第3話 花

「まだ着かないの?」「もう少しだ。」子どもは少しだけ不安そうな顔をした。

「俺が嘘を言っていると思うのか?」「違うよ!」子どもは大声で叫んだ。

「そんなんじゃなくて・・・なんとなく不安なんだ。お花って枯れちゃうし、まだそこにあるのかな、とか色々考えちゃうんだ。」子どもは漠然と不安だったのだ。

森は暗く不安を増幅させる。

「大丈夫だ、あの花は簡単に枯れやしない。もし万が一枯れていたとしたらまた違うものを探してやる。だから安心しろ。」竜は優しい声で子どもに言った。

「ありがとう」子どもは少し元気を取り戻し微笑んだ。


 その時子どもが何かを見つけた。「あれは何?キラキラしてる。」

 竜はニコリと鋭い牙を見せて笑った。「あれだ、やっと見つけたな。」「ホント!?ホントに!??」「ああ」子どもは歓声をあげた。近づいてみると、その花は子どもと同じくらいの身長の小さな木に咲いていた。

 花びらは五枚、薄いピンク色をしていて真ん中にキラキラと輝く光が集まっている。その花が三輪ほど木に咲いていた。


 子どもは竜の背からゆっくりと降りると、花の前で立ち尽くしていた。その花は今まで見てきた花とはまるで違う。

 あまりの美しさに目を奪われていると、竜が話しかけてきた「さあ、小瓶を出せ。これを持って帰るために来たんだろう?」子どもは慌てて小瓶を取り出した。

「花の下に小瓶を持ってこい。そしてそっと花びらを指でつついて花粉を落とせ。」

 そう言われて子どもは手を触れようとしたが(こんな美しい花に触れていいんだろうか)そう考え、手が止まった。

「本当に触っていいの?」竜に尋ねると「平気だ、お前が触れたって枯れやしない。さあ早く。」竜は子どもを促した。

 子どもは小瓶を花の下に持って行き、そして、


 そっと花びらに触れた。


 キラキラと輝く光の粒が小瓶の中に落ちていく、子どもはそれをじっと見つめた。

小瓶の底に花粉がたまり、小瓶自体がぼんやりと輝いている。

「やっと見つけた。」子どもの目から涙がこぼれた。光に照らされ涙はダイヤの様に輝いていた。

「泣くのはまだ早い、家に帰り着いてからだ。」竜は言った。子どもは涙を拭い「そうだね」と竜を見つめた。


「帰ったらこれを母親に吸い込む様に言え。そうすれば動けるようになるだろう。

治るかどうかは分からない、だがお前が一人前になるくらいまでは少なくとももつだろう。希望を持て」

 竜も子どもを大きな瞳で見つめた。

「お前も吸っておけ、肺の病は遺伝・・・お前の中にもあるかもしれないからな。」


 子どもはそっと花に顔を近づけ輝く花粉を吸い込んだ。

 体の中を光が駆け抜けていき、疲れて重くなった体が軽くなった気がした。


 子どもはそっと顔を離して、両手を見つめ瞬きをし「何だか不思議な感じ」子どもはそうつぶやいた。

「お前の中に魔法の力が取り込まれたからだ。この花は普通の花とは違う。魔法を宿した花なんだ。」竜は花を見つめそう言った。子どもも胸に手を当て同じ様に花を見つめていた。


「さあ、そろそろ行くとしよう。森の端まで送ってやる。」「良いの?」子どもは驚いて竜を見た。

「まぁここまでしてお前が狼どもに食べられても寝覚めが悪いからな、しょうがないから送って行ってやる。」

 そっぽを向きながら竜はしきりに鼻から煙を吹いていた。

「ありがとう!!」子どもは満面の笑みを浮かべ、また前足に抱きついた。竜はまたフンッと鼻から火を吹いた。だが今度は「抱きつくな」とは言わず子どもの好きにさせてやっていた。

「ほら、さっさと行くぞ。」

「うん!」子どもは大きくうなずき今度は自分で竜の背中によじ登った。

「高いところが恐いんじゃなかったか?」「もう平気!」竜はゆっくりと立ち上がり森の端へ向かった。


 途中子どもは安心したのか竜の背中で眠り込んでしまった。


 その子どもを落とさない様に行きよりもっと、


 そっとそーっと、ゆっくりと、


 竜は森を歩いて行った。

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