9話 異世界の村はいいとこでした

さて村は目の前だ。

 外界と村の明確な境界線は存在しない。


 畑が点在し、村の中心に家が集中している。

 中心から離れるにつれ畑が増え、家が少なくなる。

 農耕が中心なんだろうか。

 家はあ百もなさそうだな。なんか、集落って感じ。


 ただ驚いたのは、村の東西を真っすぐな道が通っていることだ。

 本当に真っすぐなので、村の終点まで見える。

 この道ありきでつくられたような村だった。


「じゃぁ村に入りましょうか」

「ミックのお告げは覚えてる?」

「西側から来ました! 家を貸して下さい!」


 設楽さんの深~~い溜息の後に、機械的な口調で喋りだす。


「――西側の村からきたこと、

 村は飢饉で出稼ぎであること、

 この村で生活させてほしいこと、

 税金は納めると伝えること」


 な、なんかすいません。申し訳ない気分になってきたよ。


「あはは」

「いいわ、私から伝えるから」

「お、お願いします」


 気を取り直して村に入った。第一村人はほっそりしたおばちゃんだ。

 農作業中で、訝しげな眼で見てきた。


「すいませーーーん!

 西側の村から出稼ぎできましたー!」


 営業スマイル!


「村長とお話ししたいんですけど!

 どちらにいるか教えてもらえますかー?」


 第一印象は大事だ。

 出来るだけ誠実そうな印象を与えないと!

 営業の鉄則だ! 第一印象は、三年変わらないとか聞いたぞ! 十年だったかな?

 とりあえず大事だ!


「その道まっすぐだよー!!二階建ての一番でかい家だよ!」

「ありがとうございまーす!」


 思いっきり手を振って感謝を伝えた。


「赤井君は元気がいいな!」

「まぁ、村を発展させる前に村人の信用得ないと…。」

「それもそうだな」

「設楽さんもできるだけスマイリーに」

「なんで?」

「いや、俺たちよそ者だしさ」

「ふーん」


 媚びなくてもいいけど、営業スマイルぐらいは欲しいとこだ。

 にこやかな美女と赤ちゃんはは世界を平和にするんだぜ!

 まぁ、俺がフォローすればいいか!

 頼れる男アピールだぜ!


 何人か村人とあいさつを交わしながら、途中であったばあちゃんに道案内してもらった。


「ほ~西から来たんかえ。山越えは大変じゃったろ」

「そうですね~、まぁ三人だったんでなんとかなりました」

「そうかいそうかい、若いの」

「いや~いい村ですね! 畑は小麦ですか?」

「ふん、普通の村じゃよ。そろそろ小麦は収穫だねぇ。

 よしついた。ほら、そこだよ」


 指さした先には二階建ての木造住居があった。


「おばぁちゃんありがとう!」

「わしゃここで住んでるから、なんかあったらおいで」

「わかったよ、ありがとう」


 さてと、村長の家についた。

 家の交渉だなぁ。



 俺は緩んでいた。

 ミックが大丈夫だと言っていたからだろうか。

 村の雰囲気がのどかで、村人もいい人だったし、気分が高揚していたからだろうか。

 始まりは都合よく進むと勘違いしていたのかもしれない。


 とにかく緩んでいた。

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