ちょっとしたわんわんプレイ?(学生時代)

 カケルは基本的に戦闘中以外、私の指示に従ってくれない。


「貴方が私の言うことを聞いてくれたことあった?」

「え?」


 学生服をだらしなく着崩して、寝癖の付いた頭を掻きながら貴方は欠伸する。

 こっちの話を聞いてもいない。

 私は溜め息を付いた。

 この学校は軍人を育成する目的もあるので、授業や課題に軍事訓練が含まれたりもする。生徒に支給される制服は戦闘服も兼ねているから動きやすい。だったら女子もズボンにしてくれたらいいのに。

 可愛いから、という意味不明の理由で女子の制服の下はスカートだ。

 着替えたいな……。

 放課後、仲間を集めて打ち合わせをすることになり、私は授業の後、カケルを連れて裏庭に直行したのだ。だからまだ制服のスカート姿。この姿だと、カケルが阿呆なことを言った時に思い切り(足蹴で)突っ込めないじゃない。


「心外だなー。俺はいっつもイヴの言う事はちゃんと聞いてるよ?」

「嘘つき」


 そこに直りなさい。

 私はビシッとカケルを指差した。


「じゃあ、竜の姿になって」

「ふえっ?」

「早く」


 促すとカケルは頭を掻きながら私から数歩後ずさった。

 学校の裏庭は竜族の生徒が変身しても大丈夫なように、広くスペースが取られていて、裏庭から先は見渡す限り森になっている。

 竜の姿になった時に私を踏み潰さないためだろう。距離を取ったカケルの周りに蒼い風が巻き起こる。陽炎のようにその姿が揺らいで白い光と共に巨大な竜が姿を現す。


 カケルは風属性に特化した竜だ。

 鱗の色は空の色。濃いラピスラズリから、翼の先に向かって透明感のあるコバルトブルーにグラデーションしていく。引き締まった四肢は力強く、肩甲骨から生える大きな翼は形良く左右に伸びている。


 すごく綺麗な竜だ。

 人間の姿はへらへら笑う間抜け面が頂けないが、竜の姿は文句無しに格好良い。


 金色の丸い瞳が私を見下ろしてくる。

 うん、格好良いけど見下ろされるとイラッとする。


「……お座り!」

『ほえっ?!』

「お・す・わ・り!」


 蒼い竜はポカンとしたが、私が再度、指示すると地面に腰を落とした。


「伏せ!」


 命令すると今度は腹這いになる。

 私は楽しくなってきた。

 何だか優越感をくすぐられるシチュエーションじゃない? この際、どこまで彼が言うことを聞いてくれるか試してみてもいいかもしれない。







 --カケル視点


 いやー、何が始まるかと思ったら。

 俺に犬になれって? 痺れるね。

 別にわんわんの真似をすることは抵抗感ないけど。なんか楽しいし。


 それにしても気付いてないよなあ、イヴは。

 女子の制服のスカートは短くてね。

 竜の俺が動くと、突風が吹くわけよ。

 それでスカートがひらら~って。


 役得、役得。

 わんわんプレイも含めて凄く楽しいから、俺はしばらく黙って犬のふりに徹するよ。


 わんわん。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る