまで試行錯誤したが、

 結論なにも捕まえられなかった。


 『探知』範囲のほうがウサギの警戒網より広い。

 だから近づくことはできるんだけど、接近すると感づかれる。

 まずはウサギの行動パターンを把握することに努めた。

 あわよくば捕獲までしたかったが、狩りの素人ですからね。

 先生が何度か全力で追いかけていたが、さすがに無理ですね。


 弓矢か罠でもあればなんとかなるかな。まぁ弓矢なんて使えないですけど。

 お昼休憩で一旦拠点まで戻った。


―――


 洞窟まで戻った際に、設楽さんは池をみつけ、食べれそうな木の実をを取ってきていた。

 ちなみに設楽さんは単独行動をしている。

 水場を探したり採取をしているようだ。

 「だってウサギ狩りに三人もいらないでしょ?」だってさ。 

 くそ~合理的ってやつか。


「はい、木の実」


 赤い木の実をくれた。結構な量だ。


「お、すごい」

「そっちの成果は? まだ、だめっぽいわね」

「はは、これからさ」

「そう」


 設楽さんは立ち上がった。


「じゃぁ、この辺をマッピングするわ」

「あ、もう行くんだ。迷わないようにね」

「太陽が出てるなら大丈夫よ、紙とペンが欲しい」

「それなら村で手に入りそうだな」


 赤井は赤い木の実を食べる。……ダジャレスンマセン。

 う~む、木の実美味いな。天然のジャムって感じ。

 パサついてる干し肉と合うな~。たまらんぜ。


「どうしましょうか」

「罠とか武器がいるかな」


 干し肉をかじりながら考える。


「設楽さん行っちゃいましたね」

「まぁ、一番成果あげてるの彼女だしな」


 いきなり上手くいくわけがないと思いつつも、『探知』魔法スゲーって感じで捕獲できるかもって思っていた。

 ま、そんな甘くないわな! 狩りなんてしたことないんだし。


「なんか準備してみますか?」

「ん~今日はとりあえず追いかけてみようか」

「了解です」


 小一時間ほど休憩し、再チャレンジを試みた。


 結局ウサギは一匹も狩れなかった。

 ただ、行動パターンは読めてきたし、習性もわかってきた。

 一日目の総括としては、


「罠でも作ってみよう」

 二日目に続く。


―――


 二日目も早起きして西の山の麓に来る。

 設楽さんはマッピングのためペンと紙を手に入れた。

 紙とペン関しては、お隣さんから頂いた。

 ちょっと厚いけど普通にいい紙だった。


「ははは、それぐらいならあげるよ!」


 いいおばちゃんや。絶対恩返ししよう。


 さてさて採取はかなり調子がいいみたいだ。地図を見せてもらったが、某世界樹系ゲームみたいに丁寧にマッピングされている。

 各種木の実と、薬草みたいなものを数多く採取していた。


「ひと段落設したら、おばあちゃんに見てもらって」

「わかった」


 なんかレアなものがあればいいな。



 さて肝心の狩りに関してだが、非常に難航している。


 二日目は落とし穴を作った。

 先生が『探知』でよく通るであろう場所に目星をつけて、俺が落とし穴を作る。

 落とし穴一つ作るのも、結構な時間がかかる。

 二日目は落とし穴作って終わってしまった。


―――


 三日目に落とし穴に落ちた形跡を発見した!

 しかし、ウサギは穴が掘れるようで穴から逃げたようだ。


 次は穴とは別に次は、ツタを使って罠を作成した。

 昔ボーイスカウトで習った気が知識を引っ張り出す。

 ツタで出来た輪っかに、足が引っかかると、輪っかが小さくなり足を縛る。

 かなり古典的な罠だ。


 先生は森の中を駆け回り、俺は罠をせっせと作る。

 自動的にそんな役割分担になった。


―――


 四日目はツタの罠を設置しまくった。

 まぁ二十個ぐらいだけど。

 いやぁ結構大変だな。 まぁ頑張ろう。


 四日目、お昼休憩の時間に先生から報告があった。


「イノシシがいたぞ」


 山側にはイノシシがいる模様だ。

 ボアだな。心の中でマウンテンボアと名付けた。


「イノシシってでかかったですか?」

「デカイ、設楽さんぐらいの高さだった」


 設楽さんは百六十センチ弱かな。

 百六十センチ級のマウンテンボアを想像してみた……。


「イノシシは手を出さないようにしましょうか」

「そうだな、命に係わる」


 狂暴だったら、リアルに死ぬ。

 『探知』魔法も無い俺は、山には近づかないようにしようと決めた。


 四日目午後も頑張った。森の一角に罠を仕掛けまくった。

 しかし、なかなかいい結果は出なかった。

 気がかりなのは日に日に先生の元気がなくなっていくことだなぁ。


 そして四日目にして坊主であった。

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