10話 異世界でも営業スキルは有効みたいです

村長の家は二階建てだ。見たところ他の家は一階建てだから村長の権力か。

 ドアをノックする。

「すいませーん」


「はいはい」

 エルフでも出てきたらとドキドキしていたが、

 出てきたのは優しい雰囲気を纏った50歳ぐらいのおばさんだ。

 フワフワした薄いベージュの髪で、優しい声だ。


「すいません、西側の村からやってきましたアカイと申します」

「あらどうも、ディーンです」

「この村でお世話になりたいので伺ったのですが……」

「あらあら、大変ね。

 村長を呼んできますので入ってお待ちくださいな」

「ありがとうございます」


 応接間に通されたのでしばし待つことにする。

 家の中は、質素ながらも温かみがある。

 木造建築の家っていいよな~。ヒノキ風呂とか結構あこがれる。

 ジジくさいと言われようが俺はヒノキ風呂派だ!


「感じのいい人で良かったな」


 確かにディーンさんはすごく物腰が柔らかで感じがいい人だった。

 いや~俺は田舎暮らししたことないけど、田舎っていいな。

 今のところ、村人は皆さん優しいし、気さくだしな。


「まぁ村長さんに気に入られないと……」


 村長は、サンタクロースみたいなおじさんかなぁと予想してみた。

 ディーンさんとお似合いだし。


 五分ほどして二階から足音が近づいてきた。

 重く、ゆったりとした歩調である。

 足が悪いのかと思うほど、鈍重な足音である。

 そして、めんどくさそうな雰囲気で村長が現れた。


 村長は小柄だ。だが無駄な肉はついていない。

 節制していることが姿でわかる。まじめな人なのは間違いない。

 問題は表情だ。眉間に皺を寄せ、警戒している。 

 心の扉が完全にクローズしている。


 あぁ、これはヤバイ。俺のセンサーが警鐘をならしている。

 一目見てわかる、難攻不落タイプの人物だ。

 猜疑心の塊、クレーマータイプ。

 一つの失敗を、烈火のごとく突っ込んでくるであろう。


「あー、お忙しいところありがとうございます!

 私はアカイと申します、こちらの二人はカネコとシタラです」


 俺は立ち上がり挨拶をする。


「村長のクラークだ」


 ジロっと俺たちを見た後に、小さな溜息。

 小さな溜息には「うっとおしいなぁ」と聞こえてくるようだ。

 そして着席した。


「で、要件は」


 やばいやばい、準備不足だ。

 セオリーで行くなら共通の話題探しや、時事ネタを織り込みつつ、提案の前にワンクッション、いやツークッションは置きたい。

 い、異世界の話題……無いがな……。


 ここで後悔する。先に村長に関して聞いておけばよかったと。

 村人から村長について聞くチャンスはあった。

 何がヒノキ風呂だよ。


「えーっと……」

「西側の村からきました、村は飢饉で出稼ぎです。

 この村で生活させてほしいです。税金は納めますので」


 設楽さんはきっちりした口調で、一言一句間違えずミックの言葉を口にした。

 あ、しまった、設楽ちゃんが話すって流れやったー。

 やってもーたー。


 村長は腕を組み、完全拒否体制に入った。


「ふん、この村も火の車だ。よそ者を受け入れる余裕は無い」


 そりゃそーくるわな。

 ミックの野郎、何が心配するなだよ!いきなり大変じゃねぇか。


「ですから! 税金は納めます」


 あー、それはあかんわー。


「ふん! お前たちに何ができるというんだ。

 生活したいなら王都までいけばいいだろう」


 何言ってもダメなんだよ、設楽ちゃん。

 反論はすべて打ち返されるんだ。村長は完全拒否モードだからね。

 設楽ちゃんは頭いいけど、コミュニケーション力は微妙だからな~、はぁ。


「ですから!」


「――あー、すいません」


 考えは纏まらんけど、見切り発車だ。


「ご説明が足らず申し訳ありません。

 クラーク村長、よそ者を置きたくない気持ちはよくわかります。

 ですが、私たちも西側から山を越えてやってまいりました。

 山から村が見えた時は安堵し、また美しさに息をのみました」


 褒める、ラポール、関係構築、スマイル、営業スキル全開だ!


「実は食料も尽きてきており、

 ここから王都までの距離はわからないのですが

 おそらくたどり着くことはできないのではないかと思われます」

「歩いて1か月ぐらいだな」

「そうでしたか……やはり厳しいですね」


 必要以上に目を伏せる、声のテンションも落とす。


「話は変わるのですが、こちらの畑は素晴らしいですね

 植えておられるのは小麦でしょうか?」

「小麦と穀物、野菜だな」

「なるほど、この村でとれる作物はかなり評価が高いのでは?」

「まぁ、村の財源だからな、それなりの評価はもらってる」


 この辺はテクニックで褒めてるけど、実際に畑奇麗だったんだよなぁ。

 絵になる畑だった。


「では、狩りはいかがでしょうか?」

「狩りは一部のものがやっている」

「北の山ですか?」

「そうだな」


 北部と西部は山に囲まれているしね。

 村からは北の山のほうが近いし、これは想定内。


「では私たちは西の山で行います、そうであれば村人のみなさんに

 迷惑はかけないのではないでしょうか?」

「西か」

「はい、西です」

「う~む」


 まだ油断はできない。もうひと押し考えろ、三流大学脳!


「あとは何かお困りごとがあれば、仕事の一環としてやりますよ」


 RPGお決まりのパターンだがゴブリン討伐とかは無いだろう。

 モンスター的なのはいないことはミックが言ってた。


「しかしなぁ……」


 村長は鼻を掻いた。

 ――見つけた突破口!


「時に村長、左手の指はどうされました?」

「あぁ、ちょっと仕事中にな」


 わずかに血がにじんでいる。昨日今日の傷だ。


「シタラさん」

「え?」


 設楽ちゃんは俺のインチキ営業トークにポカンとしてるみたいだ。


「あぁ! 魔法か」


 先に金子さんが気づいた。


「村長お手を貸してください」

「む、なんだ」


 治らなかったらどうしようと不安はあった。

 だが治癒魔法は綺麗に傷を治した。


「彼女は治癒魔法を使えます」

「大怪我は治せませんが、村に一人いると便利なのではないでしょうか」


 これはイケたな。


「私達としては、空いている家、なければ小屋でもかまいませんので

 貸し付けてもらえないでしょうか」


 ここに商談は成立した。

 なんで異世界で営業しなきゃいかんのだ……疲れた。

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