6話 初めての共同作業後篇・崩壊


 魔法選びは順調に進んでいる。


「え~っと次は」

「ちょっといい?」


 設楽さん突然のカットイン。


「え?」

「『探知』は必須だと思うの」


 脈絡のない発言に、俺と金子さんは戸惑った。

 彼女は大きく息を吸った。 


「おそらく異世界にいくと必要なのは狩りだと思っているわ。

 なぜなら食糧確保が必須事項になると思うから。

 ミックが食料は初期装備で用意すると言っていたけど有限だわ。だとすれば食糧確保が必須になる。考えられる方法は、採取か狩り、もしくは労働対価収入として村人から購入も候補に挙がるけど、購入できる状態の村ではない可能性もある。

 むしろ転移先は村ってレベルなのよ。店舗が存在するかわからない。

 採取に関しても懐疑的ね。この中で野生のものを食べれるか判断できる人っていないと思うのよね、異世界だし」


 設楽さんは俺たちを睨んだ。ように見えただけです。

 彼女なりの意思確認なんだろう。


「ここまではいいかしら」

「「は、はい」」


 狩りが大事ってことデスネ。


「そして狩りをする際に一番有用だと思われるのが『探知』よ。

 故に必要なスキルは『治癒』と『探知』だと私は思っている。そこまで決まれば後は残り八つの中から一つ選べばいい。他の魔法に関しては魔法レベル、つまり魔法効果の大きさによるから、好きなものを選べばいいと思うの。」

「な、なるほど」


 少しふてくされた顔をした後に、再度大きく息を吸った。


「正直他の八つはどれを選んでも後悔すると思うわ。

 だって程度がわからないんだもの。

 実際使ったとき、凄かったとしても、

 『他のほうがもっと有用だったんじゃ』と思うだろうし、

 微妙だったとしても、『他はもっとすごかったんじゃ』と思うでしょうしね。

 だから『治癒』と『探知』と『着火』でいいんじゃないかしら」


 「…………え!? 『着火』でいいの?」


 脳が追い付かんがな。


「あなたが欲しいと思ってるし、私は『治癒』と『探知』さえあれば、

 他は何でもいいと思ってるから。最後の一つは好きに選べばいいわ」


「……以上」



 俺と金子さんは目を合わせた。 


「はは、圧倒されてしまったが筋は通っているな」

『ふふふ、合理的だろう』


 ミックが久々に発言した。くそ、うっせぇ。

 鳩が豆鉄砲くらったような俺たちをあざ笑う神。


 気を取り直して話を進めることにした。


「じゃぁ『治癒』と『探知』は決定でいいですかね、金子さん」

「いいんじゃないかな」

「最後の一つは設楽さんはなんでもいい、僕は『着火』がいいかなと思ってます」

「なるほど」

「あとは金子さんに希望があればそれを吟味しようかと思うのですが」

「ふむ」



金子さんはスキル一覧を見て答えた。

「正直どれがいいかわからん、『着火』に一票入れるよ。」



ここに魔法が決まった!


そして…『隆土』、『衝破』、『氷結』。

話題にされることもなく終わる哀れな魔法たちに弔いを。


―――


「さて魔法の割り振りどうしましょうか。」

「私はなんでもいいわ」


 ふむ、選択肢は『治癒』『着火』『探知』だ。


「あ~希望言っていいかな」


 お、金子さんから要望が出た、これは初めての流れだ。


「なんですか」

「恐らく狩りをするんだよね? 設楽さん」

「そうね」

「『探知』は狩りに必須だと言ってたよね?」

「そうよ」

「だったら『探知』は私が適任かなと。体力は一番ありそうだし」


 力こぶを作ってニッコリ笑った。


「たしかにそうですね~」


 先生、体力ありそうだしな~。

 俺は…THE普通だし。


 ちなみに俺は運動神経は中の上だと思ってる。

 脚は結構速い。が体力が無い。

 長時間運動は苦手だ。


「『着火』は赤井さんでいいんじゃないですか、赤だし」


 設楽さんの「暴走モード」は沈静化したようだ。

 今は「投げやりモード」ってとこか。


「あ、安易じゃない?っすか」

「……ふん」

「まぁ、希望してたしいいんじゃないの」

「じゃ私が『治癒』ね」



 赤井『着火』

 設楽『治癒』

 金子『探知』で決まった。


―――


 は~異世界に行くまで長いな、

 まぁ準備ができたし3人のコミュニケーションも深まった気がするしいいか。


『ふふふ、決まったね。なかなか期待通りだ』


 何を期待してんだか。よくわからん神様だぜ。


『こ~んなに説明したのは久しぶりなんで、疲れたよ。さっそく異世界にれっつごー』

「きゅ、急ですね」


 てかそんなに説明してないじゃないか、

 半分以上設楽さんが話したし。

 あ、でも設楽さん、金子さんにも同じ説明してるのか。


『まぁ、他に説明することないしね。

 君たちなら大丈夫だろ、上手くやって行けるさ』


 とってつけたような励ましだ。

 小さくストレッチをして気怠げにミックは立ち上がった。指をウネウネさせている。そしてこちらを見た。


『んじゃ三人そこに並んで』


 ミックの指示した場所に俺たちは並んだ。


『一年たったら連絡するよ、神様っぽくね』


 ニヤリとした。そこからすこし表情が曇った。


『あれ、あっちの一年って何日だったかな』

「え、三百六十五日じゃないの?」

『時間の概念って結構アバウトでね、まぁうまいことやってよ』

「ははは、なかなか緩いですな、それもまたよし」


 良くねぇ!


『さぁ、次に眼が覚めたら異世界だ』


 体がフワフワしだした。

 返事が出来ない。そもそも「口」が消失しかかってる。


『そして最後に伝達事項だ』


 眼前が朦朧としてくる。

 肉体が気化してるように感じる、意識だけが宙に浮いているように。

 これが精神なんだろうか、ぼやーっとしている状態でミックから最後の一言があった。


『………………』



 そして消失した。神様のお部屋から。


  一部完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る