第4話 別れ
竜は呪いの森の端に着くと子どもを起こした。
「おい、着いたぞ。起きろ。」「うーん・・・」
「起きろ!!」
「ガオッ」と竜は大声をあげた。
子どもはビックリして危うく竜の背から落ちそうになった。「ごめん、すぐに降りるよ。」
子どもは竜の背からゆっくりと降りた。「あわっ!」竜の爪に足が引っ掛かり後ろに倒れこんだ。
それを竜が鼻の頭で支えた。「まったく、まだ寝ぼけているのか!そそっかしい奴だお前は」「ごめんなさい」へへっと笑って子どもは頭をかいた。
「送ってくれてありがとう。それからリンゴも、お薬も、命も助けてもらった。本当にありがとう!」
子どもは深く頭を下げた。「良い、気にするな。ただの暇つぶしだ。」竜は照れているのを隠して強がった。
「このお礼はきっとするよ。お母さんの病気が良くなったらまたここに来るからね。約束するよ!」子どもは笑顔で言った。
すると竜の表情が険しいものに変わった。「お前!何も分かってないのか!?
この森がどれだけ危険だと思ってる。狼に襲われて死にかけてる様なやつが、もう一度ここへ来れると思うな。万が一来れたとしても、今度は魔物に襲われて食われるだけだ!それとも俺がまた同じようにお前のところに来れるとでも!?」
「だけど・・・」と子どもが口をはさんだ。
「だけど、じゃない!母親を泣かせる気か?弱いお前に何ができる。俺のことはいい。母親と村で平穏に暮らせ。」竜は諭すように子どもに言い聞かせた。
「お母さんが泣いちゃうのは嫌だ・・・。」「だろう。」「でもやっぱり竜さんにお礼がしたい。それにまた会いたいよ。今度はたくさんもっと色々な話をしたい。だから強くなって、狼も魔獣も倒せる様になったらまたここに来るよ。絶対に!」
子どもの決心は堅かった。
「そんなに簡単な話ではないぞ?長い時間がかかるだろう。何年か何十年か・・・。その頃には、お前もそんなこと忘れているだろう。」竜は少しだけ悲しげにそう言った。
「また会いたい」その言葉が竜は嬉しかった。人間なんかと思っていた。だが心を覗き、子どもの優しく素直な心に竜は安らぎを感じていた。
竜は翼と一緒に全てを失ってしまっていた。だから子どもの存在は暗い夜空に輝く小さな星だった。見えなくなるのは辛い。
竜も子どもと同じように「また会いたい」そう思っていた。
「忘れない。絶対に忘れない。何年かかってもまたここに来るよ。」
子どもは竜の鼻先に手を伸ばして優しく触れた。
「分かったよ・・・だが慎重にな。早く来ようと思わなくていい。竜の寿命は長い、
人間の一生などほんの一瞬に感じるほどにな。」
竜も子どもの手にそっと鼻先で触れた。
「うん」子どもは静かにうなずいた。
「最後にこれをやろう」
そう言って竜は自分の鱗を一枚剥がして子どもに持たせ、そして魔法の言葉を唱えた。
:この者が行く道に光を:
鱗に炎が灯る。だが熱くは無かった。温かい光。
「これがお前を村まで導いてくれるはずだ。その辺の獣も襲ってこない。お前の行かなければならない場所を思い浮かべろ」
子どもは目を瞑り母親のことを思い浮かべた。すると炎が道を示した。
「こっちなんだね」
「ああ」
「また助けてもらっちゃった」「いいさ、礼をしに来るんだろう?」竜は優しい目で子どもを見つめた。
「うん。そうだ、なまえ!名前を聞いてなかった!」
「お前もな」竜が笑った。子どもも「そうだったね」と言って笑った
「僕の名前は [ユーゴ] だよ。」
「竜は人には名前を名乗らない・・・だが特別に教えてやろう。俺は[ソロ]覚えておけ」
「ソロだね。絶対忘れない。絶対ソロに会いに来るよ。」
「分かった。さあ行けユーゴ、母親が待ってる」
「じゃあ」子どもは背を向けて立ち去ろうとして足を止め「またね!」と付け加えた。
そして森を村の方へと歩いて行った。竜も寝床に戻るため森の奥へと歩いて行った。
寝床に着くと妙に森が静かに感じた。今までそんな風に感じたことは一度も無かったのに。それか何も感じていなかったのかもしれない。
家族のことを思ったのも久しぶりだった。というより頭から抜け落ちていた。
この森で暮らしているうちに色々なことを忘れていっているのではないだろうか?
竜は少し不安に思ったが疲れていて考えがまとまらなかった。
「また、か・・・」待つだけ無駄だと分かっている、でも、たまには待つのもいいかもしれない。どうせすることも無い。
竜はゆっくりと目を閉じ、そして深い深い眠りに着いた。
これは出会い、竜と人の。二人の友情はここから始まった。でも次のお話はまた今度。
つづく
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