雨の日の上手な楽しみかた(学生時代)
その日、エファランは滅多にない雨が降っていた。
砂漠が近くにあるエファランは基本的に乾燥した気候だ。雨季の時期以外に雨が降ることは稀である。
この国は火竜が多い。乾いた気候は彼等にとって都合が良かった。逆に雨が振りだすと、彼等は不機嫌になって屋内に人間の姿でこもる。火竜が家族にいる家は、雨の日は要注意な日だ。
火竜以外にとっては、雨は特に問題にならない。水竜などはむしろ歓迎する。では、風竜は?
風竜は別の意味で要注意だと、イヴは思う。
「あんの、お昼寝竜……!」
イヴは自慢のストロベリーブロンドの長髪を苛立たしげにかきあげる。湿気をおびて彼女の髪は少し曇った色になっていた。
窓の外の雨模様を見ながら、カケルはどこにいるのだろうと思う。
彼女のパートナーであるカケルは風竜だ。彼はあまり気候に左右されない竜だが(風はいつでも吹くから)、暑さには弱く寒さに強い。
そして何よりお昼寝大好き。
朝は晴れていたのだ。
雨が降ってきたのは午後に入ってから。
午前中は「あの昼寝大好き竜が喜びそうな天気ね」と思っていた。午後イチの時点では案の定、授業で姿を見かけなかったのでサボってどこかで寝ているのだろうと検討を付けていたのだ。
そして、今も姿が見えない。
導き出される結論は……
「あー、ただいまあ、イヴ」
ぼたぼたぼた。
学校の廊下が水で濡れている。他の生徒がぎょっとして彼を避けた。着崩した学生服が水浸しで、紺色の髪から水を滴らせているにも関わらず、彼は非常に元気そうでいつも通りだった。
「あんた、濡れたまま入ってこないでよ!」
気になって外を見に行こうとしたイヴは、出入り口付近で入ってきたカケルとばったり出くわした。
びしょ濡れのカケルはふわふわ笑っている。
「そう? じゃあ戻ろうかな」
「……待ちなさい。まだ外で寝るつもり?」
外はまだ雨が降り続いている。
「鱗を水滴が叩く感覚が面白くてさあ。竜の姿だと冷たく感じないし。ほら、イヴも雨に当たってバシャバシャしてみない?」
「ちょ、ちょっと」
腕を引っ張られて外に連れ出される。
雨に濡れたイヴは、カケルの腕をふりほどくと、その頭をひっぱたいた。
「馬鹿! この馬鹿お昼寝竜! ああもう、寮に帰るわよ」
「えー」
無邪気に頭をかしげる彼に怒る気が失せる。
もう傘をさすのも面倒なイヴは、そのまま学校の近くにある寮へ歩き出した。水溜まりの水を蹴飛ばす。今日は朝に晴れていたせいか暖かい空気が残っていて、雨は生ぬるく身体に馴染んだ。
歩く度に水音が鳴る。
雨の中にいるのは、二人だけ。
ふりほどいた手をもう一度重ね合わせる。
「……ねえ、雨も中々いいもんじゃない?」
そう言って彼は楽しそうに笑った。
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