7話 やっと異世界ですね

目が覚めると真っ暗闇の中だった。


「おわ! なんも見えん!」

「お、赤井君か」

「あ、先生ですね!」

「先生? まぁそうだけど」


 しまった、咄嗟に呼んでしまった。

 小学校の時に先生を「お母さん」と行っちゃった気分だ。


「あ~、設楽さん?」

「なに?」

「全員いますね」


 僅かな光と風を頼りに闇の中から外に出た。

 自分達がいたのは、森の中にできた洞窟だった。

 草に覆われていて、不自然なぐらい森と同化した洞窟である。


「不思議な洞窟だな、これ」

「……ミックが作ったんでしょ」

「あ~、なるほど」


 とりあえず、手を握ったり開いたり、自分の顔を触ってみたり、屈伸したりした。

 うむ、馴染みある自分の体だ!


 ふと考える。

 これって異世界転生なんだろうか?

 異世界転移ではないよな。『転移』ってぐらいだから、生きてる状態で異世界にワープすることだろうし。


 『転生』……でもない気がいするな。

 別に生まれ変わったわけじゃないし。

 転生って誰かに乗り移ったりすることだろ?


 ふ~む、異世界『人体再構築』ってとこかな。

 あれ、そもそも現世の体はどうなってるんだろう。

 まいっか!


 俺は設楽さんと金子先生を眺めてみる。

 服がダサい。灰色っぽい上着に紺色のズボン。

 なんか民族郷土館っぽいところでみたことのある服装だ。


 素材は麻なのかな? まぁ素材なんて判別できませんけどね。

 まぁ、現世の服をそのまま着てて、「なんだその服は?」的なテンプレ展開は回避できたみたいだ。


「ん?ちょっと潜ってくるから光を入れてくれないか」


 先生が再度洞窟に潜っていった。

 洞窟の入り口は草で覆われており、俺は草を手で押さえた。

 暫くして


「やっぱり、初期装備が置いてあったぞ。

 あと、すこし調べてみたが、虫もいないし、空気もきれいだ」


 大き目の麻袋を持って先生が出てきた。


「最悪、ここで寝てもいいかもしれないですね」

「村に行けばいいじゃない」

「そりゃそうだけど、念のためのセーフゾーンとしてね」


 家に関してはミック曰く『心配しなくても大丈夫、ちゃんと準備してあるよ』

 とのことなのでなんとかなるんだろう。


 俺は全身を伸ばしながら周りを見回してみる。

 木漏れ日が心地よく、空気がきれいな森だ。

 今?住んでるのが大阪で近くに川が流れてるんだけど、まぁ大阪だからね。

 空気は汚いよ。 


 なんか気分は軽井沢って感じだな!行ったことないけど。

 RPGお決まりの『キャー助けて!ワアボアよ!』みたいなのもなさそうですしね。


「さてどうしましょうか」

「村は洞窟をでて真っ直ぐって言ってたね」

「あぁ、そうでしたね」


 設楽さんと目があった。


「洞窟を出てまっすぐ進めば、クラーク村に出る。

 村人を見つけたら、『旅の者です、村長はどこですかと尋ねなさい』よ」


 意識が朦朧とする中、ミックから聞いた言葉を、

 設楽さんは一言一句違えず覚えていた。


 彼女は、記憶力もいいし勉強もできるんだろうな。

 俺みたいな三流大学出とは全然違う。

 こういう子は進学校に行っちゃうから長いこと接点なかったな。


「し……」

 「大学どこ?」って聞こうかと思ったがやめた。

 プライベートなことは、ゆっくり共有していければいい。

 自己紹介の閉鎖的な感じといい藪蛇になりかねない。


「まずは開けたところに出ましょう。

 この森は安全そうですけど、何が出てくるかわからないですし」


 五分ほど歩くと草原に出た。

 さて、村に行く前にやることがある。

 初期装備と、魔法の確認だ♪


―――


 今の気分をキャッチフレーズにするなら

 『そうだ魔法使いになろう』だな!


「ミックからのプレゼント、みてみましょうか」


 麻袋に入っていたのを確認してみる。

・干し肉×たくさん(ミック曰く十五日分ぐらい)

・十五センチナイフ×三本

・千円硬貨×十枚


 大半は干し肉だな、かなりの量だ。

 サバイバルにナイフもありがたい。

 千円が十枚で一万円か。

 そもそも紙幣価値はどのぐらいなんだろうか。

 あちらの世界で一万というと、すぐ無くなるが結構買える金額だ。


「肉は結構な量ですけど、やっぱり食糧確保が一番重要ですね」

「狩りか。まぁ、初日は住む場所の確保と情報収集かな」

「村で聞き込みっすね」

「RPGの基本ね」


 今度ゲームトークしてみたいなぁ。楽しみにしておこう。


「あとはお待ちかねの魔法確認ですね」


 設楽さん少しわくわくしてる可愛いぜ。


「えーっと魔法陣が刻まれてるんですよね。

 僕は左手の平ありました」

「左手」

「私は両手にあるな」


 互いに見せ合う。

 三者三様だな。

 俺のやつは三重丸の中にいろいろ模様が入ってる。一番でかい。

 設楽さんのは二重丸の中に幾何学っぽい模様だ。

 先生のは……なんだろう左手は小さい魔法陣、

 右手にはドーナツ型のすっぽり真ん中が空いた魔法陣だ。


「魔力を流し込むんだったわね」


 設楽さんの手が光りだした。


「ちょっとナイフ貸して。」

「え?」


 ひょいと取り上げ、自分の右手人差し指を切った。

 これには俺も先生も絶句した。


「おいおい! いきなり何してんの!?」

「傷がないと治癒できないじゃない」

「いや、だからって女の子なんだし」

「うるさい、治癒してみるわ」


 魔法陣に近づけると傷がすぐ治った。


「傷跡は、ほとんど無いわね」

「はぁ、良かった」


 アグレッシブすぎて困るわ。

 よ~し俺もやってみよう。

 先生も魔力を流しこもうとしている。


「あぁ、なるほどね」


 先生はなんとなく理解してたみたいだ。

 俺も流し込んでみるが。


「んんん?」

「どうしたの?」

「真ん中まで光らないな」


 三重の魔法陣の外側一層目だけ光っている。

 ま、まさか才能無くて使えないのか……。

 先生を横目で見ると、目が合った。


「先に説明していいかい?」

「あ、どうぞ」

「これはかなり便利な魔法だよ!」


 先生の興奮は、俺の焦りを煽るのだった。

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