13話 異世界モノのタブー
眼前にそびえたつ洋館は異様な瘴気を放っていた。
その瘴気に触れた瞬間、俺の右目は覚醒……、しません。
だって普通の家だから。
「あれ? 結構いい家ですね」
「ふふふ、もっとボロ屋を想像してましたか?」
「あ~、いやいや」
もちろん想像してましたよ!
「ふむ、立派な家ですね」
「――綺麗」
なんでこんないい家が空き家に。そもそもなんで空き家に。
聞こうかと思ったが、もう暗くなってきた。
「あ~暗くなってきましたね、お送りしましょうか?」
「大丈夫ですよ。送ってきたのに送られたら、おかしいでしょう。
それに夜道をおひとりで戻れないでしょうし」
「そ、それもそうですね」
ミイラ取りがミイラになってしまうな。あれ? そんな意味だっけ?
「ほんとはお掃除とかしたかったんですけど、
お話し楽しくて長くなっちゃいましたもんね、うふふ」
「いやぁ、そうですね、掃除ぐらい自分たちでやりますよ」
「百日ぐらい前に持ち主は出て行ったので、それほど汚れていないかと。
家の中のものは使っていいですからね。」
そういってディーンさんは帰って行った。
ふむ、本当にナイスな家だよこれ。
木造一階建。家庭菜園ぐらいはできるサイズの庭付き。
柵や塀はないけど、それは村の安全性故だろう。
まさか夢のマイホームが実現するなんて。ちょっぴり嬉しいな。
「それじゃぁ」
「そうだな」
「入りましょう」
家は埃っぽいけど綺麗だった。
もっと、ぐちゃぐちゃでもしょうがないと思っていたが、むしろ俺の部屋より綺麗だし……。
部屋は2LDKってやつか。
リビングには机と椅子がある。
ベッドは二つあった。ベッドといっても木製の長椅子のような感じだが。
布団もある。これは藁の布団かな?
寒さを凌げれば十分だ。気候は結構暖かいし。
うむ……風呂はないな。シャワーもない。
体は川とかで洗うんだろうか。まぁ初日なんで大丈夫かな。
はっ!! やばい……あいつはどうなるんだ。
今のところは大丈夫だが、必ず必要になるであろうあいつ。
そう、トイレだ。
アニメやゲームではトイレはタブーというか、
あってないようなものとして扱われている。
まぁ、異世界の下水事情なんて知りたくもないからいいんだけど。
玄関を入ってすぐ左にトビラがある。
そこにあるのが当然のような佇まいだ。
おそらくトイレに違いない。
和式? 洋式? 異世界式?
どんな形なんだ。恐る恐るドアを開く。
開かれた先にあったものは。
「和式……か? これ」
まさにトイレ部屋にぴったりのサイズの部屋に、四角い穴がある。
逆にそれ以外は無い。
ボットンか? 水を流すレバーは無い。
穴の中をのぞいてみる。
長方形の穴の中に何か入ってる。。。
葉っぱか? ゴミか? なんだこれ。
日が暮れてきてるから良く見えない…。
手を突っ込むのは無理だ。怖い。
もしかしたらゴミ箱かも。
二人を呼ぼう! 俺より知能レベル高い二人ならわかるかも!
「みんなー」
―――
「そもそもこれトイレなんだろうか?」
「トイレに見えるけど、見たいように見てるだけかもしれないわ」
「もしかしたら異世界人はトイレしないかもしれない」
「無くは無いでしょうけど、ちょっと考えずらいわ。」
「ん~まずはトイレしてみる??」
「……」
「あ、セクハラかな? これ。ははは」
二人の会話でも結論は出ないみたいだ。
「しょうがない。聞くか」
「え?ディーンさんに?」
「いやいや、隣ん家にさ」
隣といっても二十メートルぐらい先だ。
挨拶もかねて三人で尋ねる。
「コンコン、こんばんは」
「は~~い……、どちらさま?」
「夜分すいません、アカイと申します。
え~~っとですね、トイレについて聞きたくてですね」
そもそもトイレかわからないものに関して四苦八苦しながら聞いた。
「ぶははは、あんたーーー!!」
奥から亭主っぽいのが出てきた。
「なぁに~?」
「この子達は隣の空き家に越してきた子達だよ」
「あ~どうも、ロッシです」
「アイシャだよ」
仲のいい夫婦だなぁ。力関係は確実に嫁が上だ。
三十代後半かな?
「どうもアカイです」
「で、どうされましたか~?」
「トイレの使い方がわからないんだってさ!」
「へ?」
「すいません、西側から来た者でして、様式が違うもので」
結局あの穴はトイレで間違いなかった。
中は箱になっており、最下に風化石が仕込まれ、
脱臭草が入っているらしい。
つまりこういうことだ。
風化石ってやつが、糞尿の水分を無くしてカラカラにする。
そして匂いは脱臭草が消してくれるみたい。
三十日に一回ぐらい脱臭草を取り換えるそうだ。
風化石は一年に一度天日干しすれば再利用できるらしい。
「……風化……石」設楽さんが独り言を呟いた。
とにかく、あれだな。汲み取り式タイプに近いけど、匂いも無いしめちゃくちゃ便利じゃないか!
中世のフランスとかは糞尿垂れ流しってのは有名な話だし、かなり安心したよ。
それに異世界ならではの動物とか植物とかありそうでちょっとわくわくしてきた。
『着火』を増幅する石とかないかな? 魔法石とかロマンあるよね!
ついでに風呂について聞いたが風呂はないらしい。
男らしく川辺で洗いなって叩かれた。
ついでのついでに火のつけ方も聞いた。
少々高価だが火打石を使っているらしい。
世間知らずだねぇと馬鹿にされたので、『着火』魔法を見せてやった。
かなり驚いてたぜ、やったぜ。
狩りをして過ごす予定ですって話して、獲物が取れたら交換しようと約束も交わした。
困ったことがあったらおいでとも言われた。
都会で過ごしてたからかと思うが、人との繋がりがあるっていいもんだな。
ちょっとしみじみした異世界生活一日目の夜
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