11話 一万円の存在価値
「西側に空き家がある。そこを使いなさい」
「ありがとうございます」
「後のことはディーンに聞いてくれ」
「わかりました」
ここまでくれば安心だ。後は情報収集がしたいし
ディーンさんにいろいろ聞いてみよう。
「ディーン!」
ディーンさんが台所からやってきた。
「はいはい」
「西側のあの家を貸すことになった、案内してやれ」
「え? わかりました」
あきらかに戸惑った顔をした。
なんだろう、幽霊屋敷かしら、それとも事故物件か?
村長はさっさと部屋から出ていこうとした。
「ありがとうございました」
一瞥したがそのまま行ってしまった。
「愛想がなくてすいませんねぇ」
「いえいえ、家も借りれてありがたいです」
「さてさて、家に向かいますか?」
「あ~よかったら、村のことを聞きたいんですけど。
ルールとか。もしかすると私達の村と常識が違うかもしれませんし」
ディーンさんは納得したみたいだ。手をポンと叩いた。
「じゃぁお茶でも出しますね」
「ありがとうございます」
ディーンさんが台所に向かった。
「ふぅ」
「お疲れ様」
「あぁ、はい」
「いやぁ、どうなることかと思ったよ」
「ミックが気楽に的なことを言ってたので油断してました」
「赤井君の交渉力はすごいな、営業マンだったんだよね?」
「そうですね、やっと存在感だせました。このままだと、落ちこぼれ魔法使いポジになるとこでした」
「いやいや」
実際ここまで賑やか担当だったしなぁ。
設楽さんはもちろんだけど、金子先生だって頭は俺なんかより優れている。(なにせ先生だし)
できることはやりたいじゃん。役に立ちたいし。
「まぁ、今から情報収集になるので必要事項は聞いていきましょう。
設楽さんも聞きたいことあれば聞いてね」
「……うん」
ちょっと落ち込んでるかな?まぁ無理もないか。
ミックの人選ってのは、理にかなってるのかもしれないな。
頭脳面では設楽さんはかなり頼りになるけど、コミュ力は残念極まりない。
俺は頭脳へっぽこだけど、コミュ力だけはそこそこ自信がある。
お、力を合わせて系っぽい。いいじゃんいいじゃん。
「お待たせしました、どうぞ」
「ありがとうございます」
初、異世界の飲み物だ。
なんか、優しいお茶だな。そういやなんも食ってないし胃が温まるぜ。
「それじゃぁ軽く自己紹介させていただいて……」
三人の紹介と、『治癒』魔法が使えることを話した。
魔法なんてほとんど見たことがないとのことで驚いている。
他の二つの魔法は言わなくていいか、聞かれてないし。
唯一、万人に広まっている魔法があることも教えてもらった。
『発光』ライティングは、すべての人が使えるとのことだ。
まぁ文字通り光らせる魔法だね。
ただ、他の魔法はほとんど知らないらしく、王都に行けば使える人もいるとのことだ。
ディーンさんも自己紹介してくれた。
村ではクラーク村長のサポートとして働いているらしい。
一点常識の違いがあった。
雰囲気からして、ディーンさんと村長が夫婦なのは間違いないのだが、結婚はしていないとのことだ。
不倫? 親の反対? とかではなく、「結婚制度」自体が存在してないのである。
「結婚? てなんですか?」
「え~っと……」
説明を試みてみたのだが、まったく伝わらなかった。
結婚制度を知らない人に説明するってすげぇ難しいんだなぁ……。
※話すと長いので番外編で
「結婚の説明で長くなっちゃいましたが、本題の質問いいですか?」
「えぇ、どうぞどうぞ」
回り道したけれど仲良くなれたぜ。
ただ、時間も結構経っちまったな。そろそろ二時ぐらいか?
「時間も時間なんで重要そうなことを重点的に」
「そうね、またいつでも聞きに来てくれればいいわ」
「まず、買い物がしたいんですがお店はありますか?」
「あと、お金が使えるのか」
設楽さんが補足してくれた。あぁ、なるほどそれも大事だな。
「お買いものねぇ、半年に一回村長が必要品を仕入れに行くわ」
「え?」
詳しく聞くとこんな感じだ。
①集まりを開き、各家で必要な物品を確認
②半年に一度、村の物産品を王都まで売りに行く
③売上で必要品を購入する
「じゃ、村に店は……」
「無いわね」
確か、王都までは一か月とか言っていたな…。
「王都までは一か月と聞いたんですが……」
「歩くとそんなもんかしらね、馬車なら五日ね。
まぁ、よっぽどの理由がないと馬車は貸してもらえないわ」
馬車は借りれない、むしろ運転できない。
歩くのはも無理。そもそも道わからないし。
「この村でお金の使い道ってありますか?」
「ないわね。半年に一度の買い出しのタイミングぐらいかしら」
ディーンさんは心配してフォローしてくれた。
「一応村長の備蓄もあるし、村人と物々交換でもすれば、
欲しいものは手に入るんじゃないかしら」
「掲示板もあるし、~求ムとか張っておけばいいんじゃない?」
「わかりました、またこの件は相談させてください」
「次の買い出し……」
あ、そっか。
「あぁ次の買い出しはいつなんですか?」
「五十日後ね」
「まぁ……近からず遠からずだな!」
ミックの一万円は役立たずだった。
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