続・夏は竜を冷やすべし(学生時代)
私はうっかり、失言してしまうことがある。
母親にもこの前注意されたばっかりだ。思ったことをそのまま口に出すと、その時と状況によっては宜しくない場合もある。分かってはいるが、癖というのは中々止められない。
その時も、氷枕でカケルを撫でながら、つい「可愛い……」と口走ってしまったのだ。
「か、かわいい……?!」
途端に、机にのびていたカケルが頭だけ起こして変な顔をする。
内心まずいことをしたと思うけど、取り消すのも変だ。自分の過ちを認めたくないので開き直ることにした。
「何か文句でもあるの?」
「かわいい……かわいい……カッコイイじゃなくて、かわいい……」
虚ろな目でブツブツつぶやくカケルにちょっと引く。
「あ、あんたは自分が恰好良いとか思ってたの? 明らかにそういうキャラじゃないわよ。どっちかというとペットみたいな」
「ぺっと?!」
「うるさいわね! あんたなんてペットで充分よ!」
逆切れして叫ぶと、机に噛り付いたカケルが瞳を潤ませた。
「酷いよイヴ!」
「ええいっ、だまらっしゃい! お昼寝大好き竜の癖に、私の感想にケチ付ける気?!」
「ケチなんか付けないよ。ただ俺のなけなしのプライドが意外に悲鳴を上げてるだけで……ああ、暑いし酷いしもう駄目だ。こんな時は、お昼寝、お昼寝に限る……」
「あ、ちょっとカケル」
よろよろと立ち上がったカケルは、止めようとした私を振り切って教室を出て行ってしまった。
爪先くらいの罪悪感が胸をよぎる。
様子を見ていた同級生のクリスがつぶやいた。
「女の子に可愛いって言われたら、意外にショックだよな」
教室の隅で固まっていた男子共がうんうんと首を縦に振っている。
何これ。私が悪いって雰囲気なの。
※ここからカケル視点
可愛い、かあ。俺ってそういうキャラなのか?
何だか微妙に落ち込むなあ。
暑いしだるいし、と思いながら、カケルは涼を求めて校内をさ迷った。
外は暑い。校内で空いてる部屋を探して潜り込もうと、廊下を歩いていると、先輩の竜に出会ってしまう。
「セファン先輩」
「よう、カケル。どうしたんだ、こんなところで。確か4年生はこの時間は座学じゃなかったか」
特徴的なオレンジ色の髪をした背の高い先輩の竜は、カケルを見つけて寄ってくる。
「近付かないで下さい。火竜は暑苦しいです」
「おまっ、先輩に向かって……あーでも、お前は風竜だったな。夏は苦手か」
「溶けちゃいますぅ」
強い火の属性を持つセファンから熱気を感じて、カケルは後ずさった。
これ以上暑くなるともう耐えられない。
失礼な後輩に一瞬ムッとしたセファンだが、カケルが本気で嫌がっている様子を見てとって眉を下げた。
年上の竜達にとってカケルは可愛い弟キャラだ。ふわふわしていて低姿勢だが、たまに小生意気。だけど憎めない。
「そうだ、授業に出ないつもりなら校内でバイトするか?」
「バイト? 俺これからお昼寝タイムなんですが」
「涼しいバイトだぞ」
「涼しい……」
働くのは嫌だ。けれど暑いのも嫌だ。
カケルの中の天秤は揺れ動いた。
聞くだけ聞いてみようか。
「どんなバイトですか」
(終・夏は竜を冷やすべし、へ続く!)
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