5話 初めての共同作業前篇 穏やかな始まり

 

 ふふふ、やはり心躍っているようだ。

 ニンゲンは魔法が好きだからね。

 まぁ、彼女がここまで喜んでくれるのは予想外だったな。


 さてさて、恐らく赤井君が質問してくるかな。

 君のコミュニケーション力には期待してるんだからね。


「えーっと、一人一つ選んでいいんですよね」


 予想通りだな。


『そうだよ、魔法陣を体に印字させてもらう。

 対して目立たないし、君たちタトゥーなんてしたことないでしょ?

 大学デビューっぽいね♪』


 さてさてどれにするのかな。私は静観させてもらうよ。


――――――――――――――――――――


 魔法選びか、どうしようかなぁ。

 ここは上手くコミュニケーションをとりたいところだな。

 異世界前に信頼関係つくっときたいし。


 口火を切ったのは金子先生だ。


「どうしようか。せっかく三つ選べるんだし相談して決めようか」

「そうですね。あ、設楽さん希望とかある?」


 ムスっとした表情でこちらを見た。


「――なんで?」

「いや~、なんか楽しそうだし」

「……」


 プイっとされて黙ってしまった。可愛いけど難しいぜ。


「ミック」

『なんだい?』

「オススメとかありますか?」

『ふふふ、オススメは特にないよ。

 どれでもそれな~りに有用だと思う。

 再度言うけど、この世界の魔法はそこそこだからね。

 ん~……まぁこれはいいか。

 好きなもの選んでいいんじゃないかな』


 ミックは何か言おうとして止めた。気になるよね~そういうの。


 ふ~む、なら消去法で選ぶか、多数決で欲しいものから選ぶか…。

 ネガティブ路線かポジティブ路線か。

 まぁここは日本的に…


「金子さん、設楽さん」

「ん?」

「上から順に有用かどうか意見出しませんか?」

「そうだね、候補を絞りたいところだね」

「わかった」


 設楽さんもノリ気だ。やっぱ魔法でテンションあがってるな。


―――――――――――――――――――――


「ではまずは『治癒』ですね。」

「ヒールは必須」


 ヒールって…。設楽さん完全にゲーム好きだな。


「あったほうが良い気がするな」

「そうですね、異世界じゃ何が起こるかわからないし。

 じゃぁ『治癒』は有力候補で」


 ①治癒:肉体を治す⇒有力候補


―――


「つぎは、何て読むんだろゴウタイかな?

 効果は……エンチャントですかね」

「エンチャントね」

「?」


 金子さんの頭からハテナマークが見えた。


「あ~金子さんゲームとかあまりしないですか?」

「まったくだな、マ○オとかはやったことあるぞ」

「そうですね、説明文通り恐らく剣とか盾とかを

 パワーアップさせる効果かと」

「ふむ」


 昔やっていたMMORPGでは、エンチャントが無類の強さを発揮した。

 効果が乗算だったので、レア装備品の常時発動系効果と、

 魔法のエンチャント効果が掛け合わさってとんでもない火力や守備力になった。


 まぁそのせいかバランスが崩壊して廃れていったけどさ。

 エンチャントと聞くと夢がある。が現実を見ることにした。


「使えそうな気もしますけど、

 エンチャントってゲームによって有用性にムラがあるんですよね~」

「保留でいいと思うわ」

「んじゃぁ保留で」


 ②剛帯:物体を強化する⇒保留


―――


「お次は『眼力』……動体視力をあげるっと」

「戦いで使えそうだな!」


 おっと、さっきはゲームトークしちゃって蚊帳の外にしてしまった。

 運命共同体なんだし、一体感ださなくっちゃな!


「そ、そうですね。

 ただ、話聞いた感じだと、異世界って平和なんですよね?」


 設楽さんに話を振ってみた。


「凶悪なモンスターはいないし、戦争状態でもないらしいわ」

「気にはなるが、ほかに有用なものがあればいらないか」


 先生、少し残念そうだ。


「まぁ保留でいいんじゃないですかね」

「そうね」


 ③眼力:動体視力を上げる⇒保留



―――


「つぎは『着火』ですね」

「一番魔法っぽいな」

「僕は火出したいです、異世界の文化レベルはわかりませんけど

 火をだせるのは有用なんでは?」


 やっぱり魔法といえばファイアだろ!


「どのレベルなのかしら……

 ファイアボール的なのは無理だって言ってたわ」


 そっか初めにそんな話は聞いたな。

 意見を求めようとミックのほうを見てみたが、本読んでやがる。

 魔法に関しては勝手に選べってことか。


「まぁ赤井君が欲しがってるし、候補でいいんじゃないかな」

「――そうね」

「じゃぁ、候補にしておきます」


 やったぜ。


 ④着火:火をつける⇒候補


―――


「あ~『跳躍』と『走駆』なんですけど」

「バフね」

「バフですね、あぁ身体能力をあげるやつですね」


 金子さん用に説明を付け加えた。


「ふむ」

「これも、どのぐらい強力かわからないんですよね~」

「そうだな」


 あれば楽しそうだけど、異世界の成長には意味無さそうだよな。

 まてよ、足が速ければ飛脚みたいに、宅急便できるんじゃ!

 発言しようかと思ったけど、やめた。「馬鹿じゃないの?」って言われそうだったからな。


 むかし大御所芸人が言っていたぜ。

 「トークで大切なんわ、捨てる技術や」ってな。

 思いついたことなんでも言っちゃダメって意味で理解してる。


「どれぐらい飛べたり走れたりするのかわからないんですけど、

 戦闘無いならこれも保留でいいんじゃないかと」

「そうね」


 設楽さんの一言で全会一致した。


「じゃぁ保留でいいんじゃないか」

「じゃぁ保留で」


 ⑤跳躍:高く飛べる⇒保留

 ⑥走駆:速く走れる⇒保留



 共同作業は穏やかに進んでいる。

 このまま平和に進むと思っていた。

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